野猿な悪役令嬢

ルナルオ

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番外編 アーサーの憂欝

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アーサー・メナードはメナード公爵家の嫡男に生まれ、幼い頃から決められた婚約者がいる。母親同士が友人であるため、アーサーと同じ歳のマスケット伯爵家の令嬢、スージー・マスケットと婚約することになった。

初めての顔合わせの時、いつも割と落ち着いているアーサーでも、期待でドキドキしていた。

どんな子かな?
クリスの婚約者のヘレナみたいに頭のいい子かな?それとも妹のリーリアみたいにお転婆な子かな?
昔、マスケット伯爵夫人に会ったことがあるけど、夫人に似て綺麗な子かな?

そして、アーサーの前に現れたスージー嬢の容姿は、期待以上の可愛さであった。
輝く銀の髪に、紺色の瞳をしていて、やや釣り目がちで気が強そうだが、とても顔は整っている。

ただ……。

「はじめまして。アーサー・メナードです」

「……は、はじめまして、スージー・マスケットです」とやや赤い顔で答えるスージー。

「これからは、婚約者として仲良くしていきたいです。よろしく」と優しく微笑むアーサーに、スージーは突然、そっぽを向いて言ってきた。

「……よ、よろしく、してあげなくもないわ!」

「え?」

「だ、だから、仲良くしてあげなくもないわよ!だって、お母様のためなのですもの!!」と頬を赤く染めながらも、そっぽを向いて答えるスージーに、アーサーはちょっと困惑する。

「えーと、ありがとう?」といいつつ、本当は何と答えるべきなのか、さすがのアーサーも迷ってしまう状況であった。

「あら、スージー、駄目よ、そんな風に言っては」とスージーにマスケット伯爵夫人がおっとりと注意するが、スージーはそっぽを向いたままである。

「ごめんなさいね、アーサー。この子、主人に似て、ちょっと照れ屋なもので。ほほほ」と何かを思い出したのか、可笑しそうに笑うマスケット伯爵夫人。

は?照れ屋?それとは何だか違うような……。
ちょっと、この子のものの言い方がおかしくない?

アーサーは、色々と疑問に思いながら、そう考えていると、スージーが真っ赤になりながらも話しかけてくる。
「う、うちの中庭に素敵な花がちょうど今日、咲いているから、どうしてもというなら、あなたにも見せてあげてもよくってよ!」と言って、アーサーの手を引き、中庭に連れて行こうとするスージーに(うーん、扱いが難しそうだけど、悪い子ではない?)と思いながら、スージーに大人しく連れて行かれるアーサーであった。

その後も、スージーは何故かアーサーの前にくると、ツンツンしだす子であった。

リーリアにスージーを紹介した時もはじめは、アーサーと会った時と同様にツンツンしていた。

「まあ、あなたが妹のリーリアさん?
私があなたの兄の婚約者スージー・マスケットよ。
ふーん、随分かわい……いえ、私の義妹として仲良くしてあげなくもないわ!」

スージーがそんな態度をとるためか、リーリアは衝撃を受けたようにスージーをしばらく見つめていた。

うん、うん、わかるよ、リーリア。僕もそんな衝撃ってほどではないが、かなり困惑したからね……。

と心の中で妹に賛同していたアーサー。
だから、リーリアの小さなつぶやきが聞こえていなかった。

「ツンデレ悪役令嬢……。本当ににいるんだ……」

アーサーとしては、リーリアもスージーとつき合うのは難しい思うと予想していた。
ところが、リーリアはスージーの扱いが、アーサー以上に上手く、「リアちゃん!」「スージーおねえさま!」と呼び合う程の仲良しになった。

実はアーサーはスージーに会うのが少し憂鬱であったが、リーリアからスージーの扱い方を見習い、うまくつき合っていくことができるようになった。

しかも、スージーがあのツンツンした態度なのは、アーサーに一目ぼれして、アーサーのことが大好き過ぎたためでそうなると、スージーがリーリアと内緒話をしているところを、たまたま通りがかったアーサーが、偶然、そのことを聞いてから、スージーのことを可愛いと思えるようになったためもある。


