縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

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52.逮捕

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「これが……。」
 秋山は弥生に手を引かれ絵のそばまで来たが、一言発した後黙り込んで、まじまじと絵を凝視したかと思うと、大きく嘆息した。
「残念です。」
「残念ですか?」
 弥生が聞き返すと秋山は今度は弥生をソファに座らせて、深刻な表情で「贋作です。」と言った。
「贋作ですか?」
「はい、これは質の悪い贋作です。持っているだけで警察に捕まってしまいます。」
「どういう事でしょうか?」
 まったくもってそんなことはありえないとわかっているが、あえて物悲しそうに返すと、秋山は弥生の両手を包み込むようにしてグイっと体を寄せてきた。
 手を振り払い距離を取りたいのを我慢して、表情がゆがまない様に心がける。

「本来こういったものは本物に寄せて描くことはあっても、本物と見分けがつかない様に書くことは違法なんですよ。これは酷似しすぎているうえにサインを変えていない。」
「サインですか?」
「はい、絵というのは本物をまねて描く模写をすることで上手くなっていくものなんですよ。それは画家として当然の行為だ。しかし、本物に近く描けてしまった場合、本物と区別するためにサインを自分のものに変えるものなんですが、この絵はサインさえ変えておらず贋作として人をだますために描かれたものです。」
「そうなんですか。」
 コテンと頭をかしげる。秋山は弥生が自分を信じたと思ったのだろう。
 鼻息も荒く続けた。

「ですが!安心してください。この秋山がいるからには決してあなたを警察などに渡しはしません。」
 うん、警察に行くのはあなただね。
「ほんとうですか?」
「この絵は私の方で処分しておきましょう、大丈夫、大船に乗ったつもりで任せてください。」
 泥小舟の間違いだろう。
「ですが、もう一組の方がなんというか。」
 目を伏せ、うつむきながら言うと興奮気味でもあるからかさらに大きくなっていく声で続ける。
「大丈夫、どこから来たかわからない弱小画商など私の一声で何とでもなります。」
 世界に名の通ったオークション会社だけど。
「一声で?」
「ええ!どうとでもなりますとも!」
 ならないと思う。
「ですが、そのようなことをお願いするなんて……。」

 秋山の手からそっと外し片手を膝の上で拳を作り、もう片手を口元に持っていき目線をはずした。
「秋山様にご迷惑ですから。」
 秋山はゴクリと唾を飲み、弥生の拳を作っている手ではなく、膝の上におき股の方に手を滑らせる。
「大丈夫です、任せて下さい。そのかわり………」
 秋山はもう一人に合図を送ると、男は吾妻の元に行き訓練を受けたはずの吾妻をいとも簡単に押さえ込んだ。
「吾妻さん!」
 秋山に手首を掴まれ、まずいと体をずらした弥生はソファの上で伸し掛かられ、手首をまとめて押さえつけられた。
「秋山様、なにを!?」
「大丈夫、大丈夫、すべて私に任せればね。こちらもね。」
 そういうと、服の中に手を入れて胸をまさぐる。
 気持ち悪さに顔をそむけると耳をなめられ舌を入れられた。
「っっっ!」
 だんだんと息が荒く興奮しているのに手際よく弥生の服をはだけさせていく。
「秋山様、やめてください!んんっ!!」
 拒絶の言葉を発したとたんに何かを口に入れられた。
 少し薬品のにおいがすることから、あらかじめこういった事を想定して用意してきたのだとわかる。
 口から吐き出そうとするがうまくいかずもがく。

「大人しくした方がいい、大丈夫少し体の力が抜けるだけだ。」
 全然大丈夫じゃない。
 しかし、少し動くだけでひどい疲労感に襲われ身動きさえできなくなっているのがわかる。
 秋山の手がスラックスにかけられた時だった。
 バン!という音とともに「秋山~~!」とドスの利いた声がしたかと思うと秋山は弥生の上から消えていた。

 佐藤が弥生に駆け寄り、口に突っ込まれた布を外されて大きく呼吸をすると少し頭がはっきりしてくる。
「さとうくん……、ごめん時間……。」
 うまくできなかったと詫びるが、佐藤は気にした様子はなかった。
「十分です弥生さん。現行犯で不同意わいせつ罪とバース法の強制罪が追加されました。」
「さとうくん…、オニ。」
 確実に救助に入れるからこその余裕の笑みに、ちょっと殺意を抱きながら「お風呂入りたい。」と場違いな事を呟いた。
「柊さん、大丈夫ですか。」

