病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀

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第18章 めでたく夏合宿

第154話 きっとこれは言わぬが花?

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「よく見ると色々な花が咲いているんですね」

 行きは上ばかり気にしていた。しかし帰りは花を愛でる余裕もある。

 森林限界より上で大きい木が無いからかこの辺は草の花が多い。ピンク色のや黄色いの等、小さいけれど綺麗な花がよく見ると色々咲いている。

 写真を撮れたら記録に残せるのにな。ユキ先輩のイラストもカラーの道具が無いから白黒しか描けないし。

「持って帰ってもどうせ持たないでしょうしね。記憶に残すしかないでしょう」

「でも綺麗だよね。よく見るといっぱい咲いていて」

「一つ一つの花も可憐でいいですし、あちこちに咲いているのを全体像で見るのもいいですね」

 そんな感じであちこち見ながら下りていく。

 帰りはペースが早い。休憩1回目でもう森林限界よりずっと下まで下りてきた。  

「あと1回休憩を入れるか入れないかで帰れるかな」

「そうですね」

 さっき通過した道標に下りあと1時間半と書いてあった。
 ただそろそろ膝が疲れてきたかな。足首も大分疲れている感じ。
 身体強化魔法を切れ間無くかけているから今はまだ大丈夫。ただ帰って魔法が切れた時の事を考えると恐ろしい。回復魔法連発で大丈夫だろうか。

 再びレモン水を回し飲みして一気に下りる。小さく別荘地が見えてきたなと思ったらどんどん近づいてきて、割と簡単に到着。
 強化魔法ぎりぎり3回でなんとか辿り着いた。ただそろそろ足の筋肉が危険な気がする。

「ちょっと部屋で休んでいる。疲れたしさ」

「今日はミタキにしては頑張ったものね。大分魔法を乱発したようだけれど」

 ミド・リーめ。気づいていたか。

「入念にストレッチをしておいた方がいいですよ。まだ筋肉が温かいうちに」

「わかった。ありがとう」

 ナカさんの忠告に礼を言って自分の部屋へ。自分に清拭魔法をかけた後ささっと服を着替えてベッドに寝転がる。
 回復魔法をかけたところで身体強化魔法が切れた。どっと押し寄せる疲労感。
 やばい、これはやばすぎる。俺は何とかベッドに倒れ込むとそのままぐったりと……

 気がつくと外が暗くなりかけていた。慌てて身体を起こそうと……
 ウギャッ! やばい、全身凝り固まっている。ザックを下ろしているから回復魔法を使えない。


 何とか転がってベッドから脱出し、足を床につける。膝がガクガクしていてスネがガチガチでうまく立てない。
 腰までかなりきている。真っ直ぐ前に歩くのが辛い。むしろ後ろ向きで歩く方が楽という訳のわからない状態だ。

 何とかザック内の魔法杖の効果範囲まで来た。
 回復魔法、対象俺! 回復魔法、対象俺! 回復魔法、対象俺!3回かけて少しだけましな状態になる。
 あくまで少しだけだ。後ろに足を引くような怪しい歩き方で移動して部屋を出る。

 ちょうど夕食の準備をしているところだった。遅れたかなと思ったのだけれど今日は遅めのようだ。

「ちょうど呼びに行こうかと思ったところです」

「私は寝かせたままでもいいと思ったんだけれどね」

 なお俺以外は揃っているようだ。

「それでどう、足を上げられる? 前方向の段差とか大丈夫?」

 どうやら状態はミド・リーにバレている模様。

「多分明日はまともに歩けないぞ。身体強化を使いすぎるとそうなるんだ」

「要は筋肉痛の酷い奴だな。時間が経たないとなおらないけれど、その分筋肉も付くからさ。明日は十分休めばいい」

「元々ミタキは運動不足だしね。ちょうどいいかな」

 なるほどそういう事か。皆さん俺の状態はおわかりだと。
 それにしても確かに歩くのすら不自由な状態だ。これに明日は筋肉痛も加わるのか。
 回復魔法で何とかならないだろうか。何か気が重い。


 ◇◇◇


 身動きが不自由なのはともかくとして。夕食は美味しかった。

 本日の夕食は正統派のアストラム西部メニュー。牛すね肉のトマトソース煮、冷製の豚肉や牛肉、ハムの肉巻きなんて肉類。挽肉と香草のパスタ、バゲット風のパン、チーズ。サラダは生肉のマリネ等が入った豪華版だ。

