縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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7.5出会い蒼紫

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30分程休憩することになり、蒼紫はコーヒーを買い中庭に足を伸ばした。
流石にあの重苦しい部屋で休憩はしたくなかったからだ。

女性関係はなぜか上手くいかない
家族が焦るのも無理のない話だった。
最初の婚約者から始まり、何人もの女性と交際した。
周りは相手が悪かったというが本当にそうだろうか。
どんどん自信がなくなりさらに今回の事だ。
呪われてるとしか思えない。

ふと木陰になっているベンチに目がいく。
綺麗な男性が腰掛けていた。
第一印象は近寄りがたく冷たい印象、ところが紙袋の中を覗くと途端に印象が変わった。
嬉しくて仕方ないと口元が緩み、柔らかく、まるで日なたの様な暖かみさえ感じた。

自分の中に生まれた焦りに蓋をして、でも、確実に距離を縮めていく。
その間も彼は違う表情に変わる。
ハッと何かに気づき、落胆し、思案し、諦め、決断した。

「飲み物……、失敗したなぁ」
小さく呟いた声を蒼紫は確かに聞いた。
蒼紫の手にはさっき買った飲み物がある。
彼の好みに合うかどうかはわからないがそれでも、話しかけるきっかけにはなるかもしれない。

彼は紙袋の中にある白いものを取り出し、その白いものを開き、出てきた茶色いものにかぶりつく。
次の瞬間蒼紫は自分の目がおかしくなったのかと思った。
たまらない幸福を味わっているとわかる表情の彼から光があふれた。

「失礼。」
たまらず声をかけると蒼紫を見た彼はひどく驚き、そしてむせた。
「大丈夫ですか!?」
声が出せず、こくこくとうなずきながら咳き込む彼の背中をさする。
不謹慎にも思いがけず触れる事ができて高揚する。
落としそうになっているものをそっと抜き取り元の紙袋に戻すと呼吸が落ち着くまで、背中をさする。
咳が蒼紫にかからないようにしてくれているのだろう、反対側に向き咳き込む彼の首元に目がいく。

肩まで伸ばした髪は下を向く事で二つに割れ、無防備にもうなじをさらしていた。
ふわりと香るやさしい甘い香りに、アルファの本能が刺激される。
もっと近くで感じたい、漂ってくる香りを堪能したい、味わいたい、自分の匂いをつけ、何より”噛みつきたい”

本能で感じるそれを押さえつける
恐怖を与えないように、優しく優しく。

だいぶよくなってきたのか咳もほとんど出なくなりこちらを向いた彼は、官能的だった。
頬は赤みを帯び、上目使いに見上げる目は潤み、少し開いた唇はまるで誘っているようだった。
「あの、ありがとうございます。」

まだ声が出ないのか小さくか細い声に、抱きしめたい衝動が湧き起こる。
もちろん、彼にそんな気がないのはわかっているし、そんなことをするつもりもないが”危険だな”とは思う。
彼は間違いなくオメガだ。
この行動を他のアルファにした場合、場所など選ばず無理矢理手込めにされていても不思議ではない。

もしも、そんなアルファがいたら、俺はそのアルファを殺すだろう。
想像しただけで沸き起こる怒りにとらわれそうになっていると「あの?」と声をかけられ、思考の中から現実に戻る。
「ああ、失礼、もう大丈夫ですか?」
何事もなかったかのように振る舞うが、どうしても離れがたくて彼の背に手を添えたままにっこり微笑む。
今までならこれだけで相手は頬を染め身を委ねてくれるが、彼は違った。

明らかに困惑してる。
「なにか喉を潤すものはありますか?」
「いえ、買い忘れてしまって。」
喋りにくそうに小さく言う彼に、先ほどまで咳き込んでいた事を忘れていた自分に腹を立てる。
声を出しづらい状態なのに何を質問してるんだ、と自分に苛立つ。

