機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第23章 記念旅行は彼方此方に

117 あとはただ祈るだけ

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 午後4時近く。
 予定より大分遅れて、俺達は東京に戻ってきた。

 理由は幾つかある。
 朝食のバイキングでまたもや北米組が食べすぎたせいとか。
 チェックアウト後も無料サービスで楽しめる温水プールを満喫したせいとか。

 なお、ルイスの顔は香緒里ちゃんのクレンジングクリームで無事に復活した。
 それにしても朝起きて歯磨きをしに行ったときのルイスの悲鳴。あれはなかなか凄かった。
 当分はネタにされるだろう。きっと多分。

 池袋に出て、とりあえず今日の宿にチェックインして荷物を置く。
 今日の宿はいわゆる民泊、
 今夜の企画を行う事が出来そうなホテルや旅館が見つからなかったからだ。

「さて、今日は少し遅くなりましたがスーパーとデパート巡りです。これから午後8時30分までお買い物で、9時までにはこの部屋に戻ってきて下さい。食事は1人2,000円予算で買ってきて、ここで皆で持ち寄って食べます」

「せんせー、おやつとドリンクは2,000円に含まれますか」

 奈津希さんだ。

「当然含みます。閉店前のタイムセール等を使って効率いいお買い物をして下さい」

「せんせー、東京は怖い人が多くて不安なんです」

「何か寄ってきても無視して下さい。あなたより怖い人は絶対いません。安心して下さい」

 買い出し買い食いツアーはスタートする。
 無論、皆さんこういった場所に慣れていないから、案内は必要。
 だから俺と香緒里ちゃんで先導し、デパートとの地下食品売り場等を巡って案内する。
 ただ池袋だから、基本は東の西武と西の東武の地下を案内して終了だ。

「他にもお店はあります。その辺はスマホで地図を出すなどして、探して下さい。それではスタートです」

 西武の地下1階で宣言したのがほぼ午後5時だ。
 皆ネット等で予習していたらしく、早々にあちこちへと散っていった。

 さて、俺は何を買っていこうかな。
 個人的には閉店間際を狙って地下食料品街を巡るのが正しいだろう。
 でも意表を突いて牛丼屋で牛皿テイクアウトとか某名古屋系手羽先屋でテイクアウトしていくのも面白いかも。
 あえて某巨大カメラ店でドリンクやツマミばかり買っていくのもありかな。

 今はあまり腹は減っていない。
 実は帰りの新幹線で駅弁を食べたからだ。

 駅で売っていた7種類の弁当を全て買って、皆で回して食べた。
 これも行事的には欠かせないものだったらしい。
 そんな訳で俺は目星をつけるべく、今まで来た通路を逆に歩いていく。

 ◇◇◇
 
 午後8時40分頃には、全員無事に大広間に集合した。
 買ったものもいい感じにばらけている。

  ○ デパ地下の半額の弁当4つ
  ○ 同じくデパ地下の半額握り寿司2パック
  ○ 同じく半額中華惣菜セット
  ○ 同じくチキン丸焼き1個
  ○ 激安系スーパーの3割引弁当6つ
  ○ 結構良さそうなフランスパン1本
  ○ 高そうなケーキ4つ
  ○ お茶ペットボトル2リットル1本
  ○ ダイエットコーラ2リットル1本

 まとまりというものは何一つ感じられないが、こういうのも面白い。
 ただちょっと予想外の店に行ってきた2名に、質問してみた。

「そんなスーパー、池袋にあったんだ」

「サンシャインの裏にあるれす。近くまでは1日目に行ったので、ちょっと足を伸ばしてみたれす」

 なるほど、同人誌漁りで池袋の地理は把握したという事か。
 俺以上によく知っているようだ。
 
 という訳で今日の夕食兼夜の部が始まった。

 そしてその2時間後。

「今日が最後の夜なんですよね」

 部屋の隅に寄せたテーブルの前。
 俺と風遊美さんと香緒里ちゃんで、残ったおかずをつまみながら話をしている。

 他の面子は爆睡中だ。
 割と皆さん、あっさりと落ちてしまった。
 今日も朝から目一杯動いたし、疲れているからしょうがない。

「これで終わりだから寂しい、とか言わないで下さいよ。明日もあるし、旅行は夏だって来年の春だって行けるんだし。だいたい魔法使いの世界なんて狭いんですから。特区を出てもどうせ何処かで必ずまた出会うんです。それに能動的に会おうと思えば何時でも会えるんですから」

