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56.家路
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ホテルの中庭。
弥生はもう一度遠目に会えないかとホテル暮らしの残りの日を中庭で主に過ごした。
残念ながらあの人には会えなかったが、それで、よかったのかもしれない。
「弥生さん、出発の時間ですよ。」
「んっ、了解。」
ベンチから立ち上がり背伸びをする。
「そんなに気になるなら調べて会いに行けばよかったんですよ。」
「あはは、できないよ。佐藤君冗談好きだね。」
「冗談じゃないでしょう。」
「冗談だよ、そして彼に会ったのは夢だった。」
「……いいんですか?本当に。」
「うん!」
何も、悩むことはないような輝くほどの笑顔を佐藤に向けるが、佐藤は難しい顔のままだ。
「はぁ、いきましょう。」
納得してないようだったが、ため息と共に歩きだす。
中庭で会えるかも知れないと過ごした時間は楽しかった。
このホテルの利用客は中流から上流階級の人間が多い、Mの資金援助があって弥生はこんな贅沢なホテルで過ごせているが。
こんなにいいホテルを今後利用することはないだろうし、もう、東京に出てくることはないだろう。
記憶のない期間、いろいろあったらしいがつらい記憶がないのは結果的によかったのだと思う。
でも、最後にあの人と出会えたことはすごく幸せだった。
戸惑って、驚いて、最後は逃げちゃったけど。
人生で初めてキスもしたし。
思い出して、恥ずかしくなって顔を押さえる。
「弥生さん。」
名前を呼ばれて佐藤を見るとなんだか変な顔をしていた。
「どうしたの?」
「発情期ですか。」
「殴るよ、佐藤君。」
サァと、さわやかに抜ける風に髪の乱れを押さえる。
ベンチの方を振り返り「いい夢見せてもらったなぁ。」とぽつりとつぶやいた。
空港に着いて弥生は絶句した。
いつものようにチェックインを済ませようとしたら、こっちですと連れていかれたのは専用ターミナル。
頭の中が?状態であれよあれよという間に専用車に乗せられプライベートジェットの前まで連れていかれた。
ぽかんとジェットを見つめる弥生に「何してんですか、行きますよ。」と、佐藤は何でもない事のように促し、先に飛行機の中に入っていく。
「え?まって。」
弥生は急いで佐藤を追いかけるが勝手が全く分からない。
そばに付き添ってくれている護衛の南さんが弥生の手を取りタラップをエスコートしてくれて、席まで案内してくれた。
ちなみにこの南さんは今まで弥生のそばについていたマッチングの相手ではなく、Mから依頼された正式な護衛で弥生は初対面だった。
「さぁ、弥生さんとこに着くまでに一時間ほどしかないですからね。その間に打ち合わせです。」
「なんか、打ち合わせの前にいろいろ疑問が湧いて出てるんだけど。」
「すぐに答えられることなら答えますよ。」
「この飛行機って?」
「Mに言ったら弥生さんの為にって用意してくれました。」
「えっ!Mに頼んだの!?勝手に?!」
「さあ、さあ、時間がないんです。その湧いて出てる疑問とやらをさっさとすましてしまいましょう。」
「すごい、プライベートジェットに慣れてる風なんだけど。」
「ああ、何回も乗ってますから、はい、次。」
「打ち合わせって?」
「会社の方ですよ、弥生さんが休んでる間にかなりひどいことになってるんで今日会社の方に辞表たたきつけに行きますよ。」
「え?初耳。」
「今、言いました。」
「俺、今日帰るって親に連絡したんだけど。」
「知ってます、出迎えは断っときました。」
「この飛行機の資金って。」
「Mに依頼したんですからM持ちですよ。」
弥生が頭を抱えると「さぁさぁ、次。」とせかしてくる。
「………。」
「ないなら、打ち合わせです。」
「……はい……。」
湧いて出た疑問は、湧いて出た直後に消えていき、できた質問はあまりなかったが、疲れてしまったのでもういいかと開き直ることにした。
「で?問題って?」
「弥生さんの休みが受理されてませんでした。」
「え?確か入院の翌日には連絡を父さんがしたって言ってたけど。」
「そうです。その連絡を受けたのが問題の課長です。」
「無断欠勤中ってことかぁ。」
まさか、そんな事されるとは。
どんなに嫌われてても仕方ないと思ってたけどさすがに辛いなぁ。
「違いますよ。出張中になってます。」
「?どこに?」
「東京です。でも、なぜか所在不明。」
ますます以て分からない。
「弥生さん、ラブホ使い放題してますよ。」
「一体どこの、”弥生さん”だよ。」
「しかも、瞬間移動が使えるとは知りませんでした。東京から地元に。いつ帰ってたんです?」
「すごいな、俺って超人。」
「挙句の果てに出張費使い放題ですよ。セレブな生活してますね。」
