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第3章 迷い考えて作るんだ!~魔法工学生の夏~
12 小話2の1 切れない事も必要だ
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うちの高専は、授業や試験が厳しいが課題製作も多い。
慣れていない1年生のうちは、これが本当に厳しいのだ。
香緒里ちゃんも例外ではないらしい。
「修兄、ちょっと課題でヒントが欲しいんですけれど」
いつもの工房で課題用のアルデュイーノのプログラミングをしていた俺に、香緒里ちゃんが尋ねる。
「何?」
「今度の課題は魔法を使った便利な家庭の道具という事なので、よく切れる包丁を作ろうと思ったのです。でもなかなか上手く行かないんです」
「どんな感じに上手くいかないんだ?」
俺は聞いてみる。
「まず最初は普通の包丁に『何でも切れる』という属性を付与してみました。するとうっかり触ることすら出来ない包丁が出来ました。置いただけでまな板を包丁の形に切って潜っていきそうだったので、慌てて付与魔法を消去しました」
確かにそれはありそうな話だ。実際に作った話ははじめて聞いたけれど。
「次は刃の部分だけ何でも切れるという属性を付与してみました。でも試しに大根を切ってみたところ、大根とともにまな板まで切って更にキッチンの奥の方へと全部切りながら落ちていって、そのまま行方不明になりました。今頃あの包丁はマントル層まで辿り着いたでしょうか。キッチンそのものは直しましたけれど心配です」
「まあ未だに噴火が起きていないから心配する必要は無いだろうな」
「そうですね」
彼女は頷いて更に続ける。
「食品はほぼ炭素が入った物質で出来ているので、次の試作では炭素と炭素の結びつきを切断する属性を付与してみました。今度はキッチンは切らずに済みましたがやっぱりまな板が切断されてしまいました。なので今、どうすればいいかわからなくなったのです。締切は明後日です。諦めて他のものを考えたほうが良いでしょうか?」
成程、状況はわかった。
「本当は『食品に限定して切る』属性を付与出来れば良いんだけどさ。それは無理なんだろ」
俺の確認に香緒里ちゃんは頷く。
「食品という分類分けだときちんと定義できないのです。人によって分類が変わったりするので。定義しきれないものは付与出来ません」
成程。
「切りたいものを切る、も駄目なんだな」
「定義しきれないから駄目です」
「なら切る時の動作で分けるしか無いな」
「動作、ですか」
「例えば包丁は普通押し当てるだけじゃない、引いて切るだろ」
俺が包丁を使う動作をしてみると、香緒里ちゃんは頷く。
「確かに引いて切ります。でもそれがどうなるのですか」
「引かなければ切れないようにするのさ。普通はまな板まで刃が到達したらそれ以上包丁を動かさないだろ」
「でもそんな属性はどうやって付けるんですか。水平面での速度差があれば切れるというのでは、まな板の上でしか使えない包丁になると思うのですが」
「魔法の属性じゃなくて構造で作るのさ」
この辺の発想の違いは俺と香緒里ちゃんの経験差だ。
「イメージしてみてくれ。包丁に5mmごとに何でも切れる場所とただ細い刃があるだけの場所を作る。包丁の刃に垂直に5mmの縞縞がある感じだ。イメージできるか」
「ええ、それは大丈夫です」
よろしい。それでは次の段階だ。
「それで切りたいものの上でその包丁をスライドさせてくれ。切れる部分が僅かに出来るよな。次に包丁をスライドさせるとその横の部分が切れる。それを繰り返すと」
香緒里ちゃんは少し考え込み、そして顔を上げる。
「確かにそれなら引けば切れるし、引かなければちょっと切れただけで包丁が止まります。うん、確かに出来ますね」
「だろ」
別にこの発想は俺のオリジナルじゃない。
いわゆる波刃の包丁の原理と同じだ。
切れる部分と引っかかるだけの部分があるから、トマトみたいな斬りにくいものも簡単に切れる。
それを魔法に応用しただけ。
「じゃあ、あともう一つお願いです」
「何だい」
「せっかくだから素体の包丁も最高の物を作りたいんです。だから鈴懸台先輩のクラウ・ソラスを作った方法を知りたいです。あの方法で最高の包丁を作ってみたいです」
これを教えるのは結構面倒臭い。
手順だの注意点だのが結構あるからだ。
しかしそういう発想と意志は俺は嫌いじゃない。
それでこそ物作り屋だと思うからだ。
