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10.憧れの人
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佐藤はやっと落ち着いた弥生の部屋に来てベッドの上で転げ回る弥生を見て爆笑しながら「あはは、弥生さん青春ですね~!」とのたまった。
そう、弥生は自分の感情についていけずベッドの上で悶絶し、枕を抱きころげまわっていたところをいきなり入ってきた佐藤にバッチリ目撃されてしまったのである。
恥ずかしすぎて枕を投げつけるが、難なくキャッチされてしまう。
ニヤニヤしながら「ご飯準備できてますよ~。」
と部屋を出ていく佐藤をより真っ赤になって見送った。
弥生が突発性発情期を迎えたのはこれが初めてだったが、八重垣の機転で抑制剤の摂取と部屋へ帰ることができたことで症状はかなり軽度ですんだ。
体の中で暴れる熱に浮かされながらも自我を保て、適切な処置を行ったことで通常3~5日続くという発情期が一日という驚異の早さで治まったのである。
そして、初めて相手への恋慕から来る行為を自覚してベッドでのたうち回るという状況に陥った。
そして、ベッドで撃沈している弥生に「弥生さ~ん、ごはん食べましょ。」といつもと変わらずテンション高めで声をかけてくる。
くそ!絶対面白がってる!!
わかっているが発情期前にほぼ食べられず丸一日ほとんど水分だけだった事もあり、腹の虫は食事を所望してさっきからうるさいほどになり続けていた。
今日はもう外に出かける予定もないので、いや、こんな精神状態で出かけられない。
いつどこで、今回のことを思い出して悶絶するかわからないのに絶対出かけられない。
明け方に着替えたジャージで寝室を出る。
「ほぉ、その格好もなかなかかわいいな。弥生。」
そして、ぽかんと声の主を前に間抜け面をさらけ出してしまった。
佐藤しかいないと思っていた部屋にビシッとパンツスーツを着こなし、ショートの髪はオイルでボリュームを抑えていてそれがかっこよさを際立たせていた。
過去のお見合いでこの人と一緒になれるとうれしいと思った唯一の人(はかなく2日目に失恋したが)
美貌の女アルファ板垣柚希がいた。
「え?え?板垣さん??」
「あはは、弥生さん顔、凄いことになってますよ!!」
「え~!ちょっと待ってください、ちょっと、えーとシャワー、シャワー!」
もう何を言っているかわからないくらいテンパってシャワールームに逃げ込んだ。
身支度を調えて出てくるとうらやましいかな、佐藤は板垣にもてなされていた。
テーブルの上にはアフタヌーンティーのセットが用意され紅茶を板垣が入れて差し出している。
佐藤は足を組み紅茶を受け取っているがその姿はなかなか様になっていた。
「美貌の執事にお世話される若主人。」
ぼそっと呟くと板垣にくすくすと笑われる。
さっと、手を取りソファに誘導すると弥生にも紅茶を入れてくれた。
優しい味の蜂蜜のほのかな甘みが喉を潤してくれる。
ほっと息をつくと口の中に一口サイズのキューカンバーサンドが押し込まれた。
そこからは、飲み込めば次が入れられ、気がつくとテーブルの上の食事は空になっていた。
おなかも満たされ、ほっと一息ついていると「今日はどうするんだい?」と予定を聞かれた。
「ん~~、部屋でゆっくりしようかと。」
「おや、とんかつのお店に行くと聞いていたんだが。」
とんかつと聞いて、そういえば行く予定にしてたな、と思いだしたが「そんな気分じゃなくて。」と断る。
ただ、佐藤は違った。
一昨日食べられると思っていたとんかつは砂紋麗華というイレギュラーの出現で和食になり、食事の間ずっと西園寺の女性遍歴を聞かされ続け、せっかくの味も分からず、お腹だけ一杯になるという虚しい時間を過ごした。
「えー、それりゃないですよ弥生さん、俺楽しみにしてたのに、一昨日と昨日頑張った俺へのご褒美だと思って!!」
と、佐藤がだだをこねるのもわかる。が、コースを完食しておいてエネルギーチャージだけは出来たはずだ。
十分、一昨日、昨日働くのに問題ないだろう。
第一、少ししか食べられなかった弥生の知ったことじゃない。
「弥生が行きたくないなら仕方ないが、私も食してみたかったな。」
「行きましょう!」
即決した。
憧れの板垣が食べたいならやぶさかではない。
なんか、態度が違う。と文句を言う佐藤だが、当たり前だ。おそらく全人類、板垣の前では厚い猫をかぶり、彼女の言うことなら何でも聞いてしまうだろう。
もし、全人類でそうでなくても俺はそうする。
