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50.凶か吉か
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「失礼します。」
寝室に入ってくる時に普段言わないようなかしこまった言葉遣いで入ってくる佐藤の態度にベッドに顔を埋めて笑いを殺していると、ドアを閉めた途端に「やよいさーん?」と通常運転に戻った佐藤がずんずんと近づいてきた。
「ご、ごめ、ん、っ。」
「まったく、なににツボってんですか。」
「だって、さとうくんゆうとうせいなんだもん。」
「あのねぇ、俺だってやる時にはやりますよ。」
「ごめんごめん。」
「見てくれてますよね。」
やっと笑いが引っ込んだところで寝室に持ち込んでいるモニターに目を向ける。
「見てる見てる、なんかいっぱい来たね。」
「ちなみに今回、トラブル回避の為に西園寺という大富豪の所に輿入れが決まってる事になってますから、迫られたら西園寺の名前を出して下さい。」
「OK、でもよく名前貸してくれたね。」
「まぁ、色々あるんですよ。」
「ふ~ん」
こういう時はあまり突っ込んで聞かないのが吉というのが弥生の経験上分かっているのでこの話はここで終わりだ。
「で、今回の苦情のきてた問題行動って佐藤君に絡んでた人だよね。」
「そうです、一体どこから漏れたのかエントランスのカフェで他の人が待っていた所に突撃して、エントランスに響く勢いで恫喝し始めてホテル側が注意を促しても聞く耳持たずで困って連絡してきたんですよ。」
もし、すぐにでも部屋に案内する様に言わなかったら引き込む元になった弥生まで退去になっていた可能性があった程に。
「困った人だね。佐藤君さ、」
「なんです?」
「ここで、逮捕者出ると困る?」
「とくには困らないですね。」
「ん~、実はこの秋山って人、俺知ってるんだよね。」
「はぁ。」
「1年前、市内の商店街に行った時に客引きみたいのに捕まって連れていかれたギャラリーで100万の絵画買わされてる。本人直筆で値が上がってるっていうから信じて買ったんだけど、実はコピーに絵の具をのっけた似非物で価値なんてなかったんだよ。その事実が判明したのって一月後だったんだけどお店撤退しててどうにもならなくて、これって詐欺にならない?」
勿論なる。ただ………
「……弥生さん、それほんとに弥生さんが被害者ですか?」
弥生に何かあれば報告があるはずなのに、佐藤はその事を知らない。
「……美穂ですか?」
「やだなぁ、佐藤君、美穂さんだったら俺が秋山の顔知ってるわけないじゃない。」
見つめ合う事数秒。
「美穂ですね、その被害者。」
え?なんでそこにたどり着くの?
「いやいや、違うってほんとにそのギャラリー行ったんだよ。」
これはホント。
美穂に話を聞いて翌日が休みだったので行った。そこで秋山がオーナーとして挨拶にまわってきたのだ。
「行った事は行ったんでしょうね、行った事は、でも買わなかったでしょ。」
「いや、なんで断言?」
「弥生さん自分で選んだものは買っても勧められたもの買うことってないじゃないですか。」
まさにその通り。
これ以上は隠せないと踏んだ弥生は最終手段に出る。
「佐藤君!友情!友情って大事だよね!」
「いきなりなんです。」
「佐藤君には言わないって約束したんだ!忘れて!お願い、ね、お・ね・が・い!」
美穂直伝、秘技、上目遣い!