ここんとこの生活はセレブだったのは否定できない。
「……で?その”弥生さん”は今何してんの?」
佐藤はニッと笑うと
「本日、弥生様は近くのラブホテルでしっぽりされてるようですよ。」
「はぁ、都合よく使われてはいたけど、さすがにこれはないなぁ。」
「都合よくつかわれてるからこんなことになってるんですよ。」
佐藤が痛いところを突いてくる。
確かに、反論しても無駄だとできるだけ波風立てないようにはしていたから使い勝手がいいように思われてたし、まぁ、それで収まるならと飲み込みすぎてた感はある。
「まさか、会社内でほんとに俺がそんなことしてるなんてみんな思ってないよね。」
いや、思ってるかも。
いつも、遠巻きにされてたし。
「さすがに、その辺は大丈夫そうですよ、しかも女子って怖いですね。情報網えぐいですよ、就業中の事なのにどこで誰が何をしていたか、っていうのをほぼ正確に把握してました。」
「ああ、女子特有の情報網があるからね、いろんな会話やこまごました情報からほとんど正確に近いとこにたどり着くんだよ。」
「うちの捜査員がその情報網欲しがってました。」
それは無理だろう。
興味のある事に特化した情報網だし。
弥生が苦笑すると、「まあ、それは置いといて。」と前置きした。
「会社側もあまりの横暴にさすがに重い腰を上げました。女子の噂は男の耳に入らないみたいですね、役員関係はその事実をこちらが提示するまで知りませんでしたよ。その為、弥生さんお気に入りの部長は今回の責任を取らされて課長に降格処分、現課長としっぽり中の女子社員は懲戒解雇。課長の方はバース法にも抵触しているので懲戒解雇の後、刑事告訴が決定してます、が、弥生さんが筋を通したいとおっしゃったのと、言い逃れできない様に自爆してもらうために弥生さんにはいつも通りふるまってもらって、課長に辞表をたたきつけてください。」
「普通に辞表出すだけじゃダメなの?」
「それでいいですよ。」
「そうなんだ。」
「おっと、もうすぐ着きますね、俺も帯同した上で課長と会議室でお話ってことになってます。」
大抵デスクでのやり取りだと思うが、なぜ会議室なのか。
聞くのが怖いが一応聞いておく。
「会議室なのは?」
「いやだなぁ、弥生さん雑音が入らないようにですよ。マイクとカメラ、捜査員と役員たちはばっちり準備済みです。いい頃合いに突入してきますからケガしない様に気を付けてくださいね。」
無茶苦茶楽しそうな佐藤に、他にも何かあるような気がするがそこは聞かずにおこうと、着陸までの短い時間、目を閉じた。
弥生はもう一度遠目に会えないかとホテル暮らしの残りの日を中庭で主に過ごした。
残念ながらあの人には会えなかったが、それで、よかったのかもしれない。
「弥生さん、出発の時間ですよ。」
「んっ、了解。」
ベンチから立ち上がり背伸びをする。
「そんなに気になるなら調べて会いに行けばよかったんですよ。」
「あはは、できないよ。佐藤君冗談好きだね。」
「冗談じゃないでしょう。」
「冗談だよ、そして彼に会ったのは夢だった。」
「……いいんですか?本当に。」
「うん!」
何も、悩むことはないような輝くほどの笑顔を佐藤に向けるが、佐藤は難しい顔のままだ。
「はぁ、いきましょう。」
納得してないようだったが、ため息と共に歩きだす。
中庭で会えるかも知れないと過ごした時間は楽しかった。
このホテルの利用客は中流から上流階級の人間が多い、Mの資金援助があって弥生はこんな贅沢なホテルで過ごせているが。
こんなにいいホテルを今後利用することはないだろうし、もう、東京に出てくることはないだろう。
記憶のない期間、いろいろあったらしいがつらい記憶がないのは結果的によかったのだと思う。
でも、最後にあの人と出会えたことはすごく幸せだった。
戸惑って、驚いて、最後は逃げちゃったけど。
人生で初めてキスもしたし。
思い出して、恥ずかしくなって顔を押さえる。
「弥生さん。」
名前を呼ばれて佐藤を見るとなんだか変な顔をしていた。
「どうしたの?」
「発情期ですか。」
「殴るよ、佐藤君。」
サァと、さわやかに抜ける風に髪の乱れを押さえる。
ベンチの方を振り返り「いい夢見せてもらったなぁ。」とぽつりとつぶやいた。
空港に着いて弥生は絶句した。
いつものようにチェックインを済ませようとしたら、こっちですと連れていかれたのは専用ターミナル。
頭の中が?状態であれよあれよという間に専用車に乗せられプライベートジェットの前まで連れていかれた。
ぽかんとジェットを見つめる弥生に「何してんですか、行きますよ。」と、佐藤は何でもない事のように促し、先に飛行機の中に入っていく。
「え?まって。」
弥生は急いで佐藤を追いかけるが勝手が全く分からない。
そばに付き添ってくれている護衛の南さんが弥生の手を取りタラップをエスコートしてくれて、席まで案内してくれた。