ただし、アーサーの憂鬱はそれだけでは済まなかった。

アーサーは公爵家子息で、セリウスと同じ歳のため、エドワード、クリスと一緒に王宮でセリウスの友人として、セリウスの私室によばれることがある。

ある日、いつものようにセリウスによばれてセリウスの私室に行く途中、ブラコンで有名なセリウスの兄であるルシェールにばったり出くわした。

アーサーはルシェールへ臣下の礼をして、通り過ぎるのを待とうとすると、ルシェールは立ち止まり、アーサーに話しかけてきた。

「……お前は野猿の兄ではないか?」

「……は、はい、リーリアの兄のアーサー・メナードです」と名乗るアーサー。もともと、数えるほどであるが何度かルシェールとは会っているため、面識はあった。

「野猿はどうだ?少しはセリウスにふさわしくなるように成長しているか?」

「はい。一応、努力はしております」

「……ふん!そうか」

「はい」

「……ところで、お前に聞きたいことがある」

「はい。何でしょうか?」

「お前はセリウスから何と呼ばれている?」

「え?えーと、普通に名前でアーサーと呼ばれております」

「そうか。今はとりあえず、同い歳だから名前なのか」

「はい」

「では、もし、野猿とセリウスが結婚したら何と呼ばれるつもりだ?」

「え?セリウス殿下と妹が結婚したらですか……?」何か変わるのかと首をかしげるアーサー。

「そうだ。お前はセリウスの義理の兄になるではないか?」

「……ええ、そうですね」

「つまり、お前はセリウスから『義兄上』と呼ばれる立場になるのではないか?」とイライラした様子でルシェールが言ってくる。

ここで、さすがにアーサーも気づいた。この方は自分以外がセリウス殿下から「兄上」と呼ばれるのが気にくわないのだと。なぜならば、誰もが認めるブラコンだから。
しかも、気に入らないセリウスの婚約者リーリアの兄であることも許せない一因だろう。

心の中でため息をつきながら、アーサーは予防策にでる。
「……いえ、そんな『義兄』など恐れ多いので、おそらくセリウス殿下のご結婚後も名前で呼んでいただこうと存じております」

「ふん。そうか。……まあ、それが当然だな」

「はい!」と返事をして、これで話が終わりそうなのにほっとするアーサー。


ここで、話はおわるはずだった。奴が現れなければ……。


「ええ?アーサーは僕から『義兄上』と呼ばれたくないの?」と、アーサーの後ろから声をかけるセリウス。

おうっと。今、出てくるな!この野猿大好き王子!!
絶対、話をややこしくする気だな……。

くるっと後ろ巻いて、「これ以上、余計なことを言うな」っという意味をこめて、キッとセリウスを睨むと、いつもより悪い笑顔になるセリウス。

「やだなー、アーサー!すぐにでもアーサーのことを『義兄上』でも『アーサー義兄様』でも好きな方で呼んであげるよー!!
そのかわり、リーリアをすぐに僕と一緒に王宮で暮らせるようにアーサーも協力してよ」

「……それは、リーリアが18歳になるまでお待ちください」

「やだー!一日でも早く、リーリアと暮らしたーい!!ねえ、お願いだよ、『アーサーにいさまー』」とニヤニヤして甘えた口調で言ってくるセリウスに、それを聞いたルシェールはわなわな震えだした。

「セ、セリウス!!こんな野猿の兄なんかに甘えて!しかも、私と同じ『兄様』なんて呼ぶなんて許さないぞ!」

「えー?だって、兄上は僕とリーリアのことであまり協力してくれないから~。
それなら今度から、アーサーのことだけを兄上って呼ぼうかな?アーサーは兄と呼ばれたからには、すぐにでもリーリアが僕のお嫁さんになるように協力しないとねー!!」とふざけているのか、ルシェールを怒らせ、アーサーに頭痛を起こさせるセリウス。

「セリウス!ひどいよ!!」

「じゃあ、兄上も僕に協力してくださいよ」

「そ、それは……」

「そう、じゃあ、もういいですよ。
さあ、僕の部屋にいこうか?アーサーに・い・さ・ま」とルシェールをおいて退散しようとする。

「……おやめください、セリウス殿下」とアーサーが止めても、黒く微笑むセリウス。

「早く行こう!もうクリス達がまっているよ、アーサー義兄様」といって、アーサーの手をぐいぐい引っ張る。

「ま、待って、セリウス!そんな野猿の兄に~!!」と嘆くルシェールを放置するセリウス。

もちろん、それ以来、アーサーは何かと嫉妬したルシェールに絡まれるようになった。

セリウスへそのことに文句を言うと、「ふーん、その被害をなくしたければ、僕とリーリアが2人きりで一緒にいられるように協力してよ。僕が言えば、兄上ならすぐにやめてくれるよ」とまたもや黒く微笑むセリウスに、我慢を強いられることになるアーサーであった。


一時は、セリウスの言う通りに協力しようかと思ったこともあるアーサーであった。
しかし、セリウスがリーリアと二人っきりになった際に見たセリウスの可愛がり方に……。

わー、これはかなり引くぞ……。

と、アーサーでも全力で引いた。
そのため、自分は決してシスコンではないが、妹が明らかに過剰というか、迷惑というか、面倒な愛情に曝されているのを、お嫁にいくまでは家族として守ってあげたいと思う位には、妹を大事に思っていると自覚する。
たぶん、セリウス殿下はあのブラコン馬鹿のルシェール殿下から受ける溺愛が普通の愛情表現だと思っているから、こうなるのだろうなと、むしろセリウスを気の毒にも思うアーサー。

父親のメナード公爵も、はじめは子供同士の可愛いじゃれあいだと微笑ましく思っていた。しかし、ある日、リーリアにしつこくせまるセリウスを目撃して以来、アーサーに、リーリアのガードとして、できるだけ2人きりにしないようになど、言いつけた。

こうして、アーサーは、リーリアがセリウスの膝の上で拘束されて、嫌がっていたり、キスされていたりする場合は、力技で引き剥がすようになったのであった。
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