縁結びオメガと不遇のアルファ

くま

文字の大きさ
61 / 87

51.交渉

しおりを挟む
商談の為に作られた応接間はソファセットに、上座に弥生が座り、後ろに東堂と吾妻。ドアに成立後の案内の富田が控え、安全と齟齬防止のためにそれぞれ録音、録画できるマイクとカメラが仕込まれている。

東堂が案内進行し、その補佐に富田、主に決まった後の事務手続きを富田がしてくれる。
弥生の補佐役に佐藤。
常に傍にいて必要な時に情報を伝えたりするだけでなく、お茶出し等の接待部分もする。
そして、護衛に吾妻がすぐに動ける位置に陣取る。

ちなみに、録音、録画は来ることが決まっていた人達には知らせてあり知らないのは秋山のみだ。
佐藤からは証拠確保の為当時のこと話題に組み込む様に言われて弥生の緊張は高くなる一方だ。

弥生からしたら本来一組ずつとあって商品を大切にしてくれる人なら、譲るつもりだった為時間がかかるはずもなく。
早々に片付いていく商談に佐藤から横目でにらまれた。

一番短いので龍の置物、なんと盗品だった、それを聞いて即座に「お持ちください」が飛び出した。
すでに30年前の事で時効も成立しているという話だったが、手元に置いていていいことがあるとは思えないし、歳神様も嫌だろう。
ドアから入ってきて出るまで5分の早業だった。
相手も困惑するくらいの早さだったが、二人が出て行ったとたんに脳天に星が降った。

「ぼーりょくはんたーい!」
と頭を押さえる弥生をにらみつけて黙らせると地を這うような声が部屋に響く。
「わかってます?3組目で1時間たってないですよ。」
「だって、みんなおかしいよ、何俺に夢見てんの?」

一番手のTシャツとジーパン
服に対する熱弁だけでなくそれを見出した弥生を絶賛。
聞いてるのが恥ずかしくて即座にお持ち帰りいただいた。

2番手ショール(ひざ掛け)
こちらに至っては商品のことでなく弥生の絶賛のみ。
恥ずかしさで死にそうになりながらも、時間の事もあって最後までちゃんと聞いたのをほめてほしい。

さっきの3番手にいたっては仕方ないと思う。
実は盗品で…から始まったことで問答無用でお持ち帰りいただくことになった。
その後は感謝の言葉を聞いただけで、商談らしい商談はしていない。

自分に向けられた高貴だの、聖母の微笑みだののよく分からない賛美に、どんな返答を返せばいいのか全くわからず、聞くことに徹した結果あまり時間を延ばすことができず終わってしまった。
「いいですか、恥ずかしがらずに賛美でも何でもいいんですよ、相手に喋らせて合間にもっと喋らせるワードぶち込んでください。」
「無茶苦茶!」
「とにかく最低でもあと2時間は欲しいんです。」
「2時間!?待って待って逮捕ってそんなに時間かかるの?」
「これでも超特急です。」
「佐藤君、鬼!」
佐藤は腕を組んで弥生を見下ろすと「いいですか。」と言葉を続ける。
「あの男は地獄に落ちないといけないんですよ。」
「そ、そうだね。」
「その為には1残しちゃいけないんですよ。わかりますよね。」
つまり、美穂の件以外にもやらかしていてそれの裏付けをしているという事だ。
美穂に手を出されて怒り狂う佐藤の頭につのが見えて弥生はコクコクとうなずいた。

残るはカメオ、と問題の絵画。
ちなみにカエル置物は希望者がいなかった為弥生の所に残る事になっている。
帰ったら美穂ちゃんにあげよう。

そして、母宛てに買ったらしいカメオだが、その母には私は大丈夫だから欲しい方に譲ってあげてと言われているので、特に話すことは何もない。

どうしよう頭を抱える弥生をそのままにカメオ希望者が呼ばれた。
弥生の心配をよそに、カメオの希望者は2人とも熱血だった。
一人は70歳位の教授、そして、もう一人は黒縁眼鏡で顔モジャモジャの助教授。
選考がローマ帝国の歴史で、このカメオを語らせたら長かった。
ここぞとばかりに古代ローマを語り、このカメオがどういうものなのか熱弁された。
うんうん、と相槌を打っているだけでなんと一時間経過。