「そうですよね。どうもこういった事に慣れていないので、つい」

「それにスポンサー様も、どうせ常にバイト募集中だろうし」

 香緒里ちゃんは俺の台詞に、ちょっとふくれっ面をしてみせた。

「元はと言えば修兄のせいで出来た代物なのですけれど。実際注文も全然減りませんし、作業が大変です。ジェニーも最近は広報活動で忙しいから、結局修兄と2人で毎週、週末に半日は工房に出勤してましたし」

「という訳で資金面も大丈夫だそうです。バイトも年中募集中」

「冗談じゃなくこのままでは税金に持って行かれるだけですから。少しでもバイトしてもらって身内に分配しないと」

「何か贅沢な悩みですね」

 風遊美さんが笑みを浮かべる。

「この旅行代もそれで出ているんですものね」

「経費を使わないと税金で6割近く取られちゃうんです。今年の申告でとんでもない税額持って行かれたので、これ終わったら春休み中に会社登記する予定ですけれど。だからお金を使う行事を思いついたら、どんどん言って下さい」

 何だかなあと思うけれど、税金が洒落になっていないのは事実だ。
 幸い魔法技術大のインキュベーター室の支援を受けられる事になったので、この旅行が終わったら香緒里ちゃんと2人で相談に行く予定なのだけれど。

「だからお金の心配もないですし、いくらでも楽しい出来事を作れるんです」

「で、俺は香緒里ちゃんにこき使われると」

「あのバネの件だって、元はといえば修兄のせいですから」

 風遊美さんは笑いだした。

「何か聞いていると、将来に不安とか心配とかするのが馬鹿馬鹿しくなりそうです」

「不安は一杯あります。帳簿作業とか来年の申告とかこんな事をしていて来年の単位は大丈夫かとか」

「でその業務の半分は俺に降ってくると」

「有責の犯人ですから当然です」

 風遊美さんはまた笑いをこらえている。

「何かこの学生会の解散旅行なのに、風情も感傷も無くなります」

「単に時期的な切れ目というだけ。これで付き合いが終わるわけじゃないですから」

 妙な話の成り行きになっているが、それだけは風遊美さんに伝えたかった。
 これで終わりじゃない。
 まだまだこの先だって楽しいんだ、と。

 多分香緒里ちゃんもそれをわかってくれている。
 愚痴の部分は半分以上本音だったけれど。

「なら明日は思い切り買い物を楽しみましょう」

「そうですね。初日の詩織ちゃんくらいに」

 えっ、という顔をして香緒里ちゃんが俺の方を見る。

「初日の詩織ちゃんって、そんなに買い物をしたのですか」

「言わなかったっけ。ホームセンターで大人買いしたの。持ち帰れないから船便予定だけれど」

 香緒里ちゃんの表情が曇る。

「参考までにどれ位ですか」

「大型資材や機械も買っていたから、大体コンテナ1個分位かな」

 大物用の長い台車にも乗り切らなくなったので、途中から店の担当者を呼んだりもしたのだ。

「まさか送り先はマンションじゃないですよね」

「そこまでは確認していないな」

「隣のお家、確か田奈先生が色々やりすぎて買い物禁止令が出てませんでしたっけ」

 あ、そう言えば。
 俺は香緒里ちゃんが何を危惧しているか、遅まきながら気づいた。

「とすると受け入れられない場合は」

「うちの部屋に置かせてくれ、となるでしょうね」

 それは確かにまずい。

「どうする。詩織ちゃん起こして確認するか」

「もう手遅れです。学校に送っていることを祈りましょう」

 横で風遊美さんが大笑いしている。
 何か、ついに耐えきれなくなったようだ。

 勿論俺には笑い事ではない。
 ただ今となっては、出来るのは祈るだけ。
 俺は無神論者なので、ジェニーの信じる神に聖句を唱えて祈りを捧げよう。

 確かパスタファリアンの聖句はこうだったよな。
 ラーメン。
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