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英雄の奥様と結婚式
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マリロード王国の英雄の副官セドリックと、英雄の奥様の友人エリザベスとの結婚式がとり行われた。
セドリックが、早くエリザベスと結婚しようと急いで準備したせいで、てんやわんやとなったが、英雄の奥様スーザンの助力もあり、なんとか無事に迎えることができた。
豪華な結婚式になり、招待客も英雄のサイラスを含めて豪華であった。
マリロード王国では、結婚式で男の子と女の子がペアになってフラワーシャワーをするが、その際、子供達は天使のような愛くるしい格好をして、天の使いが愛と幸せを振りまくという意味合いで式に登場する、重要な役割がある。
その役に、サイラスの娘タチアナと隣国ツェルード王国の王子シャーロ殿下が選ばれた。
もちろん、セドリックやエリザベスの親戚にも愛らしい親戚のお子様達もいたが、親戚達の強い要望により、身分、知名度などの関係でタチアナとシャーロに決まった。
当然ながら、サイラスはタチアナがシャーロと一緒にフラワーシャワーをすることを大反対した。
「私の娘に悪い虫を近づけさせる機会を与えるなんて、駄目だ!
嫌な予感がする!!」
「まあまあ、シャーロ殿下はまだ子供ですよ。
それに、殿下はエリザベスのために、わざわざツェルード王国からいらしておりますし、これはセドリック様のためでもあります。
あと、国王陛下もタチアナのフラワーシャワーをする天使な姿が見たいとおっしゃっていて、お忍びで覗きに来られるそうですよ?」
「うーむ、それは断りにくいな……」
スーザンに説得されて、サイラスは嫌々ながら了承した。
結婚式では、本物の天使のような愛らしい二人が、名コンビのようにフラワーシャワーを上手に行い、周囲に歓声をあげさせるタチアナとシャーロ。
しっかり、国王陛下もその天使な姿を一目見て、デレデレ顔で帰って行った。
そもそも、なぜシャーロがこの結婚式に招待されたかというと、エリザベスとシャーロは、以前、エリザベスが英雄一家と一緒にツェルード王国へ旅行に行った際に、仲良くなったからであった。
エリザベスは、タチアナに片想い中のシャーロを応援しており、シャーロから頼まれていたので、結婚式に招待をした。もちろん、シャーロの目的は、タチアナに会うことである。
「エリザベスお姉様、綺麗で素敵ね~。
あの花嫁衣装は私のお母様のデザインなのよ!」
「そうなんだ。確かに綺麗だね。
でも、タチアナが着たら、もっと綺麗だよ!」
「え~、そうかな?」
「うん、そうだよ、タチアナはとても素敵だよ。
ねえ、タチアナ。ご両親からは断られたけど、やはり、タチアナには私の妃になって欲しい。
私はタチアナのことが大好きなんだ!
タチアナを私がきっと幸せにするよ。
そして、将来、タチアナの母上のデザインした花嫁衣装で私と結婚しよう!」
「シャーロ殿下、私と結婚したいの?」
「うん、タチアナと結婚したい。
私が大きくなったら、絶対、タチアナを迎えに行くから。
将来はタチアナにツェルード王国の王妃になって欲しい!」
「う~ん、王妃はちょっと……。
それに、私は自分の国を離れたくないの。
私、この国に住む方と結婚するつもりよ」
「えぇ!?そんな、タチアナ!?
タチアナは私の妃になるのがきっと一番、幸せだよ!」
「シャーロ殿下は、将来、マリロード王国に住む?」
「……私は王太子だから、将来、ツェルード王国の王になるので、マリロード王国には住めない」
「そっか、じゃあ、しょうがないわ。
結婚は無理かな。
でも、結婚はしなくても、ずっとお友達よ!」
タチアナは、天使のような恰好で、またもや小悪魔な微笑みを浮かべてシャーロを上手くあしらっているつもりであったが、同じく天使のような恰好であるシャーロの心の中には、小悪魔どころか悪魔の思惑が湧き上がっていた。
マリロード王国を滅ぼして、ツェルード王国とひとつの国にしちゃおうかな?
