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拾遺録6 俺達の決断
41 ずるいという理由
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甘いと言われるかもしれない。
それでも結婚に最も必要なものは、やはり本人の気持ちだろうと俺は思う。
レノアとフリストの話がさっき出たばかりだけに、余計にそう感じてしまうのかもしれないけれど。
だから俺は、イレーネに質問する。
結婚なんて、口にするにはちょっと重い言葉を使って。
「アコルタ家としては、正しい方法かもしれない。それでもイレーネの個人としての好みや希望だってあるだろう。それに力を貸す方法はひとつじゃない。領主家とうちの集団とで提携したことを公的に発表するとかさ。どうせテモリには俺も世話になっている。今さら気にしなくていい。
だから俺は、イレーネに確認したい。本当に俺と結婚という答えでいいのか? そういう都合で結婚を選んで嫌じゃないか?」
「嫌なわけ、ないじゃないですか! だからこそ、申し訳ないんです」
えっ!?
予想外の言葉が、予想外に強い調子で返ってきた。
この反応が、そして申し訳ないというのが、俺にはわからない。
「カイルさんとそういうことになろうとして貴族家が仕掛けた事案は、全部ではないでしょうけれど、6件ほど聞いています。うち3件は仕掛けた本人も知っています。あくまで知っているというだけで、付き合いはほとんどありませんでしたけれど。
その3人のうち3人とも、ただ家に命じられたからという理由だけでそういうことをしたのではありません。相手がカイルさんだということで、むしろ積極的に自分から仕掛けたと聞いています。もちろん本人からではなく、又聞きですけれど」
6件か。
宿に侵入された事案を全部、知られているようだ。
考えてみれば王都の王立学校なんて、貴族子弟のたまり場みたいなものだ。
そういう噂が何処より早く流れるのも、不思議ではない。
当事者だっていて当然だ。
ただ俺の知らないところでそうやって狙われているというのは、どうにも恐怖というか、勘弁して欲しい。
ただそう思ったところで、疑問が生じた。
なら俺はイレーネの先程の言葉も、同様に勘弁して欲しいと思っているのだろうかと。
違う!
すぐにそう思ったけれど、なら何処が違うのかと考えると難しい。
もちろんそれなりに一緒に活動して、イレーネの人となりをある程度知っているというのはあるだろう。
しかしそれだけではない気がする。
「実際、学校ではカイルさんの話題は結構出ました。でも私個人としては、関わり合いになることは無いだろうと思っていました。私自身は、そのうち関係を深めたい貴族家の次男以降か、領内の有力者の子とくっつかされて、いずれ領主を継ぐのだろう。それ以上には思っていませんでしたし、期待もしていませんでした。それにカイルさんについても、評判と実際は違うだろう程度に思っていました」
つまり結婚とか恋愛とかについて醒めていたというか、夢を持っていなかったということか。
でも確かに貴族としては、イレーネが言っていたのが普通の人生だろう。
それを個人的尺度でどう判断するかは別として。
そうイレーネの言葉を分析する俺とは別の俺が、問いかける。
イレーネが俺をではなく、俺がイレーネをどう思っているんだと。
話がどうなるかを予想した時、そして結婚と聞いた時、お前はどう思ったのかと。
嫌だと感じなかったのは事実だ。
それなら何故嫌だと感じなかったのか。
わからない。すぐには答えが出てこない。
イレーネの言葉は、続いている。
「ただあの夜、炎の魔法と共に現れたカイルさんは、学校での噂なんて程ではないほどに、鮮烈で格好良かったんです。こう認めるのは恥ずかしいのですけれど、一目惚れでした。ただあの拠点に保護して貰って、日々の活動を見ていると、ただ強いとか格好いいだけじゃないことがわかって。他人の意思や立場を尊重しているところとか、十分以上に強いのに魔法や槍術の訓練を欠かさないところとか、子供には基本的に甘くて時々イリアさんから注意が入るところとか。全部がなにか素敵に見えて。