「コーヒーは飲めますか?ああ、声に出さなくても大丈夫です。」
彼はコクコクとうなずく。
自分の袋からコーヒーを取り出すと彼の手にそっと握らせる。
「ブラックなんですが、だいぶ冷めたと思います、一口だけでもゆっくり飲んでください。」

彼は言うとおりに口をつける。
コーヒーの苦みに表情が崩れたことも、嚥下する喉の動きにさえ引きつけられて目が離せない。
「ありがとうございます。」
先ほどより出るようになった声さえも魅力的だった。
自分に微笑みかけてくれているのが夢のようだった。
さすがに背中に手を置いておくのが不自然だということはわかっているのでそっと手を離す。
微笑みかけると何故か困った様に苦笑されたが。

「こちらには何かご用があったんですか?」
まだ苦しいだろうが気遣って話しかけてくれる彼に見合いにきたとはっきり言いたくなかった。
「いえ、人と会う約束をしてたんですが、どうやら縁がなかった様で。」
と、遠回しにそして振られた事を言うと「そうですか」と何やら考え込んでしまった。
「約束は今日で間違いなく?」
「ええ。」
彼は何が聞きたいのか分からないが別に隠すことでもないので正直に答える。
「先ほど」
「え?」
「先ほど食べられていたものは何なんですか?」
”茶色の”と続けると思い当たったのか自分の持っていた紙袋を手元に寄せ、「ああ、これですか」取り出した。
「?」
「カレーパンです。」
「ああ。」
聞いたことはあるが、食べたことはない。
「美味しいですよ。」
「中にカレーが入っている?」
「えっと、パン生地にカレーを包んで、パン粉をつけて揚げてあるパンです。食べてみます?」
「いいんですか?」
そう言えば彼はハッと気が付いた様に差し出してきたパンを引っ込めた。
「すみません、かじってしまった物なので、お店を紹介しますね。」
そう言うとしまおうとしたので慌てて彼の手を取り「気にしません。」としまうのを止めた。
「ご迷惑でなければそちらを頂いても?」
「はぁ、あの、いいんですか?」
「はい、ぜひ。」
にっこり微笑めば、彼はぽかんとした後抑え気味に笑い出した。
「す、すみません。」
突然笑い出した事への謝罪だろう、どこに笑う要素があったのか分からないが、楽しそうな彼に胸が温かくなる。
いっその事このまま一緒にあの部屋に来てもらって両親に紹介まで済ませてしまおうか。
そんな事を考えていると、「柊さん!?」と男の声が聞こえた。

慌てて駆け寄ってくる男には見覚えがあった。
確か、ミキコーポレーションの社長だ。
名前は
「あっ、八重垣さん。」
そう、八重垣だ。
他の男の名前を呼ばれつい手に力が入る。
「じゃあ、迎えが来たので。」
と、彼は蒼紫の握っていた手をそっと外させる。
八重垣は彼を引き寄せると何かに気付き、耳元で何かを囁いた。
それだけでも怒りが沸く、八重垣はそんな蒼紫の様子など気にかける余裕もないのか、焦った様子で「行きましょう。」と足早に立ち去ろうとする。

「ひいらぎさん」
呼ばれていた名前を呼ぶと、彼はこちらに戻ってきて一枚の名刺を差し出した。
「マッチングのことで困ったら、そちらの方に連絡してください、平等公平な方ですからきっと力になってくれます。」
受け取った名刺には
バースマッチング対策課 中国地方担当 佐藤 一瑠《いちる》
とあった。

マッチング担当者の名刺があるという事は彼もマッチングに登録しているのだろう。
じゃあ、と、去って行く彼を見送りながら蒼紫は次の段取りを立てる。
今別れたばかりだというのに、彼とまた会いたいという欲求がどんどん強くなる。

今回の見合いの相手が来なかったのは幸いだった、もし来ていればその場で婚約どころか結婚まで一足飛びにさせられていたかもしれない。
彼からもらった名刺のマッチング担当者とすぐにでも接触しなければ。

急いであの重苦しさを感じていた部屋に向かう。

蒼紫の気分は晴れやかに、そして高揚していた。



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感想 22

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