それなら、タチアナにとってもツェルード王国が『自分の国』になるから、私の妃になっても大丈夫ってことだよね。
でも、マリロード王国を滅ぼして、タチアナを私のものにするには、英雄の存在が邪魔だね。
それなら、まず……。
タチアナにプロポーズを断られたシャーロは、にっこり笑顔を作って、しらじらしくも「うん、ずっと友達でいてね!」と言っているが、頭の中で国家レベルの黒いことを考えていた。
ただ、シャーロはまだ子供なので、それを現実にするかは、これからのシャーロの成長次第である。
しかし、タチアナは小悪魔どころか、傾国の美女になる危険性まで生じている。
そして、サイラスの勘は、英雄レベルのせいか、嫌な予感までばっちり当たっていた。
一方、結婚式に招待客が順調に集まる中、招かざる客で、でも無視できない程のVIPも、セドリック達の結婚式のためにマリロード王国に来ていた。
ラタナ王国の「金の獅子」ことレジーヌ副将軍と、ラタナ王国の王弟でもあるアロイス将軍の二人が、何故かこの結婚式に参加していた。
「あの、アロイス将軍、招待状は……」
(出した覚えないのですか?)と言おうとするセドリックであったが、相手はいいように解釈する。
「うむ!招待状は国を出る前には届かず、間に合わなかったぞ!
我が国とマリロード王国は遠いからな、すれ違ってもしょうがない。
まあ、セドリック殿と私は親友だからな。
恋の話から政治の話まで、何でも相談できる私の大事な友人だから、是非、セドリック殿の結婚式を祝ってあげたかったのだ」
「そ、そうでしたか、光栄です。
アロイス将軍、本日は遠方より、ありがとうございます」
他国の王族からそう言われたら、セドリックも快く承諾するしかない。
セドリックの気も知らないで、アロイスは、愛するレジーヌと一緒にマリロード王国まで来られたので、素敵な笑顔で、うきうきしていた。
そんなアロイスの隣に立ち、微笑んでいるレジーヌへ、セドリックは、(あなたは何故来た?招待していないのに……)という視線をつい向けると、レジーヌは察してあっさり答える。
「セドリック殿の妻になれる女性を見に来たのだ」
「……さ、左様ですか」
「ああ。それにしても、花嫁は予想以上に美女だな。
英雄の奥様のような癒し系の女性かと予想していたのに、どちらかといえば、典型的な肉食系貴族令嬢ではないのか?
セドリック殿なら見かけで女性を選ばないと思っていたが、所詮、見た目で選ぶ普通の男だったかと、正直、がっかりしたぞ。
……いや、すまぬ。祝いの門出で言い過ぎた。
結婚、おめでとう」
「……ありがとうございます、レジーヌ副将軍」
来て早々、駄目だしをするレジーヌに苛立つセドリック。
セドリックは心の中で、(ほっといてくれ!肉食獣なのはあなただろう!?私のエリザベスは見た目だけでなく、中身もいい子で、一緒にいてとっても癒されますから~)と思いながらも、他国VIPには、無礼なことはできないので、ぐっと我慢して、彼らを来賓として扱う。
笑顔で彼らに対応しているセドリックは、ラタナ王国の軍のトップ2人が揃って、遠方のマリロード王国まで来ていることに、ふと、ラタナ王国の防衛大丈夫か?と疑問を抱いた。
すると、そんなセドリックの表情を読んだアロイス。
「む、セドリック殿、その顔は我が国の防衛を心配しているな?」
「ええ、まあ……」
「心配無用だ。我が国には『ラタナ王国の黒い刀剣』と謳われるミハイルがいるからな」
「いや、彼って、副宰相であって、軍人ではないですよね?」
「ミハイルは副宰相だけでなく、軍師としても活躍していて、ミハイルほどの優れた軍師はそういないぞ?」
「そうですか。確かにミハイル殿は軍師としても優秀そうですが……」
「ミハイルはとても優秀だ。ミハイルの本当の武勇伝は、我が国の軍関係者しか知らないが、我が国にも蛮族が攻めてきた時、まだ若かったミハイルが、前将軍であるレジーヌの父親と組んで蛮族をうまく殲滅して、この国の英雄顔負けの勢いで撃退したのだ。