「凄い。よく登山の後にこんな豪華に作れるなあ」

「今回はユキ先輩と私で作ったのだ。西部らしい料理なのだ」

「動いた分は食べませんとね。それに毎日美味しい夕食を作って貰っていますし」

 確かにうちの合宿のメニューは美味しい。お金と手間を惜しまないからなのだろうけれど。
 肉類はおろかパスタもパンも無茶苦茶美味しい。俺自身が小食なのが恨めしい程だ。
 薄切りのバゲット風にレバーペーストのせて食べるのすら無茶苦茶美味しい。

「この肉の冷たいのもいいよな。ちょっととろっとした感じがあって」

 肉食のシンハ君は相当気に入っている様子。

「よく煮込んだ後冷やすとゼラチン質がかたまるんですよ」

 肉の冷製も含めてこの辺の食べ方はウージナには無いな。

 さて、思い切り食べた後は歓談時間だ。カードゲームもいくつか持って来たけれどその前に。

「そう言えばユキ先輩、山頂からの風景以外にも色々スケッチしていますよね。よかったら見せて頂けませんか」

「今回は記録ですから面白い絵はありませんけれど」

 そう言ってユキ先輩は立ち上がり自分の部屋へ行って戻ってくる。歩き方から見るに筋肉痛等は出ていない模様だ。実に羨ましい。
 皆でスケッチブックを取り囲んで見てみる。


 なおアキナ先輩だけ歩き方が微妙にぎこちない。仲間発見だ。しかし言わぬが花って奴だなこれは。

 スケッチブックに描かれた絵を一枚ずつ見ていく。

「綺麗だよね。こんな風に描けたらなあ」

「絵としての面白みは無いですけれどね」

「先輩はそう言うけれどやっぱりいいよこれ」

 次々にページをめくっていく。
 例の漫画絵で調理中を描いたのも見た。

「これって山頂で料理をしている時の絵ですよね」 

「凄いよね。これだけの線なのに誰が何処で何をしているのかすぐにわかる」

 いつの間に、と思うような場面も多い。最初に休憩した場所からの景色とか、帰りに見た花のアップだとか。

 そしてまた明らかに違うタッチの絵が出てきた。デフォルメされた女の子が恐る恐る歩いている感じの絵だ。足がしびれているか何かでうまく歩けない感じ。

「えっ」

「すみません。これは今回の登山とは関係ない絵です。ちょっと別の事を考えてメモ代わりに描いただけで」

 タカス君の声にユキ先輩が慌てた感じで説明する。

「それってアキカちゃんですよね。『ユリナちゃんは妄想症』の」

 何だそれ。

「そう言えば似ているな、というかそのものだ」

 ヨーコ先輩も反応した。ユキ先輩が若干焦ったような表情をしているのが見える。

 ちょっと待て、それ以上踏み込んじゃいけない。そんな俺の思いを踏みにじるようにシンハ君が尋ねてしまう。

「その何とかは妄想症というのは何なんだ?」

「『ユリナちゃんは妄想症』は『愛と恋のマガジン・やっちゃお!』開催の漫画新人賞で優秀賞を取った漫画だ。異性愛ばかりの一般女子漫画に日常的な百合風味を持ち込んだ事で一気に話題になった。でも冬に……」

「まあそれはいいですから」

 ユキ先輩はそう言ってタカス君の台詞を遮り、スケッチブックを閉じる。

「それよりアキナとミタキ君、筋肉痛の方は大丈夫ですか。もし酷いならお風呂に入った後ゆっくりストレッチとマッサージをすれば少し楽になります」

「後でやってみますわ。ありがとうございます」

 今もアキナ先輩の返事も微妙に変だ。少しばかり台詞がいつもより早い気がする。

「俺も後でやってみます」

 そう返事をしながら俺は別の事を考えている。
 そう言えばさっきのイラストの女の子、何処となくアキナ先輩に似ていたよな。デフォルメされていたけれど黒髪ロングで顔とかもどことなく。
 名前もアキナ先輩にアキカちゃんだし。あの歩き方も足が痺れているのではなくひょっとして筋肉痛では……

 そうだとすればこの件はきっと、この場では追及しない方がいい。取りあえず今この場でこれ以上この話題は避けるべきだろう。多分間違いなく。
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