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44.誘拐
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藤宮の母の言葉がトリガーとなって取り囲んでいた男たちが一斉に弥生を捕まえようと動き出す。
「弥生さん!」
佐藤の呼びかけに弥生はエレベーターの方に走り出し、逃げることに重点を置くが相手はそれを許してはくれない。
掴みかかってくる相手をすり抜け、掴まれれば相手の力を利用して懐に入り、片手で補助をしながら肘をめり込ませ、蹴りに、拳に、使える技はすべて使って急所を的確に攻めていく。
相手は鍛えられた肉体を持つアルファで、どんなに急所を突いても一瞬の間が生まれる程度で完全に撃沈というわけにはいかない。
それでも、そこを潜り抜けエレベーターへ急ぐ弥生の後ろを、佐藤が確実に一撃で沈めていってくれるから抜けてしまえば希望は見えた。
エレベーターにたどり着きボタンを押すと正面を向く。
佐藤の背にかばわれながら開いた箱の中に後ろ向きに入り、指定階のボタンを押した。
「佐藤君も!」
「行ってください、弥生さんが部屋にたどり着けばあとは何とでもなります。」
「でも!」
「これでも、こういった時の為の訓練は受けてますから、一人の方がいいんです。早く!」
佐藤の言葉に弥生は扉を閉める。
しまっていく中、佐藤が向かってくる男と戦闘になったのを見ていられなくて、操作盤にすがるように目をつむった。
このまま、上の階に進むと思っていたエレベーターはガンッという音と衝撃で閉まりかかっていた扉が開いた。
閉まりかかった扉を開けたのは腕だった。
閉まりきる前に差し込み扉に衝撃を与えたのだ。
唖然とその光景を見ていたのはほんの一瞬だった。すぐに”閉”のボタンを押すが安全装置の働いている扉は無情にもその腕の持ち主を箱の中に招き入れてしまった。
「暁。」
久しぶりに見る幼馴染は前にあった時と違い、髪を後ろになでつけ上質なスーツを着て自信たっぷりだった。
「よお、久しぶりだな。」
暁はそういうと弥生に手を伸ばしてきた。とっさにその手をはじくと形を取り腹部に拳を打ち込む、が、逆にその手を取られ外に放りだされる。
受け身をとったが、体勢を立て直す前に他の男たちに抑え込まれ、殴られた肩に激痛が走った。
弥生の前に来た暁には藤宮の母がまるで恋人のように寄り添う。
「おまえさあ、なんでもっと早く教えてくれなかったわけ?」
「何のこと?」
「お前とセックスしたら運気が上がるんだって?実際に大企業とか大物政治家とかとやりまくってんだろ?」
「そんな事実はない。」
いったいどこからそんなでたらめな事が出てくるのか不思議だが、昔から少しの情報から想像を広げていてありもしないことをうそぶいていたので、今回もそのたぐいだろう。
弥生はさっと周囲を目線だけで見回すと、佐藤が床に倒れているのが見えた。
「さとうくん」
小さくつぶやいた瞬間、腹部に強い衝撃と痛みが広がった。
「おまえさぁ!おれが!話してるのに!どこ見てんだよ!」
区切られる言葉ごとに蹴りを入れられて呼吸も苦しくなり、痛みにあえぐ。
呻く弥生を見て満足そうに笑うと、「感謝しろよ。」と髪をつかんで顔を上げさせる。
「お偉い先生がいまだに恋人さえ見つけられないお前をもらってくれるって言ってんだよ。」
お偉い先生とは十中八九、鬼頭だろう。
なぜ、暁が胸を張るのかは謎だが、鬼頭と暁がグルだということはわかった。
「その、せ、んせいって、どこで?」
暁は自分の事を聞いてくるのがうれしかったのか、意気揚々と話し始めた。
「たまたま道を歩いてたら声をかけられたんだよ、前から俺の優秀さを気にかけてたらしい、仕事辞めたタイミングで将来の日本を一緒に作らないかって誘われたんだよ。」
痛みで回らない頭でも、鬼頭が暁と絶対に一緒に日本を作る気なんかないということはわかった。
