婚約破棄、喜んで!

ルナルオ

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9.告白

 エレーヌは、縁談の申し込みのあった5名に対して、断りの返答をすることに決めた。
 その返答をする前に、エレーヌはいつもの仕事をこなそうとした時であった。

 マルスが、治療の時間外であったが、エレーヌのもとに従者のディーダを連れてわざわざやってきた。

「まあ、マルス殿下。具合はいかがですか?」

「うん!今日は調子も良いよ」

「そうですか。
 お時間になりましたら、いつものお薬をお持ちいたしますので」

「うん。わかった」

「……それで、今日は何か別に御用が?」

「ねえ、エレーヌ、僕との結婚の申し込み書類を見てくれた?
 もちろん、エレーヌがたくさんの縁談を申し込まれたのは知っているけど、今日はその中でも、僕を選んで、僕と結婚して欲しいってお願いにきたんだ」と可憐で輝くばかりの美少年、マルスは微笑みながらいう。

「……マルス殿下」

「僕が15歳になり次第、正式に結婚ということで、あと4年ほど待たせてしまうけど、それまでに僕の体も直して、君の頼りになる旦那様に絶対になるからね。
 背丈もそれまでにはエレーヌより高くなる予定だから楽しみにしていて!」とにこにこと天使のような笑みを浮かべ、瞳を期待でキラキラと輝かせているマルス殿下に、エレーヌはどう断れば良いか迷っていた。

 もちろん、エレーヌにマルス殿下との縁談を受け入れるつもりは全くない。
 例え、アスター侯爵家に彼が婿にきてくれると言ってきたとしても……。

「マルス殿下。その話ですが……」

「あ、一番大事な話!もちろん、僕は王族から抜けて、君の婿になるからね。
 あと、4年もあるから、体を直すだけでなく、アスター侯爵領の経営のお手伝いとかも勉強するよ!
 僕、こう見えて、とっても優秀なんだよ!!
 僕とエレーヌが組めば、アスター侯爵領もさらに栄えること間違いなしだよ」とやや自信ありげな感じで言うマルス。

「……マルス殿下がとても優秀なのはよく存じております。
 その優秀さと、前正妃様の唯一のご子息ということで、王位継承権第2位になるとお聞きしております。
 そんな方が我がアスター侯爵領などの婿になるなんて、難しいことと思われます」

「……エレーヌ、その話は誰から聞いたの?
 まだ15歳になっていないから、成人と認められていない僕に王位継承権なんてないよ。
 しかも、僕ほどではないけど、王になるのに問題のない優秀な兄上が3人もいるんだから、僕まで王位が回ってくることは、ほぼないと思うよ」

「しかし……」

「エレーヌ。僕は君が好きだ」

「マルス殿下。殿下のお気持ちは大変ありがたいのですが……」

「エレーヌ。
 僕はただ子供のように君が好きなんじゃないよ。
 本気で伴侶になりたいくらい好きなんだ。
 この気持ちは決して、亡くなった母親と重ねているからでも、年上の女性に憧れているわけでも、治療してもらって恩に感じているからでもないよ。
 まだ僕の体は子供だけど、王族のしかも微妙な立場に生まれたせいで、こう見えて中身は大人なんだ。そうならないと、ここまで生き残れなかったからね。
 だから、エレーヌ。
 君への想いは、中身が大人な僕が、大人の男性と同じように想っているってことなんだよ」

「マルス殿下は時々大人びているとは思っておりましたが、まじめにそう想ってくださるのですね。
 ありがとうございます。しかし、私は……」

「待って、エレーヌ。僕の話を聞いて?
 僕の中身が大人なのはね。そうならないと、相手の策を見抜き、生き抜かないと生き残れないくらい、小さい頃は何度も暗殺されかけてきたからなんだよ。
 今は幽閉された現王太子の母親である元第1側妃から狙われてね」

「殿下……」

「僕の正妃だった母親が僕を産んですぐになくなったから、大人しくしていれば、そのまま第1側妃が正妃になれるはずだったのにね。
 自分の息子が僕の存在のせいで王太子にならない可能性があるからって、正妃から産まれた僕を暗殺しようとして、本当に愚かな女だったな。
 しかも、最終的には、息子を確実に王にするために企んでいたのに、その息子自身に断罪されて表舞台から消えるなんてね。
 愚かな女の末路らしいよね」と年相応とは思えない、やや醒めた微笑みを浮かべるマルス。

「殿下。そんなことまで話されては……」

「んー?でも、エレーヌはそのことなんてとっくに知っているでしょう?」

「……はい」

「愚かな女のせいで、僕は周りのほとんどの者が信用できなくなっていた。
 ところが、君に出会って変わったんだ。
 エレーヌが僕を治療してくれるようになって、君が僕を一患者として、誰よりも真剣に僕の治療に関わってくれた姿勢や、君の賢明さ、本当にやわらかで優しい仕草、真面目な性格からも、君をこの国の誰よりも一番、信頼している。
 それこそ、父である国王陛下よりも。
 もちろん、君の微笑んだ時の顔も愛らしくて、大好きだよ!」