ちなみにこの南さんは今まで弥生のそばについていたマッチングの相手ではなく、Mから依頼された正式な護衛で弥生は初対面だった。
「さぁ、弥生さんとこに着くまでに一時間ほどしかないですからね。その間に打ち合わせです。」
「なんか、打ち合わせの前にいろいろ疑問が湧いて出てるんだけど。」
「すぐに答えられることなら答えますよ。」
「この飛行機って?」
「Mに言ったら弥生さんの為にって用意してくれました。」
「えっ!Mに頼んだの!?勝手に?!」
「さあ、さあ、時間がないんです。その湧いて出てる疑問とやらをさっさとすましてしまいましょう。」
「すごい、プライベートジェットに慣れてる風なんだけど。」
「ああ、何回も乗ってますから、はい、次。」
「打ち合わせって?」
「会社の方ですよ、弥生さんが休んでる間にかなりひどいことになってるんで今日会社の方に辞表たたきつけに行きますよ。」
「え?初耳。」
「今、言いました。」
「俺、今日帰るって親に連絡したんだけど。」
「知ってます、出迎えは断っときました。」
「この飛行機の資金って。」
「Mに依頼したんですからM持ちですよ。」
弥生が頭を抱えると「さぁさぁ、次。」とせかしてくる。
「………。」
「ないなら、打ち合わせです。」
「……はい……。」
湧いて出た疑問は、湧いて出た直後に消えていき、できた質問はあまりなかったが、疲れてしまったのでもういいかと開き直ることにした。
「で?問題って?」
「弥生さんの休みが受理されてませんでした。」
「え?確か入院の翌日には連絡を父さんがしたって言ってたけど。」
「そうです。その連絡を受けたのが問題の課長です。」
「無断欠勤中ってことかぁ。」
まさか、そんな事されるとは。
どんなに嫌われてても仕方ないと思ってたけどさすがに辛いなぁ。
「違いますよ。出張中になってます。」
「?どこに?」
「東京です。でも、なぜか所在不明。」
ますます以て分からない。
「弥生さん、ラブホ使い放題してますよ。」
「一体どこの、”弥生さん”だよ。」
「しかも、瞬間移動が使えるとは知りませんでした。東京から地元に。いつ帰ってたんです?」
「すごいな、俺って超人。」
「挙句の果てに出張費使い放題ですよ。セレブな生活してますね。」
ここんとこの生活はセレブだったのは否定できない。
「……で?その”弥生さん”は今何してんの?」
佐藤はニッと笑うと
「本日、弥生様は近くのラブホテルでしっぽりされてるようですよ。」
「はぁ、都合よく使われてはいたけど、さすがにこれはないなぁ。」
「都合よくつかわれてるからこんなことになってるんですよ。」
佐藤が痛いところを突いてくる。
確かに、反論しても無駄だとできるだけ波風立てないようにはしていたから使い勝手がいいように思われてたし、まぁ、それで収まるならと飲み込みすぎてた感はある。
「まさか、会社内でほんとに俺がそんなことしてるなんてみんな思ってないよね。」
いや、思ってるかも。
いつも、遠巻きにされてたし。
「さすがに、その辺は大丈夫そうですよ、しかも女子って怖いですね。情報網えぐいですよ、就業中の事なのにどこで誰が何をしていたか、っていうのをほぼ正確に把握してました。」
「ああ、女子特有の情報網があるからね、いろんな会話やこまごました情報からほとんど正確に近いとこにたどり着くんだよ。」
「うちの捜査員がその情報網欲しがってました。」
それは無理だろう。
興味のある事に特化した情報網だし。
弥生が苦笑すると、「まあ、それは置いといて。」と前置きした。
「会社側もあまりの横暴にさすがに重い腰を上げました。女子の噂は男の耳に入らないみたいですね、役員関係はその事実をこちらが提示するまで知りませんでしたよ。その為、弥生さんお気に入りの部長は今回の責任を取らされて課長に降格処分、現課長としっぽり中の女子社員は懲戒解雇。課長の方はバース法にも抵触しているので懲戒解雇の後、刑事告訴が決定してます、が、弥生さんが筋を通したいとおっしゃったのと、言い逃れできない様に自爆してもらうために弥生さんにはいつも通りふるまってもらって、課長に辞表をたたきつけてください。」
「普通に辞表出すだけじゃダメなの?」
「それでいいですよ。」
「そうなんだ。」
「おっと、もうすぐ着きますね、俺も帯同した上で課長と会議室でお話ってことになってます。」
大抵デスクでのやり取りだと思うが、なぜ会議室なのか。
聞くのが怖いが一応聞いておく。
「会議室なのは?」
「いやだなぁ、弥生さん雑音が入らないようにですよ。マイクとカメラ、捜査員と役員たちはばっちり準備済みです。いい頃合いに突入してきますからケガしない様に気を付けてくださいね。」
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