病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀

文字の大きさ
112 / 266
第13章 リゾートモードの筈なのに

第104話 自動車改良無事完成

しおりを挟む
 朝食後、車を停めている玄関前に出てみる。でっかい流木が2本車の脇に並べてあった。
 2本とも一番太い部分が直径が60cm以上、長さは5腕10mありそうだ。

「これは立派だな。重かっただろ」

 俺なら持ってくるどころかこの場から動かせないだろう。

「トレーニング代わりにはちょうど良かったな。引っ張っても固いから大丈夫だし」

「でも砂浜でこれを引くのはかなり足腰がきつかったぞ」

 どうやら2人で1本ずつ引っ張ってきたようだ。そしてシンハ君にとってはそこそこ余裕で、ヨーコ先輩にはかなりきつい作業だった模様。
 ここは一応注意しておこう。

「ヨーコ先輩、シンハにパワーで付き合わない方がいいですよ。こいつは細胞レベルで頑丈人間スパルタカスですから」

 横で俺と同じくらいシンハのことを良く知っているミド・リーがうんうんと頷いている。
 頑丈人間スパルタカスとはこの国の人気娯楽小説の主人公。馬車と衝突すると馬車が壊れ、鋼製の投げ槍をパンチで撃破する。
 もちろんファンタジーとして書かれているのだろう。しかしシンハ君を知っている俺やミド・リーにはとても虚構の存在とは思えない。

「そういえばミセン山噴火の際、クシーマ卿がパンチとキックで地形を変え、土石流のコースを街から外したと聞いた事がある。私は噂に尾ひれがついたものだと思ったのだが、あれは実話なのだろうか」

「僕の父は現場を見たって言っていたよ。支尾根をひとつ完全に崩してコースを曲げたって」

 ヨーコ先輩とシモンさんから新証言が出てきた。どうやらシンハ君の親父も頑丈人間スパルタカスだったようだ。
 見かけは柔和でそう感じさせないのだけれど、目撃者がいるなら間違いあるまい。

「何かずるいな。私のは単なる身体強化だけなのに」

「先輩は身体強化の他に風魔法も使えるだろ」

 ヨーコ先輩に対するシンハ君の口調が変わったな。俺は気づいたがあえて指摘はしないでおく。
 それより本題は木の方だ。

「シモンさん、材料はこれで大丈夫かな」

「充分だよ。よく乾燥しているし堅くて使いやすそう」

 そう言って彼女は魔法アンテナを蒸気自動車と木の方に向ける。
 なおシモンさんの魔法アンテナは先輩達のものより更に更に改良されている。反射器が上下に2本多かったり、導波器が更に2本追加されていたり。
 おかげでただでさえ大きいアンテナが異常なまでに大きくなった。でも戦闘用ではないのでこれでいいのだそうだ。

「じゃあ屋根を錬成するよ」

 そう言うと同時に屋根部分が出現している。しっかりとした真鍮フレームの柱に木製のちょっと分厚い屋根。
 分厚いのは物を置く場所を作っているからだ。その上は革でカバーして荷物が落ちないようになっている。

 蒸気自動車の形は21世紀初頭の自動車を知っている俺から見るとかなり異形だ。
 前部分はスーパー7とか古い車のボンネットをごくごく短くしたような感じ。前輪のすぐ後ろに運転席と助手席。そこから2列目、3列目、4列目と座席は少しずつ高さが上がっていく。
 4列目の席の足の高さがちょうど後輪の上くらい。その後ろは石炭庫。一番後ろに薄型の煙突が屋根の上まで伸びている。

 車体そのものは前傾姿勢だが屋根は一番後ろの席にあわせた高さで水平。以前ネットか何かで見たT型フォードに何処かのスタジアムから持ってきた高さが段々になっている座席を4列のせ、後ろに煙突付きボイラーと石炭庫をくっつけたような形。と格好いいとは言えない形だ。

「少し座席が低くて乗りやすくなったかな」

「屋根の荷物はどうやって載せるの」

「一番後ろの椅子の上に立つとちょうど荷物室に手が届くようになっている」

「本当だ。上に穴がある」

「それで入らないなら革製の部分を開ける事も出来るよ」

 見てみるとなかなか細かい細工がしてある。大きめのレバーで簡単に革製のカバーを張ったり外したりも出来るのだ。
 こういった細かい工夫もシモンさんの腕だ。一瞬のうちに細部まで全部イメージ出来る物なのか。俺にはとてもそんな真似は出来ない。
 
「どうする。試運転してみる?」

「そうだな。ついでに買い物をしてこようか」

「それなら石炭も一応買っておこうよ。帰りに一気に帰れるし」

「ならまとめて買い出しだな。皆に行くかどうか聞いてこよう」

 そんな訳で一通り確認した結果。
 アキナ先輩、シモンさん、ミド・リー、俺の4人で行く事になった。

「まずは石炭を買って、それから食品市場かな」

「それなら最初は工房街の資材市場にご案内致しますわ」

 なぬ、資材市場だと。魅力的な響きだ。

「石炭以外も資材市場で見てみていいですか」

「勿論ですわ」

 よし。何か面白い素材が手に入るかもしれない。

「ここの工房街ってどんな場所なの」

「ウージナと同じで船や馬車、農具や鍋釜等を作ったりする工房が中心ですわ」

「何かアージナならではの資材とかはありますか」

「残念ですがウージナとそう変わらないと思いますわ」

 それでも実際に見れば何かあるかもしれない。ちょっとだけ期待を載せて蒸気自動車は走る。
 
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...