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55.バースの勉強
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「さて、勉強の時間です。」
どこから出したのか黒縁眼鏡をかけ、クイッと上げる。
「よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる弥生を前に佐藤先生は鷹揚にうなずいた。
「まずですね、歴史上オメガのフェロモン被害とされている事にはすべてアルファが関わっていたとされています。
昔から上流階級やその土地の名士などにはアルファが多く、オメガに夢中になると好かれたくて色々お願い事を聞いてしまう。
そのせいで、国が傾いたり小さいところでは村や町がなくなったりしたわけです。
つまり、アルファが色ボケしなければそういった事は起こらなかった。
まぁ、歴史によくあることですが分かりやすく言うと傾国と言われる程の美貌を持ったオメガは確かに存在したんです。それを操って国を動かそうとしたのは主に別のアルファとベータです。」
「アルファとベータがフェロモンに当てられて言いなりになって国盗りしたってこと?」
佐藤はにっこり笑うと弥生の耳を引っ張った。
「痛い、痛いよ。」
「違いますよ。いいですか?歴史に名を残している美姫達は確かにオメガが多いですが、オメガの立場は酷く弱い。
オメガの美貌を利用して国盗りをしたのはトップになれなかったアルファとベータです。
しかし、自ら欲に負けたというのは不名誉なんです。だからオメガのフェロモンに操られたなんて戯言が伝わった。証言によって歴史は塗り替えられるものですから。」
「でも、フェロモンに操られた可能性もあるんじゃない?」
「それは1900年代後半にバースフェロモンに関する研究発表で、オメガフェロモンはアルファにしか効かず、逆にアルファのフェロモンはベータにも微少ですが変化をもたらすと発表されました。
これは、フェロモンを吸い込んだ時の身体に起こる変化を脳機能や生理的指標、生物学的に科学的に証明されたものです。」
「でも、そう思わせる例外があるよね。じゃなきゃここまでオメガフェロモンに影響を受けたって主張しないんじゃない?」
「そうですね。バース性の分岐点って知ってます?」
「どのバースに生まれるかってこと?」
「そうです。」
「確か始まりは皆同じだったっけ?」
「胎児の10週くらいまではバース性どころか、男女性も明確に定まってないと言われてます。
ですが細胞レベルでいえば5週から性別形成の分裂がはじまっていて、早くて11週で性別が確認できる様になります。
この細胞分裂の際アルファかオメガの因子が発生したらそのどちらかの性になります。
ただ、この因子が発生してもベータに生まれる場合があって、その因子によってフェロモンの影響を受けやすいベータが存在する事はあります。
ただ、影響といってもちょっと体がほてるくらいで精神まで影響を受けない上に、アルファのように性的欲求までいかない。しかも、その存在はごくごく稀です。」
「え?ベータは皆因子を微量に持ってて影響受けるんじゃないの?」
「違います、ベータが基本因子なんです。
はっきり言ってアルファとオメガの方が異常因子なんです。
つまり、アルファとオメガは遺伝子の変質から生まれます。
基本因子であるベータの遺伝子が異常をきたして、その因子の分量によって性別が決まります。オメガとアルファの因子は片方に変質するとそのまま量を増やしていきます。ただ、因子の量が増えずに止まるとベータで生まれます。」
「だから、アルファとオメガの因子を持ったベータもいるんだね。」
「そうです。そしてそのベータは何かの拍子に変化する。ベータのオメガ化は有名な話ですね。逆にベータのアルファ化もあります。」
「そうなの?」
「恐らく聞いたことはないと思います、アルファ化はオメガ化より可能性が低く、知られているのは世界を見ても2件ほどでそのどちらもが命の危機に陥った時に変化してます。」
「殺されそうになるとか?」
「状況的な危機ではなくて、生命が風前の灯火になった時と考えて下さい。その2件は一つは雪山遭難、もう一つはダイビング中の事故でどちらも瀕死状態までいってます。」
