縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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11観光

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雷門に着いたのは15時を少し過ぎた頃だった。
休日ということもあって大勢の人、人、人。
日本人も多いが、大半が外国人で多種多様な人がいてそれだけでもちょっと気後れする。
「弥生さん大丈夫ですか?」
心配そうにする佐藤に「大丈夫、大丈夫」と気丈に振る舞うが、やたらジロジロ見られて居心地も悪い。

「皆、弥生の美しさに夢中だな。」
「え~と、美しいですか?」
俺が?まったくそんな気はしない、どちらかと言うと板垣の方が美しい。
やたら見られるのって板垣が傍にいるからじゃないか?
弥生はエスコートされていた手をそっと離し、距離をとってみた。
「弥生?」
「弥生さん?」
目の前にいるのは美人と好青年のカップルに見える。
実際は2人共既婚者だけど。
気持ち視線も外れた様に思えて自分が注目されていたわけじゃないと一人納得していると不意に後ろから腕を引かれ、体が強ばる。
「あんた一人なの?」
聞こえてきたのは若い男の声だった。
引かれた方を見ると観光地に来るには勇気がいるような派手な格好の髪を真っ赤に染めジャラジャラとピアスをつけた男が目をぎらつかせて弥生を見下ろしていた。

「いえ、連れが」
「連れってそこの2人だろ、デートの邪魔になってんじゃねえの?」
男の手を外そうとするが上手くいかない。

「悪いが、私のパートナーは彼であって向こうの男ではない。」
板垣は弥生が外せなかった男の手をあっさり外し、弥生を抱き込んだ。

「はぁ?ああ、2人で一人囲ってんの?ならもう一人増えても問題ないだろ、俺も入れてよ。」
ニヤつく男にぞっとする。
板垣にすがりつくと優しく抱きしめてくれた。

「あー、いい加減にしてもらえます?」
「はぁ?」
板垣と対峙していた男はもう一人いた佐藤に止められて気色ばむ。
しかし、佐藤の「ね?」と言う声が聞こえたと思ったら男は何も言わず消えていった。
抱き込まれていた弥生からしたら何が起こったかまったく分からなかったが、男が去って行ったのは確かだった。
「何が?」
「弥生さんは気にしなくていいですよ、さあ!気を取り直して観光しましょ。」
板垣もうなずくので弥生は先を行く佐藤について行く事にした。

大きな提灯をくぐると参道に入り、両脇にはお土産屋をはじめとしたお店がずらりと並ぶ。
さっきみたいな事が起こらないようにぴったりと寄り添う、板垣に。
「あ、弥生さん見て下さいよ」
「ん?」
お土産を見ていた弥生を引っ張って行った先はメンチカツのお店だった。
「ここのメンチカツ美味しいらしいですよ、食べ歩き出来るみたいだから買いましょう。」
「いやいや、とんかつ食べに行くよな!」
「弥生」
「板垣さん、メンチカツ」
「ああ、食べ歩きと言っても店の前で食べるのが作法になってる、1つでいいか?」
「え?それじゃ食べ歩きじゃないじゃないですか!」
佐藤が抗議するが板垣は特に気にした様子はない。
しかし、お腹を空かせる為に来たのにお腹いっぱいになる気がする。
「え~と、あんまり食べられないかな。」
「何を言ってる、ホテルでもそんなに食べてなかっただろう、少し入れておいた方がいい。」
「そうですよ弥生さん、第一メンチカツ1つなんてお腹の足しにもならないですよ。」

いや、キューカンバーサンドイッチから始まりスコーン、フルーツサンド、ケーキしかも2個ずつその上紅茶にコーヒーと水分もそれなりに取っている。
けして”そんなに食べてない”量ではないはずだというのは弥生だけなんだろうか?

