ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
131 / 322
第26章 大物討伐

第221話 事後処理、そして

しおりを挟む
 翌々日。
 私はリビング内に横になった状態でヒイロ君、カトル君、ウーフェイ君3頭を同時使用して雑草取り。
 雨のあとは雑草がよく伸びるなあ。そんな事を思いながら。

 何とか豆の畑一面分を終えた頃。人の気配が近づいてくるのを上空視点の偵察魔法が捉えた。
 
 この付近はまだ他に移住してきた人はいない。だから近づいてくるのは新規移住者か、さもなくばうちに来る人だ。
 魔力反応を確かめて後者だと判断。カレンさんとミメイさんだ。

「リディナ、お客様。カレンさんとミメイさん。あと10半時間6分くらいで到着」

 リディナは同じリビング内で調理中。

「ありがとう。それじゃ準備するね。あとセレスを呼んで貰っていいかな」

「わかった」

 シェリーちゃんをアイテムボックス内で起動。
 偵察魔法でセレスの居場所を確認。池の近くだ。アレアちゃん達を放牧したついでにマスコビーの様子を見ている模様。

 シェリーちゃんをセレスの近く、家側の通路上に出す。

『お客さんがまもなく来る。カレンさんとミメイさん』

「わかりました。戻りますね」

 私も草刈り中の3頭のゴーレムを収納し、アイテムボックス内で整備。畑の作業後は泥がついているので水で丁寧に洗い流す。洗ったら魔法で乾燥させ、更にシェリーちゃんも収納して注油作業。

 セレスが身体強化した上で走って戻ってきた。私もゴーレム整備を中断。外に出て出迎え体制。

 すぐに2人がやってきた。この前と同じゴーレム馬に乗っている。ただ今回はあの縮地のような魔法は使っていない。
 家の手前で2人ともゴーレム馬を降りる。

「先日のお礼に伺うのが遅れまして申し訳ありません」

 戦いがあったのは一昨日だし遅くはないと思う。でもカレンさん的にはその場で対応できなければ遅いという事になるのだろう、きっと。

「いえ、お仕事お疲れ様です。どうぞ中へ」

 カレンさんは家を見上げる。

「この家も久しぶりです。使って頂いているんですね」

「ええ。使いやすいですしこの家が一番落ち着きますから」

 お家の中へ入って、カレンさんは一度立ち止まって周囲を見回す。

「懐かしいですね。アコチェーノで泊まらせて頂いた時以来です。そう言えばラツィオでお会いした後、アコチェーノに行かれたそうですね。イオラから手紙がありました。便利なものを作って頂いたそうで」

「いえ、イオラさんにはお世話になりました。ずっと森林組合ギルドの裏庭にこの家を置かせてもらいましたし、仕事も気持ちよく出来ましたから」

 話をしながらリディナはテーブルにお茶セットを出す。今回は定番のチーズケーキと、蜜柑の葉を発酵させて作ったすっきりした味のお茶だ。

「それにしても一昨日はありがとうございました。いきなりミメイが訪問した後、詳しい説明もなくフミノさんに海岸まて来て頂いて。更にリディナさんやセレスさんにもお手伝い頂いた上、結局フミノさんにあの魔物を倒して頂きまして。
 領主に代わりまして心より御礼申し上げます」

「いえ、あんなのが来たら此処も大変ですから。それで街や他の場所は問題は無かったでしょうか」

「特に問題はありませんでした。天候のせいで船も出ていませんでしたし、早いうちに戦闘場所をあの海岸付近に決めて、騎士団が一般の方を近づけないようにしましたから。

 雨天でしたので元々外を歩いている人もほとんどいませんでした。魔物に気づいたのも街では冒険者ギルド職員やC級以上の冒険者十数人といったところです。

 ですのでほとんどの住民はあの魔物が出たことすら知らない状況です」

 なるほど、あの悪天候がむしろいい方に作用した訳か。

 なお今のところリディナとカレンさん2人で会話は進んでいる。ミメイさんや私は話す方では無いし、セレスはリディナほどカレンさんと親しい訳では無いから。

「ところであの魔物退治の恩賞は何がいいでしょうか。A級の魔物ですので冒険者ギルドの方から褒賞金が正金貨20枚一千万円出ます。しかしそれとは別に領主の方からも出すべきでしょう。何かお望みの物があれば教えて下さい」

 おっと、そんな話になったか。しかしなあ……
 私達3人はお互い顔を見合わせる。うん、リディナもセレスも無さそうだ。

「いえ、こちらはごらんの通り開拓も順調ですから。冒険者ギルドからそれだけ褒賞金を貰えれば充分以上です」

 うんうん、リディナの台詞の通りだ。

「褒賞金だけでも充分過ぎる気がします。正金貨20枚一千万円も貰えればもう……」

 セレスも同意見、いや正金貨20枚一千万円という金額に若干目が回り気味という感じ。

「あの魔物が上陸すれば街は壊滅的な打撃を受けた事でしょう。それに騎士団の攻撃はほとんど通じていない状態でした。それを考えても領主として何か御礼をすべきだと思うのです」

 理屈はわかる。しかしお金は充分あるし、開拓も順調。素材関係は魔法金属も含めアコチェーノで大人買いしたので在庫ばっちり。
 うーん……強いて言えば……思いつかない……

 こっちを見たリディナに私は首を横に振る。
 リディナは頷いてカレンさんの方を向いた。
 
「騎士団の攻撃のおかげで魔物が街に近づかなかったのは事実です。
 それに私達の開拓は順調ですし、家畜も畑も現状で3人で出来るほぼ目一杯状態です。お金もローラッテの鉱山の件やその前の討伐等である程度貯めていますから」

「やはりそう言われてしまいましたか」

 どうやらこっちの意見、カレンさん達の予想の範囲内だったようだ。

「わかりました。恩賞は後ほど思いついたらという事にしましょう。地位や役職等で良ければある程度は自由に出せるのですが、フミノさん達はそういったものを望まれないでしょうから。

 あとは連絡事項です。何時でもいいですので冒険者ギルドにあの魔物の死骸の提出を御願い致します。褒賞金の方は準備が出来ています」

「わかった」

 回収してそのままアイテムボックスに入れっぱなしだ。あ、でも待てよ。

「かなり大きいけれど、大丈夫?」

「ええ。ここの冒険者ギルドの裏庭は広いですから。ああいった特殊な魔物は研究対象として王都の研究所に送られます。ですので出来るだけそのまま出して頂けるとありがたいです。特殊自在袋で、魔力担当を複数人つけて運びますから」

 自在袋は容量が大きすぎると魔力を消耗する。だから一般的には400重2,400kg位までしか使われない。

 しかし魔力の大きい魔法使い何名かで共有状態で使用すればそれ以上に容量が大きな自在袋を使用する事が出来る。ただその場合は魔法使いが5~6名は必要だ。だから特殊な場合以外、まず使われることはない。

 つまりは特殊自在袋を使う準備も出来ているという事なのだろう。

「わかった。今日中には行く」

「ありがとうございます。宜しくお願いいたします」

「あと私とスリワラ家騎士団工房からの要望。フミノにゴーレムを見て欲しい。騎士用の馬代わりのゴーレムを作ったけれど、フミノならまだ改良点を思いつくと思う」

 これはミメイさんから。もちろんOKだ。私としても是非見せて欲しい。

「わかった。いつでも」

「ありがとう」
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。