舞い上がっていることは、自分でもわかっています。おかしいとも自分で思っています。それでもカイルさんの近くにいられるのが嬉しくて。出来るだけそういう気持ちは外に出さないようにしていました」
俺はどうだっただろうか。
イレーネ達とカタサーロまで一緒に行ったり、息抜きと称して2人をちょっと離れたイゼラニアに買い物と称して連れ出したり、やはり息抜きと称して魔物討伐に連れ出したり。
楽しかったのは間違いない。
ではその楽しさは、どういう楽しさだったのだろう。
「だから嫌なんてことは、絶対に無いんです。ただそうやって成り行きで、いや襲われていたから助けるという善意を利用して、こうやって近くにいるということそのものがずるいんです。その上領民の生活なんて理由まで使って。
さっき話したような夜這いを使ってなんて詐欺的な方法は、どう考えても好きにはなれません。ですがそういった方法を使った子以上に、私自身がずるい方法を使ったのは結果的に間違いないんです」
なるほど、それが『申し訳ない』なのか。
そう思ったら、更にイレーネの話は続くようだ。
「それに私と結婚してアコルタ家を継いでも、カイルさん自身にプラスになるようなことは何もないんです。爵位そのものは確かに上がるでしょう。ですが名声という意味では、今のカイルさんは既に国内トップクラスです。田舎の子爵位を得たところで大して変わりません。
ですが行動の自由は無くなるでしょう。他の領地で動くのは当然難しくなります。それにカイルさんのことですから、領地運営を他人に任せっぱなしというのはしないし出来ないでしょう。そうでなくともカイルさんは冒険者代表として行事や会議参加が多いんです。領主家に縛り付けたら、それこそ領地と王都の往復でほとんどという生活なってしまいます。
それでもカイルさんが断らないだろうとも思っています。領主家替えというのは、領民にとって間違いなく面倒事であり負担です。新しい領主の行政能力は不明ですし、元アコルタ領についての知識も足りません。どんなに優秀な貴族家が就いたとしても数年程度は、領民にとってもマイナスの状態が続くでしょう。それをカイルさんはわかっているでしょうし、出来れば防ぎたいとも考えるでしょうから」
それでも結婚に最も必要なものは、やはり本人の気持ちだろうと俺は思う。
レノアとフリストの話がさっき出たばかりだけに、余計にそう感じてしまうのかもしれないけれど。
だから俺は、イレーネに質問する。
結婚なんて、口にするにはちょっと重い言葉を使って。
「アコルタ家としては、正しい方法かもしれない。それでもイレーネの個人としての好みや希望だってあるだろう。それに力を貸す方法はひとつじゃない。領主家とうちの集団とで提携したことを公的に発表するとかさ。どうせテモリには俺も世話になっている。今さら気にしなくていい。
だから俺は、イレーネに確認したい。本当に俺と結婚という答えでいいのか? そういう都合で結婚を選んで嫌じゃないか?」
「嫌なわけ、ないじゃないですか! だからこそ、申し訳ないんです」
えっ!?
予想外の言葉が、予想外に強い調子で返ってきた。
この反応が、そして申し訳ないというのが、俺にはわからない。
「カイルさんとそういうことになろうとして貴族家が仕掛けた事案は、全部ではないでしょうけれど、6件ほど聞いています。うち3件は仕掛けた本人も知っています。あくまで知っているというだけで、付き合いはほとんどありませんでしたけれど。
その3人のうち3人とも、ただ家に命じられたからという理由だけでそういうことをしたのではありません。相手がカイルさんだということで、むしろ積極的に自分から仕掛けたと聞いています。もちろん本人からではなく、又聞きですけれど」
6件か。
宿に侵入された事案を全部、知られているようだ。
考えてみれば王都の王立学校なんて、貴族子弟のたまり場みたいなものだ。
そういう噂が何処より早く流れるのも、不思議ではない。
当事者だっていて当然だ。
ただ俺の知らないところでそうやって狙われているというのは、どうにも恐怖というか、勘弁して欲しい。
ただそう思ったところで、疑問が生じた。
なら俺はイレーネの先程の言葉も、同様に勘弁して欲しいと思っているのだろうかと。
違う!
