ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
129 / 322
第26章 大物討伐

第219話 対クラーケン特殊個体

しおりを挟む
「わかった。騎士団も助かると思う。カレンに連絡しておく」

 カレンさんに連絡?

「連絡出来る?」

「メレナム経由。私とカレン、メレナム、騎士団の各部隊長は意思伝達可能」

 メレナムさんの魔法ならおそらくは空属性。しかし空属性が得意だしそれなりに本でも調べた私でも知らない魔法だ。
 ただ、今は詳細を聞く時ではない。使える物は何でも使うべき場面だろう。

「御願い」

「了解……通じた。了解。御願いしますとのこと。場所はカレンの前」

「わかった」

 そしてリディナ達の方を確認。2人とも起動したようだ。よし、それならアイテムボックス経由で移動。

 ゴーレム2頭が出現した瞬間、カレンさん周辺が少し驚いたようだ。しかしカレンさんはすぐに私のゴーレムだと気づいたらしい。ライ君を操るリディナと会話をはじめた模様。

 これであとは敵を待つだけだ。偵察魔法で見るとかなり近づいてきた様子。もう少しで浜の遠浅部分に入る。

 弩弓部隊や長弓部隊が攻撃を開始した。
 この世界の長弓の射程は本来100腕200m程度。しかし風属性魔法で強化すれば半離1km以上届く。魔力から魔道部隊に混じってリディナが風属性魔法で援護しているのがわかる。

 水上を移動しているクラーケンに矢が降り注ぐ。リディナの腕か騎士団の腕か、矢は吸い込まれるように頭上に降り注ぐ。攻撃魔法そのものではないのでそこそこダメージはある模様。あ、でもそれならば。

 アイテムボックス内に大量在庫しているアコチェーノエンジュの丸太。これの片端を鉛筆のように研いでやる。風魔法その他を使用してアイテムボックス内で加速させ、クラーケンの上で投下。

 おし、刺さった。この攻撃は攻撃魔法ではないから効くようだ。ならば第2弾、第3弾……

「あの大きな杭、フミノ?」

 ミメイさんが気づいたようだ。それともメレナムさんかな。

「特産アコチェーノエンジュの丸太。重いし固い」

 刺さらず落ちたものは再回収して使用。うん、エグくも効果はそこそこある模様。少なくとも矢よりは効いているようだ。

 クラーケンの速度が上がった。どうやら攻撃に怒った模様。そろそろ向こうからも攻撃が来るだろうか。そう思った次の瞬間。

 敵の魔力が一気に膨らんだ。

「来る」

 ミメイさんの台詞。そう、攻撃魔法だ。

 海上が強烈に盛り上がる。壁の様にそそり立った波がこちらに向かって押し寄せてくる。水属性のレベル7攻撃魔法、タイダルウェーブだな。
 しかし見える物理攻撃なら問題無い。

『収納』

 私のアイテムボックスは無制限に近い。実際無制限なのじゃないかと思う位だ。この程度の波、まるごと収納出来る。

「今のはメレ……フミノ?」

 ミメイさんが私に尋ねる。
 さてはメレナムさんから質問か何か入ったな。

「波なら海水を収納するまで」

「わかった」

 攻撃魔法が失敗した事が分かったのだろう。クラーケンの速度がさらに上がる。また魔力が膨れ上がる。来るかな。

 今度は水の衝撃アクアエ・イパルサムだ。セレスの得意魔法。攻撃方向は騎士団方向。威力と規模こそ違うけれども。
 ただし見える物なら収納可能だ。問題無い。

『収納』

 今考えれば混ざり物キメラの爆砕火球もアイテムボックスで収納出来たかなと思う。

 ただあの時は狭い洞窟内で、しかもカーブして飛んできた。だからゆっくり確認する余裕が無かった。

 しかし今はまだ遠距離。しかも舞台は広い屋外。だから見て認識してから対処するまでの余裕が結構ある。

 そうだ、杭攻撃の威力を更に上げる方法を思いついた。今度は尖らせたアコチェーノエンジュに、高熱魔法で火をつける。燃えさかる状態で、加速して投下。

「%&$##!!!!」

 奴は言語化できない音を放った。今のは悲鳴だろうか。それとも怒声だろうか。
 いずれにせよ効いているなら結構。どんどん行こう。

 火杭を作っては投下していく。手間がかかるので連射は出来ない。しかし効果はそこそこある模様。奴の魔力というか体力というか、何かが減っているのが感覚でわかる。

「こんな攻撃、予想外」

「効いているなら問題無い」

 7発目の火杭が突き刺さったところで奴はすっと頭を海面下に沈めた。逃げるか。そう思ったのだが……
 ふっと膨れ上がった気配の後、奴が一気に前進した。方向はまさに私達の方。速度も今までと比べものにならない程の速さ。

