ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第4章 夏だ! 水着だ! 南国だ!

22 旅立ちはエアストリーム

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 7月24日。
 夏休み前の授業が終わった早朝3時30分、まだ暗い学校の駐車場。
 そこに、銀白色に光るアルミ製超高級キャンピングトレーラーが鎮座していた。

「おいおい、エアストリームかよ。松戸の家って金持ちなんだな」

 俺は思わずそんな事を言ってしまう。

「このキャンパー知っているの? ならうちの父も喜ぶわ」

「普通の新車が5台以上買える値段するだろこれ。そんな気軽に借りていいのか」

 ニート時代にネットか何かで見た事がある。
 確か新車だと1500万位、あるいはもっとした筈だ、確か。

「向こうで中古で買ったから高くないって。日本に帰ってから使っていないしね」

 松戸は帰国子女だったのか。
 確かにそんな雰囲気は、無い訳でも無い。
 傍若無人なところとか。

 早速中へ入ってみた連中から歓声が上がる。

「なんでしょうこの雰囲気、高級ホテルみたいです」

「上質の薫り」

「ん、こんなところで生活できたら素敵かな」

 それはそうだ。アメリカが世界に誇る、最高級キャンピングカー様だ。

「一応水もガスもバッテリーも発電機の燃料も満タンよ。普通に暮らせば一週間は大丈夫だと思うわ」

 俺と松戸も乗り込む
 そして俺は、心の中で思わず手を合わせたしまった。
 松戸のお父様、ありがとうございます。
 どう見ても、下手なホテルより高級で快適です。

「美久、向こうの状況は大丈夫かな」

 松戸は入口の扉を閉め、綾瀬に声をかける。

「今も継続して確認中。問題ない」

「じゃあ、行くね」

 松戸の言葉とともに、ふっと窓の外の景色が消えた。
 何か瞬いているような灰色のような、不思議な感覚。
 この前、瞬間移動した時と同じだ。
 今度は巨大なキャンパーごとだけれども。

 外の風景が変わり、車体がガクン、と揺れた。
 窓の外に現れたのは、まぶしいばかりの青い空と白い浜辺、そして紺碧とエメラルドグリーンが共存する海。

「暑いけど不快な気温じゃない筈よ。だから窓を開けましょ」

「ん、了解。あと女性陣着替えるから佐貫は外。天眼通も使用禁止ね。発動を確認したら本気で殺すからね」

「はいはい」

 別に見る気も……見たら本当に殺されそうだから、やめておく。
 俺はダークオークを基調とした快適な部屋から追い出され、外へ。

 砂浜よりちょっと高い草地。
 そこに銀色の超高級キャンピングカーは若干タイヤが埋まるように駐車していた。

 背後は森林というか、熱帯雨林っぽい樹種の密林。
 前は妙に目にまぶしい程の白さの砂浜。
 俺は砂をちょっと手に取ってみる。
 うむ、見事な星砂。

 見える海は、正面こそ普通に砂浜の入江。
 でも両脇に広がるエメラルドグリーンは、どう見てもサンゴ礁。

 これは絶対日本じゃない。
 どこに連れてきたんだろう、あいつらは。

 そう思っても確かめる術はない。
 それに気温も環境も確かに快適だ。
 見事に南国気分の風景なのに、日本の夏より暑くないというか不快じゃない。
 これは確かに楽しいかも。

 砂浜の所々に違和感を感じる部分がある。
 そんな場所をよく見ると、小さな砂模様の蟹が走っている。
 釣りの餌にちょうどよさそうだ。
 そんなところまで何か楽しい。

「佐貫、着替え終わった」

 委員長の声がするので振り向いてみた。
 見事なまでに4者4様、違うタイプだ。

 綾瀬の水色系花柄ワンピース型は、何かいかにも、って感じで可愛らしい。
 守谷は、白に小さな花柄沢山のふりふり付き2ピース。
 いかにも高校生の正統派美少女系。

 委員長は競泳用っぽい水着デザイン。
 普段の着衣時と比べて、女性らしい凹凸をくっきり感じさせている。
 実はこのボリューム感はこの前抱きしめた際に確認済み。

 問題は松戸。
 黒のビキニに、普段の白衣姿からは想像つかない我儘ボディ。

 もともと大柄なこともあって迫力満点。
 更にややえぐい角度の下パーツが長い脚を強調している。
 反則だろそれ。

「お、見とれてる見とれてる。誰が好みかな、佐貫は」

「今までの実績から委員長と判断」

「ん、どうかな、みらいちゃんの正統派美少女ぶりに見惚れているかもよ」

「私はユーノさんの体形がうらやましいです!」

 はいはい。まあみんな確かに人が多いビーチなら目を引く程には綺麗だし可愛い。
 しかし俺は、こいつらの普段を知っている。
 だから無茶はしない。

 そう思ってちょっと目をそらした俺を見て、松戸がにいっ、って笑う。
 これは肉食系の笑みだ。

「完全なプライベートビーチだしさ。水着なしの解放感に浸ってみるのもいいんじゃないか、と思ったんだけどね」

「危険人物が一人いるからやめた」

 はいはい、危険人物扱いはともかくそれが正解だ。
 だから危険な発想はやめて欲しい。
 というか、危険人物は俺じゃなくて松戸だろう。

「だから水着開放計画は後日持越しで」

 持ち越さないでいい。
 気にならないかと言えば、嘘になるけれど。

「ん、佐貫。それじゃ最初の任務ミッションだよ」

 一度車の中に引っ込んだ委員長が何かを持って戻ってきた。

「お昼は新鮮な海鮮を食べたい、って意見があったんだ。だから頼むね」

 委員長はリール付き釣り竿とたも網、仕掛け色々入りボックスを俺に渡してきた。
 つまり、昼飯のおかずを調達しろという事らしい。

 確かに、クラスメイトの水着批評をして変な気になるよりは、よっぽどましだ。
 なので喜んで、俺は引き受ける。
 エサも目星がついているから。

 車の中に一度入ってバケツを取り出す。
 その代わり最小限の仕掛けだけを出して、ボックスは置いていく。

 仕掛けは針と噛み潰し重りだけの、一番単純な奴。
 念のため針と重りの予備もポケットに入れていく。

 あとは魚つかみとラジオペンチ。
 大昔ネットで見たビデオでは、南の島でこの仕掛けと餌で、結構簡単に釣れていた。
 ここでも行ける筈だ、きっと。

 砂浜で出来るだけ広範囲を見るよう、視点を調節する。
 探している違和感はすぐ見つかった。
 ダッシュでその地点に駆け寄り、小さい蟹をゲット。

 餌と成蟹を3匹ゲットしたところで、いよいよ本番だ。
 入江の中でも流れ込みがあって、ちょっと深いところに仕掛けを投げ込む。
 いったん仕掛けを底に付けて、ちょっと上げてと。

 あっさりヒット。
 結構引くのを、ばらさないようにゆっくりと引き上げる。
 黒鯛にそっくりな魚がかかっていた。

 天眼通で一応鑑定。
 うん、毒は無く美味しい魚のようだ。

 一匹だと大きさと量的に少し寂しい感じなので、餌を付け替えて釣ってで、同じ魚をあと2匹釣り上げる。
  魚がすれていないからか、釣るのは簡単だ。
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