「それは、アルファになる可能性があっても試したくないね。」
「まぁ、話は逸れましたけど、基本的にベータに効くのはアルファのフェロモンで、オメガフェロモンは効きません。
ちなみに、弥生さんの周りの人間は純粋なベータが多い。前担当者以外、話に上がった人達はベータだというのは去年会社の健康診断に導入した、バース性検査を取り入れた事ではっきりしてます。」
「じゃあ、俺は。」
「はっきり言って、オメガは関係なくセクハラを受けてたんです。」
「まずいですね、柊さんの会社での立ち位置はどうなってますか?」
「どうだろう、みんな仕事するだけなら普通なんだけど。ああ、でも後輩は普段から好意的に接してくれてるかな。」
「弥生さん、おそらく会社に出社した当日に問題が起きます。」
「当日は早すぎない?」
「何度か会議室に連れ込まれてますよね。」
「連れ込まれるって、まぁ、内容は仕事じゃなくてオメガがどうのって話だったけど。」
「云々?」
「誰々を誘惑してるとか、そんな話を聞かされてたかな。会社では社員の誰かが恋人と別れただけでも俺が誘惑したことになってたから。しかも、被害者っていう子にその都度土下座させられてたかな。」
「はぁ。バカですか?お人好しにも程があるでしょう。」
「もう、傷つくなぁ。自分でもそう思うけど。」
「ちなみに弥生さん、会社辞めても問題ないですか?」
ん~、と考える。
長期休みを取ってしまった事で仕事内容はリセット状態。
気になるのは後輩の事だが彼は俺がいなくても大丈夫なくらい仕事ができる。
収入面は保険を使えば3か月はもらえるしその間に仕事を見つけるとして。
「問題はないなぁ。」
悲しいかな。それが現実だ。
「職場に行かなくていいです。こっちで処理します。」
「さすがにそれはできないよ。キッパリ辞めるなら職場に行って手続き踏まないと。」
「しかし、行けば引き止められるのでは?」
「うーん、難しいところだね。確かに退職の申し出は1カ月前にはしないといけないからそれを言われると厳しいかな。でも、今回は体調面を理由にやめるのはできると思うんだ。」
重篤な状態と伝えてくれている分普通ならすんなり辞められると思う。
「ただ、課長がなぁ。」
「直属の上司ですね。何か問題が?」
「俺、目の敵にされてるんだよね、何かにつけて言いがかりつけられる。今回の事も最後になるからって引き留められて、一ヶ月間会社でずっとネチネチやられる可能性が高いかな。」
「その上も同じですか?」
「ううん、部長はまともな人だよ、何度も課長を注意してくれてる。ただ、目の届かないところではね、どうしても。」
ね。というと2人とも眉間の皺が深くなった。
「弥生さん、会社には行かないように。きちんと手続きをしたように役員の方に手を回します。」
「柊さん、私もそれがいいと思います、そういった連中は規約を盾に何を要求してくるかわからない。」
弥生は都会の考えだなぁと苦笑する。
「それができればいいんだけど、俺の住んでるところってかなり田舎なんだよね、そういうことするとすぐに噂が回る。部長に話をしてやめたところで課長は納得しない。いろんなところで事情を知らない人に突然勝手にやめたと人に話され、それが翌日には近所中まで話が蔓延することになる。俺も俺の家族も住みにくくなるよね。」
「あー、確かに。」
佐藤の妙な相槌に池井はぎょっとする。
「そんなことがあるんですか?」
「あるある、俺もびっくりしたことがあるよ、うちの嫁が転んだってだけでわざわざ役場にまで教えに来てくれましたよ。しかも、大人数。」
「そうなんだよ、人に言ってもいいと思う小さい事だったり、お説教関係は回るのが恐ろしく速い。」
「田舎だから人目がないと思ったら、なぜかタイミング良くその場面を見かけられて、5Gなみの高速で噂がまわりますよね。」
「佐藤君、うまいね。」
驚きすぎて声の出ない池井に苦笑する。
「まあ、そういうわけだから下手なやめ方ができないんだよ。」
「なるほど、それでしたら部長に同席していただくことはできないでしょうか?」
「俺、平だからそういう要求はできないんだ。」
「じゃあ、そっちに手を回しときますよ。ほんとは役員巻き込んで切ってもらう方が手間なく早いんですけど。」
