縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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35.目覚め

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 かすかな衣擦れの音に蒼紫が振り向くと、ゆっくりと目が開かれる。
「弥生」
 まだ完全に目が覚めていないのか何度かまばたきをして、はっきりしないあたまを無理やり起こそうとしているようだった。
 蒼紫が傍によって頭を撫でるとその手にグイグイと顔を擦り寄せてくる。
 額の所に手のひらがフィットしたのかそのまま目を閉じてしまった。

 手のひらに弥生の温もりを感じながら話しかける。
「眠いですか?」
 目がゆっくりあくと視線が蒼紫に向いた。
「あおし?」
 舌足らずの言葉で呼ばれ、その可愛さについつい顔が緩む。
「はい。」
 まだ、頭が起きてないせいか少し間があって、ふわりと微笑んだ。
 もう片方の手で頭を撫でて、額にキスを送るとくすぐったそうに身を委ねてくる。

 弥生は微睡みの中で気持ちのいい温もりと香りに包まれてそのまま瞼が落ちるところで、コホンと咳払いに、一拍して覚醒した。

 ガバッと起き上がり周りを見回すと板垣、佐藤が蒼紫の後ろから覗き込んでいて、壁側に仁、長谷川、東堂が控えていた。
 手を口元に持っているのを見て咳払いをしてくれたのは仁らしいのが分かる。
「………!?っつっつ!!」
 状況を理解して羞恥に顔が熱くなる。
 今、いったいなにをしていたかなんて夢うつつ状態でも分かる。
 蒼紫のフェロモンの香りに温かい手の感触。
 猫のように頭を擦り付けて甘えていたのは、出来れば夢であって欲しい。

 言葉を発することもできずに、弥生はガバっと布団を頭からかぶり体を包むように丸まった。
「弥生、弥生どうしました?」
 大丈夫ですか?と優しく声をかけてくれるけど、恥ずかしすぎて身動きが取れない。

「さあさあ、弥生は身なりを整える時間が必要なようだ、男連中は外にでたまえ。」
 板垣が弥生を思って全員を外に出ようとそう言うと、佐藤は指摘しなくていい事を指摘する。
「え?板垣さんだってついてるじゃないですか!」
 そういった途端に板垣に寝室の外に投げ出された。
 それを見た蒼紫は不必要な発言をした佐藤に呆れつつも板垣に従う事にする。
 本当なら蒼紫が世話をしたいが2人きりになるのを佐藤が許さないだろう。
 かといって佐藤に任せるのは、蒼紫が許せない。
 現状信頼して弥生を預ける事ができるのはMの人間だけという事になる。
 だが、長谷川とはマッチングであってから以来今日久しぶりにあったというし、それなら、弥生の護衛を2日間務め今日も同行してくれた上、弥生が気持ちを許している板垣が適任というのがよくわかる。
 ーーー納得は出来ないが。

 寝室に残った板垣はベッド脇に腰掛け、布団の上から手を置いた。
 まったく身じろぎさえなく息を殺している弥生に優しく話しかける。
「弥生、私以外もういないよ。」
 顔を出すどころかさらに布団を引き込んで堅くなった弥生が、まるで幼子がすねている様子と重なって笑いがこみ上げるが、ここで笑ったらおそらく弥生は何を言っても出てこなくなるのは確実だろう。

 なので、あくまで真剣な、深刻そうな、と言った方がいいかもしれない。
 そんな声音を選んで話しかけた。
「私では信用に欠くかな?弥生。」
 ピクンと動いた弥生に板垣はほっとする。
「先ほどはすまなかった、弥生の事が心配で……あそこまで恥ずかしがるとは思わなかったんだ。」
 沈んだ様な声を出せば、ゴソゴソと布団から半分顔を出した。
 よしよしと頭を撫でる。
「怒っているかい?」
「怒っては、いません。」
 少しムスッとしているが、恥ずかしいからだろう。
「よかった、弥生に嫌われたくはないからな。」
 にっこり微笑むと、弥生の肩から力が抜けた。

「さぁ、男性陣達は少々短気なのが多いからね、早速だが準備を始めよう。」
 弥生は布団をはぐってみると、今日出かけた時のままだ、特に目立った汚れがないからそのままベッドに寝かされているのだろう。
 なら、特にこのままでもいい気がする。
 あ、でも自分的には気を失ってからの記憶がないから相当時間がたていたんだろうか?
「おれ、気を失ってからかなり経ちます?」
「いや、3時間ほどだからそれほどでもないと思うが。」
「あ、それなら別にこのままでも。」
 失言だと気付かず言った言葉に板垣はにこっと笑って「着替えをしようか。」というのに、アルファの威圧は出ていないのに、嫌だと言えない圧が含まれていて「はい」としか言えなかった。

 クローゼットの前に連れて行かれると、板垣が選ぶのかと思いきや、「自分で選んでごらん」と言われ中に用意された服の数々を見てどうしようか悩む。

「弥生、服を選ぶときはTPOに合わせてだが、誰かに着飾った自分を見てほしいと思う気持ちが大切だ。」
「見てほしい。」
「今、弥生は蒼紫氏の前にどんな格好で出ていきたい?」
 少し考えて手を伸ばす。
 板垣はそんな弥生を満足そうに眺めていた。


 寝室から先に出て来たのは板垣だった。
「やっとですか、時間かかりすぎですよ。」
「なにを言ってるんだい、たった1時間ほどだろう。」
 板垣にとってまったく苦にもならない時間だったが、男性陣、いやこの中では佐藤だけが苦痛だったらしい。

 他3人はゆっくりそれぞれの時間を過ごしていたようだった。
「弥生」
 促されて出て来た弥生は、紺のスラックスに細くストライプの入ったジャケット、白のポロシャツ。
 シンプルで清潔感も感じるコーディネートだが、髪を少し遊ばせることによって硬さはない。
 蒼紫は弥生に近付きそっと手を取る。
「素敵です。弥生。」
「ありがとう。ごめんね、せっかく送ってくれた服しわになっちゃって。」
 しゅんとする弥生に抱きしめたくなる衝動を抑え、そのかわりに手を強めに包み込む。
「いいんです。服はこれからいくらでも送れます。」
 甘い雰囲気が漂って来たところで佐藤は遠慮なく声をかける。
「はいはい、お熱いですね。」
 無遠慮な佐藤を睨みつけるがまったく効果はない。
「さあ、弥生さんも聞きたいことがありますよね。」
「そうだね。麗華さんのことも聞きたいし。」
 弥生は先ほどまでの甘い雰囲気なんて感じさせないくらい真剣な表情に変わっていた。
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