上 下
2 / 18

悪役令嬢でも死んじゃだめぇ~!2 イザーク視点

しおりを挟む
私はイザーク・ハロル。
このリマード王国の三大公爵家のひとつ、ハロル公爵家の嫡男として生まれた。
おかげで、私は将来、この国の平和を保つための重要な任務を課せられるだろう。
最も、任務に足る能力があればの話だが……。

ところで、我がハロル公爵家の分家筋に、ルキラ子爵家がある。
ルキラ子爵家の人間は、代々、ハロル公爵家の手足となる大事な人材の家系である。
そのルキラ子爵家には、娘が3人いる。
3人のうち、1人は才能があるから養女になった孤児で、すぐに役立つ人材であるのは間違いないだろう。
残り2人の娘のうち、1人は、養女にした孤児達ほどではないが、それなりの才能を持ち、教育次第で役立つと思われる。
しかし、1人だけ、残念な娘がいると報告された。
それが、エミリー・ルキラだ。
見た目も、才能も、どこまでも中くらいらしい。
エミリーのような存在は、才能を必要とされるルキラ子爵家に生まれさえしなければ、それなりに幸せになれたであろう。
けれども、ハロル公爵家としては、その中途半端な才能の人材をどう使うべきか問題である。
大体は、成金商家に降嫁させて、資金源や平民に関する情報源とすることが多い。
今回、私は父のハロル公爵から、そのエミリー・ルキラを最大限生かせる使い道を考えるように、課題を出された。
それで、エミリーをよく分析するため、アンジェリカの遊び相手にとルキラ子爵に持ちかけ、エミリーと接触をはかった。

すると、どうしたことだろうか。

エミリーと一緒にいることが、誰といるよりも心地良く感じるようになってしまった。
私は心が醜い、愚かな奴が大嫌いである。
幼い頃から、父に付き添って仕事を憶えるように厳しく教育された。
仕事を手伝っていた時、くだらない富を、しかも、楽して手に入れようと醜く争う貴族達ばかりみて、うんざりして、心が凍りついた。
そんな私をエミリーは、自然に心を暖めてくれる子であった。
確かに、エミリーの容姿は、暗めの金髪に濃い青の瞳をしており、誰もが認める可愛さではないが、顔立ちはそれなりに可愛い。
何といっても、笑顔になると、可愛さが100倍以上、いや、10000倍以上になり、最近では輝いて見える。
声質も、とても綺麗なことに気づいた。
聞いているだけで、癒される。
運動神経もどちらかというと良い方で、リズム感もよく、根気よく教えればきちんとできるようになる。
とっさの判断も悪くなく、素直で勇気もあり、機転も利く。
そんなエミリーを、私は自分のものにしたいと思うようになるのも、自然なことだと思う。
ただ、私はまだ半人前なので、立場上、エミリーに婚約を申し込めない。
私が一人前になるまで、まず、エミリーから私へ惚れてもらおうと考えた。
そのため、引き続き、アンジェリカの遊び相手の候補として、エミリーをハロル公爵家へ来させた。
もちろん、エミリーが来る日はいつも、アンジェリカを遠出させるように手配した。
それに対して、アンジェリカは、大変不満そうに私をよく睨みつけてくる。
我が妹ながら、アンジェリカは可愛いくない。
容姿は美しく、私と同じ黒髪紫の瞳をしている。
でも、性格が悪く、ひねくれており、表情も無表情が多く、エミリーと違って朗らかさがなく、陰湿な質である。
エミリーより、むしろ、アンジェリカの方が扱いにくい駒である。
まあ、アンジェリカの活用は、父の管轄だから良いけど。
ただ、私はアンジェリカの弱味を握っているので、アンジェリカは私に逆らえないはず。
エミリーは、アンジェリカの遊び相手になることを理由に、たびたびハロル公爵家へ来てくれた。
私としては、いつか、エミリーがアンジェリカにはでなく、私に会いたくてきてくれないかと期待しながら、エミリーを迎えていた。

こうして、私の努力の甲斐があってか、エミリーはかなり私に好意をよせてくれるようになったと思う。
まだエミリーは幼いので、恋心がわからないかも知れないが、少なくとも、優しい兄のような存在にはなれた。
この調子でいって、エミリーが適齢期になったら、一気に堕としにかかろうと決めていた。

そんな私に、不幸な指令が届いた。

我が国の王妃サンドラ陛下の母国は、隣国カールド王国である。
そのカールド王国で、ある下位貴族の令嬢が、王位継承問題になりそうなレベルまで国を騒がしているらしい。
ハロル公爵家は、貴族間の争いをおさめるのが得意なため、その国の王から、助力依頼があった。
私の父は、私に、その問題の解決を課題にして、ついでに、我が国で学べないことを隣国で学んでくるように言いつけてきた。
つまり、下手をすると、エミリーと数年は離れないといけなくなる。もの凄く嫌だ。
でも、数年で私が帰国したら、エミリーは、ちょうど結婚適齢期になっているのではないか?
それなら、長期任務を引き受ける代わりに、エミリーとの結婚許可を出しともらおうと、父に交渉した。
父は、私がエミリーに本気であることに、酷く驚いていた。
そして、私が任務に成功し、向こうの国にあって、我が国にない制度や便利なシステムなどの調査報告もきちんとするならば、エミリーとの結婚を検討すると約束してくれた。
とりあえず、父からすぐにルキラ子爵家に圧力をかけて、私が帰国するまで、エミリーが誰とも婚約しないように手配してくれることになった。
安心した私は、わざわざ見送りに来てくれたエミリーと、文通の約束をした。
また、私を夢中にさせる笑顔を他の男に向けないように約束しておいた。
遠距離恋愛になってしまうが、手紙でも、彼女の心を繋げるよう努力するつもりだ。
帰国したら、彼女が喜ぶようなプロポーズをしようと計画もたてている。

エミリーを待たせてしまうが、私ならきっとエミリーを誰よりも幸せにできると信じている!
しおりを挟む

処理中です...