「そう、か。」
「その先生がお前が欲しいっていうんだよ、俺の為に先生のところに行ってくれるよな。」
「ことわる。」
「……はぁ?」
「あ、かつき、だまされてることに、きがつかないのか?」
「はぁぁぁぁ?!おまえ何言ってんの?先生は俺を見いだしてくれたんだよ!騙してなんかねぇよ!」
弥生の胸ぐらを掴むと無理やり立たせ、拳を顔に何度も叩き込んでいく、その間何か叫んでいたが最初の一発で鼓膜が破れたのか遠い所で叫んでいるような不明瞭な声が聞こえるだけで内容ははっきりしない。
殴られた痛みと頭痛、キィィィィィンと耳鳴りに弥生はブラックアウトした。
弥生の意識がなくなっても殴るのをやめない暁を、1人の男が乱暴に引き剥がし、暁は床に転がった。
「おい!何すんだよ!」
男は暁をにらむ。
「これ以上傷つけられては困る。このオメガは鬼頭議員がご所望ですから。」
そう、暁は会社を首になり、一緒になるはずだった女にも逃げられ自暴自棄になっているところを鬼頭本人ではなく、配下だというこの男に一緒にいた母親と共に拾われたのだ。
面白くなさそうにしている暁をほっておいて、男は弥生を乗り入れた車に押し込んだ。
駐車場ではさっきまでの乱闘がうそのような静寂の中、弥生が部屋に戻る為のエレベーターの扉が開く。
駐車場に降りてきたのは板垣と蒼紫だった。
二人が部屋で待っている時にあまりに遅い弥生を駐車場で待つために降りようとエレベーターのボタンを押そうとして異変に気付いた。
行きも利用した為エレベーターは駐車場にないといけないのに、部屋の階に上がってきていた。
用心の為部屋の中を確認して駐車場に来たが、無機質なコンクリートの空間は以前使った時と変わらず何もない。
「まだ着いてないのか?」
「しかし、エレベーターが部屋に勝手に上がることはないでしょう。」
「そうだが……、西園寺あれを。」
板垣が見つけたのは柱で体は隠れているが確かに人の指先だった。
頷き合い駆け寄ると意識のない佐藤が倒れていた。
「佐藤さん!」
蒼紫がうつ伏せ状態から仰向けに返すと、呼吸と脈の確認を行う。
「佐藤さん、佐藤さん聞こえますか!?」
「救急車と応援を呼んだ、意識はどうだ?」
「駄目です。呼吸、脈拍は問題ありませんが。」
板垣が蒼紫にかわり佐藤の状態をチェックしていく。
「少量だが頭からの出血があるな。頭を強く殴られた可能性がある。」
「大丈夫でしょうか?」
「出血が少ないのがまずい、下手したら脳の中に血溜まりができて命が危険だ。」
「………彼は弥生と行動していましたね。」
こんな時に言う事じゃない事はわかってるが、確認せずにはいられなかった。
「今、ここに入ってからの事を調べさせている。」
「弥生はまさか。」
蒼紫から立ち上がる威圧に板垣は息を呑む。
周りに広がる一般的な威圧ではなく、まるでそこを根源に立ち上がるような威圧を目にするのは初めてだった。
「西園寺、落ち着け弥生なら大丈夫だ。」
「しかし。」
「彼らの目的は弥生自身だ、殺されることはあり得ない。」
「殺される以外の可能性は十分あるでしょう。」
何も言う事は出来なかった。
その事態を否定できる材料も保障もない。
いや、死んだ方がましだと思うような事をされる可能性の方が高いのだから。
バタバタと板垣が呼んだ応援が駆けつけ、現場の検証が始まる。
部下に指示を飛ばし、救急車に運ばれる佐藤を険しい顔でみつめる蒼紫に近づく。
「……佐藤があの状態では彼のコネは使えないが、警察の方は私に当てがある。」
「では、私は透谷議員に会いましょう。」
「西園寺、それは。」
透谷を動かすという事は、事態が大きく動く可能性が高い、それにみすみす弥生を攫われたとあれば透谷は西園寺を許さないだろう。
ヘタをすれば引き裂かれる危険だってある。
「たとえ、ずっと弥生に会えなくなっても打てる手は打っていかなければ。」
「だが、」
二人が一緒になる未来を目指していたのに、逆の結果になってしまう。