内容も楽しかったが、何より時間がドンドン経過していくことに上機嫌の弥生に、教授たちも上機嫌で白熱していく。
よしよし、このままあと一時間と思った時だった。
リビングの方が騒がしくなった。
書類手続きと次の人への説明の為、東堂と富田がリビングの外にいるが二人の声も混ざっている様に思う。
あまりの騒がしさに、弥生もだが気持ちよく話をしていた教授たちも怪訝な表情に変わる。
様子を見に佐藤がドアに向かった時だった。
女性の悲鳴が聞こえたと思うと扉が勢いよく開けられた。

「いつまで待たせる気だ!」
怒鳴りながら、入ってきたのは秋山だった。
おまえら!と教授たちのほうに向かっていく秋山を佐藤と吾妻が間に入り進路を妨害する。
弥生は教授たちの方に移動して教授の手を取った。
木内きうち教授、今日はありがとうございました。お話とても楽しかった。」
本当に惜しい気持ちが出ていたのか、教授も強く握り返してきた。
「こちらこそ、こんなに楽しい時間を過ごせたのはいつ以来か、ぜひ、またお会いしたいものです。」
「はい、その時にはローマの事をもっといろいろ教えてください。」
「館林《たてばやし》教授。」
と握手を求めると「助教授です。」と訂正された。
「失礼しました。館林助教授、あなたのお話も大変興味深かった。ローマ帝国の中の一般の生活に注目されるなんてとても新鮮でした。お話いただいてありがとうございます。」
「いえ。」
教授とは違い言葉少なに軽く握手を済ませる。
「カメオをお譲りする手続きは外の東堂と富田がしてくれます。さぁ。」
弥生が退室を促すと「大丈夫かね。」と教授が小さな声で弥生を心配してくれる。
「大丈夫です、護衛もいますので。」
にっこり微笑むと、それでも心配する教授を佐藤が外に連れ出してくれた。

秋山は出ていく二人を横目で見ながら許可も得ずにソファに勢いよく座った。
弥生は向かい側に座り、秋山を見て微笑むと秋山はまんざらでもなさそうな表情に変わる。
吾妻に視線で合図を送ると準備をするため席を外した。

「秋山様ですね。今補佐を務める者が席を外しておりますので私がお話させていただいても?」
「ああ、いったいどうなってるんだ!待たせるだけ待たせて値でも釣り上げようという魂胆じゃないだろうな。」
勘違いも甚だしいがあえてそれには答えない。
「秋山様はまだ絵を見られていないとか、今持ってこさせていますのでもう少々お待ちください。」
優しく微笑む弥生に秋山は舐めるように弥生の体を見る。
そこには、純粋に男オメガが珍しいということ以外にいやらしい意味を含めた視線が含まれている。
長時間二人きりには絶対なってはいけない相手だ。
「全く、早くしてくれこっちも暇じゃないんだ。」
「ちなみに、もうおひとりの方は?」
「すぐに入ってくる。」
そんな事もわからないのかと明らかにバカにしたような言い方だが、ぜひともその尊大な態度は続けてほしい。
そのほうが罠にはめたときの罪悪感はなくなる。

