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拾遺録4 帰りたい場所
3 教育の現状2と明日からの本会合について(エミリア視点)
さて、そろそろ本題に移るとしよう。
私は資料を取り出してリディナに渡す。
「これが明後日からの協議会のスケジュールです。最初に私がかつての義務教育試行実施の結果について発表し、次にリディナに南部でやっている私塾について発表して貰います。これらの内容についての質疑応答で一日目は終了です。そして二日目は、義務教育推進室で作成した試案を発表して、意見を求めつつ案を修正していくという流れになります」
この資料はリディナもはじめて見る筈だ。
ナイケ教会の妨害を防ぐため、外部に出さないようにしていたから。
リディナはささっと一読して、頷いた。
「なるほど、以前の試行と私達の勉強会を横並びで比較して、何が悪いか明らかにするのね。そしてその上で試案を出すと。確かにこの試案ならそれなりに効果があると思うわ」
効果があるというか、何せ中身が……
「リディナ達がやっている私塾の方針を参考にしましたから。カリキュラムも宗教関係を廃し、文字の読み書き、簡単な計算、魔法の3つに絞りました」
「通学の負担を減らすため週2回にした上で、必ず昼食が出るようにする。また学校に通う前の年齢の子供についても、学校で同時に世話をする。確かにこれなら農村部でも、ある程度の生徒は続けられるかな」
子供がやる手伝いで多いのは、下の子の面倒を見ることだ。
学校でその下の子の面倒を見てくれるなら、その分勉強する時間が増える。
そして食事を出せば家の食費が浮く。
貧乏な農家ならこのメリットは馬鹿にならない。
その辺りの考え方は、リディナ達の私塾のやり方をそのまま真似た形だ。
「学校を運営するかどうかが領主家の判断になっている事。そして運営費用は国が7割、領主家が3割となっている事。この辺は何故か聞いていい?」
リディナは的確に試案のポイントをついてくる。
勿論私もそれを予想しているし、回答も準備済みだ。
「この義務教育については、領主家間の温度差がかなりあるようです。この状況で完全に義務にして、なおかつ全て国の負担にした場合、いい加減に学校を運営して、国からの費用を懐に入れようとする領主家が出てくる可能性が高いと判断しました」
リディナが頷きつつ、ため息をついた。
「確かにその通りね。ただ義務教育を採用した場合、10年のスパンで見ると領地の発展具合が大きく変わってくる可能性が高い。逆にいうとその程度のスパンで見ないと結果は出てこない。そこまで待つというのも、現状を考えれば仕方ないか」
リディナの言う通りだ。
各領地の運営については、基本的に領主家の責任となる。
だから国で一律に義務教育をすべきと決めても、その通りにやらない領地が出る可能性が極めて高い。
それならいっそこの義務教育制度の採用そのものは領主家の任意として、補助金を出す形にした方が実効に結びつくだろう。
私達はそう判断したのだ。
「あとはこのカリキュラムと教材よね。冒険者ギルドの協力を得るとなっているけれど、内諾は取れているんだよね」
それは大丈夫だ。既に冒険者ギルド・スティヴァレ国本部を通して、冒険者ギルド大陸本部まで話を通している。
「ええ。将来的には冒険者のレベル向上にも繋がるだろうという事で、テキストと講師派遣、講師の講習についての協力に内諾をいただきました。ただし特定の宗教教育や思想教育を入れず、読み書き計算、魔法についてのみの教育ならば、という条件つきでです」
「となると、あとはナイケ教会とそっち側の貴族が最大の問題って訳ね。そして参加者名簿を見る限り、結構面倒なのが来る感じだよね?」
リディナの言う通りだ。
貴族院の教育担当部会員として、アシャプール侯爵家やスベイ伯爵家といったナイケ教会と組んでいる貴族家から5名来る予定となっている。
更には現場からという事で出席する国立学校校長4名も、元はナイケ教会出身だ。
「その通りです。ですが今回は、監察局のパナピア主席監察官に主司会をしていただく事になっています。他に冒険者ギルドの名誉顧問という立場で、タウフェン公爵をお招きしています。ですから協議会の枠内では、権力に物を言わせる事は難しいでしょう」
パナピア主席監察官は国王庁監察局で、各領主家の監察を担当する第一監察課のトップ。
タウフェン公爵は王族で、現国王の従兄弟にあたる。
故に侯爵クラスの貴族家当主であろうと、無理を通すことはしないだろう。
なんて事は、リディナならわかっているだろうから説明しない。
リディナは頷いた。
