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57.退治
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プライベートジェットから降りる前になぜか着替えさせられ、見合い並みにおめかしさせられた弥生は到着しなければいいと思っていた会社に到着してしまった。
「俺こんな格好する必要あるの?」
「あります、あ、胸張ってセレブ感出して下さいね。今までバカにしてた奴らに敗北感プレゼントしてやりましょ。」
鼻歌が出そうなほどご機嫌な佐藤に少し引きながら胸を張る。
弥生がいたのはマーケティング部だ。
社外への出入りも営業部ほどあるので出入りしやすい場所に部屋があるが今回は2階にある会議室に直行になる。
ただ、弥生はどの部屋になるかまでは聞かされていない。
仕事にはいつもスーツでおしゃれとは無縁だっただけに、弥生を見た面々は総じて呆気にとられているようだった。
「弥生さん、入りますよ。」
職場に場違いな感じがする佐藤に緊張が少しだけほぐれる。
「うん。」
と微笑めば影に隠れた野次馬がざわめいた。
ドアの向こうにはなぜか課長が椅子に座り、部長が後ろ斜めに立つという不思議な構図だった。
普通上司を椅子に座らせるのだと思うが元々あまり部長をよく思ってなかったからこんな事をするんだろう。
その思考は理解出来ないが。
弥生の視線に部長は苦笑しながらも言葉は発しない。
恐らく、今回の事をあらかじめ聞いているのだろう。
「失礼します。」
一礼して入る弥生を、佐藤は何かいいたそうに見るが、非のない態度を取る事でつけ込ませる隙を作らない。
入って来た弥生を見て課長は驚いたようだったが、下から上まで舐め回すように見てゴクリと喉を鳴らした。
「課長、今日はお時間とって頂いてありがとうございます。」
「いやいや、体の方はもういいのか?」
「その事なんですが、今回の事故で体を壊してしまいまして、仕事を続けられなくなりましたので、退職を決めました。」
弥生が退職届を差し出すと、課長は退職届けを弥生の手ごと掴んだ。
その行動に成り行きを見守っていた部長は困惑し、佐藤は無表情だが明らかに笑いを堪えていた。
計画通りに進んでご機嫌な事が分かる。
「柊君、仕事は体調と調整しながらしていけばいいじゃないか。」
「いえ、今後の事も考えて仕事は体の状態に合ったものをと考えておりますので。」
「いやいや、体の状態を考えて業務を調整していくと言ってるじゃないか。」
課長は弥生の手を離すどころかさらに強く握った。
背筋がゾワゾワして、手を振り払いたくなるのを我慢する。
「それになぁ、退職は最低でも一ヶ月前に申告してもらわないと。」
「それに関しては申し訳ありません。」
「大丈夫、私に任せなさい。私の補助をしてくれればいいんだから。」
ぐっと手前に引っ張り弥生の耳元に顔を近づけると「君にしか出来ない仕事もあるんだ。」と耳に息を吹きかけられた。
一気に体中に鳥肌が立った。
でも、これでセクハラの証拠は押さえた。
弥生は少し乱暴に手を振り払うと、体を抱きしめ数歩下がった。
「お断りします。」
課長が聞き取れる様にはっきりと大きな声で伝える。
「柊君!?自分がなにを言っているのかわかってるのか!?」
「わかってます。」
「君ねぇ、オメガの君に仕事なんて見つからないのにここを辞めてどうするって言うんだ。」
「仕事を選ばなければ今はオメガでも仕事がありますから。」
「ああ、それでか。」
「?」
「その仕事とやらを休んでる間やってたんだろう。」
なにを考えているのか一発で分かるにやけた顔にムカつくがここで怒ったら向こうの思うつぼだし、出来ればパワハラの証拠も押さえておきたい。
「なんの事か分かりません。」
「おかしいと思ったんだ、無断欠勤してるのにクビにもならずしかも給料も出ただろう。」
無断欠勤でもないし、給料出たのは有給休暇とバース休暇を使って休んだことになってるから、普通にひと月分の給料が振り込まれただけだ。
第一、連絡したのに無断欠勤にはならない。
おそらく、課長は出張扱いというのが俺にばれてないと思ってるからこんな事を言ってるんだろう。
ん~、どう返すべきか。
弱々しくふるまうべきか、強気で行くべきか。
佐藤君はいつも通りって言われたけど、いつも通りにすると理不尽を飲み込んで、こちらに被害が出ない様にかわすんだけどそうすると俺が被害者にならないから、パワハラの証拠って押さえられないよなぁ。
というわけで弥生は「知りません。」と顔を背け泣いてるように見える風に装った。
「いやいや、責めてるわけじゃない。なに、私にもちょっとだけ奉仕してくれればいいんだ。もし断ったらいいことにはならないと思ってくれていい。まあ、わかってると思うが」
弥生は背けた顔を課長にばれない様に少し上げて佐藤を見ると小さく親指を立てた。
よし、仕事は終わった!