この国はいまだに北の蛮族の残党に手を焼いているそうだが、我が国には、ミハイルが完膚なきまで叩きのめしたからか、蛮族は近づきもしないんだぞ」
随分と自慢げにアロイスが言うので、何をしたか詳しく聞いてみたセドリックであったが、「国家機密だ!」といってアロイスは教えてくれなかった。
レジーヌも「聞かない方がいい。奴だからこそ考えられるえげつない方法だ」と目を逸らして言ってくる始末。
その言葉にセドリックも(えげつない方法か。あのミハイルならやりかねないな……)と思った。
結婚式の忙しい中、セドリックは、詳しくは聞けなかったが、思いもよらないミハイルの武勇伝に、とりあえず、ミハイルとレジーヌがいる限り、ラタナ王国とは絶対、戦争しないように国王に報告せねばと思った。
「……まあ、そうはいっても、やはり、ラタナ王国の防衛が心配でしょう?
せっかくマリロード王国にいらしたのなら、ゆっくりしていただきたいところですが、式が終わり次第、早々にご帰国ですよね?」
ちょっと心の中で、早くこの二人がラタナ王国に帰ってくれるといいな~と思いながら、心配するふりをするセドリック。
「いや、だから、そんな心配は不要だぞ。
それに、セドリック殿からゆっくりするように言われたなら、しょうがない。
親友のためなら、もう少しこの国に滞在するぞ!
レジーヌもそうするだろう?」
「ええ。私もこの結婚式の後、この国でゆっくり過ごす予定です」
いやいや、逆なんですけどー!
できれば、今すぐにでも帰って!!
二人へ心の中で、帰れコールをするセドリックであったが、アロイスもレジーヌも笑顔でマリロード王国に長居する宣言をしてくるので、顔ではセドリックも笑顔を作り、「この国を案内させる者を手配しておきますね~」と言っておいた。
やっと、あの二人と離れ、セドリックがほっとしているところだった。
結婚式の招待客たちの中でも、サイラス以上に一際目立つ人物がセドリックに近づいてきた。
「やあ、花婿がいないなと思っていたら、ここにいたのか。
さっきまでラタナ王国からの二人を相手にしていて、大変だったね」
優し気に声をかけてくれるこの人物は、このマリロード王国の王太子エドワルドであった。
「エドワルド殿下。わざわざ本日はお越しいただき、心よりお礼申し上げます」
「いや、今日はセドリックのおめでたい日なんだから、そんな堅苦しい挨拶は抜きでいいよ」
「はい、ありがとうございます!」
「ふふふ、君もついに結婚か。
これで、次に貴族令嬢達が狙うターゲットは誰になるのかな?」
「ああ、それならダリアン副将軍ですかね?」
ダリアン副将軍は、現国王の亡くなった王弟殿下の1人息子で、王太子エドワルドや英雄サイラスの従弟にあたる人物である。
「ああ、確かにそうかもね。
我が従弟ダリアンは、母君の国に婚約者を置いてきたらしいからな。
そのせいで、この国の貴族令嬢に乗り換えてもらえないかと、虎視眈々と狙われているそうだ」
「いや~、王族に生まれた宿命ですね~」
「それを言うなら、セドリックもね?」
「え?私は王族どころか、貴族の中でも嫡子ですらない、さえない三男坊ですよ?」
「……実は、セドリックが私の腹違いの弟ではないかという噂があるのだよ」
「ああ、その噂は存じておりますよ。
私の出世を妬んだ貴族共のネタですね。
まったく我が母にそんな甲斐性はまったくないですし、父一筋なのに、とんだ冤罪ですよ。
しかも、あの王妃様相手に、国王は浮気なんて絶対にできないのに……」
「そのはずなのだがね。
まあ、君の生まれるタイミングが悪かったよ。
王妃である母上がちょうど私を妊娠して、実家に戻っている時に、マートイ侯爵夫人が仕事で王宮に滞在することがあって、その後すぐに、マートイ侯爵夫人が妊娠したとわかったからね」
「いやいや、それなら、その頃、王宮で働いていた女性は皆、疑われるレベルの話ですよね?」
「母上の調べでは、その頃に王宮にいて、妊娠した女性はマートイ侯爵夫人だけだったらしい。
おまけに……」
「な、何ですか、その具体的疑惑!?
