縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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34.ホテル

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「おかしいな。」
「何がですか?」
「いい雰囲気だったはずなんだが………。」
 こめかみに亀裂が入りそうなほど青筋立てながらゆがんだ笑顔の佐藤は殴り飛ばしたい衝動を抑えていた。
「あんたね、と・こ・と・ん!色々やらかしてくれて何言ってるんですか!?」
 蒼紫は顎に手を当て”はて?なんの事かな?”と知らを切る。

「聞きましたよ。俺がマーケットで弥生さんについてる間に色んな所に手を回しまくった挙句、砂紋のじじいをおびき寄せましたね!」
 ………おかしい、偶然見つかった風を装ったのにバレている。
「いったいどこからの情報なんだ?」
 あそこにいたメンバーではないのは確実だ。
 首をひねる蒼紫に物申そうとした時だった。
「しずかにしたまえ、弥生が起きるだろう。」

 そう、蒼紫達は弥生が泊まっているホテルの部屋に戻っていた。
 砂紋の祖父君が連れ出され一息ついた後、弥生が蒼紫の腕の中で意識を失ったからだが、病院ではなく、なぜホテルだったかと言うと蒼紫のせいだった。

 蒼紫は腕の中で意識を失った弥生を西園寺の屋敷に連れ込もうとした。
 もちろん佐藤はとめる。

 病院へといえば、
 弥生の為の医者がすでに待機しているといい。
 警備の関係と言えば、
 西園寺の屋敷の警備がどれほど強固なものかが語られた。
 佐藤はいざという時のために用意していたSPに弥生をホテルに強制連行させ、医者を手配したのだ。

「病院につれていきたいなら救急車を呼べばよかったじゃないか。」
「何言ってんですか、あんたが砂紋の動きを封じる為に関係各所に手を回したのなんてこっちは承知済みなんですよ、その中に消防も含まれているのは把握済み。救急車に乗ったら、着いたのが病院じゃなくて西園寺の屋敷でしたって事になりかねないでしょう。」

 言い当てられてつい”チッ”と舌打ちがでる。
 それにしても状況把握が早すぎる。
 どこかに、ネズミが潜んでたか。
 後で洗い出さないと、と策を練っている蒼紫をほうっておいて板垣が佐藤を促す。

「それで?今回のマッチングもどきの効果の程はどうなんだい?」
 板垣の質問に佐藤は渋い顔をする。
「俺的には手応えはありました。実際、西園寺紡の向かった先は西園寺の本家です。」
「ほう、周囲を固めに動いたか、で?君はなぜそんな顔をしているんだい?」
 都合よく事が運んでいるにしては佐藤の表情は冴えない。
「横やりが入り始めました、協力的だった透谷議員が突然難色を示し始めた上にそれに同調する動きまでではじめてます。」
「なぜだ?」
 まさか、弥生を取り込んで政治的に利用しようとしている?
 しかも今回想い人がいても縁組が出来てしまった、手元に置いてしまえばその利用価値は金より高い。

「まだ”成婚に至ってない”って理由ですが、透谷議員はただ単に簡単にあえなくなるのが嫌っていうのが本当の所でしょう。」
 完全な私事にさすがの板垣も絶句する。

「そんな私的な理由ですか?」
 仁が聞くと「そうなんです。」と大きく頷く。

「弥生ファンですからね。偶然を装って年に何回か会いに来てますよ。弥生さん人がいいから年寄りの長話に付き合って、ますます気に入られている始末です。」
「そこまで気に入られるのも珍しいな、噂では気難しい人だと聞くが。」
「気難しい人ですよ。他人に厳しく、自分にも厳しい人ですし、ただ弥生さんだけ別枠ですよ。はたから見たら孫に会いに来た好々爺です。」

「好々爺なら孫の結婚、喜べばいいでしょうに。」
 ムスッとして蒼紫が言うが、佐藤は鼻で笑った。
「孫思いの好々爺だからこそ、簡単にあえなくなるのが嫌なんだと、なぜわからないんですか、誰にも会わずに出入りするセキュリティの完璧なマンションなんて購入するからこんな事になるんですよ。」
「西園寺、いつ購入したんだい?」
「いつだっていいでしょう。」
「今日でしょ、俺がマーケットに行ってる間に色々やっていたみたいだし。」
 蒼紫はいう気はなかったが、佐藤がペロっと告げ口した。
「メールをハッキングでもしてるのか、君は。」
 声にも出していなかったのにバレるとは、それしか考えられない。
「今までの行動パターンから、ちょっと考えればわかりますよ。」

「ああ、なるほど。」
「何がなるほどなんです?」
 板垣が何かに納得しているようだがまったく見当がつかないので聞いてみる。
「番犬君、君やったことがあるな。」
 佐藤は板垣を無言で睨む。
 それは肯定しているのと同義だろう。

 この男、蒼紫の事は色々口出してくるくせに、自分はどうなのかと問いただしたい。
 ただ、板垣がいう言葉にそんな事は些末な事になってしまった。

「まぁ、強いアルファの特徴といえば特徴だな。西園寺の、その欲求を少し抑えないと弥生に逃げられるぞ。」
「に、逃げられる?」
「ああ、アルファの行う束縛は本当に周りとの関係を断ち切ってしまいかねない。そのことが嫌な伴侶もいるという事だ。」
 オメガの常識でいえば、”オメガはアルファに囲われたがっている”というのが通説だが、弥生をみているとそれが本当かどうか正直疑問が生まれている。

 今までのオメガはずっと一緒でないと駄目だと言い、寂しすぎて浮気をしていたらしいが、弥生は誰に対しても一歩ひいて接しているように見える。

 蒼紫を好きだと言ってくれて、さぞ寂しがっているだろうと思っていたが、今朝、断りを入れた際も残念そうだったが、随分とあっさりしたものだったし、蒼紫がいないのに楽しそうだった。

「庶民的な生活に慣れているオメガは上流階級のオメガのように、アルファにすがる生き方をしないからね、発情期さえどうにかなればベータと違わない生き方をしている者のほうが多い。今まで付き合ってきたオメガのようにべったり依存される事はないと覚悟しておいたほうがいい。」

 それは、ある意味アルファがいなくてもオメガは生きていけるという事だ。
 逆にアルファは伴侶を見つけると、伴侶なしの生き方などないというのに。

「まぁ、弥生としっかり話し合う事だ。生きてきた世界が違うんだ。どうしても価値観の違いというものが生まれてくる。」
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