これをやると誰でもお願いを聞きたくなるらしい。
墓穴を掘った形になったので、恥じはかなぐり捨てて、ちょっと年齢的にも無理のあるお祈りポーズで上目遣いで頼んでみる。
弥生の増している美しさから、中庭に近づこうとしていた奴らならいちころだっただろうが、佐藤は真顔からふっとニヒルに笑うとスマホを取り出した。
「弥生さん、どんなにかわいい仕草をしても許せることと許せないことがあるんですよ。」
「さと~くーん。」
「第一、そんな仕草をして俺を落とせるのは美穂だけですから。」
「おぅ、安定の愛妻家。でも、でも約束したんだよ~。」
佐藤はすぐに地元にいる部下に連絡を取る。
「弥生さん、今その絵ってどこにありますか?」
「うー、実家の俺の部屋にあるよ。その時の契約書類も。」
がっくり肩を落とし白状する。
「佐藤君、美穂ちゃん。」
「怒りませんよ、そんなことで。」
「嫌われたくないって泣いてたんだよ。」
次の電話をかけようとしていた所に出た弥生の言葉に手を止める。
「泣いてたんですか?」
「うん、話聞くしかできなくて申し訳なかったんだけど。」
「証拠隠匿もしてるじゃないですか。」
「う、そうなんだけど、怒るなとは言えないけどあんまり怒らないでね。せめて怒ったあとは優しくしてあげて。」
「何言ってるんです。当たり前じゃないですか。」
にっこり笑う佐藤にほっとする。
「お仕置きが追加されますけどね。」
ノォーと頭を抱える弥生は置いておいて、逮捕状と捜査員の手配をすませる。
「さて、弥生さん少々時間がかかりそうなので商談引き伸ばして下さいね。」
「頑張るよ、けど、はっきり言ってどこまでできるか分からないよ?」
「まぁ、そのあたりは大丈夫ですよ弥生さんと話がしたくて、くだらない事を長々と話始めるでしょうし。」
弥生は気付いていないが、西園寺に出会った事で変わったのだと部屋に入ってきて今日ほど実感した事はない。
服のチョイスがいつもなら、選んでくれる人がいなければ暗い色合いや年配の人が選ぶようなものを着るのに今回は違った。
薄いブルーの襟なしシャツ、落ち着いたグレーのスラックスに紺の2つボタンテーラードジャケットを合わせ、上1つボタンをとめる事で硬さはなく、かと言って遊びすぎではなく。
ストイック感も取り入れている服装は美貌を引き立たせている。
明らかに見せたい誰かの為のコーディネートだろう。
今回来ている中に伴侶なしもいる為、少しでも印象つけようとする人も出てくるはずだ。
このコーディネートが吉と出るか凶と出るかは出てみないと分からない。
手を差し伸べるとそれに気が付いた弥生が手を伸ばす。
「さあ、少々予定と違うことが入りましたが行きましょうか。」
「ううう、緊張する。」
「ああ、わかってると思いますが、緊張を表に出さないでくださいよ。悠然と構えててください。」
手厳しい佐藤に内心うなだれつつもエスコートされ、扉に向かう。
弥生がドアを出る瞬間に表情が変わる。
さっきまでの冗談を言い合っていたなじみやすいものから、触るのも恐れ多いような高貴なものへ。
佐藤は口元に笑みを浮かべた、まるで自慢の商品を見せびらかすような気分になる。
寝室からリビングへ。
ざわめきから、沈黙へ。
弥生は居住まいを正し、にっこり微笑むと途端に触れるのも恐れ多かった雰囲気が聖母の様にかわった。
「皆様」と耳に心地よい声で注目を集める。
「本日は忙しい中ようこそおいで下さいました。皆様との歓談と商品の交渉は私の楽しみでもあります。」
暗に、自分を楽しませろと言葉に含める。
「よろしくお願いします。」
と笑みを深くすれば感嘆の息が漏れた。
寝室に入ってくる時に普段言わないようなかしこまった言葉遣いで入ってくる佐藤の態度にベッドに顔を埋めて笑いを殺していると、ドアを閉めた途端に「やよいさーん?」と通常運転に戻った佐藤がずんずんと近づいてきた。
「ご、ごめ、ん、っ。」
「まったく、なににツボってんですか。」
「だって、さとうくんゆうとうせいなんだもん。」
「あのねぇ、俺だってやる時にはやりますよ。」
「ごめんごめん。」
「見てくれてますよね。」
やっと笑いが引っ込んだところで寝室に持ち込んでいるモニターに目を向ける。
「見てる見てる、なんかいっぱい来たね。」
「ちなみに今回、トラブル回避の為に西園寺という大富豪の所に輿入れが決まってる事になってますから、迫られたら西園寺の名前を出して下さい。」
「OK、でもよく名前貸してくれたね。」
「まぁ、色々あるんですよ。」
「ふ~ん」
こういう時はあまり突っ込んで聞かないのが吉というのが弥生の経験上分かっているのでこの話はここで終わりだ。
「で、今回の苦情のきてた問題行動って佐藤君に絡んでた人だよね。」
「そうです、一体どこから漏れたのかエントランスのカフェで他の人が待っていた所に突撃して、エントランスに響く勢いで恫喝し始めてホテル側が注意を促しても聞く耳持たずで困って連絡してきたんですよ。」
もし、すぐにでも部屋に案内する様に言わなかったら引き込む元になった弥生まで退去になっていた可能性があった程に。
「困った人だね。佐藤君さ、」
「なんです?」
「ここで、逮捕者出ると困る?」
「とくには困らないですね。」
「ん~、実はこの秋山って人、俺知ってるんだよね。」
「はぁ。」
「1年前、市内の商店街に行った時に客引きみたいのに捕まって連れていかれたギャラリーで100万の絵画買わされてる。本人直筆で値が上がってるっていうから信じて買ったんだけど、実はコピーに絵の具をのっけた似非物で価値なんてなかったんだよ。その事実が判明したのって一月後だったんだけどお店撤退しててどうにもならなくて、これって詐欺にならない?」
勿論なる。ただ………
「……弥生さん、それほんとに弥生さんが被害者ですか?」
弥生に何かあれば報告があるはずなのに、佐藤はその事を知らない。
「……美穂ですか?」
「やだなぁ、佐藤君、美穂さんだったら俺が秋山の顔知ってるわけないじゃない。」
見つめ合う事数秒。
「美穂ですね、その被害者。」
え?なんでそこにたどり着くの?
