縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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7.出会い

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何故か、お美味しいとんかつ食べてリフレッシュの予定が、ろくに食べれず(佐藤はコースクリアしていた)疲れ果てるという事態に陥ってしまった。
ホテルの外で改めて食事という気分でもなく、かといって朝から何も食べてないので何か食べないといけない気もする。
と、いうことでホテルから少し歩いた所に個人の経営だが美味しいというパン屋さんでサンドイッチとカレーパンを買ってホテルの中庭にきた。

佐藤は仕事の為部屋に戻り、八重垣は外せない電話で席を外して、外で1人という稀な状況にちょっと心細さも感じる。
まあ、中庭で夕飯までの繋ぎで食事をするだけなので特に危険はないと思うけど。

木陰のベンチに座って背伸びすれば、肺に新鮮な空気が流れ込んでやっと一心地ついた気になる。
ぽかぽかと心地良い日差しが適度に振り注いで気持ちいいのも気持ちいい。

リラックスした事もあって体が空腹を感じたのか、腹の虫が盛大にないた。
食べる前に飲み物を飲もうとして気がつく。

パンを買う時にレジ横の紙パックのフルーツオレをみていたのに、そう言えば見ていただけで手に取らなかった。
手に取ってないと言う事は……
「買い忘れ。」
俺相当テンパってたか。
飲み物欲しいよな。
でも、ここから離れるわけにもいかないし。

八重垣さんは電話しているとは言っても、一応何かあった為に近くにいてくれているが、この場所から離れるのはまずい気がする。

このホテルは景観を損ねない為に自販機は特定の人目につきにくい場所にまとめていて、そのかわりカフェが一定間隔であり、テイクアウト出来る様になっている。

カフェで好みの物を買い、中庭やロビー等ちょっとした休憩スペースで一息つける。
人混みに疲れていたり、外でピクニックの様に食べたい人にはもってこいのコンセプトだ。

ただ、中庭からカフェに行くには八重垣の保護範囲から外れて迷惑をかけるし、かといって飲み物頼むのも同じ状況になる。
じゃあ、佐藤に頼もう、と言っても佐藤も今回のマッチングの今までにない珍事で各方面と連絡を取り合っていてかなり忙しそう。
頼むのはちょっと違う気がする。

暫く考えていたが、結局飲み物は諦める事にした。
「飲み物………、失敗したなぁ。」
まあ飲み物がないと食べれないものでもなく、よく噛んで食べればいいか、と紙袋の中にある白い耐油紙に包まれたカレーパンを取り出す。
セロハンテープを剥がし出てきたカレーパンにかぶりつく。
飲み物がないので小さくかじった事もあり、中のカレーまでたどりつけなかったが、思いがけず美味しいパンの味に驚きと嬉しさでテンションが上がる。
パンの美味しさをじっくり堪能していると「失礼」と声をかけられた。
パンに集中して人の気配に気が付かなかった事を反省しつつも、何気なく声のほうを振り向くと、そこにいたのは明日会う予定だった男、西園寺蒼紫がいた。

あまりにびっくりしすぎてパンを飲み込むのを失敗して少し気管はいって咳き込む。
「大丈夫ですか!?」
弥生は咄嗟に蒼紫に背中を向け咳がかからない様にした。

流石に見た目を気にする余裕もなく、かなり汚い咳込み方で下手したら吐くんじゃないかとドン引きしても可笑しくないのに、蒼紫は弥生の持っていたパンを抜くと紙袋に戻し、落ち着くまで背中を擦ってくれていた。

咳がだいぶ落着き呼吸も楽になって振り返る。
体制的に蒼紫の胸元あたりから見上げる状態になってしまった。
コロンか何かつけているのだろうか、ほんのりと初夏の爽やかな新緑の香りが鼻腔をくすぐる。

「あの、ありがとうございます。」
自分でもびっくりするくらい声がか細かった。
蒼紫に聞こえてないのか暫く凝視されてしまった。
も一度言ったほうがいいのかと「あの?」と声をかけると、やっと気がついたかの様に「ああ、失礼、もう大丈夫ですか?」

蒼紫の手がなかなか背中から離れないことにどうしていいかわからず、かつ、にっこり微笑まれて、思い当たる。
マッチングがキャンセルになったことによって、彼は弥生の情報を知らない、でも、アルファにはオメガがわかると言うから彼は女性にしてきたように親切にしているのだろう。

それにしても、女性だけじゃなくて男性オメガにもフェミニストぶりを発揮するとは、この人、絶対詐欺られるよな。
と失礼なことを考えていると蒼紫の親切は細やかだった。
「なにか喉を潤すものはありますか?」
と聞いてきた、勿論そんなものはないあったらすでに飲んでいる。

「いえ、買い忘れてしまって。」
書面上で受け入れられない条件の相手で担当者最悪だったとしても、さっき聞いた蒼紫の女性遍歴のせいか冷たくあしらうのがかわいそうで、普通に対応してしまってる自分に少し違和感を感じる。

佐藤や八重樫のような護衛がいれば別だが、いつもなら、こんな状況なら軽くあしらって危険があったとしてもさっさと席を立っていたと思う。
場所も正直なところまずいのだ。
平日の人気のないホテルの中庭。

