機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第3章 迷い考えて作るんだ!~魔法工学生の夏~

13 小話2終話 やり過ぎの夢が覚めた後

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「そうですね。大体形になったです。でもまだ分厚くて小さいし刃が無いですが」

「叩いて伸ばして最後に研げば予定通りだ。さて、普通はここから炉に入れて叩いてを繰り返して打って伸ばすんだけどさ。今回はこの前作ってもらった金属分子を密着させる炉があるからそれを使う」

 炉に突っ込んで約1分。
 この炉のチートな付加魔法で、それぞれの鋼材が成分はそのままで隙間を残さず密着した。

「本当は炉に突っ込んだり叩いたりすると鋼材の成分がある程度変わったりするんだけどさ。今回は魔法で成分維持がかかっている。だからいくら熱しても成分はそのまま。今度はこの包丁の元を材料に、成分変えずに展延性を一定時間上げる炉とハンマーを使って形を作る」

 チートな炉その2に包丁の元を突っ込んで赤熱するまで加熱。
 ちなみにこの炉は赤熱している間金属の展性と延性を増加させる魔法炉。

 取り出してハンマーでワシャワシャ叩く。
 魔法効果で軽く叩くだけで素材が伸びるから叩き過ぎ厳禁だ。

「ここからは選手交代。アドバイスはするから香緒里ちゃんがここからは作って」

「了解です。面白そうです」

「魔法効果があるから力は入れないで叩いてみて」

「わかりました」

 わりと器用に延ばして整形している。
 だから俺はミスりやすいところだけを指摘してやればいい。

「伸ばすのは刃の部分だけじゃなくて、柄の部分以外は全体的に叩いて。そうしないと分厚くて小さい包丁になるから」
 とか。

「次は裏返して。今回は両刃だから裏表両方均等に叩いて」

 その程度の指摘で、ほとんど修正せずに予定通りの形になる。

 ちなみに俺が最初に似たような物を作った時は、こんなに上手く行かず予定外の歪な形の刃物? になってしまった。
 俺より香緒里ちゃんの方が、刃物作りの適性はあるようだ。

「伸ばすのはその辺でいいかな。じゃあ次の過程」

 焼き入れ用の炉に入れて、急冷した後ちょい焼き戻して。

 更に再びノギスファンネルを起動して今の包丁の形を入力。

 先程の予定図と合わせて最適値を決めて、そのまま4D自動グラインダで整形。
 ここまでくればあとは研いで刃をつけるだけだ。

 ついでにストックに転がっていた杖用の高級木材で柄の部分も作成。
 穴を開けてステンレス丸材を入れて両端をチートなハンマーで延ばして固定。
 この柄の部分は俺のサービスだ。

「包丁の研ぎ方は今回は省略。必要なら後ほど研究して」

 自動中砥石と自動細砥石で仕上げて完成。
 本格仕上げ風の包丁が素人でもわずか2時間で完成。
 魔法チート多用のおかげだけれど。

「後は魔法をかければ出来上がり。ところで縞縞に魔法をかけるのはどうやるつもりかな」

 香緒里ちゃんはちょっと考える。

「刃の上に鉛筆で線引いて一本一本集中してかければ出来ると思います」

「でもそれじゃ面倒じゃないかな」

「なら他に方法がありますか?」

 俺はヒント半分で香緒里ちゃんに聞いてみる。

「香緒里ちゃんは見える面だけ、とか見える面から何ミリの深さで、という指定で魔法付加をかけられる?」

 香緒里ちゃんはちょっと考える。

「それは……出来ますね」

 香緒里ちゃんは俺のヒントには気づいていないようだ。
 なら正解を教えてやるか。

「櫛形の金属片でも作って包丁の上に置いて、それから見える面から2ミリの深さ、って感じで魔法付与すれば簡単なんじゃないかな」

「確かにそうです。でも櫛形を簡単に作る方法がわからないです」

 そうか、工作機械の使い方に慣れていないのか。
 考えてみれば当然だ。この春に入校してまだ2ヶ月程度。
 工作室で1年過ごした俺と年季が違う。
 なら先輩らしく教えてやるとしよう。

「この部屋のCADと工作機使えば簡単だよ。まあ見てな。幅は5mmでいい?」

「5mmがいいです」

 俺はCAD画面に5mmの方眼紙を呼び出す。
 一つ置きに方眼を塗りつぶしたものを5個作ってカット&コピー。
 あっという間に長さ30cm深さ10mmの櫛形が完成。

 これをさっき作った包丁の最終型に合わせてベジェ曲線で曲げて上から見た図は完成。
 あとは厚さを板厚自動に設定して、マシニングセンタに端材の3mm鋼板をセット。
 ボタン一発で魔法マスク用の櫛形が完成する。

「今のは工作室のCADとマシニングセンタでも同じことが出来る。まあ香緒里ちゃんの場合はここの機械を使えばいいけれど。ここなら独占して使えるからさ」

「鮮やかな手並みです。ちょっとその域に行くのは時間がかかりそうです」

「1年もこの学校にいれば慣れるよ」

 俺の場合は1年みっちり第1工作室に通った成果というか結果だ。
 香緒里ちゃんは丁寧に包丁の上に櫛形を置いて、そして真上から見下ろす形で魔法をかける。

「これで完成の筈です。あとは試し切りをしてみたいのですが」

 ただしこの部屋に適当な食品はないだろう。
 そう思って、俺は待てよと思い直す。
 有機物なら何でも切ろうと思えば切れるんじゃないだろうかと。

 ならばこれはどうだ。
 俺はストック場所から適当な木片と板を取り出す。

「有機物は何でも切れる。ならこれも切れるだろう。厳密には刃の厚さ分斬りにくいはずだけどさ」

「ちょっと不安だけれどやってみます」

 香緒里ちゃんは板の上に木片を置いて包丁を滑らせる。
 あっさりと木片は両断された。
 まな板代わりの板は浅い傷はついたが切れてはいない。
 これくらいなら許容範囲だろう。

「何かあんなに悩んでいたのにあっさり完成しました。やっぱり修兄は凄いです」

「まあ同じ学科の先輩だしさ。これくらいは」

「絶対それは謙遜だと思います。でもありがとうございました。これで安心して今日は眠れます」

 香緒里ちゃんが喜んでくれたようなので俺も満足だ。
 でもそのうち、きっと。
 刃物作りに関しては香緒里ちゃんに抜かれるような予感がする。
 少なくとも俺より刃物を鍛えるセンスはありそうだし。

 ◇◇◇

 2日後。
 香緒里ちゃんはその包丁を、課題の作品として提出。
 魔法が付加されたあの包丁の斬れ味は先生方にも好評で高得点がついた。
 でも先生は改めてあの包丁を観察して気づく。

『この包丁の作りと素材なら魔法なしでも斬れ味に文句はないのでは?』

 あの包丁に付与魔法無視の魔法を重ねがけして、食材切断試験を実施。
 結果は魔法無しでも普通の包丁以上の斬れ味であると判明。

 その斬れ味に惚れた先生が鑑定魔法で出た2万円の価格でその包丁を自費購入。
 現在は付与魔法無効のまま、先生の自宅で使用されているとのことである。
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