ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第9章 激闘冬合宿!~新型猛獣女子、襲来~

62 最強の管制能力者

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 大食いが更に一人増えた、というのは取り合えず別の話にしよう。
 とりあえず最初の朝食は、三郷先輩にご満足いただけたようだ。

 さて、実戦演習だ。
 いきなり俺は大ピンチ。

 今回の演習は、俺対委員長&松戸&綾瀬連合軍。
 武器は、この前の大会で使ったものの流用。管制担当は三郷先輩が俺側に、みらいが連合軍側についている。

「そっちは佐貫君を殺すくらい本気で狙うです。殺しても死なないとは聞いているです。佐貫君は女の子相手だから当てる程度に加減するです」

 つまり俺は問答無用で死ねということですか、先輩!

「それじゃあみらい、10秒後開始するです」

 俺の運命は三郷先輩の管制に委ねられた。けどこの3人に本気モードで攻められたら……
 また長椅子安置の刑かな。
 綾瀬が増えた分だけ、更に悲惨な事になる可能性も……

『さて佐貫君。君の役目は目の前の3人とみらいに足りないものを教える事ですよ。ギリギリの動きを指示するから頑張ってついて来てくるです』

 三郷先輩から念話が入る。

「え、これって」

『口に出さずとも聞こえるですよ。まずは私の指示に従うです。大丈夫、有効打一つすら与えない予定です。まず神眼を開くです。対象は相手3人、意識を集中する必要は無いです』

 明らかにみらいと違う管制方法だ。
 受け取るデータや指示も、守谷から送られてくるより遥かに少ない。
 でも内容は必要十分でわかりやすい。
 そして。

『3歩前進、150°右展開、美久ちゃんの短刀を払ってZ3軸-2後退』

 実際は言葉よりも、もっと別な形態で指示が送られてくる。
 その内容は非常に具体的だ。

 俺はただ、指示通り動く。
 突如突き出されたとしか思えない綾瀬の短刀が、俺の右の刀で自然に弾かれた。

『一秒後右ひざをついて姿勢を低くして軽く左の剣で前45°度を薙ぐ。手ごたえあったらすぐZ3軸-4Z2軸+2へ後退してジャンプ、上空2mで向き水平』

 委員長の連撃が俺の剣で逸らされ、後方へと通り過ぎる。

『着地、両方の剣でクロスして振り下ろされる太刀を止める』

 一撃必殺の松戸の技が、それだけで見事に止まった。
 太刀が止められた衝撃に絶えきれず、松戸が太刀を落とす。

 パンパン、と手を叩く音がした。

「演習その1終わり。どう、それぞれ弱点分かったですか?」

 鮮やかすぎる。
 3人の行動を止めた俺自身が信じられないくらいだ。
 皆、声も出ない。

「美久ちゃんは狙いはいいんだけど動きが単調。だからモーション開始の瞬間に、位置を少し変えて待ち伏せれば簡単に迎撃されます。
 秀美ちゃんはまだ、異空間使用に慣れていないようです。相手も同等の異空間移動持ちなら、一撃離脱以外で接敵速度を速めるのはマイナス。自分も相手の異空間移動について行けるくらいの速度でないと、逃げられて後ろから追撃されるですよ。
 ユーノちゃん、一撃必殺は外すと隙が大きくなるから、離脱まで含めて行動。一撃で倒せない相手だと即終了になるですよ。
 みらいは学校での管制なら今のでいいです。でも相手が自分たちより遥かに強大な場合は、それじゃ足りないのです。せっかく秀美ちゃんや佐貫君みたいな神眼持ちがいるんだから、起動してもらって見える未来の範囲まで処理した上で。それぞれに最適な動きを指示。あと伝送する情報も、必要なものに絞る事。そうしないと相手がパンクするですよ。
 後は今はこっち側に回ってもらったけど佐貫君。君は圧倒的な筋力と体力があるから、今まで相手の動きを見てから対処する後の先的な戦い方で充分対応できた。でも相手が自分より能力が上の場合は、それが効かなくなる。ユーノちゃんのような、一撃必殺系の技も覚えておいた方がいいですよ。
 以上ですよ」