すぐにそう思ったけれど、なら何処が違うのかと考えると難しい。
もちろんそれなりに一緒に活動して、イレーネの人となりをある程度知っているというのはあるだろう。
しかしそれだけではない気がする。
「実際、学校ではカイルさんの話題は結構出ました。でも私個人としては、関わり合いになることは無いだろうと思っていました。私自身は、そのうち関係を深めたい貴族家の次男以降か、領内の有力者の子とくっつかされて、いずれ領主を継ぐのだろう。それ以上には思っていませんでしたし、期待もしていませんでした。それにカイルさんについても、評判と実際は違うだろう程度に思っていました」
つまり結婚とか恋愛とかについて醒めていたというか、夢を持っていなかったということか。
でも確かに貴族としては、イレーネが言っていたのが普通の人生だろう。
それを個人的尺度でどう判断するかは別として。
そうイレーネの言葉を分析する俺とは別の俺が、問いかける。
イレーネが俺をではなく、俺がイレーネをどう思っているんだと。
話がどうなるかを予想した時、そして結婚と聞いた時、お前はどう思ったのかと。
嫌だと感じなかったのは事実だ。
それなら何故嫌だと感じなかったのか。
わからない。すぐには答えが出てこない。
イレーネの言葉は、続いている。
「ただあの夜、炎の魔法と共に現れたカイルさんは、学校での噂なんて程ではないほどに、鮮烈で格好良かったんです。こう認めるのは恥ずかしいのですけれど、一目惚れでした。ただあの拠点に保護して貰って、日々の活動を見ていると、ただ強いとか格好いいだけじゃないことがわかって。他人の意思や立場を尊重しているところとか、十分以上に強いのに魔法や槍術の訓練を欠かさないところとか、子供には基本的に甘くて時々イリアさんから注意が入るところとか。全部がなにか素敵に見えて。
舞い上がっていることは、自分でもわかっています。おかしいとも自分で思っています。それでもカイルさんの近くにいられるのが嬉しくて。出来るだけそういう気持ちは外に出さないようにしていました」
俺はどうだっただろうか。
イレーネ達とカタサーロまで一緒に行ったり、息抜きと称して2人をちょっと離れたイゼラニアに買い物と称して連れ出したり、やはり息抜きと称して魔物討伐に連れ出したり。
楽しかったのは間違いない。
ではその楽しさは、どういう楽しさだったのだろう。
「だから嫌なんてことは、絶対に無いんです。ただそうやって成り行きで、いや襲われていたから助けるという善意を利用して、こうやって近くにいるということそのものがずるいんです。その上領民の生活なんて理由まで使って。
さっき話したような夜這いを使ってなんて詐欺的な方法は、どう考えても好きにはなれません。ですがそういった方法を使った子以上に、私自身がずるい方法を使ったのは結果的に間違いないんです」
なるほど、それが『申し訳ない』なのか。
そう思ったら、更にイレーネの話は続くようだ。
「それに私と結婚してアコルタ家を継いでも、カイルさん自身にプラスになるようなことは何もないんです。爵位そのものは確かに上がるでしょう。ですが名声という意味では、今のカイルさんは既に国内トップクラスです。田舎の子爵位を得たところで大して変わりません。
ですが行動の自由は無くなるでしょう。他の領地で動くのは当然難しくなります。それにカイルさんのことですから、領地運営を他人に任せっぱなしというのはしないし出来ないでしょう。そうでなくともカイルさんは冒険者代表として行事や会議参加が多いんです。領主家に縛り付けたら、それこそ領地と王都の往復でほとんどという生活なってしまいます。
それでもカイルさんが断らないだろうとも思っています。領主家替えというのは、領民にとって間違いなく面倒事であり負担です。新しい領主の行政能力は不明ですし、元アコルタ領についての知識も足りません。どんなに優秀な貴族家が就いたとしても数年程度は、領民にとってもマイナスの状態が続くでしょう。それをカイルさんはわかっているでしょうし、出来れば防ぎたいとも考えるでしょうから」
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