緩む表情を根性で引き締め、先ほどまでの弱々しさをかなぐり捨てて姿勢を正した。
「お断りします、今後どんな事があってもあなたに従う義理はない。」
冷たく睥睨するように変わった弥生に課長は戸惑いながら。
ぽかんとした後、顔色が赤からどす黒い色まで変化した、課長は弥生の前まで来ると胸倉をつかみ上げたが、弥生は表情すら崩さない。
元々、怖いから従っていたわけではなく、上司だから立てなければと思っていただけで本当は顔すら見たくない。
息のかかるこの距離さえ嫌でいっそのこと殴り飛ばしたいが、弥生は犯罪者になりたくないので後ろで手を組み、簡単に手が出ない様にする。
「はい!そこまで。」
明るい声で止めに入ったのは佐藤だった。
にこにこと楽しくて仕方ないという表情の佐藤に、これから何か弥生に隠している”なにか”をする予定なのだと悟る。
佐藤が課長をはがしてくれたので弥生はスススッと壁側に距離をとる。
その弥生に部長が近づいてきた。
「柊君。」
「部長、お久しぶりです。」
「すまない、止める事ができなくて。」
「いえいえ、佐藤君から話は聞いてます、むしろよく我慢してくれました。」
部長の手が固く握りしめられているのが目に入った。
「触れても?」
「あ?ああ。」
なんのことかわからないまま返事を返す部長の手をとり、こわばっている指を開いていく。
爪で傷ついた手の平に指を滑らせた後ハンカチを巻いた。
「どうか、思い詰められませんように。部長には本当にお世話になりました。こんな形でやめることになったのは本当に申し訳ありません。」
「いや、君の環境を整える事が出来なかった私の力不足だ、こちらこそ申し訳ない。」
いえいえ、いやいやと謝罪の応酬が始まりかかった時だった。ドアからぞろぞろと結構な人数の社員が入ってきた。
「弥生さん。」
佐藤が準備万端とばかりに弥生に白いものを渡してきた。
「えーと、これは?」
「弥生さん知らないんですか?」
知ってはいるけど、場違い感半端ない。
「ハリセン?」
ちょっと重いけど。
「これはですね、あるおぼっちゃまを怪我無く黙らせるアイテム”ハリセン君”です。アルファ仕様ですからかなり頑丈に作ってあります。さあ、弥生さん日頃の鬱憤を晴らしてください。」
と指示された場所ではすでにハリセンで袋叩きにあっている課長がいた。
「俺はいいかな。」
ハリセンを返そうとすると
「弥生さんがしなかったら、彼らがリンチで逮捕されちゃいますけど。」
「俺がやってもそうじゃない?」
「弥生さんが加わるとリンチじゃなくて正当防衛になるんで、彼らも弥生さん保護のために行ったことになります。」
そんな、バカなと思うがおそらく裏でそう調整するんだろう。
「で、彼らは?」
「セクハラ、パワハラの被害は弥生さんだけじゃなかったという事ですよ。」
「なるほど、彼らの鬱憤は晴れたのかな?」
「まあ、何もしないよりは晴れたんじゃないですか。」
佐藤はニヤッと笑うと彼らの方に向いてパンパンと手をたたいた。
さっと人だかりが割れて机の脚に縛りつけられている課長が姿を現す。
さすがハリセン、乱れているが怪我らしい怪我はない。
弥生は片手に軽くハリセンを打ちながら近づくとにっこり微笑んだ。
「いままで、いろいろとありがとうございました。俺からの謝礼です。受け取ってもらえますよね?」
「い、いやそんな気を使わなくても!」
あははは、と笑うと思いっきり振りかぶり打ち付けた。
パァァァン!というハリセンの音というよりは、発砲音に近い音にしんとなる。
あたりにアンモニア臭が立ち込め、課長はピクリとも動かない。
「気に入っていただけて良かった。」
打たれたのは課長ではなく机。
弥生の手には持ち手以外木っ端微塵のハリセン。
「え?アルファ仕様の特別製。」
持ち手だけになったハリセンを佐藤に渡す。
「俺ね、日々のトレーニングは欠かさないんだ。」
とニッと笑った。
「俺こんな格好する必要あるの?」
「あります、あ、胸張ってセレブ感出して下さいね。今までバカにしてた奴らに敗北感プレゼントしてやりましょ。」
鼻歌が出そうなほどご機嫌な佐藤に少し引きながら胸を張る。
弥生がいたのはマーケティング部だ。