「……あ、ありがとうございます」と天使な顔立ちのマルスに愛らしいといわれ、照れるというよりも複雑な気持ちになるエレーヌ。

「だから、僕はエレーヌのためなら、本気で王族という身分も捨てられるから、身分のことは問題にしないで。
 あと、エレーヌが僕を選べないのは年齢差と体の弱さが問題なのかな。
 まず、年齢差は年齢を重ねれば大丈夫。
 気にならなくなるよ!
 奥さんが5~6つ上でもすごく仲睦まじい夫婦をたくさん知っているよ。
 僕は中身が大人だから、同世代や年下の未熟さのひどい女性の方がむしろやっていける自信がないくらいだよ。
 それと、薬が切れると鼻血をだす病弱な体になったのは、暗殺未遂の薬物が原因だから遺伝しないし、君自身の診断で、この症状もあと2年もしないうちに直ると言っていたよね?」

「殿下……。そういう問題ではないのですが……」

「エレーヌ!僕は君が好きだ。
 万が一、断るにしてもお願いだから、対等な大人として扱って、僕を子供扱いしないで。
 子供のいうことだからと処理しないで、僕の気持ちを本気で受け止めて。お願い」

「……承知致しました」

 立ち去るマルスを見つめながら、突然、大人びたというか、本当はさっきの様子が本来のマルスなのかとあらためて認識するエレーヌ。
 王族でも年相応に無邪気な子かと思っていたし、国王陛下をはじめとして、王太子や他の兄王子たちとも、とても良好な関係を築き、周囲からもとても慕われ、みんなに愛されている存在だとしか思えなかった。
 それが、表立って見えないところで、マルスは周囲すら信じられない時期があり、孤独と戦っていたのかと、王族の裏事情の複雑さに、再び、ため息がでるエレーヌであった。

 そんなエレーヌの前に、父親のアスター侯爵がまたもや悪そうな笑顔で、現れた。

「くくくっ、エレーヌも大変だな~」

「……お父様。今のマルス殿下とのお話を隣室でお聞きになられていましたわね?」

「うん!ばっちり聞いていたよ~。
 何あれ?笑っちゃった。
 何が『中身は大人』だ。単に腹黒さとか性格の悪さが、大人顔負けのひどいレベルっていうことだろうって。
 あんな告白で、うちの賢いエレーヌは騙されないよ。全く」

「……不敬ですよ。お父様」

「本当のことだろう?」

「ふざけてはいけません」

「あの告白とか本当にやばいな~。
 あれで騙されやすい令嬢なら絆されるかもね。
 さすがは他国で恐れられている『小さな悪魔』だね。
 あはははー」

「笑っている場合じゃないですよ、お父様」

「でもさー、あんなのとエレーヌが婚約したら、結婚前に私なんか邪魔者として暗殺されそうで怖いわ。
 エレーヌの結婚相手にあいつは本当にないね。絶対」

「お父様ったら……」

 エレーヌはプライベートでも自分の周りに増えていく厄介な人たちのことを考え、できれば厄介なのは父親だけにして欲しいと願うのであった。


 一方、アスター侯爵領にある王族用療養施設の一室にて。

「ディーダ!どうだった?
 どんな感じだった?
 あれなら、エレーヌも僕のことを男として、ちょっとは意識してくれるよね?」

「はい!あの真摯な感じとか、子供扱いしていた相手の影のある大人の事情や、本当に大人のような口調や態度の豹変ぶり、問題に向けての解決策、そして男らしい愛の告白!
 完璧でございましたよ、マルス殿下!!
 私がフォローするまでもございませんでしたよ」と侍従のディーダはご主人様のマルスを賞賛する。

「そうか!この調子で少しずつおとしていけばいけるかな」

「きっといけますよ!
 普通の令嬢なら、あと数回、こういったやりとりなどで、恋におちると思われます。
 ただ、エレーヌ嬢なので、仕事熱心なせいで、自分の気持ちにも気づけないようなちょっと天然なところがございますから、そう簡単にはいかない場合もあるかと思われますが……」

「うん。そうなんだよね。
 エレーヌは普通の令嬢とちょっと違うからね。いつも割りと冷静だしね」

「でも、今回、かなり効果はあったと思われます。
 あとは同時進行で外堀を埋めていけば、きっとエレーヌ嬢と婚約までいけると思われます」

「そうだな。外堀か~。
 アスター侯爵夫人なら簡単だが、あのいかれた狸のアスター侯爵が難しいな。
 金品でなびくふりをして、本音はもらうものをもらうだけで、一切、協力しないどころか、邪魔しかしなさそうな男だ。
 あとは真面目で頭の固いエレーヌのお爺さん、前アスター侯爵もちょっと厄介かな。
 僕が6つも年下でさえなければ、むしろ僕以上に本当に病弱だった母上を大切にしてくれた恩人で、心強い味方なんだが……」

 そういって、策士で「小さな悪魔」と呼ばれるマルスはディーダとともに、次のエレーヌをおとす作戦の打ち合わせをするのであった。
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