気まぐれショートショート

蒸しエビ子

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菱田邸の惨劇

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菱田家の旦那様は相当な珍味好きで
「明日から1週間、朝食にはこの世界で
私しか食べられないものを用意してほしい。」

そう家政婦に申し付けた。

「はい、かしこまりました。」
表情の一切を変えることなく答える家政婦。

翌日からテーブルには様々な料理と共に
希望通り『私しか食べられないもの』が
一品ずつ登場するようになった。

「クセはあるが、私しか食べられない
だけあって大層貴重な食材なのだろう?」
旦那様はそう仰ったが、
家政婦は「ええ」と微笑むだけだった。

それから間もなく屋敷で騒ぎが起こった。
家政婦の1人と連絡が取れないのだ。

旦那様は警察に捜索願いを出し、
連絡を待つことになった。

行方不明の家政婦とは中々連絡がつかず、
その間も毎朝珍しい料理は変わらず並び続ける。

そうして1週間が経ち、その日の晩に
例の家政婦の死亡が警察から伝えられた。

旦那様は口には出さないものの
明らかに動揺の素振りを見せている。

「大変悲しい事ではございますが、
皆気持ちは同じです。
どうか気落ちされませんよう…。」
家政婦が口を開くと、

「…あぁ。そうだな。
こんな様子で居ては浮かばれないな。」
旦那様はそう呟いて寝室に向かった。

ベッドに腰を降ろすも、
貧乏揺すりが止まらずに
どうも落ち着かないようだ。

その晩、旦那様は夢を見た。
「返して…返して……」
どこからともなくそう聞こえるんだと
翌朝、開口一番に家政婦に話す。

「…不思議な夢ですね。
何かお借りしたままのものが
あるのではありませんか?」
家政婦は答えた。

「うーむ、借りたままのものが
あるのかもしれぬなぁ。」
そう言うと旦那様は書斎に
入ったまま出てこなくなった。

家政婦はというと、いつもと
変わらず大きな屋敷の家事を
きちんとこなし、夕食の支度に
とりかかろうというところだ。

その時、玄関のチャイムが鳴った。
家政婦が確認すると、門の前に
警察が立っていた。
「今、お開けします。」そう答え、
門を解錠すると間もなく「警察です。」
と警官がやってきて警察手帳を見せる。

「どういった御用でしょうか?」
「先日捜索願いを出された恩田苑子さん
死亡の件についてお話を伺いたく、
署にご同行願えませんか。」

「…かしこまりました。
その前に旦那様にその旨お伝えして
参りますのでこちらで少々お待ちを。」
一呼吸置いて、家政婦は答えた。

コンコンコン
「旦那様、古川でございます。
失礼しても宜しいでしょうか?」
ガサガサ
「入りなさい。」

「失礼致します旦那様。私、先日の
恩田の件で警察に行って参ります。」
「そうか。私が行こう。」
「いえ旦那様、その必要はございません。
私が話して参ります。失礼致しました。」

旦那様の返事を聞かぬうちに
家政婦は早々に警察へ赴いた。

署内の一室に通された家政婦は
警察からの質問に淀みなく答え
身柄を拘束される事になった。

それから2年間、倦怠感や視覚異常
・物忘れから始まり、旦那様は次第に
感情のコントロールが出来なくなっていった。
録画された映像を早送りすると
ある日を境に姿がめっきり映らない。

旦那様は亡くなっていたのだ。
映像を巻き戻し最期を確認すると
ベッド上で無動無言状態だった。

旦那様の心身を蝕んだのは
クロイツフェルト・ヤコブ病。
プリオン蛋白が脳を侵し
スカスカにしてしまうことから、
1~2年で死に至る病。
治療法は確立していない。

罹患原因は、カニバリズム。
家政婦の古川が供述したのだ。

旦那様から「私しか食べられないもの」
が食べたいと申し付けられた古川は、
同じ家政婦の恩田の身体を1週間に渡り
朝食の一品として提供し続けていた。

家政婦と連絡が取れなくなった理由は
1日目は恩田の指。2日目は脳みそを食材
とした為、既に息絶えていたからだった。

古川は何食わぬ顔をして、恩田の身体を
提供し続けた。指の角煮。脳みその味噌汁。
水晶体のゼリー。肺胞のサラダ。心筋のステーキ。
腸の肉詰め。爪入りアイスクリームの計7品。

恩田の遺体は屋敷から数km離れた
廃墟に放置されていた。

毎晩旦那様が決まった時間に眠るのを
確認してから夜中に車を走らせ、廃墟に
到着すると恩田の身体を順番に解剖していく。

恩田は旦那様が御所望された日の夜中に
古川に誘われ、疑うことなく廃墟へ付いて
行ったのだ。到着すると車内で即口を塞がれ
抵抗虚しく意識を失ってしまった。
そうして古川は、恩田を廃墟内へ引き摺り込んだ。

古川は取り調べで殺人については
あっさりと白状したそうだが、
理由については黙秘を貫いている。

旦那様も亡くなったものだから、
二重の殺人犯として拘束
されているにも関わらず
古川は閉口し続けている。

一体何が彼女をそこまで
させるのか。

他の家政婦は無論、解雇になった。
悪夢のような現実を背負って
生きていくことになるとは、
就業当時夢にも思わなかった
だろう。気の毒だ。

ここまでの話は数年に渡り
屋敷に取り付けていた
最新型録画カメラと、警察からの情報
により私のみが知り得る内容である。

私は誰かって?ふふ、それは
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