 襲ってきた男とだいぶもみあったのか吾妻の服がかなり崩れているのを見て心配になる。
「吾妻さんは?」
「大丈夫です。すみません、護衛だというのにお守りできずに。」
「いえ、吾妻さんが手こずるなんて……あの男実戦慣れしていたんでしょう。予想していないと対処は厳しいです。」
 弥生の側につくMの護衛は訓練を一通り受け、合格した人がなれる。
 アルファという性質上何でもこなすが、日々訓練を受けてるプロというわけではないし、弥生に絡んでくる立場のある人間の虫除け的な面もある事から、今回の様にプロ相手だと分が悪い。
「十分守って頂いてます。」
「いえ、これでは守ったうちに入りません。」
 吾妻と話をしている最中に一人の男が近づいてきた。
「すみません、柊弥生さんですね。」
「はい。」
「お手数ですが、少々お時間をいただきお話をお伺いしても?」
 弥生が了承を伝えようとすると、返事をしたのは佐藤だった。

「彼の話はこちらで聞くことになってます。詳細は千堂警視に。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
 形式的なものだったのか、警察らしい男は一礼して去っていく。
「いいの?」
「いいんです。その為に話は通してますし、本来こんな素人使った囮は立てないんですよ。」
「俺囮にしたのって佐藤君だよね。」
 佐藤はにっこり笑うと「薬抜けましたね。」と言った。
 確かにさっきまでの体のだるさが抜けている。
「あの男の常套手段みたいです。薬は吸い込んでる間だけ効く麻痺剤で、薬を使ってる証拠が残らないから証明が難しい上に同意だと言い張る事で被害者の泣き寝入りだそうです。しかも、被害総額恐らく今までの詐欺事件の上位に食い込みますよ。」
「そんなに?」
「あの男自身がアルファという事と、画壇の理事という事で信じた上流階級も多い上に、ロマンス詐欺まがいや絵画に対する投資詐欺、他にも色々叩いたら出てくる出てくる。」
 はっはっはっ!と愉快そうに笑う佐藤はほっといて。
「お客様に被害はなかったかな。」
「大丈夫です。」
 声とともに水が差し出された。
「東堂さん。」
「終わった方には帰っていただいてます。」
「富田さんは?悲鳴が聞こえたけど。」
「押しのけられた際に転倒しましたが怪我はありませんでした。」
「絵画の希望者の方は?」
「富田と別室での手続き中でお怪我もありません。」
「よかった。」
「とにかく部屋を移動しましょう。」

 動けず座り込んでいた弥生も動ける程に回復したので佐藤の手を借りつつも立ち上がり、リビングの方に移動すると、そこには、絵画購入希望者の2人が警察に事情を聞かれているところだった。

 部屋から出て来た弥生に気が付くと悲惨な状態の姿に2人はびっくりして固まってしまった。
 少しでも整えておけばよかったと思ったが後の祭りだった。
「Burtonの代表者のお二人で右の方がエバンス様、左の方がフォルスト様です。」
 固まっていた二人だったが、フォルストと呼ばれた若い男が険しい表情で近づいてきた。
 まぁ、文句の一つも言いたいだろうと居住まいを正し、気持ちの準備をすると予想外の事が起きた。
 フォルストはいきなり抱きつくと早口でまくしたて始め、かつ周りをけん制し始めた。
 言葉のわからない弥生は混乱中で「え?セクハラ?」と思考が変な方向にいっていた。

『フォルスト様落ち着いてください。』
『落ち着けだと!君たちは彼がこんな!こんな!一体何をしていたんだ!』
 流ちょうに話す佐藤にあとは任せておいて、さて腕の中からどうやって抜け出そうかと考える。
『あの男が犯罪者なら近づけさせない様にするのが君たちの仕事だろう。』
『この度は急なこととはいえ、柊様に許可をいただいてますので。』
 まるで何でもない事のように返されるのがさらにフォルスト氏の怒りに触れたんだろう。
 抱きしめる力がさらに強くなって「ぐえっ」と人に聞かせられないような声が出た。
 ただ、その声で自分の力加減を間違えているのに気が付いたんだろう。

 フォルスト氏は力を緩め(それでも抱きしめたまま)弥生を見下ろした。
「すみません、とりあえず食事にしませんか?」
 場違いなのは100も承知だが、秋山の事は自分も納得の上だったこともあってあまり恐怖は感じていなかったし、今はおなかがすいたのと何より秋山にまさぐられた体をきれいにしたい気持ちが強かった。
 緩んだ手を簡単に外し、吾妻に食事の手配を頼むと身長差のせいでフォルスト氏を下から見上げるような形になったが、「少しお待ちくださいね。」とほほ笑んだ。

 途端に泣きそうな顔になったフォルスト氏は再び弥生に抱き着いたが、今度は佐藤にべりっとはがされた。
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