 怖い、と思う。
 これこそが本来の管制能力なのか。
 委員長や松戸、そして綾瀬の理不尽な異空間移動ですら、読み切って対処できる。

 そんな俺達の考えがわかったのだろうか。
 三郷先輩は、ふっと軽い笑みを浮かべて口を開く。

「実際は私の能力、そうたいした能力じゃないですよ。この前の侵攻の時、私だけでは対処方法は見つけられなかったですしね。という訳で問題提起は終わりなのです。今日は学校もあったから、後は遊んで食べて寝るですよ!」

「もしよければ各自練習を……」

 委員長は今の敗北が堪えているみたいだ。
 しかし。

「駄目です! これからは遊ぶ時間なのです!」

 委員長の申し出を、三郷先輩はあっさり却下する。

「これから美味い魚を釣らなければならないですし、海外お買い物も行きたいです!それに……」

 三郷先輩はそう言って、優しい笑顔で付け加える。

「考えるのは少し時間を置く方がいいです。いますぐ対処を考えたら、狭い狭い範囲で答えを探し回ったあげく、つまらない解答を出してしまうですよ」

 ◇◇◇

 三郷先輩と守谷が釣りセットを持って、サンゴ礁外方向へと飛んで行った。
 松戸と綾瀬は第1回お買い物。日本の商店も開いている時間なので、今日は日本国内を攻める予定らしい。

 俺と委員長は取り残されて、二人でのんびりと海を見ている。

「何か凄かったな、さっきの」

 俺の言葉に委員長が答える。

「ん、さすがにちょっと自信を無くしたかな」

「でも三郷先輩を連れてきたのは、委員長なんだろ」

 松戸がそんな人脈を持っているとは、俺にはとても思えない。

「ん、実はお兄経由で頼み込んだ。お兄も指揮所詰め長いから知っていたみたい」

「確かに実力アップには適任だよな。わずか1回の訓練で、こうも考えさせられるとは思わなかった」

「だね」

 確かにさっきの模擬訓練は衝撃だった。
 指揮方法の違いもそうだし、その効果と戦闘結果も。

 しかしだ。俺は気づいた。
 委員長は基本的には素直で、くそ真っ直ぐな人間だ。
 急いで答えを出すなと言われたら、そんなに長い事同じ件にこだわることは無い。
 それでも何か考えている様子なのは、多分きっと。

「ひょっとして、あの訓練以外に気になっている事があるのか」

「ん、わかったかな」

「何となく、な」

「ん、あのね。重要なことじゃなくて、ちょっと気になっただけなんだけど」

 委員長は少し話しにくそうな感じだ。

「何か下種な感じでいやなんだけどね。三郷先輩とみらい、そっくりだと思わない」

「うーん、雰囲気や話し方は、行動までそっくりだよな。能力もか」

 確かにそれなら俺も感じた。

「顔立ちも体型もよ。今はあのサングラスをしているし、髪形や髪の色、目の色も違うから一見そう見えない。けれど、意識すると怖いくらいそっくり」

「そうかな」

 俺はそこまでは気づかなかった。
 今考えなおしても、よくわからない。

「あとね、あの能力。あんな情報を無差別に収集して整理して、同時に何人にも個別に伝達可能なんて、本来そう何人も同じ能力がいるような能力じゃない」

「内原先輩や松戸も、指揮能力は持っていた筈だけど」

「内原先輩やユーノのは、分隊指揮くらいまでで情報の無差別収集能力もない。内原先輩のは典型的な堕天使系の能力でユーノのは多分神官系。質がまるで違う」

 そうなのか。
 俺には今一つ知識が足りないので、よくわからないが。

「この前の大会の時に気にはなっていたんだけどね。今回目の前で見て確信した。三郷先輩とみらいの能力は根本的にはまるで同じ。今日の訓練の結果は経験の差ね。まあ似ているからってそれが何か、って事はないんだけれども」

 委員長はそう言ってため息をつく。
 波の音が聞こえる。
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