英雄の奥様は…

ルナルオ

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英雄の奥様と息子のお友達

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 マリロード王国の英雄サイラスの息子シモンは、婚約者に会いたかった。

 シモンの婚約者チェルシー・マリロードは、マリロード王国の王太子の娘で、将来は、シモンが国王になった際に、王妃になる予定である。
 シモンは、幼いながらもチェルシーに会いたいと思っていたが、お城に行くには色々と障害があった。
 例えば、すぐシモンにドレスを着せて着飾ろうとする王妃や王子妃などがいる。
 そのため、シモンは、お城に行くのを用心している。

 ところがある日、シモンは、父親のサイラスから、「シモン、パパと一緒にちょっとお城に行こうか?」と誘われた。

「いく!チェーにあえる?」
「うん、会えるよ、たぶん」
「きせかえ、ない?」
「ん?きせかえ?」
「シモンにドレスをきせたり……」
「ああ、着せ替えね、しないよ。
 今日は、シモンのお友だちになれそうな子に会いに行くんだよ」
「おともだち?」
「そう、お友達。
 今、お城にパパのお友達で、隣国の宰相が来ているんだ。
 パパのお友達には、シモンと年の近い子がいるから、会ってみないか?」
「……それは、にぃにのいっていた、こいがたきになる?」
「こ、恋敵?
 レオのやつ、シモンに何を吹き込んでいるだ!?
 友達と恋敵は違うぞ。
 友達は、婚約者を奪ったりせず、むしろ、応援してくれるような存在だ。
 または、奥さんと上手くいくようにアドバイスをくれたりもする」
「それなら、シモンもおともだち、ほしいな」
「よし、じゃあ、行こうか!」

 こうして、シモンは、サイラスと一緒に王宮に向かった。
 王宮のサイラスの執務室でしばらく待っていると、隣国の宰相が二人の息子を連れて現れた。

「これはこれは、サイラス将軍。
 ご無沙汰しております」
「そんな堅苦しいのは、よしてくれ、ウィリアム。
 久しぶりだな!」
「ああ、3年ぶりだな、サイラス!」

 隣国の宰相、ウィリアム・ハローズは、公爵位を持ち、サイラスの学生の頃からの古い友人であった。
 ウィリアムが、マリロード王国の王侯貴族が通う学院に留学していて知り合い、丁度、同じ公爵家の息子同士ということもあり、いまだに交流があった。
 ちなみに、ウイリアムは、サイラスと異なり、とても落ち着ていて、頼りになる若手の宰相という感じの知的な美丈夫であった。
 そんなウイリアムには、自分とよく似た6歳のアランと3歳のポールという名の息子がおり、今回、二人ともマリロード王国へ連れてきていた。

「サイラス、こちらがうちの子だ。
 アランは、一度会ったことあったな。
 ほら、こっちの小さいのがポールだ。
 ポールは、初めましてだな」
「はじめまして~。
 ポール・ハローズです」とにこにこしながら、ポールは挨拶をした。
「お久しぶりです、サイラス将軍」とアランの方はしっかり挨拶した。


「やあ、アラン、大きくなったね。
 ポールは初めまして。
 よろしくね。
 あ、こちらは私の子のシモンだ。
 仲良くしてくれると嬉しい」とシモンを紹介するサイラス。
「はじめまして、シモン・アバートです」とシモンも愛想よく挨拶した。
 すると、ポールは、ニコニコしながら、シモンに近づいてきた。
 そして、じっとシモンの顔を見るポール。

「ねえ、きれいなおかおだね。
 シモンっておなまえだけど。
 ほんとうはおんなのこ?」
「え?ちがうよ……」

 驚くシモンに、ポールはニコニコするのを止めて、ちっと舌打ちした。

「なんだ、おとこか。
 なら、いもうと、いる?」
「えっと、ねえねがいるよ」
「うーん、としうえか。
 いくつ?」
「12さい」
「だめだ、としはなれすぎ。
 ちぇっ、はずれか~」とがっかりするポールに、シモンこそがっかりだった。
 初めてのお友達になれそうな子に、期待をふくらませていたのに、どうやらただの女好きらしい。
 ポールも、シモンの顔がドンピシャ好みだったので、もしや女の子かと期待したのに何だか裏切られたような気がしていた。
 そんなお互いがっかりした雰囲気の中、近くに異質な空気が生じていた。

 その異質な空気の原因は、ポールの兄アランであった。

「あ、ああ、やっと!
 やっと見つけたーー!!」といきなり叫ぶアラン。

 父親のウィリアムももちろん、皆、驚いた。

「ど、どうした、アラン?」
「父上!大変です!!」
「……何が?」
「か、彼です!
 いえ、こちらの御方こそが、私の探し求めていた主君です!!」

 そう叫ぶなり、シモンの前にシュバッと片膝をつき、忠誠のポーズをとるアラン。

「ああ、お会いできて、光栄です、我が君。
 私は、あなたに一生、お仕えいたします。
 どうか、私めをお傍に!」

 いきなり、シモンに忠誠を誓うアラン。
 え、何事?っと、シモン以外は、皆、驚き過ぎて固まった。

「ふーん。ぼくにつかえてくれるの?」
「はい、もちろんです!」
「ずっと?」
「はい!一生、お傍に」
「うーん、どうしようかな。
 となりのくにのこなんだよね」
「こ、この国の子になります!
 こちらには、私の叔母が嫁いでおりますので、その叔母の養子になって……」
「待て、待つんだ、アラン!」と必死に止めるアランの父親ウィリアム。