そんなことを考えている間に佐藤はさっさと3つ買う。
「はい、ちゃんと板垣さんの分も買いましたよ。」
「ああ、ありがとう、弥生ちょっとこっちにおいで。」
板垣は店先にある竹のそばから弥生を離すと受け取ったメンチカツを弥生に渡した。
佐藤はその場でかぶりついていたが、弥生は板垣が通りを歩く人達から隠されるようにして一口かじり咀嚼していると、佐藤の「うわっ」という声に振り向く。
なんと佐藤は結構な数の雀に囲まれていた。
そして、襲われた。
………東京の雀こわい。

「あそこの竹には雀が集まりやすくてね、たまに観光客のメンチカツを狙って突撃してくるんだ。」
「……雀って草食だと思ってました。」
「ふふ、実は雑食なんだ。」
にっと笑う板垣もかっこいい。
「ひどいー、ひどいですーー、知ってて黙ってたんですね!?」
噛みついてくる佐藤を軽くいなし、弥生の半分以上残っていたメンチカツもペロリと平らげると弥生をエスコートしながら先に進む。
板垣のエスコートは優雅でいて粗がない。

お土産屋さんによると定番のキーホルダーやいつ着るんだろうと言うようなTシャツ等色んなジャンルのものが置いてある。
「へぇ、綺麗。」
つい声が出てしまったソレは、蒔絵でスカイツリーや雷門の提灯等が細かく描かれているボールペンだった。
見事な出来栄えに見とれていると板垣が「気に入った?」と声をかけてきた。
「うーん綺麗とは思いますけど。」
気に入ったかと言われると微妙だ。
「そうか、記念にと思ったんだがそうだね記念のものは後にしよう。」
「いや、記念品なくても大丈夫ですから。」
セレブリティはほっとくととんでもない事をやらかすので、そこは板垣が相手だろうとはっきり言っておく。
それに記念品は自分で買いたい。
「そうか?」
「そうです。」
「弥生さーん、これこれいいのありますよ!」
と持ってきたのは狐のお面だった。
どこらへんがいいのかよくわからない。
「佐藤君、よかったな。」
いいものが見つかって、とつけてやる。
少年の心はいつまで持っていようと個人の自由である。

その後、何故か全て食べ物の店がチョイスされ、店先で食べるを繰返す羽目になり、弥生は早々にギブアップした。
ただ、勧められると断れなくて一口ずつ食べて結果予想通りになった。
一杯になったお腹をさすりながら到着したお寺にお参りするのに並ぶ、と言っても真っ直ぐ1列になってるわけではないので、ゴチャッと人混みの中大きな賽銭箱に群がってお賽銭を入れて行くわけだが、その間に異変が起きた。
なぜかお尻のあたりに人の手がある感覚がすると思っていたらだんだん大胆になってくる。
れているから、さわっているに変わり、最悪なことにもまれ始め、内股部分に差し込まれた。
痴漢なんて初めてのことでパニックに陥る。

板垣や佐藤に助けを求めればいいだけの話だが怖くてなかなか声に出せない。
どうしようと困っていると、「いたたた!」という声とともに手が離れた。

振り返るとスーツ姿の男が観光客風の男の手をひねり上げていた。
「大丈夫ですか?」
それが弥生に向けられた言葉だとすぐに分かった。
涙目で頷くとほっとした顔に変わる。
「弥生?」
「弥生さん」
2人が声をかけ状況をみただけで把握した。
「大丈夫かい?」
そっと肩を抱く。
佐藤はにこやかに男の方に向かっていった。
「ありがとうございます。こちらに来ていただけます?」
男の方はこちらを気にしながらも佐藤に従い、捕えている痴漢と一緒にその場を離れて行った。

痴漢に会うという災難に遭いあまり動けそうにない弥生を近くのベンチに誘導すると、「確かお茶や水を用意してある接待所があったはずだ、貰ってくるからちょっとここで待っていてくれるかな?」
目を合わせずうなずく弥生の頭をふんわりなでる。

「いいか、知らない人について行ってはいけないよ」
「…はい」
「何かもらっても口にしてはいけない、特に飲み物なんてもってのほかだからね。」
やっと顔を上げて板垣をみた。
そこには厳しい顔をした板垣がいた。
「大丈夫ですって。」
「これも重要なんだが」
「?」
「どんなにか弱い存在に助けを求められても決して助けてはいけない。」
「………」
「分かったね?」
まさかそんな事が起こるわけないですよ。とは言い切れず、なにか鬼気迫るものを感じて弥生にはうなずくしか出来なかった。
心配そうに板垣が離れると、弥生は両手を組むようにして前屈みになり目を閉じた。


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