……おまけに何ですか?」
「おまけに、あの勘の鋭いサイラスが、セドリックのことをわざわざ探し出してきて、スカウトしたのだよね。自称、さえない侯爵家三男を……。
今は国王まで君に信頼をよせて、特別待遇で仕事をさせているしね。
セドリックの能力ゆえの地位なのに、王族でもないのに特別早く出世していることが、国王の隠し子疑惑をますます強めたよね。
今日は元社交界一の美女と結婚するし、あのラタナ王国の『金の獅子』にまでプロポーズされて、断ったにもかかわらず結婚式に押しかけられる程、愛されているなんて、本当にセドリックは何者なのかなぁと時々、私ですら考えるよ」
「な、何ですかそれ!
とんでもない濡れ衣です!!」
「そうだね。まあ、正直、ダリアンとも言っていたのだが、セドリックが本当に私の弟だったらいいなと思うことがよくあるから、その噂も肯定したくなるんだよね。
それだけ、君に対して、私を含めた王族みんなで信頼しているということだよ。
今日は、その君がさらに幸せになる始まりの日だから、大いに祝おう!」
「あ、ありがとうございます」
結婚式前、国王陛下が、タチアナがフラワーシャワーのために天使のような恰好をすると聞いて、セドリックの結婚式に参加したがった。
けれども、さすがにそれはパワーバランス等の問題が生じるため、こっそり覗きには来たが、参加はできなかった。
その代わりに、セドリックと仕事でも関わりの深い王太子が、結婚式に参加することになった。
セドリックは、その王太子から、実の弟のように気に入られて祝われたが、王子様疑惑のことで、何だかげんなりした気分になった。
もちろん、スーザンのデザインした美しいエリザベスの花嫁姿を見ただけで、そんな気分もふっとんだセドリック。
ちなみに、この結婚式には、エリザベスが社交界一の美女だった頃から、エリザベスのファンだった他国の王子様や王弟殿下などの王族の男性達のうち、セドリックが安全と認めた者達だけは招待されていた。
そうしないと、この結婚式への招待と引き換えに、そのファン達の王国からマリロード王国にとって有利な取引等が提示されていたので、セドリックもできれば外交官達と摩擦を起こしたくなかったこともあり、セドリックにとってエリザベスのファン達はライバル的存在であったが、やむを得ず彼らを招待したのであった。
こうして、セドリックとエリザベスの結婚式は、王族だらけの式となった。
そして、この結婚式の主役でもあるエリザベスが着た華麗な花嫁のドレスを、スーザンがデザインしたことがわかると、後に、そのデザインが、国中で大流行を巻き起こした。
一番のきっかけは、ラタナ王国の「金の獅子」と呼ばれるレジーヌ副将軍が、人生で一度しか自らの意思でドレスを着たことがないのに、スーザンのデザインしたドレスを着たいと直接、スーザンに依頼してきたことで、爆発的な話題を呼ぶことになった。
英雄の奥様は、魅惑肌以外の才能を見出される!