社外への出入りも営業部ほどあるので出入りしやすい場所に部屋があるが今回は2階にある会議室に直行になる。
ただ、弥生はどの部屋になるかまでは聞かされていない。
仕事にはいつもスーツでおしゃれとは無縁だっただけに、弥生を見た面々は総じて呆気にとられているようだった。
「弥生さん、入りますよ。」
職場に場違いな感じがする佐藤に緊張が少しだけほぐれる。
「うん。」
と微笑めば影に隠れた野次馬がざわめいた。
ドアの向こうにはなぜか課長が椅子に座り、部長が後ろ斜めに立つという不思議な構図だった。
普通上司を椅子に座らせるのだと思うが元々あまり部長をよく思ってなかったからこんな事をするんだろう。
その思考は理解出来ないが。
弥生の視線に部長は苦笑しながらも言葉は発しない。
恐らく、今回の事をあらかじめ聞いているのだろう。
「失礼します。」
一礼して入る弥生を、佐藤は何かいいたそうに見るが、非のない態度を取る事でつけ込ませる隙を作らない。
入って来た弥生を見て課長は驚いたようだったが、下から上まで舐め回すように見てゴクリと喉を鳴らした。
「課長、今日はお時間とって頂いてありがとうございます。」
「いやいや、体の方はもういいのか?」
「その事なんですが、今回の事故で体を壊してしまいまして、仕事を続けられなくなりましたので、退職を決めました。」
弥生が退職届を差し出すと、課長は退職届けを弥生の手ごと掴んだ。
その行動に成り行きを見守っていた部長は困惑し、佐藤は無表情だが明らかに笑いを堪えていた。
計画通りに進んでご機嫌な事が分かる。
「柊君、仕事は体調と調整しながらしていけばいいじゃないか。」
「いえ、今後の事も考えて仕事は体の状態に合ったものをと考えておりますので。」
「いやいや、体の状態を考えて業務を調整していくと言ってるじゃないか。」
課長は弥生の手を離すどころかさらに強く握った。
背筋がゾワゾワして、手を振り払いたくなるのを我慢する。
「それになぁ、退職は最低でも一ヶ月前に申告してもらわないと。」
「それに関しては申し訳ありません。」
「大丈夫、私に任せなさい。私の補助をしてくれればいいんだから。」
ぐっと手前に引っ張り弥生の耳元に顔を近づけると「君にしか出来ない仕事もあるんだ。」と耳に息を吹きかけられた。
一気に体中に鳥肌が立った。
でも、これでセクハラの証拠は押さえた。
弥生は少し乱暴に手を振り払うと、体を抱きしめ数歩下がった。
「お断りします。」
課長が聞き取れる様にはっきりと大きな声で伝える。
「柊君!?自分がなにを言っているのかわかってるのか!?」
「わかってます。」
「君ねぇ、オメガの君に仕事なんて見つからないのにここを辞めてどうするって言うんだ。」
「仕事を選ばなければ今はオメガでも仕事がありますから。」
「ああ、それでか。」
「?」
「その仕事とやらを休んでる間やってたんだろう。」
なにを考えているのか一発で分かるにやけた顔にムカつくがここで怒ったら向こうの思うつぼだし、出来ればパワハラの証拠も押さえておきたい。
「なんの事か分かりません。」
「おかしいと思ったんだ、無断欠勤してるのにクビにもならずしかも給料も出ただろう。」
無断欠勤でもないし、給料出たのは有給休暇とバース休暇を使って休んだことになってるから、普通にひと月分の給料が振り込まれただけだ。
第一、連絡したのに無断欠勤にはならない。
おそらく、課長は出張扱いというのが俺にばれてないと思ってるからこんな事を言ってるんだろう。
ん~、どう返すべきか。
弱々しくふるまうべきか、強気で行くべきか。
佐藤君はいつも通りって言われたけど、いつも通りにすると理不尽を飲み込んで、こちらに被害が出ない様にかわすんだけどそうすると俺が被害者にならないから、パワハラの証拠って押さえられないよなぁ。
というわけで弥生は「知りません。」と顔を背け泣いてるように見える風に装った。
「いやいや、責めてるわけじゃない。なに、私にもちょっとだけ奉仕してくれればいいんだ。もし断ったらいいことにはならないと思ってくれていい。まあ、わかってると思うが」
弥生は背けた顔を課長にばれない様に少し上げて佐藤を見ると小さく親指を立てた。
よし、仕事は終わった!