「佐藤君、なんか地を隠さなくなってきたねぇ。」
「隠す必要がなくなったんで。」
あっけらかんと言う佐藤になんだかおかしくて声を立てて笑った。
どこから出したのか黒縁眼鏡をかけ、クイッと上げる。
「よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる弥生を前に佐藤先生は鷹揚にうなずいた。
「まずですね、歴史上オメガのフェロモン被害とされている事にはすべてアルファが関わっていたとされています。
昔から上流階級やその土地の名士などにはアルファが多く、オメガに夢中になると好かれたくて色々お願い事を聞いてしまう。
そのせいで、国が傾いたり小さいところでは村や町がなくなったりしたわけです。
つまり、アルファが色ボケしなければそういった事は起こらなかった。
まぁ、歴史によくあることですが分かりやすく言うと傾国と言われる程の美貌を持ったオメガは確かに存在したんです。それを操って国を動かそうとしたのは主に別のアルファとベータです。」
「アルファとベータがフェロモンに当てられて言いなりになって国盗りしたってこと?」
佐藤はにっこり笑うと弥生の耳を引っ張った。
「痛い、痛いよ。」
「違いますよ。いいですか?歴史に名を残している美姫達は確かにオメガが多いですが、オメガの立場は酷く弱い。
オメガの美貌を利用して国盗りをしたのはトップになれなかったアルファとベータです。
しかし、自ら欲に負けたというのは不名誉なんです。だからオメガのフェロモンに操られたなんて戯言が伝わった。証言によって歴史は塗り替えられるものですから。」
「でも、フェロモンに操られた可能性もあるんじゃない?」
「それは1900年代後半にバースフェロモンに関する研究発表で、オメガフェロモンはアルファにしか効かず、逆にアルファのフェロモンはベータにも微少ですが変化をもたらすと発表されました。
これは、フェロモンを吸い込んだ時の身体に起こる変化を脳機能や生理的指標、生物学的に科学的に証明されたものです。」
「でも、そう思わせる例外があるよね。じゃなきゃここまでオメガフェロモンに影響を受けたって主張しないんじゃない?」
「そうですね。バース性の分岐点って知ってます?」
「どのバースに生まれるかってこと?」
「そうです。」
「確か始まりは皆同じだったっけ?」
「胎児の10週くらいまではバース性どころか、男女性も明確に定まってないと言われてます。
ですが細胞レベルでいえば5週から性別形成の分裂がはじまっていて、早くて11週で性別が確認できる様になります。
この細胞分裂の際アルファかオメガの因子が発生したらそのどちらかの性になります。
ただ、この因子が発生してもベータに生まれる場合があって、その因子によってフェロモンの影響を受けやすいベータが存在する事はあります。
ただ、影響といってもちょっと体がほてるくらいで精神まで影響を受けない上に、アルファのように性的欲求までいかない。しかも、その存在はごくごく稀です。」
「え?ベータは皆因子を微量に持ってて影響受けるんじゃないの?」
「違います、ベータが基本因子なんです。
はっきり言ってアルファとオメガの方が異常因子なんです。
つまり、アルファとオメガは遺伝子の変質から生まれます。
基本因子であるベータの遺伝子が異常をきたして、その因子の分量によって性別が決まります。オメガとアルファの因子は片方に変質するとそのまま量を増やしていきます。ただ、因子の量が増えずに止まるとベータで生まれます。」
「だから、アルファとオメガの因子を持ったベータもいるんだね。」
「そうです。そしてそのベータは何かの拍子に変化する。ベータのオメガ化は有名な話ですね。逆にベータのアルファ化もあります。」
「そうなの?」
「恐らく聞いたことはないと思います、アルファ化はオメガ化より可能性が低く、知られているのは世界を見ても2件ほどでそのどちらもが命の危機に陥った時に変化してます。」
「殺されそうになるとか?」
「状況的な危機ではなくて、生命が風前の灯火になった時と考えて下さい。その2件は一つは雪山遭難、もう一つはダイビング中の事故でどちらも瀕死状態までいってます。」
「それは、アルファになる可能性があっても試したくないね。」
