縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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12接触

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 触れられた事にここまで嫌悪感があるとは思わなかった。
今までオメガというだけでそう言った事を言われたり、触られたりはあったが相対している時ばかりだった。
自衛のために護身術も習ったし、いざという時にはなんとか出来ると自信もあった。
それが、全くの無防備で突然性的な接触に対して、酷い嫌悪感と姿の見えない恐怖、声も出せず身動きも取れなくなるとは思わなかった

ふと、人の気配がした。
 何も言わず、そこに座ったと言うことは観光客だろうか?
 不意に風向きが変わり、隣から覚えのある新緑の香りが流れてきた。
 そちらに視線を移すと中庭であった、本来なら会ってはいけない人がいた。
「西園寺……。」
 心配そうにこちらを見てくる蒼紫に驚いていると「大丈夫ですか?」と静かに問いかけられた。
「ああ、大丈夫です、えっと?」
「触れません、近づくことさえ声をかけることさえ本来ならできないことになっていますから。」
 ああ、この人は規約を正確に把握したんだ。
 特別枠のマッチングの接触禁止はストーカー防止面も強いが何より、Mの方が縛りがきついと漏らしていた人がいた。
 おそらく今この時も、気がつかないだけでこちらをみている人がいるだろう。
「そうですね、今日は?」
「お詫びとお礼をどうしても伝えたかった。」
 弥生が困った顔をしていると蒼紫は言葉を重ねていく。
「言い訳にしかならないが、マッチングには私を心配した家族が登録しました、その時のPRを私はまったく知らなかった。あんな事を望んだ事は一度もない。それだけは分かって欲しい、あんな人を否定する様な道具にするような事……、あなたを酷く傷付けたと思う。恐ろしかったと思う。あんな事を主張する様な男と見合いなんてしたくなかったと思う。本当に、本当に申し訳なかった。」

 頭を下げる蒼紫に、”この人は悪くないのになぁ”としか思わなかった。
「……その事は特に気にしないで下さい。」
「いいえ、気にします。こんな事は2度と起こさない。それと、佐藤さんを紹介いただいてありがとうございます。」
「ああ、いえ。」
「彼に話を聞かなければ自分のおかれている状況に全く気がつかなかった。お恥ずかしい話ですがマッチングの資料さえ手元になく、彼が全て用意してくれていたんです。」
「そうなんですか。」
 さっきの動揺もあって頭が回らずどう答えていいのかよくわからないので、あたり触りのない言葉で返事をする。
「出来るなら最初からやり直したい。……俺はあなたを知りたいです。身勝手なことだと言うことはわかってます。嫌ですか?生理的にも受け付けないと言われるのであれば、その、努力します。」
「努力、ですか?」

 なんだかちょっと笑えてきた、諦めるのではなく、努力ときたか。
「俺、あなたのこと人伝えにしか知らないです。」
「怖いですね、どんな話を聞かれたのか。」
「あんまり、話す時間はなさそうなので感じたことだけ言わせていただくと。」
 蒼紫は居住まいを正した。
 堅く、どんなことを言われるのか恐怖すら感じているようだった。
「あなたは……、怒ればいいのに。」
「え?」
「怒ったことあります?」
「ありますが。」
「プライベートで、自分が粗末に扱われた事にも?」
 少し、考えるそぶりを見せるが答えは返ってこなかった。

「あなたの事を聞いて、可哀想って思うより先にそう思ったんです。だってあなたは可哀想な人ではなさそうだった。全て諦めていて上手くいかない事も仕方ないと思ってる。だから、怒れないのかなって思いました。……すみません、上手くまとめられなくて。」
「いえ、そうかもしれません。」
「自分の為に怒って下さい、周りの理不尽に。そうしてくれると俺も嬉しい。」
「あなたが”うれしい”ですか?」
「そうですね。なんとなく”うれしい”と思ったんです。」
 ふと、痴漢にあったさっきまでの気持ち悪さが和らいでるのに気がついた。
 胸のなかに、この人に会えたことの喜びが踊っている様な不思議な感覚。
 うれしい、うれしいと訴えるそれは今までに経験した事がない。
 自分でも温かく広がるこれが何なのかよくわからない。
 蒼紫ははにかむ様に微笑むと、やってみます。と答えてくれた。
「私も、あなたが”うれしい”と嬉しいです。」
 よかった、あなたがちゃんと笑えて。
「ふふ、そうですか。」
「はい、そうです。」
 弥生はつい触れたくなって手を伸ばしてしまった。
 きっと彼は運命と出会ってないから弥生を知りたいと言ってくれたんだと思う。