「すべては弥生の安全のために、彼が笑って生きていくために。」
静かに入ってきたハイヤーに向かって蒼紫は歩き出す。
「そのためにはどんな犠牲も厭いません。」
それが、たとえ自分自身でも。
「弥生さん!」
佐藤の呼びかけに弥生はエレベーターの方に走り出し、逃げることに重点を置くが相手はそれを許してはくれない。
掴みかかってくる相手をすり抜け、掴まれれば相手の力を利用して懐に入り、片手で補助をしながら肘をめり込ませ、蹴りに、拳に、使える技はすべて使って急所を的確に攻めていく。
相手は鍛えられた肉体を持つアルファで、どんなに急所を突いても一瞬の間が生まれる程度で完全に撃沈というわけにはいかない。
それでも、そこを潜り抜けエレベーターへ急ぐ弥生の後ろを、佐藤が確実に一撃で沈めていってくれるから抜けてしまえば希望は見えた。
エレベーターにたどり着きボタンを押すと正面を向く。
佐藤の背にかばわれながら開いた箱の中に後ろ向きに入り、指定階のボタンを押した。
「佐藤君も!」
「行ってください、弥生さんが部屋にたどり着けばあとは何とでもなります。」
「でも!」
「これでも、こういった時の為の訓練は受けてますから、一人の方がいいんです。早く!」
佐藤の言葉に弥生は扉を閉める。
しまっていく中、佐藤が向かってくる男と戦闘になったのを見ていられなくて、操作盤にすがるように目をつむった。
このまま、上の階に進むと思っていたエレベーターはガンッという音と衝撃で閉まりかかっていた扉が開いた。
閉まりかかった扉を開けたのは腕だった。
閉まりきる前に差し込み扉に衝撃を与えたのだ。
唖然とその光景を見ていたのはほんの一瞬だった。すぐに”閉”のボタンを押すが安全装置の働いている扉は無情にもその腕の持ち主を箱の中に招き入れてしまった。
「暁。」
久しぶりに見る幼馴染は前にあった時と違い、髪を後ろになでつけ上質なスーツを着て自信たっぷりだった。
「よお、久しぶりだな。」
暁はそういうと弥生に手を伸ばしてきた。とっさにその手をはじくと形を取り腹部に拳を打ち込む、が、逆にその手を取られ外に放りだされる。
受け身をとったが、体勢を立て直す前に他の男たちに抑え込まれ、殴られた肩に激痛が走った。
弥生の前に来た暁には藤宮の母がまるで恋人のように寄り添う。
「おまえさあ、なんでもっと早く教えてくれなかったわけ?」
「何のこと?」
「お前とセックスしたら運気が上がるんだって?実際に大企業とか大物政治家とかとやりまくってんだろ?」
「そんな事実はない。」
いったいどこからそんなでたらめな事が出てくるのか不思議だが、昔から少しの情報から想像を広げていてありもしないことをうそぶいていたので、今回もそのたぐいだろう。
弥生はさっと周囲を目線だけで見回すと、佐藤が床に倒れているのが見えた。
「さとうくん」
小さくつぶやいた瞬間、腹部に強い衝撃と痛みが広がった。
「おまえさぁ!おれが!話してるのに!どこ見てんだよ!」
区切られる言葉ごとに蹴りを入れられて呼吸も苦しくなり、痛みにあえぐ。
呻く弥生を見て満足そうに笑うと、「感謝しろよ。」と髪をつかんで顔を上げさせる。
「お偉い先生がいまだに恋人さえ見つけられないお前をもらってくれるって言ってんだよ。」
お偉い先生とは十中八九、鬼頭だろう。
なぜ、暁が胸を張るのかは謎だが、鬼頭と暁がグルだということはわかった。
「その、せ、んせいって、どこで?」
暁は自分の事を聞いてくるのがうれしかったのか、意気揚々と話し始めた。
「たまたま道を歩いてたら声をかけられたんだよ、前から俺の優秀さを気にかけてたらしい、仕事辞めたタイミングで将来の日本を一緒に作らないかって誘われたんだよ。」
痛みで回らない頭でも、鬼頭が暁と絶対に一緒に日本を作る気なんかないということはわかった。
「そう、か。」
「その先生がお前が欲しいっていうんだよ、俺の為に先生のところに行ってくれるよな。」
「ことわる。」
「……はぁ?」
