ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録6 俺達の決断

2 翌朝

 今の俺達の拠点は、かつてアリステラさんから譲り受けた状態から大分変化している。
 
「孤児院としても使うなら、それなりの部屋数が必要でしょう」

 そんなサリアの意見で、これでもかという程に増築されたのだ。主にサリア自身の手で。
 だから2人くらい居候が増えても全く問題はない。
 問題はそちらの居候ではなく、サリアが回収しただろう黒覆面の方だ。

 高速移動魔法で自分の部屋に戻り、寝間着から外に出られる格好に着替える。
 部屋から出て、1階のリビングへ。
 部屋にいたのはレウスだけだった。

「お疲れ。皆は?」

「イリアさんは2人を風呂に案内した後、2人を入れる部屋の整備をしているよ。他はもう遅いし、あとは明日考えるという事で寝ている」

 確かにイリアの魔力を上の空き部屋の方に感じるし、馴染みの無い魔力反応2人が風呂の方にあるものわかる。
 しかしある筈の魔力というか、人間の反応が足りない。

「サリアが捕まえた黒覆面は?」

「姉さんが保管したまま。空属性魔法のレベル8『遠隔時間停止収納』なら、人間や動物を時間停止状態で400重まで収納できるそうだから。まだフミノ先生の無限収納にはかなわないって言っていたけれど」

 レベル8なんて、王立魔法院にもいるかどうか怪しいレベルだ。
 
「なら事情聴取なんかは明日か」

「うん。念のため僕が今夜は警戒するつもりだけれど、その必要もなさそうだね。テモリの街全体で、特に怪しい動きはないようだしさ」

 サリアが問題ないと判断して、念のためレウスが警戒しているのなら、問題は全くない。
 今のレウスなら、テモリの街程度なら何処で何人がどう動いているのか、その気になればほぼ完全に把握可能だ。
 勿論昼間のように人が数多く動いていれば大変だろうけれど、今は深夜で、ほとんどの人間は就寝中だから。

「わかった。それじゃ俺も寝ておくとするか」

「うん、そうして。僕は明日は特に用件はないけれど、カイルさんは面倒な業務が増えるかもしれないしさ」

 面倒な業務とは、捉えた黒覆面の始末という意味だろう。
 もちろん始末といっても殺すわけじゃない。
 背後関係に応じて出向くところに出向いて、お話をする訳だ。

 ただおそらくは、出向き先が判明せずに終わるだろう。
 今回の襲撃組織は、おそらくは大手の犯罪組織だ。
 なら心理強制魔法でも情報を漏らさないよう、実行部隊が知る情報は最小限となっている可能性が高い。

 だから俺は、レウスにこう返答する。

「ああ、そうだといいけれどな」

 ◇◇◇

 この家では、朝食と夕食は大人と子供あわせて14人で、大テーブル2つを囲んで一緒に食べる。
 なおこの14人には、昨日保護した2人は含まない。

 何せあんな事が、深夜にあったのだ。
 だから2人には別に食べて貰って、後で事情を聞いて善後策をとるだろう。
 そう、起きた直後は思っていた。

 だが目が覚めて何となく建物内の魔力反応を確認して、すぐに気づいた。
 1階キッチンに、いつもと違う2人の反応があることに。
 
 誰の仕業かは、考えなくてもわかる。イリアだ。
 イリアはサリアとはまた違った方向で、容赦ない面がある。

 昨日風呂や部屋に案内した際、朝食を手伝うように言っておいたのだろう。
 この容赦なさは救いになる時もあれば、余計に救われなくなる時もある。

 まあその辺りについては、イリアなりに相手を見ているとは思う。
 ただイリアが時に豪快すぎることも俺は知っているので、不安が無いかというと……
 早く顔を出した方がいいかもしれない。

 着替えて、途中でささっと洗面して、食堂へ。
 朝の作業がある連中よりは遅いが、それ以外よりは早く食堂に到着。

 なお朝の作業とは概ね、
  ○ イリアが朝食の準備
  ○ レズンが昼食営業の食堂の仕込み
  ○ エミリオが早朝の旧市街見回り
といったところだ。
 あと今日は夜の警戒をしていたレウスもいる。

「あ、カイルさん、おはようございます」

「おはよう。今日から手伝って貰っているのか」

 真っ先に挨拶してきたイリアに、つい聞いてしまう。

「ええ。とりあえずは朝食の準備を手伝って貰っています。 あとで自己紹介してもらいますけれど、イレーネとロザンナです」

 イレーネさんが金髪の魔法使いで、ロザンナさんが栗色の神の剣士か。
 年齢は2人ともサリア達と同じくらい、18歳前後に見える。
 ただその位の年齢でイレーネというと、心当たりが無い訳ではない。
 
「イレーネです。昨日はありがとうございました」

 彼女は名前だけ名乗った。
 ならば今は、それ以上追及すべきではないだろう。

「いや、結局は俺じゃ無くてサリアが片付けてしまったけれどさ。この集団クラン『光の欠片』の名目上の代表者のカイルだ。よろしく頼む」

 俺がクラン名と名前を名乗った時、一瞬だがイレーネさんの表情が動いた気がした。
 意外そうな表情をしたように見えたのだ。

 気づかれている、名乗らなかった、パーティの方の名前に。
 あくまで直感だがそう感じた。
 ただそう思った事は、表情には出さないようにしておく。

「ロザンナと一緒にしばらくお世話になります。よろしくお願いします」

「こっちこそよろしく頼む。特に家事関係はイリアに任せきりだからさ。手伝って貰えるとありがたい」

 これは本音だ。
 例えばイリアはこの部屋数20室以上ある建物の掃除とか、合計14人分の洗濯を1人でやっている。
 俺達が押しつけている訳じゃない。イリアの作業が手早すぎて手が出せないのだ。

「あれを真似するのは無理です。私はもう諦めました」

「イリアさんはリディナ先生の料理とセレス先生の裁縫両方できて、フミノ先生が開発した掃除魔法を全部使えるからさ。あれを手伝うのは無理だって。農場でもレイナくらいしか手伝えなかったんだから」

 以上、イリアと同じ農場出身者2名の証言だ。
 
 ただそのせいで、家事全般がイリアの聖域化してしまっている。
 これではおちおちイリアが休めない。

 だから此処にいる言い訳だとしても、イリアの手伝いが増えるのはいい事ではある。
 問題は、それが何処まで続けられるかだ。
 外の情勢的に2人が此処にいられなくなるか、あるいはイリアの家事能力に2人が諦めの境地に至ってしまうか。
 どちらも俺の杞憂ならいいのだが。
 
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