そして、英雄の副官は、実は王子様疑惑があり、招待客が自他国合わせて王族だらけの結婚式をした!
セドリックが、早くエリザベスと結婚しようと急いで準備したせいで、てんやわんやとなったが、英雄の奥様スーザンの助力もあり、なんとか無事に迎えることができた。
豪華な結婚式になり、招待客も英雄のサイラスを含めて豪華であった。
マリロード王国では、結婚式で男の子と女の子がペアになってフラワーシャワーをするが、その際、子供達は天使のような愛くるしい格好をして、天の使いが愛と幸せを振りまくという意味合いで式に登場する、重要な役割がある。
その役に、サイラスの娘タチアナと隣国ツェルード王国の王子シャーロ殿下が選ばれた。
もちろん、セドリックやエリザベスの親戚にも愛らしい親戚のお子様達もいたが、親戚達の強い要望により、身分、知名度などの関係でタチアナとシャーロに決まった。
当然ながら、サイラスはタチアナがシャーロと一緒にフラワーシャワーをすることを大反対した。
「私の娘に悪い虫を近づけさせる機会を与えるなんて、駄目だ!
嫌な予感がする!!」
「まあまあ、シャーロ殿下はまだ子供ですよ。
それに、殿下はエリザベスのために、わざわざツェルード王国からいらしておりますし、これはセドリック様のためでもあります。
あと、国王陛下もタチアナのフラワーシャワーをする天使な姿が見たいとおっしゃっていて、お忍びで覗きに来られるそうですよ?」
「うーむ、それは断りにくいな……」
スーザンに説得されて、サイラスは嫌々ながら了承した。
結婚式では、本物の天使のような愛らしい二人が、名コンビのようにフラワーシャワーを上手に行い、周囲に歓声をあげさせるタチアナとシャーロ。
しっかり、国王陛下もその天使な姿を一目見て、デレデレ顔で帰って行った。
そもそも、なぜシャーロがこの結婚式に招待されたかというと、エリザベスとシャーロは、以前、エリザベスが英雄一家と一緒にツェルード王国へ旅行に行った際に、仲良くなったからであった。
エリザベスは、タチアナに片想い中のシャーロを応援しており、シャーロから頼まれていたので、結婚式に招待をした。もちろん、シャーロの目的は、タチアナに会うことである。
「エリザベスお姉様、綺麗で素敵ね~。
あの花嫁衣装は私のお母様のデザインなのよ!」
「そうなんだ。確かに綺麗だね。
でも、タチアナが着たら、もっと綺麗だよ!」
「え~、そうかな?」
「うん、そうだよ、タチアナはとても素敵だよ。
ねえ、タチアナ。ご両親からは断られたけど、やはり、タチアナには私の妃になって欲しい。
私はタチアナのことが大好きなんだ!
タチアナを私がきっと幸せにするよ。
そして、将来、タチアナの母上のデザインした花嫁衣装で私と結婚しよう!」
「シャーロ殿下、私と結婚したいの?」
「うん、タチアナと結婚したい。
私が大きくなったら、絶対、タチアナを迎えに行くから。
将来はタチアナにツェルード王国の王妃になって欲しい!」
「う~ん、王妃はちょっと……。
それに、私は自分の国を離れたくないの。
私、この国に住む方と結婚するつもりよ」
「えぇ!?そんな、タチアナ!?
タチアナは私の妃になるのがきっと一番、幸せだよ!」
「シャーロ殿下は、将来、マリロード王国に住む?」
「……私は王太子だから、将来、ツェルード王国の王になるので、マリロード王国には住めない」
「そっか、じゃあ、しょうがないわ。
結婚は無理かな。
でも、結婚はしなくても、ずっとお友達よ!」
タチアナは、天使のような恰好で、またもや小悪魔な微笑みを浮かべてシャーロを上手くあしらっているつもりであったが、同じく天使のような恰好であるシャーロの心の中には、小悪魔どころか悪魔の思惑が湧き上がっていた。
マリロード王国を滅ぼして、ツェルード王国とひとつの国にしちゃおうかな?