「まぁ、話は逸れましたけど、基本的にベータに効くのはアルファのフェロモンで、オメガフェロモンは効きません。
ちなみに、弥生さんの周りの人間は純粋なベータが多い。前担当者以外、話に上がった人達はベータだというのは去年会社の健康診断に導入した、バース性検査を取り入れた事ではっきりしてます。」
「じゃあ、俺は。」
「はっきり言って、オメガは関係なくセクハラを受けてたんです。」
「まずいですね、柊さんの会社での立ち位置はどうなってますか?」
「どうだろう、みんな仕事するだけなら普通なんだけど。ああ、でも後輩は普段から好意的に接してくれてるかな。」
「弥生さん、おそらく会社に出社した当日に問題が起きます。」
「当日は早すぎない?」
「何度か会議室に連れ込まれてますよね。」
「連れ込まれるって、まぁ、内容は仕事じゃなくてオメガがどうのって話だったけど。」
「云々?」
「誰々を誘惑してるとか、そんな話を聞かされてたかな。会社では社員の誰かが恋人と別れただけでも俺が誘惑したことになってたから。しかも、被害者っていう子にその都度土下座させられてたかな。」
「はぁ。バカですか?お人好しにも程があるでしょう。」
「もう、傷つくなぁ。自分でもそう思うけど。」
「ちなみに弥生さん、会社辞めても問題ないですか?」
ん~、と考える。
長期休みを取ってしまった事で仕事内容はリセット状態。
気になるのは後輩の事だが彼は俺がいなくても大丈夫なくらい仕事ができる。
収入面は保険を使えば3か月はもらえるしその間に仕事を見つけるとして。
「問題はないなぁ。」
悲しいかな。それが現実だ。
「職場に行かなくていいです。こっちで処理します。」
「さすがにそれはできないよ。キッパリ辞めるなら職場に行って手続き踏まないと。」
「しかし、行けば引き止められるのでは?」
「うーん、難しいところだね。確かに退職の申し出は1カ月前にはしないといけないからそれを言われると厳しいかな。でも、今回は体調面を理由にやめるのはできると思うんだ。」
重篤な状態と伝えてくれている分普通ならすんなり辞められると思う。
「ただ、課長がなぁ。」
「直属の上司ですね。何か問題が?」
「俺、目の敵にされてるんだよね、何かにつけて言いがかりつけられる。今回の事も最後になるからって引き留められて、一ヶ月間会社でずっとネチネチやられる可能性が高いかな。」
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ね。というと2人とも眉間の皺が深くなった。
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「柊さん、私もそれがいいと思います、そういった連中は規約を盾に何を要求してくるかわからない。」
弥生は都会の考えだなぁと苦笑する。
「それができればいいんだけど、俺の住んでるところってかなり田舎なんだよね、そういうことするとすぐに噂が回る。部長に話をしてやめたところで課長は納得しない。いろんなところで事情を知らない人に突然勝手にやめたと人に話され、それが翌日には近所中まで話が蔓延することになる。俺も俺の家族も住みにくくなるよね。」
「あー、確かに。」
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「そんなことがあるんですか?」
「あるある、俺もびっくりしたことがあるよ、うちの嫁が転んだってだけでわざわざ役場にまで教えに来てくれましたよ。しかも、大人数。」
「そうなんだよ、人に言ってもいいと思う小さい事だったり、お説教関係は回るのが恐ろしく速い。」
「田舎だから人目がないと思ったら、なぜかタイミング良くその場面を見かけられて、5Gなみの高速で噂がまわりますよね。」
「佐藤君、うまいね。」
驚きすぎて声の出ない池井に苦笑する。
「まあ、そういうわけだから下手なやめ方ができないんだよ。」
「なるほど、それでしたら部長に同席していただくことはできないでしょうか?」
「俺、平だからそういう要求はできないんだ。」
「じゃあ、そっちに手を回しときますよ。ほんとは役員巻き込んで切ってもらう方が手間なく早いんですけど。」
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