「それでもナイケ教会としては、この協議会を何とかする必要がある訳ね。なら貴族に国王庁側出席者を脅させてイニシャティブを取るのが、考えられる方法論その1。それでも上手くいかなそうな場合、参加者を襲撃したり、何らかの事件を起こしたりしてでも協議会を中止させるなんてのが方法論その2。協議会が終われば結論を国王陛下に上奏して、それで結論が出てしまうから」
そう、リディナなら当然、気づくだろうと思っていた。
そして私がリディナを心配に思うのが、方法論その二の方。
だから私は質問する。
「その通りです。そこで質問ですけれど、リディナは協議会の間、どちらに宿泊しているのでしょうか。また安全対策はとってありますでしょうか?」
実際、ナイケ教会側の活動は目に余る状態だ。
既に係員に接触して情報漏洩を働きかけたり、更には脅迫を加えたりなんて事案が確認されている。
勿論それらの行動は予想済みだ。だから警備局とはかって秘密裏に警備を行った。
犯行を確認して公表したのも3件ある。
これらの事案では残念ながら『ナイケ教会本体から指令が出ている』ところまでは明らかには出来なかった。
それでも、『もしこの件で犯罪が起きたら、ナイケ教会の仕業である』とある程度は知られる結果となっている。
そのおかげで現在、事務局に対しての不法な働きかけはなくなっている。
ナイケ神は元々戦いと平和の神だ。
だから冒険者や武道家、騎士等の下級貴族に信者が多かった。
しかしエールダリア教会が失墜した後、国政に食い込むべく、上流貴族への働きかけが活発になった。
しかし商人や農家等の一般平民には、ナイケ教会は全く浸透していない。
貴族への働きかけを活発にして、教会そのものの体制も変化した現在では、武術を扱う武闘家や冒険者からも『あそこは貴族中心主義だから』という目で見られている始末だ。
つまり一般平民のほとんどは、ナイケ教会に好意を持っていない。
更に国政への介入を嫌う貴族家からは、逆に距離を置かれるようになった状態だ。
だからこそ、ナイケ教会側はここで国政に食い込んでおく必要がある。
そして教育局の職員を狙えなくなった現在、協議会を潰す為に、特別報告者として出席するリディナが狙われる可能性が高い訳だ。
だからこそ、リディナに身の安全について聞いてみた訳だ。
対策はしてあるだろうとは思っている。
それでも、やっぱり心配だから。
協議会の特別報告者として以上に、友人として。
私は資料を取り出してリディナに渡す。
「これが明後日からの協議会のスケジュールです。最初に私がかつての義務教育試行実施の結果について発表し、次にリディナに南部でやっている私塾について発表して貰います。これらの内容についての質疑応答で一日目は終了です。そして二日目は、義務教育推進室で作成した試案を発表して、意見を求めつつ案を修正していくという流れになります」
この資料はリディナもはじめて見る筈だ。
ナイケ教会の妨害を防ぐため、外部に出さないようにしていたから。
リディナはささっと一読して、頷いた。
「なるほど、以前の試行と私達の勉強会を横並びで比較して、何が悪いか明らかにするのね。そしてその上で試案を出すと。確かにこの試案ならそれなりに効果があると思うわ」
効果があるというか、何せ中身が……
「リディナ達がやっている私塾の方針を参考にしましたから。カリキュラムも宗教関係を廃し、文字の読み書き、簡単な計算、魔法の3つに絞りました」
「通学の負担を減らすため週2回にした上で、必ず昼食が出るようにする。また学校に通う前の年齢の子供についても、学校で同時に世話をする。確かにこれなら農村部でも、ある程度の生徒は続けられるかな」
子供がやる手伝いで多いのは、下の子の面倒を見ることだ。
学校でその下の子の面倒を見てくれるなら、その分勉強する時間が増える。
そして食事を出せば家の食費が浮く。
貧乏な農家ならこのメリットは馬鹿にならない。
その辺りの考え方は、リディナ達の私塾のやり方をそのまま真似た形だ。
「学校を運営するかどうかが領主家の判断になっている事。そして運営費用は国が7割、領主家が3割となっている事。この辺は何故か聞いていい?」
リディナは的確に試案のポイントをついてくる。
勿論私もそれを予想しているし、回答も準備済みだ。
「この義務教育については、領主家間の温度差がかなりあるようです。この状況で完全に義務にして、なおかつ全て国の負担にした場合、いい加減に学校を運営して、国からの費用を懐に入れようとする領主家が出てくる可能性が高いと判断しました」
リディナが頷きつつ、ため息をついた。
「確かにその通りね。ただ義務教育を採用した場合、10年のスパンで見ると領地の発展具合が大きく変わってくる可能性が高い。逆にいうとその程度のスパンで見ないと結果は出てこない。そこまで待つというのも、現状を考えれば仕方ないか」