それなら、タチアナにとってもツェルード王国が『自分の国』になるから、私の妃になっても大丈夫ってことだよね。
でも、マリロード王国を滅ぼして、タチアナを私のものにするには、英雄の存在が邪魔だね。
それなら、まず……。
タチアナにプロポーズを断られたシャーロは、にっこり笑顔を作って、しらじらしくも「うん、ずっと友達でいてね!」と言っているが、頭の中で国家レベルの黒いことを考えていた。
ただ、シャーロはまだ子供なので、それを現実にするかは、これからのシャーロの成長次第である。
しかし、タチアナは小悪魔どころか、傾国の美女になる危険性まで生じている。
そして、サイラスの勘は、英雄レベルのせいか、嫌な予感までばっちり当たっていた。
一方、結婚式に招待客が順調に集まる中、招かざる客で、でも無視できない程のVIPも、セドリック達の結婚式のためにマリロード王国に来ていた。
ラタナ王国の「金の獅子」ことレジーヌ副将軍と、ラタナ王国の王弟でもあるアロイス将軍の二人が、何故かこの結婚式に参加していた。
「あの、アロイス将軍、招待状は……」
(出した覚えないのですか?)と言おうとするセドリックであったが、相手はいいように解釈する。
「うむ!招待状は国を出る前には届かず、間に合わなかったぞ!
我が国とマリロード王国は遠いからな、すれ違ってもしょうがない。
まあ、セドリック殿と私は親友だからな。
恋の話から政治の話まで、何でも相談できる私の大事な友人だから、是非、セドリック殿の結婚式を祝ってあげたかったのだ」
「そ、そうでしたか、光栄です。
アロイス将軍、本日は遠方より、ありがとうございます」
他国の王族からそう言われたら、セドリックも快く承諾するしかない。
セドリックの気も知らないで、アロイスは、愛するレジーヌと一緒にマリロード王国まで来られたので、素敵な笑顔で、うきうきしていた。
そんなアロイスの隣に立ち、微笑んでいるレジーヌへ、セドリックは、(あなたは何故来た?招待していないのに……)という視線をつい向けると、レジーヌは察してあっさり答える。
「セドリック殿の妻になれる女性を見に来たのだ」
「……さ、左様ですか」
「ああ。それにしても、花嫁は予想以上に美女だな。
英雄の奥様のような癒し系の女性かと予想していたのに、どちらかといえば、典型的な肉食系貴族令嬢ではないのか?
セドリック殿なら見かけで女性を選ばないと思っていたが、所詮、見た目で選ぶ普通の男だったかと、正直、がっかりしたぞ。
……いや、すまぬ。祝いの門出で言い過ぎた。
結婚、おめでとう」
「……ありがとうございます、レジーヌ副将軍」
来て早々、駄目だしをするレジーヌに苛立つセドリック。
セドリックは心の中で、(ほっといてくれ!肉食獣なのはあなただろう!?私のエリザベスは見た目だけでなく、中身もいい子で、一緒にいてとっても癒されますから~)と思いながらも、他国VIPには、無礼なことはできないので、ぐっと我慢して、彼らを来賓として扱う。
笑顔で彼らに対応しているセドリックは、ラタナ王国の軍のトップ2人が揃って、遠方のマリロード王国まで来ていることに、ふと、ラタナ王国の防衛大丈夫か?と疑問を抱いた。
すると、そんなセドリックの表情を読んだアロイス。
「む、セドリック殿、その顔は我が国の防衛を心配しているな?」
「ええ、まあ……」
「心配無用だ。我が国には『ラタナ王国の黒い刀剣』と謳われるミハイルがいるからな」
「いや、彼って、副宰相であって、軍人ではないですよね?」
「ミハイルは副宰相だけでなく、軍師としても活躍していて、ミハイルほどの優れた軍師はそういないぞ?」
「そうですか。確かにミハイル殿は軍師としても優秀そうですが……」
「ミハイルはとても優秀だ。ミハイルの本当の武勇伝は、我が国の軍関係者しか知らないが、我が国にも蛮族が攻めてきた時、まだ若かったミハイルが、前将軍であるレジーヌの父親と組んで蛮族をうまく殲滅して、この国の英雄顔負けの勢いで撃退したのだ。