緩む表情を根性で引き締め、先ほどまでの弱々しさをかなぐり捨てて姿勢を正した。
「お断りします、今後どんな事があってもあなたに従う義理はない。」
冷たく睥睨するように変わった弥生に課長は戸惑いながら。
ぽかんとした後、顔色が赤からどす黒い色まで変化した、課長は弥生の前まで来ると胸倉をつかみ上げたが、弥生は表情すら崩さない。
元々、怖いから従っていたわけではなく、上司だから立てなければと思っていただけで本当は顔すら見たくない。
息のかかるこの距離さえ嫌でいっそのこと殴り飛ばしたいが、弥生は犯罪者になりたくないので後ろで手を組み、簡単に手が出ない様にする。
「はい!そこまで。」
明るい声で止めに入ったのは佐藤だった。
にこにこと楽しくて仕方ないという表情の佐藤に、これから何か弥生に隠している”なにか”をする予定なのだと悟る。
佐藤が課長をはがしてくれたので弥生はスススッと壁側に距離をとる。
その弥生に部長が近づいてきた。
「柊君。」
「部長、お久しぶりです。」
「すまない、止める事ができなくて。」
「いえいえ、佐藤君から話は聞いてます、むしろよく我慢してくれました。」
部長の手が固く握りしめられているのが目に入った。
「触れても?」
「あ?ああ。」
なんのことかわからないまま返事を返す部長の手をとり、こわばっている指を開いていく。
爪で傷ついた手の平に指を滑らせた後ハンカチを巻いた。
「どうか、思い詰められませんように。部長には本当にお世話になりました。こんな形でやめることになったのは本当に申し訳ありません。」
「いや、君の環境を整える事が出来なかった私の力不足だ、こちらこそ申し訳ない。」
いえいえ、いやいやと謝罪の応酬が始まりかかった時だった。ドアからぞろぞろと結構な人数の社員が入ってきた。
「弥生さん。」
佐藤が準備万端とばかりに弥生に白いものを渡してきた。
「えーと、これは?」
「弥生さん知らないんですか?」
知ってはいるけど、場違い感半端ない。
「ハリセン?」
ちょっと重いけど。
「これはですね、あるおぼっちゃまを怪我無く黙らせるアイテム”ハリセン君”です。アルファ仕様ですからかなり頑丈に作ってあります。さあ、弥生さん日頃の鬱憤を晴らしてください。」
と指示された場所ではすでにハリセンで袋叩きにあっている課長がいた。
「俺はいいかな。」
ハリセンを返そうとすると
「弥生さんがしなかったら、彼らがリンチで逮捕されちゃいますけど。」
「俺がやってもそうじゃない?」
「弥生さんが加わるとリンチじゃなくて正当防衛になるんで、彼らも弥生さん保護のために行ったことになります。」
そんな、バカなと思うがおそらく裏でそう調整するんだろう。
「で、彼らは?」
「セクハラ、パワハラの被害は弥生さんだけじゃなかったという事ですよ。」
「なるほど、彼らの鬱憤は晴れたのかな?」
「まあ、何もしないよりは晴れたんじゃないですか。」
佐藤はニヤッと笑うと彼らの方に向いてパンパンと手をたたいた。
さっと人だかりが割れて机の脚に縛りつけられている課長が姿を現す。
さすがハリセン、乱れているが怪我らしい怪我はない。
弥生は片手に軽くハリセンを打ちながら近づくとにっこり微笑んだ。
「いままで、いろいろとありがとうございました。俺からの謝礼です。受け取ってもらえますよね?」
「い、いやそんな気を使わなくても!」
あははは、と笑うと思いっきり振りかぶり打ち付けた。
パァァァン!というハリセンの音というよりは、発砲音に近い音にしんとなる。
あたりにアンモニア臭が立ち込め、課長はピクリとも動かない。
「気に入っていただけて良かった。」
打たれたのは課長ではなく机。
弥生の手には持ち手以外木っ端微塵のハリセン。
「え?アルファ仕様の特別製。」
持ち手だけになったハリセンを佐藤に渡す。
「俺ね、日々のトレーニングは欠かさないんだ。」
とニッと笑った。
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