リディナの言う通りだ。
各領地の運営については、基本的に領主家の責任となる。
だから国で一律に義務教育をすべきと決めても、その通りにやらない領地が出る可能性が極めて高い。
それならいっそこの義務教育制度の採用そのものは領主家の任意として、補助金を出す形にした方が実効に結びつくだろう。
私達はそう判断したのだ。
「あとはこのカリキュラムと教材よね。冒険者ギルドの協力を得るとなっているけれど、内諾は取れているんだよね」
それは大丈夫だ。既に冒険者ギルド・スティヴァレ国本部を通して、冒険者ギルド大陸本部まで話を通している。
「ええ。将来的には冒険者のレベル向上にも繋がるだろうという事で、テキストと講師派遣、講師の講習についての協力に内諾をいただきました。ただし特定の宗教教育や思想教育を入れず、読み書き計算、魔法についてのみの教育ならば、という条件つきでです」
「となると、あとはナイケ教会とそっち側の貴族が最大の問題って訳ね。そして参加者名簿を見る限り、結構面倒なのが来る感じだよね?」
リディナの言う通りだ。
貴族院の教育担当部会員として、アシャプール侯爵家やスベイ伯爵家といったナイケ教会と組んでいる貴族家から5名来る予定となっている。
更には現場からという事で出席する国立学校校長4名も、元はナイケ教会出身だ。
「その通りです。ですが今回は、監察局のパナピア主席監察官に主司会をしていただく事になっています。他に冒険者ギルドの名誉顧問という立場で、タウフェン公爵をお招きしています。ですから協議会の枠内では、権力に物を言わせる事は難しいでしょう」
パナピア主席監察官は国王庁監察局で、各領主家の監察を担当する第一監察課のトップ。
タウフェン公爵は王族で、現国王の従兄弟にあたる。
故に侯爵クラスの貴族家当主であろうと、無理を通すことはしないだろう。
なんて事は、リディナならわかっているだろうから説明しない。
リディナは頷いた。
「それでもナイケ教会としては、この協議会を何とかする必要がある訳ね。なら貴族に国王庁側出席者を脅させてイニシャティブを取るのが、考えられる方法論その1。それでも上手くいかなそうな場合、参加者を襲撃したり、何らかの事件を起こしたりしてでも協議会を中止させるなんてのが方法論その2。協議会が終われば結論を国王陛下に上奏して、それで結論が出てしまうから」
そう、リディナなら当然、気づくだろうと思っていた。
そして私がリディナを心配に思うのが、方法論その二の方。
だから私は質問する。
「その通りです。そこで質問ですけれど、リディナは協議会の間、どちらに宿泊しているのでしょうか。また安全対策はとってありますでしょうか?」
実際、ナイケ教会側の活動は目に余る状態だ。
既に係員に接触して情報漏洩を働きかけたり、更には脅迫を加えたりなんて事案が確認されている。
勿論それらの行動は予想済みだ。だから警備局とはかって秘密裏に警備を行った。
犯行を確認して公表したのも3件ある。
これらの事案では残念ながら『ナイケ教会本体から指令が出ている』ところまでは明らかには出来なかった。
それでも、『もしこの件で犯罪が起きたら、ナイケ教会の仕業である』とある程度は知られる結果となっている。
そのおかげで現在、事務局に対しての不法な働きかけはなくなっている。
ナイケ神は元々戦いと平和の神だ。
だから冒険者や武道家、騎士等の下級貴族に信者が多かった。
しかしエールダリア教会が失墜した後、国政に食い込むべく、上流貴族への働きかけが活発になった。
しかし商人や農家等の一般平民には、ナイケ教会は全く浸透していない。
貴族への働きかけを活発にして、教会そのものの体制も変化した現在では、武術を扱う武闘家や冒険者からも『あそこは貴族中心主義だから』という目で見られている始末だ。
つまり一般平民のほとんどは、ナイケ教会に好意を持っていない。
更に国政への介入を嫌う貴族家からは、逆に距離を置かれるようになった状態だ。
だからこそ、ナイケ教会側はここで国政に食い込んでおく必要がある。
そして教育局の職員を狙えなくなった現在、協議会を潰す為に、特別報告者として出席するリディナが狙われる可能性が高い訳だ。
だからこそ、リディナに身の安全について聞いてみた訳だ。
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協議会の特別報告者として以上に、友人として。
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