 それでも、今この時は彼の気持ちがこちらに向いてくれている。
 気持ち悪いと思わないだろうか?
 今まで女性としか付き合いがなかったみたいだが、男の触られて嫌だと思わないだろうか?
 出来るなら、知りたいと言ってくれたのだから触れても平気だと思いたい。

 顔を怖くて見られなかった。
伸ばした先に彼の手があり、指先で手の甲をちょこんと触れる。
ビクッとしたらそのまま引っ込めるつもりで。
彼は微動だにしなかった。
大胆に手を上から握ってみる。
温かい体温がダイレクトに伝わってくるのがなんだか照れくさい。
自分の手より大きな手はゴツゴツしていてなんだか同じ男なのに別のものだった。

あんまり握っているのも失礼かと思って手を引こうとしたら彼の手が添えられた。
優しく傷つけない様に気をつけながら、顔をあげると耳まで真っ赤に染まった彼がいた。
照れてくれてるのがすごくうれしい。

カサリと手のなかに忍ばされたものを握りしめされる。
「連絡を待ってます。どちらの規約にもあなたからの連絡は禁止されていなかった。」
「はい」
聞こえただろうか、はじめて犯す罪にも似た緊張感の下、小さく答える。
「このまま、さらっていければいいのに。」
このまま攫われたいと口に出来ればどれほど幸福だったろう。
思い切りのいい決断をするには、何分歳を重ね過ぎてしまった。

「流石にそれは見過ごせないな。」
聞こえた声に目を向けると板垣がいた。
「板垣さん。」
「西園寺も、そろそろ立ち去った方がいい、番犬が戻ってくるからね。」
蒼紫は立ち上がり一礼すると背を向けた。
「ああ、1つ……痴漢は君の指示かい?」
瞬間、膨れ上がった怒りに萎縮する。
「痴漢?」
「静まりたまえ、ふふん、違うのか、では助けた方が君の連れだね、あと休憩所のやたら絡んでくる若造も。」
板垣は何故か楽しそうだ。
持っていたコップを弥生に渡し横に腰掛ける。
「ふふ、詰めが甘いね。でも及第点だ。……何かあれば訪ねてくるといい。」
心配そうに少し弥生を振り返り、蒼紫はそのまま去って行った。

「板垣さん。」
「ちょっと楽になったかい?」
「え?ああそうですね。」
「番犬君が帰ってくるまで話をしようか。君からアクションを起こすのははじめてだね。」
「アクション?」
「手を握った。」
どうやら見られていたらしい。
「いつからいたんですか?」
「そんなに時間は経ってないよ、君が彼に手を伸ばしている時かな。」

そこ1番恥ずかしい所です。
両手で顔を隠して「はずっ」と小さく呻くと
「ははははは、なにいいことだよ」
「いいことですか?」
「いいことだよ、大快挙だ。」
「はぁ」
無意味に髪をいじっていると、名を呼ばれ板垣のほうを見ると、間近に迫っていた。
「弥生、何も恐れることは無い、己に正直に生きなさい、我々Mはその為にいる。」
「え?」
「我々が君の生きる道を閉ざすことはない、たとえ、君の邪魔をする敵がどんなに巨大であろうとも屈することは無い。」

なんとなく、巨大なものに心当たりがあってそれを言ってくれているんだとわかる。
何も言わない弥生にそれ以上何も言わずに佐藤が来るまで寄り添ってくれた。


ーーでもね、板垣さん
俺は正直に生きるには歳を取りすぎてしまったんです。
関わった人たちや、垣間見る内情や、彼の置かれてる環境や、色々なものを思い切る勇気がないんです。

自分の不甲斐なさや弱さになんだか押しつぶされそうだった。
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感想 22

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