「あ、かつき、だまされてることに、きがつかないのか?」
「はぁぁぁぁ?!おまえ何言ってんの?先生は俺を見いだしてくれたんだよ!騙してなんかねぇよ!」
弥生の胸ぐらを掴むと無理やり立たせ、拳を顔に何度も叩き込んでいく、その間何か叫んでいたが最初の一発で鼓膜が破れたのか遠い所で叫んでいるような不明瞭な声が聞こえるだけで内容ははっきりしない。
殴られた痛みと頭痛、キィィィィィンと耳鳴りに弥生はブラックアウトした。
弥生の意識がなくなっても殴るのをやめない暁を、1人の男が乱暴に引き剥がし、暁は床に転がった。
「おい!何すんだよ!」
男は暁をにらむ。
「これ以上傷つけられては困る。このオメガは鬼頭議員がご所望ですから。」
そう、暁は会社を首になり、一緒になるはずだった女にも逃げられ自暴自棄になっているところを鬼頭本人ではなく、配下だというこの男に一緒にいた母親と共に拾われたのだ。
面白くなさそうにしている暁をほっておいて、男は弥生を乗り入れた車に押し込んだ。
駐車場ではさっきまでの乱闘がうそのような静寂の中、弥生が部屋に戻る為のエレベーターの扉が開く。
駐車場に降りてきたのは板垣と蒼紫だった。
二人が部屋で待っている時にあまりに遅い弥生を駐車場で待つために降りようとエレベーターのボタンを押そうとして異変に気付いた。
行きも利用した為エレベーターは駐車場にないといけないのに、部屋の階に上がってきていた。
用心の為部屋の中を確認して駐車場に来たが、無機質なコンクリートの空間は以前使った時と変わらず何もない。
「まだ着いてないのか?」
「しかし、エレベーターが部屋に勝手に上がることはないでしょう。」
「そうだが……、西園寺あれを。」
板垣が見つけたのは柱で体は隠れているが確かに人の指先だった。
頷き合い駆け寄ると意識のない佐藤が倒れていた。
「佐藤さん!」
蒼紫がうつ伏せ状態から仰向けに返すと、呼吸と脈の確認を行う。
「佐藤さん、佐藤さん聞こえますか!?」
「救急車と応援を呼んだ、意識はどうだ?」
「駄目です。呼吸、脈拍は問題ありませんが。」
板垣が蒼紫にかわり佐藤の状態をチェックしていく。
「少量だが頭からの出血があるな。頭を強く殴られた可能性がある。」
「大丈夫でしょうか?」
「出血が少ないのがまずい、下手したら脳の中に血溜まりができて命が危険だ。」
「………彼は弥生と行動していましたね。」
こんな時に言う事じゃない事はわかってるが、確認せずにはいられなかった。
「今、ここに入ってからの事を調べさせている。」
「弥生はまさか。」
蒼紫から立ち上がる威圧に板垣は息を呑む。
周りに広がる一般的な威圧ではなく、まるでそこを根源に立ち上がるような威圧を目にするのは初めてだった。
「西園寺、落ち着け弥生なら大丈夫だ。」
「しかし。」
「彼らの目的は弥生自身だ、殺されることはあり得ない。」
「殺される以外の可能性は十分あるでしょう。」
何も言う事は出来なかった。
その事態を否定できる材料も保障もない。
いや、死んだ方がましだと思うような事をされる可能性の方が高いのだから。
バタバタと板垣が呼んだ応援が駆けつけ、現場の検証が始まる。
部下に指示を飛ばし、救急車に運ばれる佐藤を険しい顔でみつめる蒼紫に近づく。
「……佐藤があの状態では彼のコネは使えないが、警察の方は私に当てがある。」
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「西園寺、それは。」
透谷を動かすという事は、事態が大きく動く可能性が高い、それにみすみす弥生を攫われたとあれば透谷は西園寺を許さないだろう。
ヘタをすれば引き裂かれる危険だってある。
「たとえ、ずっと弥生に会えなくなっても打てる手は打っていかなければ。」
「だが、」
二人が一緒になる未来を目指していたのに、逆の結果になってしまう。
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