「あれは日本刀の作り方の応用だ。包丁にも適しているだろう。あの時の材料が包丁数本分くらいは残っていたと思う。ちょっと待ってくれ」
俺はこの部屋に持ち込んでいる俺のストックボックスを漁る。
黄土色の油紙に包まれた長さ30cm強の細い鉄の板材があった。
「これだ、青紙スーパー」
「黄色い紙ですね」
お約束のベタなネタだ。
青紙というのはその紙じゃない。
「青紙って言うのは鋼材の名前だ。日立金属の安来工場が生産している和式刃物専用の、とっても品質のいい鉄だと思ってくれれば間違いない。青紙スーパーだと包丁用にはちょっとオーバースペックだけど、まあいいだろう。刃に魔法付与しているから研がないだろうし」
ちなみにこの工房には、日本刀等の作成用に高温の炉も3種類作ってある。
香緒里ちゃんの魔法付与能力で作った、それぞれちょっとチートな炉だ。
これと魔法工具があれば日本刀に近いものをかなり短縮した工程で作れる。
「日本刀の作り方とはちょっと違う、魔法を使った略式だけどさ。まずは刃の部分と外側の部分、芯の部分を組み合わせる。クラウ・ソラスは高熱に耐えられるようにメインは軟鋼、刃の部分だけ青紙でちょっと長めに、芯も軟鋼で更に刃と芯の間に魔力伝達用の特殊銀を挟んだ。しかし今回は包丁だから刃の部分だけ青紙で他外側はステンレスがお勧めかな。包丁は水回りで使うから少しでもサビにくくしたいから」
「うーん、今回はお勧めでいいです。要は用途に応じて性質の違う鉄を組み合わせるということが理解できればいいですか」
「それで十分。後は実際に作るときに研究すればいいさ。ネットにも色々載っているし」
俺は青紙と同じ厚さのステンレス材をこの部屋のストック場所から出す。
「包丁の形はどんな形。出刃でも牛刀でも何でもできるよ」
「うーんと、図で書いてみていいですか」
俺がいつものスケッチブックを渡し、香緒里ちゃんに図を書いてもらう。
この形は包丁界の定番、牛刀で、刃渡りは21cmくらいでいいだろう。
俺はこの前も使ったノギスファンネルを起動。
スケッチブックの図を読み取らせ、CADに表示させる。
ベジェ曲線使ってちょっと歪んだ線を修正し、更に鋼材の厚さを入力したり幅と厚みと仕上げ寸法の差考慮しつつ大体の値で修正して。
青紙とステンレス材をカット。
4D自動グラインダである程度形を整える。
出来た鋼材を香緒里ちゃんの前で組み立てれば、形だけは包丁に近い。
「これで大体包丁のイメージになっただろ」
慣れていない1年生のうちは、これが本当に厳しいのだ。
香緒里ちゃんも例外ではないらしい。
「修兄、ちょっと課題でヒントが欲しいんですけれど」
いつもの工房で課題用のアルデュイーノのプログラミングをしていた俺に、香緒里ちゃんが尋ねる。
「何?」
「今度の課題は魔法を使った便利な家庭の道具という事なので、よく切れる包丁を作ろうと思ったのです。でもなかなか上手く行かないんです」
「どんな感じに上手くいかないんだ?」
俺は聞いてみる。
「まず最初は普通の包丁に『何でも切れる』という属性を付与してみました。するとうっかり触ることすら出来ない包丁が出来ました。置いただけでまな板を包丁の形に切って潜っていきそうだったので、慌てて付与魔法を消去しました」
確かにそれはありそうな話だ。実際に作った話ははじめて聞いたけれど。
「次は刃の部分だけ何でも切れるという属性を付与してみました。でも試しに大根を切ってみたところ、大根とともにまな板まで切って更にキッチンの奥の方へと全部切りながら落ちていって、そのまま行方不明になりました。今頃あの包丁はマントル層まで辿り着いたでしょうか。キッチンそのものは直しましたけれど心配です」
「まあ未だに噴火が起きていないから心配する必要は無いだろうな」
「そうですね」
彼女は頷いて更に続ける。
「食品はほぼ炭素が入った物質で出来ているので、次の試作では炭素と炭素の結びつきを切断する属性を付与してみました。今度はキッチンは切らずに済みましたがやっぱりまな板が切断されてしまいました。なので今、どうすればいいかわからなくなったのです。締切は明後日です。諦めて他のものを考えたほうが良いでしょうか?」
成程、状況はわかった。
「本当は『食品に限定して切る』属性を付与出来れば良いんだけどさ。それは無理なんだろ」
俺の確認に香緒里ちゃんは頷く。
「食品という分類分けだときちんと定義できないのです。人によって分類が変わったりするので。定義しきれないものは付与出来ません」
成程。
「切りたいものを切る、も駄目なんだな」
「定義しきれないから駄目です」
