TS転生悪役令嬢ですが、フラグを壊しすぎて別のフラグが立ってしまいました

於田縫紀

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第5章 魔法大会と発情期

第53話 最初の試合

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「それでは行ってきますわ」

 第3試合途中でリリアとナタリアが出ていった。
 これまでは残念なことに、参考になりそうな試合はなかった。
 全体的なレベルの低さと実践的でなさが、より一層明らかになったというところだろう。

 初戦に勝った場合は、今の第3試合の勝者と本選出場をかけて戦うことになる。
 しかし正直、どうやっても負ける気はしない。

「こうやって見ると、本当に意味のない部分だけ凝っているよね。韻を踏んだり語数を揃えたりとか」

 リュネットの言う通りだ。

「ええ。今では私もそう感じますわ。去年まで疑問に思っていなかったのが恥ずかしいくらいです」

「でもアンが迷宮ダンジョンに誘ってくれたおかげで、私もそれに気づけたんだと思うよ。私も教会や施療院では魔法を使っていたけれど、戦闘での使うことは無かったから」

「威力としてはせいぜい中級程度なのにゃ。なら中級魔法を無詠唱で連射したほうが効率的なのにゃ。こんな試合、それであっさり終わるにゃ」

 ナージャの言う通りだ。

 結局この第3試合も水球魔法と火壁魔法の衝突で終わった。
 お互い長い呪文を延々と詠唱していたけれど、有効な呪文はそれぞれ1発ずつだ。

「何か見て無駄を感じるにゃ」

「だよね。でも次はいよいよリリアとナタリアの番だよ」

 見ている前でリリアとナタリアが試合場へ出ていく。
 本当は大声で応援したいところだけれど、礼法とやらの都合で出来ない。だからただ見守るだけ。
 負けるとは全く思っていないけれど。

 皇太子殿下に礼をして、相手と礼をして、そして主審の教官が試合開始を宣言。
 同時に相手もリリア達も詠唱をはじめる。

「あの呪文は何だにゃ」

六聖獣絶対防護魔法サヴァタージは既に起動しているよ。あの呪文は既に出現している竜を隠すだけの呪文」

「ナタリアの方は一応本物の呪文ですわ。猛獣追牙バ・キ、猫精霊が101匹出現する魔法ですね。無詠唱でも発動できますけれど、わざと唱えているのではないかと」

「あの精霊呪文シリーズなら私も使えるのにゃ」

「元々はナージャに教わった獣牙バ・ガですからね」

「でも獣牙バ・ガよりコントロールしやすくて便利なのにゃ」

 そんな事を話しながら観戦する。
 危機感は全く無い。この辺で負けるとはここの誰も思っていない。

 なおリリアやナタリアの詠唱を暗記されても問題ない。
 2人の魔法はその部分だけでは解析できないようになっている。

 2人が詠唱している部分は、プログラムに例えるならメインの本文部分だけ。
 必要な組み込み関数やサブルーチンに当たる魔法を知らなければ、意味がわからないし起動も不可能だ。

 どうやら相手の呪文が完成したようだ。魔力が集中していく。

「これも中級程度の風属性だね。強風魔法かな、これは」

「そうだにゃ。でも微妙に威力不足にゃ」

 ナージャの言う通りだ。

「要素を詰め込み過ぎた結果、呪文全体での魔法効率が落ちていますね」

 本来はただ強烈なだけの風が、自分の側から相手に吹くだけの魔法だ。
 しかし風の巻き方とか温度とか余分な指定が多い分、全体的な威力が下がっている。
 それでも普通に人が吹っ飛ぶ程度の威力ではある。本来ならば。

 リリアが詠唱を止めると同時に、6体の竜がリリア達の前に出現した。
 大きさは1体あたり馬と同じくらいで、竜としては小さい。
 それでも一気に6体出現すると迫力がある。
 リリアが小さくて可愛いから、余計にそう感じるのかもしれないけれど。

 地を表す茶色の竜が、口からブレスを吐いた。風と相克、土壁を構成する魔力だ。
 竜とリリア達のまわりだけ魔法が相殺される。
 
 ナタリアはすぐには攻撃をかけない。
 相手が次の魔法を仕掛けてくるかをはかっているようだ。
 しkし相手が始めたのは、先程と同種の風の呪文。

「……疾く行け、猛猫よ!」

 ナタリア、待っても無駄だと思ったようだ。
 猛獣追牙バ・キ、私の開発コードではにゃんこ大戦争が起動する。
 
 猫精霊が大量に出現する。
 1体の大きさはそれほど大きくない。いわゆる野良猫サイズだ。
 それでも合計101匹いると、流石にこれも迫力がある。

 出現した猫の群れは、ゆっくりと敵めがけて行進する。
 あくまでゆっくりと敵の周りを囲み、今にもとびかかって襲うような姿勢を示す。

 猫は一応精霊体なので、中級程度の魔法は一切受け付けない。物理攻撃ももちろん受け付けない。
 有効なのは精霊体による直接攻撃か、上級以上の魔法のみ。もしくは術者であるナタリアを倒すか。
 つまり中級魔法を使える程度では手が出ない。

 それでも敵2人は降伏しない。
 気丈にも魔法杖を立てて防護の姿勢で呪文を唱えつつ耐えている。

 これが女の子だったら絵的にそそるのだけれど、残念ながら今回の敵は2人とも男子。
 だから私としてはどうなってもいい。事故になったらまずいから、程々程度で。

 猫数匹が跳びかかって攻撃し始めた。
 猫精霊は全て術者のナタリアの意志で動く。だから実は魔法杖の手から離れた方とか服の裾とか、当たっても怪我にならない部分を狙っているし、肌を傷つけそうなときは爪をひっこめている。

 でも襲われた側は、そんな冷静な事を判断する余裕は無いだろう。
 私でもあんなのに襲われたら怖い。漏らしそうな気がする。

 主審がリリア達の方の旗を上げた。どうやら敵が降伏を認めたらしい。

「あっけなかったにゃ」

「でもこんなものだよね」

 2人の言う通りだ。

「そうですね。あとは他の皆さんが、いかにこの魔法を破ろうと工夫してくれるかですわ」

 実はこれも目的のひとつらしい。
 私がそう考えた訳ではない。サクラエ教官的な目的である。

『これでただ華麗さを誇るだけの見世物の魔法から、真に敵を倒すための魔法探求へと目的が変わるだろう。この六聖獣絶対防護魔法を破る事はきっと出来ない。それでも破ろうと模索する過程こそが、攻撃魔法について考え直すきっかけになる筈だ』

 そう教官は言っていた。
 そう上手くいくかどうかは、私にはわからない。
 しかし確かにそうやって、意味の無い華麗さの追求から実践的な方向へ志向が変わるなら、それなり意味はあるだろうと思う。

 リリア達が戻って来た。

「緊張しましたわ」

「でも想定通りでした」

 私達は2人を拍手で迎える。
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