ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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第25章 開拓の日々

第208話 農場の完成

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 2時間後、水源、水路、貯水池までが無事完成した。

 水源は急斜面に対して水平よりやや下向きに30腕60m程掘った穴。これが帯水層からの水路となって水が出てくるという仕組みだ。水量は2数える間に風呂桶1杯分くらいは溜まりそうな位の勢い。

 ここから池へは長さ200腕400m位、幅4半腕50cm位の細い水路で水を導く。いずれ他の方向に水路を延ばせるよう、途中で分水場所を設けられるように作った。
 
 水路から池へ。池の底に水がゆっくりと溜まりはじめている。ただ池が大きいので完全に溜まるまでは時間がかかるだろう。

「あとは水草と小魚を近くの川から捕ってきて、中に入れれば完成です。水草を入れないと小魚が定着してくれないですし、小魚がいないと虫がわく事があるので」

 そこまで考える必要があるようだ。池を作って水草を入れてなんてビオトープを作っているみたいだなと思う。

「水草を植えるなら水を入れる前にやった方が楽じゃない?」

「水草は地上の草のように根っこをしっかり植える必要は無いんです。何なら投げ入れておくだけで大丈夫です。そのうち自然に根がついたものが生えてきますから。
 水草や魚は明日以降、ある程度水が溜まって、触っても冷たくなくなってからですね」

 なるほど。

「それにしても虫がわくとか、だから魚を入れるだなんて、よく気がつくよね。私は思いつかないから感心するな」

「実はずっと前、まだ家にいた頃、理想として考えた農場の形が原型なんです。何種類かの作物を並行して作れば作物の病気が流行ったりした時にも被害が少ないですし、溜め池があると雨が少ない年でも安心ですしって感じで。
 だから楽しいです」

 なるほど。溜め池や畑の広さ、牧草地などの配置は長い事考えた上での形という訳か。確かに細かなところまで行き届いているなと感じる。

「それじゃあともう一仕事くらいできるけれど、どうしようか」

「なら次は家の西側、最初に畑を作る予定地の伐採作業でいいでしょうか」

「わかった。フミノもそれでいい?」

 私は頷く。

 ◇◇◇

 3日後。

 既に貰った土地の2割は開拓済み。
 貯水池の周りはアヒルの脱走を防ぐ為と将来的に放牧地として使えるように広い草地にした。そして家から見て貯水池と反対側に縦100腕、横100腕4ヘクタールの畑を4面作った。

「3人で作業するなら畑はこの広さで充分でしょう。これ以上広くすると魔法やゴーレムを使っても作業しきれないと思います」

 畑の広さはセレスのこんな判断でここまで。

 畑も草地も獣に入って荒らされないよう土属性魔法で壁を作って囲んである。ネズミ返しのような部分もつくったので壁を登られる事もない筈だ。なお家側の部分は木で簡単な戸を作って出入りできるようにしてある。
 
 ただし池に水草や魚を入れたりする作業はまだだ。アヒルもまだ。

「その前に豆と種芋を植えておきましょう。時期を逃したくないですから」

 そんなセレスの指示で、私達は種まきをやっている。今蒔いているのはインゲン豆に近い感じの豆だ。
 セレス曰く。

「2ヶ月くらいで収穫できますし、土の質も良くなるし、最高にお勧めです」

なのだそうである。

 さて、種まきと言ってもただ散らばらせるだけではない。畝を作って2粒ずつ、4半腕50cm程度ずつの間隔で人指し指の第2関節までの深さに植えていくのだ。

 畑を耕して畝を作るところまでは魔法で出来る。しかしこの種まきは今のところ手作業でしか出来ない。そしてどうしても腰や膝を曲げる作業になる。

 その結果。

「農作業って思った以上に腰にくるよね」

「同感」

 私とリディナでそんな台詞を交わす事態になる訳だ。

 なおセレスは私達より作業ペースが速い。同じ場所からはじめたのに、既にかなり先の方まで行っている。これが若さという奴か……なんてまだ10代後半にして言いたくなる位の違い。
 まあ若さの差では無く、作業に慣れているかどうかなのだろうけれども。

「次は種まき専用ゴーレムを作ろう、絶対」

「確かに欲しいよね、それ。でも明日には芋の植え付けもあるんだよね」

 そう、リディナの言うとおり、明日は芋の作業だ。

 植え付ける予定の芋は現在準備中。芋1個につき8個くらいに切った後、切り口に草木灰を塗って日陰で干している。こうやってから植えた方がいいらしい。セレスによると。

「明日には間に合わないよね、植え付け用ゴーレム」

「流石に無理。そのまま使えるのはシェリーちゃんだけ」

 そのシェリーちゃんも既に種まきに参加している。つまり私は私自身種まきをしながらシェリーちゃんも操って種まきをしている訳だ。
 なお、腰や膝が疲れないシェリーちゃんの方が作業は早い。セレス並みの速度で種まき中。
    
 そろそろ膝と腰がやばいかな。仕方ない、回復魔法と治療魔法を起動。少しだけ楽になる。あくまで少しだけ。

「フミノ、私も御願いしていい?」

「わかった」

 リディナにも回復魔法と治療魔法をかける。

 まだ種まきは始まったばかり。畝で6列までしか終わっていない。畝は概ね半腕1m間隔だから、100腕200mの畑の場合は200列……

 しかし、やらなければ作業は終わらない。だから私もリディナも黙々と種まきを続けざるを得ないのだ。

「農業って思った以上に大変だったんだね……」

 リディナのそんな呟きが聞こえる。全くもってその通りだ。頷く気力すら今は無いけれども。
 
 結局、種をまき終わるのに1日かかった。それでようやく、畑1面分。

「あとは種が足りないから、買ってきてからですね。でもまだ芋があります。ですから明日は芋を植えてしまいましょう」

 セレスは元気だ。しかし私は限界ちょい越え。表情と様子を見る限りリディナも私と多分同じ。

「農業って大変なんだね」

「まだまだこれからですよ。それに芋の収穫はもっとずっと大変です。掘り起こさなければならないですから」

 うう……
 収穫期までには絶対ゴーレムでやれるようにするぞ。そう思う私だった。

 ◇◇◇

 翌日の芋植え付け作業は更に重労働だった。

 芋は種より大きい。だから一度に持てる量は少なくなる。
 しかし生物だから自在袋やアイテムボックスに入れる事は出来ない。無くなったらその都度取りに行く必要がある。

 その上植え付ける深さも豆よりやや深い。

 まる1日かけ、何とか持ちこんだ分の植え付けは終わった。しかし持ってきた量が少なかったので植える事が出来たのは畑の半分のそのまた半分くらい。

「これも追加の種芋を買ってくる必要がありますね。豆があと畑1面分、芋はかさばるので今回と同じ、半面のさらに半分。明日買ってきて、一気にやってしまいましょう」

 私とリディナはセレスに気づかれないよう、こっそりため息をついたのだった。
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