「なら切る時の動作で分けるしか無いな」
「動作、ですか」
「例えば包丁は普通押し当てるだけじゃない、引いて切るだろ」
俺が包丁を使う動作をしてみると、香緒里ちゃんは頷く。
「確かに引いて切ります。でもそれがどうなるのですか」
「引かなければ切れないようにするのさ。普通はまな板まで刃が到達したらそれ以上包丁を動かさないだろ」
「でもそんな属性はどうやって付けるんですか。水平面での速度差があれば切れるというのでは、まな板の上でしか使えない包丁になると思うのですが」
「魔法の属性じゃなくて構造で作るのさ」
この辺の発想の違いは俺と香緒里ちゃんの経験差だ。
「イメージしてみてくれ。包丁に5mmごとに何でも切れる場所とただ細い刃があるだけの場所を作る。包丁の刃に垂直に5mmの縞縞がある感じだ。イメージできるか」
「ええ、それは大丈夫です」
よろしい。それでは次の段階だ。
「それで切りたいものの上でその包丁をスライドさせてくれ。切れる部分が僅かに出来るよな。次に包丁をスライドさせるとその横の部分が切れる。それを繰り返すと」
香緒里ちゃんは少し考え込み、そして顔を上げる。
「確かにそれなら引けば切れるし、引かなければちょっと切れただけで包丁が止まります。うん、確かに出来ますね」
「だろ」
別にこの発想は俺のオリジナルじゃない。
いわゆる波刃の包丁の原理と同じだ。
切れる部分と引っかかるだけの部分があるから、トマトみたいな斬りにくいものも簡単に切れる。
それを魔法に応用しただけ。
「じゃあ、あともう一つお願いです」
「何だい」
「せっかくだから素体の包丁も最高の物を作りたいんです。だから鈴懸台先輩のクラウ・ソラスを作った方法を知りたいです。あの方法で最高の包丁を作ってみたいです」
これを教えるのは結構面倒臭い。
手順だの注意点だのが結構あるからだ。
しかしそういう発想と意志は俺は嫌いじゃない。
それでこそ物作り屋だと思うからだ。
「あれは日本刀の作り方の応用だ。包丁にも適しているだろう。あの時の材料が包丁数本分くらいは残っていたと思う。ちょっと待ってくれ」
俺はこの部屋に持ち込んでいる俺のストックボックスを漁る。
黄土色の油紙に包まれた長さ30cm強の細い鉄の板材があった。
「これだ、青紙スーパー」
「黄色い紙ですね」
お約束のベタなネタだ。
青紙というのはその紙じゃない。
「青紙って言うのは鋼材の名前だ。日立金属の安来工場が生産している和式刃物専用の、とっても品質のいい鉄だと思ってくれれば間違いない。青紙スーパーだと包丁用にはちょっとオーバースペックだけど、まあいいだろう。刃に魔法付与しているから研がないだろうし」
ちなみにこの工房には、日本刀等の作成用に高温の炉も3種類作ってある。
香緒里ちゃんの魔法付与能力で作った、それぞれちょっとチートな炉だ。
これと魔法工具があれば日本刀に近いものをかなり短縮した工程で作れる。
「日本刀の作り方とはちょっと違う、魔法を使った略式だけどさ。まずは刃の部分と外側の部分、芯の部分を組み合わせる。クラウ・ソラスは高熱に耐えられるようにメインは軟鋼、刃の部分だけ青紙でちょっと長めに、芯も軟鋼で更に刃と芯の間に魔力伝達用の特殊銀を挟んだ。しかし今回は包丁だから刃の部分だけ青紙で他外側はステンレスがお勧めかな。包丁は水回りで使うから少しでもサビにくくしたいから」
「うーん、今回はお勧めでいいです。要は用途に応じて性質の違う鉄を組み合わせるということが理解できればいいですか」
「それで十分。後は実際に作るときに研究すればいいさ。ネットにも色々載っているし」
俺は青紙と同じ厚さのステンレス材をこの部屋のストック場所から出す。
「包丁の形はどんな形。出刃でも牛刀でも何でもできるよ」
「うーんと、図で書いてみていいですか」
俺がいつものスケッチブックを渡し、香緒里ちゃんに図を書いてもらう。
この形は包丁界の定番、牛刀で、刃渡りは21cmくらいでいいだろう。
俺はこの前も使ったノギスファンネルを起動。
スケッチブックの図を読み取らせ、CADに表示させる。
ベジェ曲線使ってちょっと歪んだ線を修正し、更に鋼材の厚さを入力したり幅と厚みと仕上げ寸法の差考慮しつつ大体の値で修正して。
青紙とステンレス材をカット。
4D自動グラインダである程度形を整える。
出来た鋼材を香緒里ちゃんの前で組み立てれば、形だけは包丁に近い。
「これで大体包丁のイメージになっただろ」
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