アルファの威圧で脅されれば弥生は動けなくなって簡単に部屋に連れ込まれてしまう。
頭ではわかっているのに離れがたいと思っている自分が確かに存在していた。

「コーヒーは飲めますか?ああ、声に出さなくても大丈夫です。」というのでお言葉に甘えてコクコクとうなずく。
蒼紫は自分の紙袋の中からこのホテルに入っている有名なカフェ店のリッド付きのペーパーカップを取り出した。
「ブラックなんですが、だいぶ冷めたと思います、一口だけでもゆっくり飲んでください。」
と差し出してくれた。
弥生は言うとおりに口をつける。

いつもより敏感になっていたのかコーヒーの苦味がきつく感じたが、潤った事で違和感が少し落ち着いた。
「ありがとうございます。」
と微笑みかけると何か思うところがあったのか、少し間があってさもうれしいという微笑みが返ってきた。

お礼を言われたことがないんだろうか?不憫すぎる。
やっと、蒼紫の手が背中から離れたタイミングで部屋に戻るべきだったが、弥生はつい気になっていたことを聞いてしまった。
「こちらには何かご用があったんですか?」
蒼紫はちょっと困った様子を見せながら
「いえ、人と会う約束をしてたんですが、どうやら縁がなかった様で。」
と、。直訳すれば見合いに来たが相手が来なかったと言った。

内情を知ってるだけに直訳できてしまう悲しさよ。
しかし、あっちの担当者この人の事侮りすぎじゃないか?
どうやら、蒼紫は回りの人間にいいように転がされる運命の人らしい。

「約束は今日で間違いなく?」
弥生の提示した日が明日なのでそれとなく、日にち間違えてませんか?と投げかけてみたが、蒼紫は「ええ。」と肯定した。

なんか、おかしいよな。
担当者があれっていうのもおかしかったけど、ここまで齟齬がうまれるか?
アルファを増やしたい国が、富裕層のしかも、アルファの生まれやすい家の人間をこんな雑に扱うもんなのか?
珍事なんて事で片付けていいのか?これ。

「先ほど」
「え?」
突然、黙り込んでしまった弥生を気遣ってか声をかけてきた。
「先ほど食べられていたものは何なんですか?」
何のことだろうと思っていると”茶色の”と続けられて、思い当たった自分の持っていた紙袋を手元に寄せ、「ああ、これですか」取り出した。
「?」
蒼紫の不思議そうな顔に笑いがこみ上げるが我慢する。
「カレーパンです。」
「ああ。」
これ絶対わかってないな。
考えてみれば普通にカレーパンを食べる習慣がないのかも知れない。

「美味しいですよ。」
「中にカレーが入っている?」
「えっと、パン生地にカレーを包んで、パン粉をつけて揚げてあるパンです。食べてみます?」
「いいんですか?」
どうぞと差し出しそうになった、かじった事を思い出しパンを引っ込めた。
「すみません、かじってしまった物なので、お店を紹介しますね。」

そう言ってしまおうとすると、蒼紫は慌てたように弥生の手を取り「気にしません。」としまうのを止めた。
「ご迷惑でなければそちらを頂いても?」
「はぁ、あの、いいんですか?」
「はい、ぜひ。」
さっきまでなかった強引な態度に面食らうが、にっこり微笑んで止めようとする蒼紫の必死さに、押さえていた笑いが抑えきれなくなり、声を抑え気味に笑ってしまった。
それでも、爆笑しなかったのは褒めてほしい。
「す、すみません。」
突然笑い出した事への謝罪をすると、蒼紫は怒り出す事はなかった。

「柊さん!?」
八重垣は弥生が男に手を握られているのを見て慌てていた。
「あ、八重垣さん。」
八重垣の名前を呼ぶと握られている手の力が強くなった。
「じゃあ、迎えが来たので。」
弥生は蒼紫の握っていた手をそっと外させる。

八重垣は弥生を蒼紫から引き離そうと自分に引き寄せた、その瞬間香るオメガの発情のフェロモン気付き、「柊さん、フェロモンが」と蒼紫に聞こえないように耳元で囁いた。
酸欠の様な思考の鈍さと多少の熱は感じてたが、まさか来るはずのない発情期だとは思わなかった。

八重垣は焦った様子で蒼紫に何も言うことなく「行きましょう。」と足早に立ち去ろうとする。

「ひいらぎさん」
蒼紫が弥生の名を呼ぶ
突然の事に困惑しているのかもしれないが、マッチングのことも気になったので蒼紫に駆け寄り一枚の名刺を差し出した。
「マッチングのことで困ったら、そちらの方に連絡してください、平等公平な方ですからきっと力になってくれます。」
蒼紫は戸惑うながらも名刺を受け取ってくれたのでほっと一息つく。

名刺は佐藤のもので彼なら直接アルファから接触があってもなんとかしてくれるはずだ。

「柊さん、パッチです。」
早足で移動しながら八重垣がくれたパッチ型の抑制剤を素早く首に貼る。
専用エレベーターのある場所に到着する頃には周りが気付く程のフェロモンが流れ出ていた。
八重垣は弥生が貼った時と同時に貼った事もあり、フェロモンの影響は出ていない。
八重垣がエレベーターにカードをかざし扉が開くと弥生は一緒に乗り込むのを止めた。
たとえ、抑制剤がきいていても危険な事にはかわりない。
「八重垣さんここで。」
「はい、エレベーターの監視カメラで状態をみてます。緊急時には突入しますが部屋に入ってしまえば安心です。」

「ありがとうございます。」

弥生がかすれた声でお礼を言うとほぼ同事に扉がしまった。
時間が長く感じるエレベーターの中で大丈夫、大丈夫と唱えながら時間が過ぎるのを待ち、ベットルームに飛び込んだ。


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