縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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53.食事

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 シャワーを浴び、身支度を整えリビングに行くと部屋に常設されているキッチンからいい香りが漂っていた。
 どうやら、吾妻が頼んだのはルームサービスではなく、ケータリングを頼んでくれたらしい。

 しかし、Burtonの2人はソファに腰掛け目の前に座った佐藤から事の顛末を聞かされたのだろう。
 かなり難しい顔のまま黙っている。
 佐藤はそんな2人を前に特に動じることなくコーヒーを飲んでいるが。
「お待たせしました。」
 弥生が声をかけて最初に動いたのはフォルストだった。
 さっと弥生をエスコートして椅子に案内する。
 本当は自分が案内しないといけないのにと思うが下手に断るのもどうかと思ってされるがまま席につくが、困った事にフォルストは弥生の横に陣取って、にこにこと微笑みかける。

 フォルストに何も言えず困っていると助けは思わぬところからきた。
「いい加減にしないか」
 流暢な日本語を話しながらフォルストを弥生から引き離したのは一緒に来ていたエバンスだった。
 50代とは思えないほど鍛えられた体をオーダーメイドの服がいかんなくその魅力を引き出している。
 ふわりと香る嫌味のないコロンはベータに向けたアピールだろう。

 フォルストをじぶんの横に座らせ、その間に佐藤はちゃっかり弥生の横に座った。
「Mr.ヒイラギ。」
 エバンスの呼び声に答えてにっこり微笑むと
「改めて自己紹介をさせていただいても?」
「ええ、もちろんです。」
「私はBurtonの絵画専門部、部長アラン・エバンスと言います、横にいるのは私の部下クリス・フォルスト。」
「ご丁寧にありがとうございます。私はヤヨイ・ヒイラギです。この度は遠路お越し頂きありがとうございます。」
「こちらこそ、絵を預けて頂きありがとうございます。世紀の発見に我が社も鑑定に関わった技術者達も良い刺激を受けました。」
「そう言っていただけると預けた甲斐がありました。」
 形式上の挨拶を終えるとワインが運ばれてきた。
 体調の関係で弥生だけはアルコールのないものを用意してもらったが、ほかは全員飲み口の軽い白ワインだ。
「今日はお疲れ様になられたでしょう、軽いものをご用意いたしました。ただ、作法を知らないもので無作法がありましたら申し訳ありません。」

「とんでもない。あんな事があったばかりだというのに、ここまでしていただいて感服するばかりです。」
「ありがとうございます。では、お食事をお楽しみ下さい。」
 本当は乾杯するんだろうけど、そんな状況じゃないのは2人もわかってくれているようで、スムーズに食事に入ってくれた。

 食事に舌鼓を打ちながら、今回の絵のことを話した。
 秋山は贋作だと息巻いていたが、実際は科学技術の赤外線、放射性炭素、指紋分析と美術史的アプローチを駆使して行われた鑑定で100%、未発表の本物という結果だったと興奮気味に語ってくれた。

 金額については未定で、開始価格については1億ドルから予定していて恐らく10億ドルまでは跳ね上がるだろうと言われて、弥生はあやうくフォークを落としそうになった。

 エバンスは絵が本当に好きなのか、蒐集家の手に渡れば今後見る事が出来ない可能性もあると残念そうだったが、弥生が興味を持ち色々質問すると嬉しそうに答えてくれて気持ちが持ち直して、弥生もエバンスとの会話は楽しかった。

 今回の絵に関しては弥生からしたら金額は勿論、聞いた話があまりにも突拍子もなくて、夢の中にいるような感覚だが、せっかくの楽しい気分に水を差さない方がいいだろう。

 ただ、佐藤は通常運転で我関せずで食事をしているが、フォルストは面白くなさそうに仏頂面で食事を進めていた。
「フォルスト様、お口に合いませんか?」
「ああ、いえそういうわけでは。」
 弥生に話しかけられるのは嫌ではないのか、答えてはくれるが歯切れが悪くはっきりしない。

 その態度をみかねたのかエバンスがまた助けを出してくれた。
 ちなみに隣の佐藤は助ける素振りさえない。
「Mr.ヒイラギ、申し訳ない、少々つかれているせいかと、途中で申し訳ないが我々は退席させて頂いても?」