ふと、一昨日のことを思い出して、楽しい気分も沈む。
「八重垣さん大丈夫だったかな?」
呟いた一言は二人には聞こえていた。
「大丈夫ですよ、奥さんと一緒に帰って行きましたし。」
「そうだね、心配はいらないよ、Mからボディーガードに選ばれた時点で抑制剤はあらかじめ服用しているし、彼はパッチも仕様していたようだから影響はほぼないよ。」
2人共弥生が部屋に戻った後八重垣に会っていた。
弥生は詳しく知らないが緊急時には誰かしら駆け付ける様になっているのかもしれない。
しかも、オメガの発情フェロモンに当てられた状態なら何が起こるか分からないし。
八重垣が無事に帰れたのならよかった。
しかし、服用とパッチの2重仕様。
それで八重垣は影響が”出てなさそう”ではなく”出ていなかった”のか。
どんどん、発情状態になっていく弥生と違い冷静だった訳だ。
「それに、影響が出てても奥さんとやる事やったら落ち着きますって。」
下品なことを言う佐藤にクッションを投げつけるがやっぱりキャッチされて終わってしまった。
「弥生の方こそ辛くなかったかい?」
「そうですね、感覚としてはいつものが倍になって一気に終わった感じです。」
「いや、そうではなくて。」
「板垣さ~ん、デートプランどうするんですか?」
佐藤が口を挟む。
「そうだな、弥生は行きたいところはある?」
「それが、全然思い浮かばなくて」
「弥生さんって基本ホテル引きこもりですもんね。」
いやいや、そうでも……そうだな。
考えてみれば家でもよっぽどの事がないと家で寝てるな。
「困ったな、ほんとにない。」
「まったく?」
「ええ、まぁ。」
「そうか……、なら、せっかくだから東京観光はどうかな?」
「観光ですか?」
「東京は久しぶりだろう?リニューアルされたり、新しく出来たスポットもたくさんある、行ったことのある観光地でも新鮮な雰囲気を味わえるよ。」
「観光自体した事ないから新鮮味は分からないですけど、そうですね。」
「なら決まりだな、今日は東京観光だ。」
「ちょっと待ってくださいよ、観光なんて人の多いところだめですよ。」
「なにを言ってる、観光した事がないなら一度はしないと駄目だろう。」
2人が言い合っている間に行きたい観光地を考えて見たが、今度は候補が多すぎて見当がつかない。
それでも、ふと頭に浮かんだのは大きい提灯のぶら下がった門が特徴的なあそこだった。
「……雷門。」
「え?」
「行くなら雷門がいい。」
「そうか!ではそうしよう。」
「えー、弥生さーん。」
ちょっと待ってろ。と板垣が電話を掛け始める。
「どうしたんですか、いつもホテルでゆっくりしてるのに。」
「……やっぱり出ない方がよかった?」
「そんな事ないですけど、無理してません?」
どうやら弥生が無理していると思ったらしい。
「人多い所苦手でしょう?」
確かに誘拐されたり、他にも色々あってから人が多い所は苦手になったけど。
「負担にならないなら行ってみたいかな。」
「……分かりました。無理そうなら正直に言ってくださいね。」
「ん、分かった。」
とんかつは夕飯に回すことにしてそれまでの時間を観光に充てる事になった。
そうと決まればすぐ準備に取り掛かる。
弥生が着る服を板垣が選んでくれて、うきうきしながら袖を通す。
髪までセットされて佐藤の前に出ると「おー、変身しましたねー。」と茶化してきた。
「それでは、行こうか。」
差し出された手を取り足取りも軽やかに部屋を出ると、ほんのり漂う香りに香りの主を探す。
「弥生?」
「あ、すみません、行きましょう。」
後ろからついてくる佐藤が険しい表情をしていることにも気付かずに、板垣とのお出かけに心弾ませた。
そう、弥生は自分の感情についていけずベッドの上で悶絶し、枕を抱きころげまわっていたところをいきなり入ってきた佐藤にバッチリ目撃されてしまったのである。
恥ずかしすぎて枕を投げつけるが、難なくキャッチされてしまう。
ニヤニヤしながら「ご飯準備できてますよ~。」
と部屋を出ていく佐藤をより真っ赤になって見送った。
弥生が突発性発情期を迎えたのはこれが初めてだったが、八重垣の機転で抑制剤の摂取と部屋へ帰ることができたことで症状はかなり軽度ですんだ。
体の中で暴れる熱に浮かされながらも自我を保て、適切な処置を行ったことで通常3~5日続くという発情期が一日という驚異の早さで治まったのである。
そして、初めて相手への恋慕から来る行為を自覚してベッドでのたうち回るという状況に陥った。
そして、ベッドで撃沈している弥生に「弥生さ~ん、ごはん食べましょ。」といつもと変わらずテンション高めで声をかけてくる。
くそ!絶対面白がってる!!