「父上?邪魔なさらないでください」
「いや、お前こそ、何を勝手なことを……。
 お前は、一応、我がハローズ公爵家の後継ぎだろうが!」
「……シモン様に出会うまでは、そのつもりでしたが、今は彼の側近になりたいのです。
 それに、我がハローズ公爵家は、代々、宰相を司っておりますが、私は宰相より、王を守る剣、騎士になりたかったんです!」
「まあ、宰相には向き不向きがあるから、騎士になることは反対しないが、我が国でなればいいだろう?」
「いえ、実は、我が国の王や王子は、私の主君ではないと感じていました。
 シモン様こそが、真の主君!
 私は、この国の人間になります!!」
「いや、いや、無茶言うな!」
「いえ、うちには、もうポールがおりますし。
 ポールは、我が弟ながら、ハローズ公爵家の特徴を継いで、優秀で、腹ぐろ…、いえ、策士に向いております。
 ポールなら、父上の後を立派に継ぐと思います」
「うん、そういう問題だけじゃないからね」と、興奮状態のアランを、父親ウィリアムは、そのまま別室に引きずって一時退室していった。
 残されたのは、ドン引きのサイラスと、やれやれといった感じのポールと、連れていかれるアランにバイバイするシモン。
 ポールは、ふぅっとため息をつくと、またシモンに話しかけた。

「なあ、シモン?」
「なーに?」
「あれ、あにうえ、ほんきだわ」
「うん、そうみたいだね」と冷静なシモン。

 実は、シモンにとって、周囲の人間がああなるのは、初めてではないので、慣れっこであった。

「あにうえ、ぶかにすんの?」
「うーん、どうしようかな」
「おまえもたいへんだな。
 ……なあ、よかったら、ともだちにならないか?」
「!」
「たぶん、これから、あにうえが……。
 いや、まだ、わからないか。
 まあ、よかったら、なかよくしてくれるか?」
「……こいのおうえんしてくれる?」
「あ、それなら、とくいだ!
 まかせろ!!」
「ほんと?それなら、ともだちになるよ!」
「おぉ、よろしくな!」

 一時はお互いにがっかりしたものの、シモンとポールは、何とかお友達になることができた。
 シモンは、早速、ポールに、これから会う婚約者のチェルシーへあげると喜びそうなプレゼントについて相談した。

「ふーん、こんやくしゃか。
 いくつ?」
「まだ、あかちゃん」
「なんだ、それなら、これなんかどうだ?」

 ポールが出してきたのは、虹色の謎の動物を型どったぬいぐるみ。
 しかも、お腹辺りを押すと、プヒューッと鳴き声?がでるおもちゃでもあった。

「やるよ、これ」
「いいの?」
「ああ、いとこにやろうかともってきたが……。
 あかちゃんなら、きっとよろこぶぞ」
「ありがとう!」

 その後すぐに、シモンは、チェルシーと面会許可がでて、会えることになった。
 しかも、今日は運よく、王妃達は不在。
 シモンは、ポールにもらったぬいぐるみを婚約者のチェルシーにプレゼントとして持っていった。

「ほら、チェー!
 おもちゃだよー」
「きゃーっ!
 きゃ、きゃふぅ」
「ふふ、チェー、かわいいねぇ。
 ぼくのチェーだもんね」

 チェルシーは、そのぬいぐるみを気に入ったようで、今までにない位に、興奮し、満面の笑みをシモンに向ける。
 それで、大変、喜ぶシモン。

「パパのいうとおり!
 おともだち、いいね~」
「あ、ああ、まあ、そうだな……」

 役に立つお友達ができて喜ぶシモン。
 一方で、サイラスは、アランのことが気になり、やや複雑な気持ちでいる。
 でも、サイラスなので、まあ、いいかと開き直るのであった。

 帰宅した後、シモンは、母親のスーザンにお友達ができたことを嬉しそうに報告する。
 はじめは、微笑ましく聞いていたスーザンであったが、アランの話あたりから、え?と思い、パッとサイラスを見るスーザン。
 サッと視線をそらすサイラス。

 サイラス様に後で、詳しく事情聴取しないと。
 あ、何だか、嫌な予感が……。

 この後、スーザンの予感は的中した。
 アランがアバート公爵家に単独で襲撃してきて、アバート公爵家に住み込みで働きたいとごねたり、そんなアランを父親のウィリアムが力ずくで回収したりと、一騒動となった。

 英雄の奥様は、息子のお友達の兄に、複雑な気持ちを抱く!

 隣国の、しかも、公爵家の後継ぎを、気軽には採用できる訳がない貴族社会の中。
 アランの「働かせてくださいっ!」という襲撃は、シモンが正式採用するまで、何年も続くことを、この時、スーザンはまだ知らなかった。
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