「いやいや、違うってほんとにそのギャラリー行ったんだよ。」
これはホント。
美穂に話を聞いて翌日が休みだったので行った。そこで秋山がオーナーとして挨拶にまわってきたのだ。
「行った事は行ったんでしょうね、行った事は、でも買わなかったでしょ。」
「いや、なんで断言?」
「弥生さん自分で選んだものは買っても勧められたもの買うことってないじゃないですか。」
まさにその通り。
これ以上は隠せないと踏んだ弥生は最終手段に出る。
「佐藤君!友情!友情って大事だよね!」
「いきなりなんです。」
「佐藤君には言わないって約束したんだ!忘れて!お願い、ね、お・ね・が・い!」
美穂直伝、秘技、上目遣い!
これをやると誰でもお願いを聞きたくなるらしい。
墓穴を掘った形になったので、恥じはかなぐり捨てて、ちょっと年齢的にも無理のあるお祈りポーズで上目遣いで頼んでみる。
弥生の増している美しさから、中庭に近づこうとしていた奴らならいちころだっただろうが、佐藤は真顔からふっとニヒルに笑うとスマホを取り出した。
「弥生さん、どんなにかわいい仕草をしても許せることと許せないことがあるんですよ。」
「さと~くーん。」
「第一、そんな仕草をして俺を落とせるのは美穂だけですから。」
「おぅ、安定の愛妻家。でも、でも約束したんだよ~。」
佐藤はすぐに地元にいる部下に連絡を取る。
「弥生さん、今その絵ってどこにありますか?」
「うー、実家の俺の部屋にあるよ。その時の契約書類も。」
がっくり肩を落とし白状する。
「佐藤君、美穂ちゃん。」
「怒りませんよ、そんなことで。」
「嫌われたくないって泣いてたんだよ。」
次の電話をかけようとしていた所に出た弥生の言葉に手を止める。
「泣いてたんですか?」
「うん、話聞くしかできなくて申し訳なかったんだけど。」
「証拠隠匿もしてるじゃないですか。」
「う、そうなんだけど、怒るなとは言えないけどあんまり怒らないでね。せめて怒ったあとは優しくしてあげて。」
「何言ってるんです。当たり前じゃないですか。」
にっこり笑う佐藤にほっとする。
「お仕置きが追加されますけどね。」
ノォーと頭を抱える弥生は置いておいて、逮捕状と捜査員の手配をすませる。
「さて、弥生さん少々時間がかかりそうなので商談引き伸ばして下さいね。」
「頑張るよ、けど、はっきり言ってどこまでできるか分からないよ?」
「まぁ、そのあたりは大丈夫ですよ弥生さんと話がしたくて、くだらない事を長々と話始めるでしょうし。」
弥生は気付いていないが、西園寺に出会った事で変わったのだと部屋に入ってきて今日ほど実感した事はない。
服のチョイスがいつもなら、選んでくれる人がいなければ暗い色合いや年配の人が選ぶようなものを着るのに今回は違った。
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ストイック感も取り入れている服装は美貌を引き立たせている。
明らかに見せたい誰かの為のコーディネートだろう。
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このコーディネートが吉と出るか凶と出るかは出てみないと分からない。
手を差し伸べるとそれに気が付いた弥生が手を伸ばす。
「さあ、少々予定と違うことが入りましたが行きましょうか。」
「ううう、緊張する。」
「ああ、わかってると思いますが、緊張を表に出さないでくださいよ。悠然と構えててください。」
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弥生がドアを出る瞬間に表情が変わる。
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佐藤は口元に笑みを浮かべた、まるで自慢の商品を見せびらかすような気分になる。
寝室からリビングへ。
ざわめきから、沈黙へ。
弥生は居住まいを正し、にっこり微笑むと途端に触れるのも恐れ多かった雰囲気が聖母の様にかわった。
「皆様」と耳に心地よい声で注目を集める。
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