わかっているが発情期前にほぼ食べられず丸一日ほとんど水分だけだった事もあり、腹の虫は食事を所望してさっきからうるさいほどになり続けていた。
今日はもう外に出かける予定もないので、いや、こんな精神状態で出かけられない。
いつどこで、今回のことを思い出して悶絶するかわからないのに絶対出かけられない。
明け方に着替えたジャージで寝室を出る。
「ほぉ、その格好もなかなかかわいいな。弥生。」
そして、ぽかんと声の主を前に間抜け面をさらけ出してしまった。
佐藤しかいないと思っていた部屋にビシッとパンツスーツを着こなし、ショートの髪はオイルでボリュームを抑えていてそれがかっこよさを際立たせていた。
過去のお見合いでこの人と一緒になれるとうれしいと思った唯一の人(はかなく2日目に失恋したが)
美貌の女アルファ板垣柚希がいた。
「え?え?板垣さん??」
「あはは、弥生さん顔、凄いことになってますよ!!」
「え~!ちょっと待ってください、ちょっと、えーとシャワー、シャワー!」
もう何を言っているかわからないくらいテンパってシャワールームに逃げ込んだ。
身支度を調えて出てくるとうらやましいかな、佐藤は板垣にもてなされていた。
テーブルの上にはアフタヌーンティーのセットが用意され紅茶を板垣が入れて差し出している。
佐藤は足を組み紅茶を受け取っているがその姿はなかなか様になっていた。
「美貌の執事にお世話される若主人。」
ぼそっと呟くと板垣にくすくすと笑われる。
さっと、手を取りソファに誘導すると弥生にも紅茶を入れてくれた。
優しい味の蜂蜜のほのかな甘みが喉を潤してくれる。
ほっと息をつくと口の中に一口サイズのキューカンバーサンドが押し込まれた。
そこからは、飲み込めば次が入れられ、気がつくとテーブルの上の食事は空になっていた。
おなかも満たされ、ほっと一息ついていると「今日はどうするんだい?」と予定を聞かれた。
「ん~~、部屋でゆっくりしようかと。」
「おや、とんかつのお店に行くと聞いていたんだが。」
とんかつと聞いて、そういえば行く予定にしてたな、と思いだしたが「そんな気分じゃなくて。」と断る。
ただ、佐藤は違った。
一昨日食べられると思っていたとんかつは砂紋麗華というイレギュラーの出現で和食になり、食事の間ずっと西園寺の女性遍歴を聞かされ続け、せっかくの味も分からず、お腹だけ一杯になるという虚しい時間を過ごした。
「えー、それりゃないですよ弥生さん、俺楽しみにしてたのに、一昨日と昨日頑張った俺へのご褒美だと思って!!」
と、佐藤がだだをこねるのもわかる。が、コースを完食しておいてエネルギーチャージだけは出来たはずだ。
十分、一昨日、昨日働くのに問題ないだろう。
第一、少ししか食べられなかった弥生の知ったことじゃない。
「弥生が行きたくないなら仕方ないが、私も食してみたかったな。」
「行きましょう!」
即決した。
憧れの板垣が食べたいならやぶさかではない。
なんか、態度が違う。と文句を言う佐藤だが、当たり前だ。おそらく全人類、板垣の前では厚い猫をかぶり、彼女の言うことなら何でも聞いてしまうだろう。
もし、全人類でそうでなくても俺はそうする。
ふと、一昨日のことを思い出して、楽しい気分も沈む。
「八重垣さん大丈夫だったかな?」
呟いた一言は二人には聞こえていた。
「大丈夫ですよ、奥さんと一緒に帰って行きましたし。」
「そうだね、心配はいらないよ、Mからボディーガードに選ばれた時点で抑制剤はあらかじめ服用しているし、彼はパッチも仕様していたようだから影響はほぼないよ。」