「まずい!」

「問題無い!」

 ミメイさんはゴーレム馬で海とは逆方向に走り出す。しかし私は思っている。もっと近づけ、もっとだ。

 クラーケンは足の付け根付近からジェット噴射のように水を勢いよく出している。この方法で一気にこっちに近づいてくるつもりらしい。

 確かにこのままではこの場所は危ない。しかし私にはアイテムボックスがある。中に収納した大量の土砂がある。

 クラーケンと私達の距離は100腕200mまで縮まった。もう奴の巨体もほぼ海上に出ている。海が浅すぎて潜れないのだ。それでも水を噴射してこっちに飛ぶような勢いで近づいてくる。

 だが、そこまでだ。

「取り出し」

 アイテムボックスに収納していた土を全部出す。ミメイさんにわかるよう、あえて声に出して。
 クラーケンとその周囲を土砂が覆う。

 先程収納した岬より遙かに大きな山が出来上がった。少しだけ揺れて土が崩れる。でもそれだけだった。

「ミメイさん、任せた」

「任された」

 ミメイさんは私の意図を理解してくれたようだ。
 山が岩盤化する。今出した部分、全てだ。

「……流石に疲れる。魔力の限界」

 確かにこれだけ大量の土砂に土壌改良魔法を使ったのだ。しかも岩盤化は砂や土、礫よりも更に魔力を必要とする。

「これで出てこられたら化物」

 確かにそうだよな。そう私は思う。
 いずれにせよこれで一件落着かな。そう思った時だった。

「まずい!」

 突如ミメイさんがそう叫ぶ。

「何?」

「中から岩を壊している。岩盤化が間に合わない」

 何だそれ。クラーケンからはどの方向も30腕60m位の分厚さがある筈だ。
 しかし私の偵察魔法でも確かにわかる。奴め、水属性魔法を駆使して岩を壊している。岩が壊れつつある。

「もう無理。魔力が限界」

 岩の表面が割れはじめた。まさに私達の側だ。何か方法はないか。
 ふと思いついた。アイテムボックススキルの限界を試すような方法だ。
 しかし大丈夫、多分私のアイテムボックススキルなら。
 そしてこれならどんな化物でもきっと倒せる。空を飛べない限り。

「大丈夫」

 私はそう言い放って、アイテムボックススキルを起動する。

「収納」

 今度収納するのは今作った山の下の土だ。深さはとりあえず2離4km

「土壌改良魔法」

 下に穴があいたところで、私は土属性魔法を起動する。私の土属性レベルでも砂礫に変えるなら余裕で出来る。

 砂礫に変えるのは今できている山の、クラーケンの周囲。クラーケン本体にくっついている部分は奴の動きを封じるため、あえて残しておく。

 奴が穴の中へ落ちていった。私は偵察魔法で確認しながら奴が這い上がれないよう周囲の土を砂礫に変える。水が出る部分は冷却魔法で凍らせて、奴がその部分を落ちて通過した後、さっと土を出して塞ぐ。

 2離4km下の地下はかなり温度が高い。穴を開けて圧力が抜けると周囲の水が蒸発する位だ。
 深さも温度も充分だろう。私は穴の上の方を土で塞ぎながら、クラーケンが落ちきるのを待つ。

 地響きがした。落ちた衝撃でクラーケンは変形。それでもかろうじてまだ魔力が残っている。しかし周囲は高温だ。奴の苦手とする世界。

 みるみるうちに奴の気配、魔力が減少していく。
 完全に死んだと確認したところで私は奴の死骸を収納。
 アイテムボックスで今開けた穴に土をガンガン入れて塞ぐ。
 問題無さそうだ。ならこれで一件落着としよう。

「終わった。奴の死骸を収納した」

「……力尽くというか論外というか、わかっても理解しにくい方法」

 おっと、ミメイさん、私がなにをやったのかわかったようだ。

「偵察魔法?」

「メレナムが把握。私とカレンにフミノがやった事を伝えた。他の人には何をやったかは知らせていない。規格外過ぎる」

 メレナムさんは私より空属性レベルが高い。だから偵察魔法で何が起きたのか見る事が出来たようだ。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。