「こちらこそ気が付かず申し訳ありません。そうですよね、あんな事があった後で食事会なんてしている場合ではありませんでした。」

 見送る為に3人が席を立つが、なぜかフォルストだけは動こうとしない。
「フォルスト、帰るぞ」
 エバンスがフォルストを立ち上がらせようとした時だった。
 突然響いたバンッという音でフォルストが机を殴ったのが分かった。
「おい!?」
 エバンスの咎める声も聞こえないのか、フォルストは佐藤をキッと睨みつけると「あんたには良心がないのか!?」と怒鳴りつけた。

「良心?」
「こんな素晴らしい方を危険にさらして!」
 ………え?誰のこと。
 そう思ったのは弥生と佐藤だけだろう。
 佐藤に至ってはそんな事も考えてない可能性が高いけど。
 それにしても、そんなに交流もせず食事中に話もせず、どこをどう見て”素晴らしい人”と判断したんだろう。

「あの、フォ「良心なんてありませんけど。」……。」
 言葉が被ったので黙っておくことにする。
 恐らく佐藤は自分が対応したほうがいいと判断したんだろう。
 いや、それにしてもその返しはどうだろう。

「なんだとっ!」
「彼に向ける良心よりも、犯罪者を野放しする罪悪感の方がまさりますね。」
「彼はどうなってもいいというのか!?」
「彼は自分の身を守れる程度の護身術は身につけてます。なんの問題もない。」
「な!?」
 フォルストが立ち上がったと同時に椅子が倒れ、佐藤の胸ぐらを掴む。
 さすがに止めないとまずいかと思ったらエバンスが動いた。
 フォルストの襟首を掴んで後ろに引っ張り佐藤から引き離す。
「Mr.サトウ、大変な失礼を」
「いえ、気になさらず」
 乱れた首元を直しながら無表情で返事を返す、2人の会話はそれで終わり、エバンスは弥生に微笑みかけた。
「Mr.ヒイラギ、西園寺方とご結婚を控えられているとか。」
「あ、はい。」
「では、これからお会いする機会もあるでしょう。その時に食事でもご一緒しましょう。」
 本当はそんな機会はないが弥生は微笑み「はい」と答えた。
 フォルストは納得がいかないとふてくされていたが弥生には挨拶がしたかったのか近付こうとして、エバンスに強制連行されていった。
 2人が帰るのをボーッと見送る事になった弥生は「え~と終わり?」と呟く。
「終わりですよ。」
 じわじわと緊張がほぐれていき、その場にへたり込んだ。
「寝たーい。」
「なんですか、これくらいで。」
「佐藤君、普通に疲れる1日だったからね。」
 差し伸べられた手を取り立ち上がると足が震えているのを佐藤に気付かれた。
「お姫様抱っこでもしましょうか?」
「やめてよ、嫌過ぎる。美穂ちゃんに言いつけるよ。」
 少しの沈黙の後「いいかも。」とつぶやいたのを聞き逃さなかった。
「え、なに想像したの?佐藤君。」
「聞きたいですか?」
「苦いコーヒーが飲みたくなる気がするからいい。」
 弥生はテーブルに残された食事を食べるために席に戻った。


 エバンスに腕を掴まれたまま自分の部屋に押し込まれたフォルストは、もう離せと腕を振りほどいた。

『一体なにを考えている』
 エバンスに先ほどまでの柔和な雰囲気はなく、顔を背け沈黙するフォルストを睨む。
『あまりにも彼がかわいそうだ。』
『かわいそうだと?いい加減にしろ今はビジネスで来てるんだろう。今回はあちら側が問題にしなかったから良かったが、お前の態度は契約破棄されてもおかしくない程失礼だった。』
『それは!……すまない。』
『お前はこの件から外す。』
『なぜ!?』
『フン、初めての恋に浮かれて周りが見えない今、冷静な判断なんて出いないだろう。』
『恋?』
『なんだ、自覚がないのか、どう見ても恋だろう。』
 フォルストが目を剥いて固まっているのを見てエバンスは笑いが込み上げてくる。
『しかも、初恋か、まあ、相手がいるんだ諦めろ。』
 そういうとエバンスは混乱しているフォルストを残して自分の部屋に帰って行った。
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