2人共弥生が部屋に戻った後八重垣に会っていた。
弥生は詳しく知らないが緊急時には誰かしら駆け付ける様になっているのかもしれない。
しかも、オメガの発情フェロモンに当てられた状態なら何が起こるか分からないし。
八重垣が無事に帰れたのならよかった。
しかし、服用とパッチの2重仕様。
それで八重垣は影響が”出てなさそう”ではなく”出ていなかった”のか。
どんどん、発情状態になっていく弥生と違い冷静だった訳だ。
「それに、影響が出てても奥さんとやる事やったら落ち着きますって。」
下品なことを言う佐藤にクッションを投げつけるがやっぱりキャッチされて終わってしまった。
「弥生の方こそ辛くなかったかい?」
「そうですね、感覚としてはいつものが倍になって一気に終わった感じです。」
「いや、そうではなくて。」
「板垣さ~ん、デートプランどうするんですか?」
佐藤が口を挟む。
「そうだな、弥生は行きたいところはある?」
「それが、全然思い浮かばなくて」
「弥生さんって基本ホテル引きこもりですもんね。」
いやいや、そうでも……そうだな。
考えてみれば家でもよっぽどの事がないと家で寝てるな。
「困ったな、ほんとにない。」
「まったく?」
「ええ、まぁ。」
「そうか……、なら、せっかくだから東京観光はどうかな?」
「観光ですか?」
「東京は久しぶりだろう?リニューアルされたり、新しく出来たスポットもたくさんある、行ったことのある観光地でも新鮮な雰囲気を味わえるよ。」
「観光自体した事ないから新鮮味は分からないですけど、そうですね。」
「なら決まりだな、今日は東京観光だ。」
「ちょっと待ってくださいよ、観光なんて人の多いところだめですよ。」
「なにを言ってる、観光した事がないなら一度はしないと駄目だろう。」
2人が言い合っている間に行きたい観光地を考えて見たが、今度は候補が多すぎて見当がつかない。
それでも、ふと頭に浮かんだのは大きい提灯のぶら下がった門が特徴的なあそこだった。
「……雷門。」
「え?」
「行くなら雷門がいい。」
「そうか!ではそうしよう。」
「えー、弥生さーん。」
ちょっと待ってろ。と板垣が電話を掛け始める。
「どうしたんですか、いつもホテルでゆっくりしてるのに。」
「……やっぱり出ない方がよかった?」
「そんな事ないですけど、無理してません?」
どうやら弥生が無理していると思ったらしい。
「人多い所苦手でしょう?」
確かに誘拐されたり、他にも色々あってから人が多い所は苦手になったけど。
「負担にならないなら行ってみたいかな。」
「……分かりました。無理そうなら正直に言ってくださいね。」
「ん、分かった。」
とんかつは夕飯に回すことにしてそれまでの時間を観光に充てる事になった。
そうと決まればすぐ準備に取り掛かる。
弥生が着る服を板垣が選んでくれて、うきうきしながら袖を通す。
髪までセットされて佐藤の前に出ると「おー、変身しましたねー。」と茶化してきた。
「それでは、行こうか。」
差し出された手を取り足取りも軽やかに部屋を出ると、ほんのり漂う香りに香りの主を探す。
「弥生?」
「あ、すみません、行きましょう。」
後ろからついてくる佐藤が険しい表情をしていることにも気付かずに、板垣とのお出かけに心弾ませた。
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