この国はいまだに北の蛮族の残党に手を焼いているそうだが、我が国には、ミハイルが完膚なきまで叩きのめしたからか、蛮族は近づきもしないんだぞ」
随分と自慢げにアロイスが言うので、何をしたか詳しく聞いてみたセドリックであったが、「国家機密だ!」といってアロイスは教えてくれなかった。
レジーヌも「聞かない方がいい。奴だからこそ考えられるえげつない方法だ」と目を逸らして言ってくる始末。
その言葉にセドリックも(えげつない方法か。あのミハイルならやりかねないな……)と思った。
結婚式の忙しい中、セドリックは、詳しくは聞けなかったが、思いもよらないミハイルの武勇伝に、とりあえず、ミハイルとレジーヌがいる限り、ラタナ王国とは絶対、戦争しないように国王に報告せねばと思った。
「……まあ、そうはいっても、やはり、ラタナ王国の防衛が心配でしょう?
せっかくマリロード王国にいらしたのなら、ゆっくりしていただきたいところですが、式が終わり次第、早々にご帰国ですよね?」
ちょっと心の中で、早くこの二人がラタナ王国に帰ってくれるといいな~と思いながら、心配するふりをするセドリック。
「いや、だから、そんな心配は不要だぞ。
それに、セドリック殿からゆっくりするように言われたなら、しょうがない。
親友のためなら、もう少しこの国に滞在するぞ!
レジーヌもそうするだろう?」
「ええ。私もこの結婚式の後、この国でゆっくり過ごす予定です」
いやいや、逆なんですけどー!
できれば、今すぐにでも帰って!!
二人へ心の中で、帰れコールをするセドリックであったが、アロイスもレジーヌも笑顔でマリロード王国に長居する宣言をしてくるので、顔ではセドリックも笑顔を作り、「この国を案内させる者を手配しておきますね~」と言っておいた。
やっと、あの二人と離れ、セドリックがほっとしているところだった。
結婚式の招待客たちの中でも、サイラス以上に一際目立つ人物がセドリックに近づいてきた。
「やあ、花婿がいないなと思っていたら、ここにいたのか。
さっきまでラタナ王国からの二人を相手にしていて、大変だったね」
優し気に声をかけてくれるこの人物は、このマリロード王国の王太子エドワルドであった。
「エドワルド殿下。わざわざ本日はお越しいただき、心よりお礼申し上げます」
「いや、今日はセドリックのおめでたい日なんだから、そんな堅苦しい挨拶は抜きでいいよ」
「はい、ありがとうございます!」
「ふふふ、君もついに結婚か。
これで、次に貴族令嬢達が狙うターゲットは誰になるのかな?」
「ああ、それならダリアン副将軍ですかね?」
ダリアン副将軍は、現国王の亡くなった王弟殿下の1人息子で、王太子エドワルドや英雄サイラスの従弟にあたる人物である。
「ああ、確かにそうかもね。
我が従弟ダリアンは、母君の国に婚約者を置いてきたらしいからな。
そのせいで、この国の貴族令嬢に乗り換えてもらえないかと、虎視眈々と狙われているそうだ」
「いや~、王族に生まれた宿命ですね~」
「それを言うなら、セドリックもね?」
「え?私は王族どころか、貴族の中でも嫡子ですらない、さえない三男坊ですよ?」
「……実は、セドリックが私の腹違いの弟ではないかという噂があるのだよ」
「ああ、その噂は存じておりますよ。
私の出世を妬んだ貴族共のネタですね。
まったく我が母にそんな甲斐性はまったくないですし、父一筋なのに、とんだ冤罪ですよ。
しかも、あの王妃様相手に、国王は浮気なんて絶対にできないのに……」
「そのはずなのだがね。
まあ、君の生まれるタイミングが悪かったよ。
王妃である母上がちょうど私を妊娠して、実家に戻っている時に、マートイ侯爵夫人が仕事で王宮に滞在することがあって、その後すぐに、マートイ侯爵夫人が妊娠したとわかったからね」
「いやいや、それなら、その頃、王宮で働いていた女性は皆、疑われるレベルの話ですよね?」
「母上の調べでは、その頃に王宮にいて、妊娠した女性はマートイ侯爵夫人だけだったらしい。
おまけに……」
「な、何ですか、その具体的疑惑!?