失礼しますと入ってきたのは絵を持った吾妻とお茶を持った佐藤、その後から東堂に連れられて秋山と一緒に来ていた男が入ってきた。
東堂が連れの男を秋山の隣に案内すると部屋を出て行って佐藤が宣言する。
「それでは、絵画はこちらになります近くで見ていただく分には構いませんが、決して触れられない様に、その後交渉に入っていただくことになります。」
どうぞ、と三脚のイーゼルに立てかけられた絵を指し示す。
「触るなとはどういうことだ!」
案の定怒り始めた秋山は立ち上がり手に取らせろと喚き散らすが絵の前には吾妻が陣取り近づけさせない。
そこに、澄んだ声が秋山を呼ぶ。
「秋山様。」
弥生が秋山を呼ぶとぴたりと喚くのをやめた秋山は熱のこもった目を弥生に向ける。
「確か、画壇の理事をお勤めになっているとか。」
「おお、知っているのか。」
なぜか秋山は元の位置ではなく弥生の隣に座り、手を握り撫でまわす。
「そこまで、高名であられるのでしたら見ただけでも真贋を見抜けるのでは?」
「もちろん!」
即答した秋山に、佐藤は緩みかけた口元を引き締める。
これで、この男は絵に近づけられない上に触れる事さえできない、どんな方法で絵を手に入れようとするかわからなかったこともあって一安心だった。
「だが、ぜひとも近くで拝見したいんだが。」
諦めない秋山に内心舌打ちが出そうになるが、ここでも弥生が策を投じる。
「この手を離されるのですか?」
物悲しそうに首をかしげる仕草の効果は抜群で、ごくりと唾を飲むのがわかった。
「では、私は絵の近くまでご案内するというのは?」
手の自由を封じつつ、絵を近くで見せる事で溜飲を下げさせる。
いい方法だが、弥生は微笑みながらも内心、後でしっかり手を洗おうと心に誓った。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

手の届かない元恋人

深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。 元彼は人気若手俳優になっていた。 諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 ※オメガバ系で結構ご都合な設定ありかもです!地雷だったらごめんなさい!!

ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる

雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。 ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。 「フェロモンに振り回されるのは非合理的」 そう思っていたのに――。 新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。 人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。 「先輩って、恋したことないでしょ」 「……必要ないからな」 「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」 余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。 からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。 これは、理屈ではどうにもならない “ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。

元ヤンオメガは平穏に生きたい!〜中華風異世界に転生したら、過保護な最強生徒会長に溺愛されて番にされました〜

水凪しおん
BL
現代日本で喧嘩ばかりしていた不良の青年は、交通事故から子供をかばって命を落とした。 目を覚ますと、そこは中華風の文化が息づく架空の国「龍凰帝国」。 彼は、名門校・天耀学舎に通う華奢なオメガの少年「飛燕」として転生していた。 亡き祖母との「今度こそ真っ当に生きる」という約束を守るため、波風を立てずに平穏な学園生活を送ろうと心に誓う飛燕。 しかし、理不尽な身分制度がはびこる学園で、弱者が虐げられるのを黙って見過ごすことはできなかった。 「オメガだからって、舐めんじゃねえぞ」 我慢の限界を迎え、前世で培った喧嘩の腕と無意識に発現した気の力で、アルファの不良たちをぶっ飛ばしてしまった飛燕。 退学を覚悟するが、その現場を学園の絶対的支配者である生徒会長のアルファ「蒼龍」に見られてしまう。 怒られるかと思いきや、蒼龍は飛燕の強さと真っすぐな瞳に強烈に惹きつけられ、彼を生徒会役員に任命。 そこから、冷酷無比と噂される生徒会長による、異常なまでの激甘・過保護な溺愛生活が始まってしまった! 「お前は俺の宝だ。髪の毛一本すら、誰にも触れさせはしない」 最高級の食事を与えられ、少しの怪我でも大騒ぎされ、休日は密室に閉じ込められて甘やかされる日々。 理不尽な身分制度を壊そうとする最強の生徒会長と、彼に愛されすぎている元不良のオメガ。 喧嘩上等の華奢な少年が、最強の番として絶対君主の隣で幸せを掴む、中華風異世界オメガバース開幕!

処理中です...