ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⒃ 部隊到着

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 アルベルト氏が来た日から4日後、11の鐘の少し後。

「街道、西側から馬車12台の車列がやってきます。旗から見て第四騎士団です。あと2時間くらいでこちらに到着するでしょう。
 あと1名、馬車から降りて高速で近づいてきます。これはアルベルトさんです。5半時間12分程度で到着します」

 大天幕の方からサリアのそんな報告が聞こえた。

「僕の偵察魔法ではまだ見えませんね」

「ちょうど10離20km先です。アルベルトさんの方はまもなくヒューマさんの魔法でも見えるようになると思います。高速移動魔法にしてはゆっくりなのは、こちらが準備する時間を考えてでしょう」

 サリアとヒューマのそんなやりとりで俺達は個々にやっていた作業を中断する。

 準備は既に終わっている。
 連弩は予備も含めて5台完成しているし、専用の矢も200本準備した。

 ゴーレムで操作する練習も何度か行っている。
 俺が操るゴーレムも、自分と同程度まではいかないがかなりいい線まで動けるようになった。

 出迎え準備をして道の終点地点へ集合したところでアルベルトさんが到着。

「お疲れ様です。迷宮ダンジョンの方は異常無いでしょうか」

「今の所は以前と変わらずです。討伐状況や内部詳細についてはこれから説明致します。こちらへどうぞ」

 ヒューマが受け答えをして、そしてゴーレム車へ案内する。
 お茶とおやつ、本日はプリンを出して、食べながら会議だ。

「既に見えていると思いますが、あと2時間ほどで対策部隊がやってきます。
 魔法偵察隊から魔物誘導分隊を含む15名、工兵隊から12名、歩兵部隊から24名。私を含め合計で52名。今日から準備をして明後日には作戦を開始出来るようにするつもりです。

 到着後、ここの東側の雑木林を使って臨時の拠点設置と、洞窟前広場までの搬送路工事を行いたいと思います。領主には既に連絡済みですが、皆さんの方は宜しいでしょうか」

「わかりました。勿論結構です。こちらこそ宜しくお願いします。もし何でしたら雑木林の切り拓きをしておいた方がいいでしょうか?」

「いえ、工兵隊がいるのでそのままで大丈夫です。それでは迷宮ダンジョンの現況について教えて下さい」

 迷宮ダンジョンの状況説明はサリアから。
 ただ前回の説明と状況はそれほど変わっていない。
 俺達の魔物討伐数が増えた程度だ。

「なるほど。魔物を800匹以上討伐したが、状況は変わりない。リントヴルムもほぼ同じ地点にいる。そういう事ですね」

「その通りです」

 サリアが頷くとともに、今度はヒューマが口を開く。

「ところで部隊が到着した際、私達は部隊の皆さんや隊長さんにご挨拶をした方が宜しいでしょうか?」

「特に挨拶はしなくて大丈夫です。本日来る部隊の方にあらかじめ皆さんについて説明済みですから。
 あと今回の臨時派遣部隊の隊長は私という事になっています。ですので特別な挨拶は不要です」

 なるほど、百卒長と言えば騎士団の中隊長だ。
 標準的な部隊では150名程度の騎士・兵士を指揮する。
 しかも魔法偵察隊は騎士団でも精鋭。
 だから臨時部隊の隊長としても文句ない地位なのだろう。

 そしてその隊長は、美味しそうにプリンを食べ始める。

「それにしても此処のデザートは美味しいですね。騎士団の駐屯部隊には甘い物がほとんどありませんから。何故か酒はそこそこあるのですが、酒より甘い物派の声はあまり反映していないものでして」

 この人は酒より甘いものが好みなのだろう。
 何と言うか、妙にほのぼのしてしまった。

 ◇◇◇

 その後予定通り騎士団が馬車12台とともに到着。
 その日のうちに東側の雑木林を切り拓き、濃緑色の大型天幕を多数設営。
 更に資材を通す為、洞窟前広場まで幅1腕2m長さ80腕160m位の斜路まで作ってしまった。

 以前フミノ先生が魔物見物場を作ったように、魔法一発であっという間に作り上げた訳では無い。
 それでも実質3時間程度でそこまで出来るのは流石だと思う。
 しかも土属性をはじめ火属性、水属性等様々な魔法を工事で使用していた。
 どうやらかなり強力な魔法使いが何人もいる模様だ。

 
 そして翌日、迷宮ダンジョン出口に障壁が作られた。
 障壁が設けられたのは迷宮ダンジョンに入ってすぐ、洞窟が分岐する手前の部分。
 太い丸太を組み合わせた頑丈そうな構造だ。

「火属性の魔法があれば燃やされるでしょう。しかしリントヴルムは水属性と土属性です。鉄のバネで洞窟壁面に食い込む形になっていますので、相当な力で押しても動かない筈です」

 設置した後、工兵隊の分隊長さんが俺達を案内して、そう説明してくれた。

「出入りは魔法で行うのでしょうか」

「ええ。魔法偵察小隊の高速移動魔法か物質転送魔法を使用する事になります」

 この辺の理屈が空属性が苦手な俺にはわからない。
 なので後程、夕食時にサリアに説明して貰った。

「高速移動魔法はただ速く移動するだけではありません。この世界を短絡して飛び飛びに移動する魔法です。
 ですので途中に障害物があっても無視できます。この世界の障害物がある部分を通らなければいいのですから」

「なるほどな。ありがとう」

 そう頭を下げたけれど、実のところやっぱり俺にはよくわからない。
 何となくわかったような気はするけれど。
 しかしサリアが大丈夫というのなら、問題はないのだろう。
 とりあえず今はそれでいい。

「ところでさ、違う話になるけれど、ここの騎士団、親切だし丁寧だよな。障壁について説明してくれた分隊長さんも、それ以外の歩兵風の人もさ」

 レウスの言葉を聞いて、そう言えばそうだなと俺も思う。

「確かにそうだ。国の騎士団はもっと態度がでかい横柄な連中だと思っていた。カラバーラの領騎士団とかは別として」

 これはアギラ。
 やはり同じように感じていたようだ。
 こういった話題について答えを知ってそうな奴と言えば。
 皆の視線がヒューマを向く。

「その辺は騎士団によりますね。近衛とか第一騎士団とかは割と横柄な感じの連中が多いらしいです。使えない貴族子弟が多いからどうしてもそうなってしまうようですね。

 逆に第二以降の騎士団は平民出身がほとんどなので、そういった横柄なのは少ないと聞いています。まあ中には変なのがいるかもしれないですけれど」

 やはりヒューマ、事情を知っていた。
 レズンが感心したように頷く。

「なるほど、騎士団によって違う訳なんだな」

「近衛と第一が特殊なだけだと思います。この2つは魔物討伐等もしないで王都ラツィオで警備しているだけですから」 

 どうやら騎士団も隊によってカラーが違うようだ。

「さて、今日は早めに休みましょうか。明日はいよいよリントヴルム討伐ですから」

「確かにそうだな」

 ヒューマの言う通り明日、10の鐘の時間に作戦開始の予定。
 騎士団百卒長のアルベルトさんも認めた作戦なのだ。
 成功するだろうとは思っている。

 ただそれでも不安が無い訳ではない。
 かつて隣国に出現した際は倒す事が出来ず、広範囲に被害を及ぼしたとされる魔物が相手なのだ。

 微妙に高ぶっている自分を感じる。
 普通には眠れそうにない気がする。

 何なら少し睡眠魔法を自分にかけてしまおうか。
 俺の睡眠魔法なら持ってせいぜい2時間程度。
 明日に響く事はないだろうから。 
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