……おまけに何ですか?」
「おまけに、あの勘の鋭いサイラスが、セドリックのことをわざわざ探し出してきて、スカウトしたのだよね。自称、さえない侯爵家三男を……。
今は国王まで君に信頼をよせて、特別待遇で仕事をさせているしね。
セドリックの能力ゆえの地位なのに、王族でもないのに特別早く出世していることが、国王の隠し子疑惑をますます強めたよね。
今日は元社交界一の美女と結婚するし、あのラタナ王国の『金の獅子』にまでプロポーズされて、断ったにもかかわらず結婚式に押しかけられる程、愛されているなんて、本当にセドリックは何者なのかなぁと時々、私ですら考えるよ」
「な、何ですかそれ!
とんでもない濡れ衣です!!」
「そうだね。まあ、正直、ダリアンとも言っていたのだが、セドリックが本当に私の弟だったらいいなと思うことがよくあるから、その噂も肯定したくなるんだよね。
それだけ、君に対して、私を含めた王族みんなで信頼しているということだよ。
今日は、その君がさらに幸せになる始まりの日だから、大いに祝おう!」
「あ、ありがとうございます」
結婚式前、国王陛下が、タチアナがフラワーシャワーのために天使のような恰好をすると聞いて、セドリックの結婚式に参加したがった。
けれども、さすがにそれはパワーバランス等の問題が生じるため、こっそり覗きには来たが、参加はできなかった。
その代わりに、セドリックと仕事でも関わりの深い王太子が、結婚式に参加することになった。
セドリックは、その王太子から、実の弟のように気に入られて祝われたが、王子様疑惑のことで、何だかげんなりした気分になった。
もちろん、スーザンのデザインした美しいエリザベスの花嫁姿を見ただけで、そんな気分もふっとんだセドリック。
ちなみに、この結婚式には、エリザベスが社交界一の美女だった頃から、エリザベスのファンだった他国の王子様や王弟殿下などの王族の男性達のうち、セドリックが安全と認めた者達だけは招待されていた。
そうしないと、この結婚式への招待と引き換えに、そのファン達の王国からマリロード王国にとって有利な取引等が提示されていたので、セドリックもできれば外交官達と摩擦を起こしたくなかったこともあり、セドリックにとってエリザベスのファン達はライバル的存在であったが、やむを得ず彼らを招待したのであった。
こうして、セドリックとエリザベスの結婚式は、王族だらけの式となった。
そして、この結婚式の主役でもあるエリザベスが着た華麗な花嫁のドレスを、スーザンがデザインしたことがわかると、後に、そのデザインが、国中で大流行を巻き起こした。
一番のきっかけは、ラタナ王国の「金の獅子」と呼ばれるレジーヌ副将軍が、人生で一度しか自らの意思でドレスを着たことがないのに、スーザンのデザインしたドレスを着たいと直接、スーザンに依頼してきたことで、爆発的な話題を呼ぶことになった。
英雄の奥様は、魅惑肌以外の才能を見出される!
そして、英雄の副官は、実は王子様疑惑があり、招待客が自他国合わせて王族だらけの結婚式をした!
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