機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
130 / 202
第26章 私が楽しい理由~夏の旅行・前編

129 壁に耳あり

しおりを挟む
 飯はまあ、普通だった。

 メインが岩魚を焼いたのととんかつの2品。
 味噌汁と鯉の洗いと、あと小鉢3つとご飯。
 悪くはないが、すごくいいという訳でもない。

 食事処も今までの旅館みたいな凝ったつくりでは無く、椅子やテーブルなんかも学食レベル。
 ここはあくまで温泉主体の宿なのだ。

 ただうちの連中は皆、楽しそうではある。
 食事中も温泉情報を交換していて、次はどこへ行こうか考えているらしい。

 実際ご飯の後は、皆さっさと湯巡りへと旅立って行った。
 まあそれ位しかやることが無いというのもはあるだろうけれど。

 俺も1人でこっそりお湯に向かう。
 途中に湧いている『おいしい水』をボトルに入れて、本館の方にある御座の湯という内湯へ。

 ここはここの温泉では少ない男女別の湯だ。
 あまり広く無く、作りも豪華では無く古臭い。
 でもいかにも温泉宿という雰囲気がいいのだ。

 ボトルの水を飲みながら、1人でのんびりと温泉を楽しむ。
 ルイスは今頃大丈夫だろうか。
 何か食事のときは既に疲弊していたけれど。

 そんな事を考えながら、1人でまったりとしていた時。
 隣の女湯の方の引き戸がガラガラ開く音がした。

 ガヤガヤ入ってくる声に聞き覚えがある。
 愛希ちゃんと理奈ちゃんと、奈津季さんだな。
 という事はルイスは無事逃げおおせたのだろう。
 詩織ちゃんに捕まっている可能性もあるけれど。

 別に見える訳でも無いのだが、ついつい気配を殺してしまう。
 なるべく音を立てないようにして、ついつい聞き耳を立ててしまう。

「ここが一番歴史があるお湯だそうですね」

「コンクリに古い木製と、作りはそっけないけどな」

「でも、いかにも効能のありそうな温泉という感じだね。少し美人になるかなあ」

「ここの効能には美人は入っていないようですよ」

「いいの、こういうのは気分なんだよ気分」

 賑やかに入っている。

「そう言えば、この予算あれば海外旅行も余裕で出来ると思うけれどどうなんだろ」

「ああ、それは簡単さ」

 俺の代わりに奈津季さんが説明してくれる。

「魔法使いが安心して旅行できる場所ってそれ程多くないんだ。何せ場合によっては普通の人の何倍もの戦力になる。それに魔法に対する偏見が強い場所もあるしね。結果、安心して旅行出来るのは日本国内という訳なんだ。
 それに愛希ちゃんも理奈ちゃんも普通の暮らしを経験している日本人だけれど、うちの学校は実はそれって多数派という訳でもないしさ。現に攻撃魔法科だって3分の1は留学生や特別帰化した人だろ」

「そうですね。ここへ来て、随分国外出身の方が多いのに驚いた覚えがあります」

「そういう事さ。今回のメンバーだって君達2人の他は修と香緒里くらいだぜ、いわゆる日本の普通の生活を経験している日本人って。風遊美は北欧からテロで逃げてきた口だし、僕は特区生まれ特区育ちだしさ。ジェニーやルイスやソフィーやロビーは言わずもがな。詩織だってとても普通の生活をしてきたとは言えない育ちだしな」

「成程、色々あるんですね」

「あと、この旅行の資金の出処だけどさ。これも色々あってさ。例えば香緒里や修の商売、暴利を貪っているだけのように見えるだろ」

「そうだな。あの手間だったらもっと安くてもいいよな」

「そうですね。あともっと色々なバネのサイズや仕様を作ってもいいかと感じます」

 奈津季さんが頷いた気配。

「それは修も香緒里もわかっているんだ。現に香緒里は最初もっと安く設定しようとした。それを担当教官、詩織の今の親父と修で相談して、高めの値段にした。理由は簡単、安く売り出したら既存製品を圧迫してしまうからさ」

「でもそれって、必然的な時代の進歩って奴じゃないのか。産業革命とかと同じで」

「もしあのバネが他の場所でも量産できるなら進歩だけどさ、実際は香緒里のユニークな魔法で作っているのが実情だ。それをもし適価という事で安く売り出したらどうなると思う。作れる数は必要に絶対的に届かないんだぜ」

「あのバネを仕入れた所が圧倒的にいい製品を安く作れる。でも数が足らない。結果値上げをせざるを得ないか不公正な取引をせざるを得なくなる」

「正解だ。他にも色々あってさ。例えば大きい力をかけられる魔法バネを作ると軍事物資になりかねないとか。今の魔法バネのサイズとか値段は修の苦心の策なんだ。主に魔法医療器具にしか使えないようなサイズで、値段も既存の製品よりほんの少し高くなる程度に仕上がるようにって。
 実際、あのバネを使って修の設計を元に作った義肢は、個人用に調整した車椅子よりほんの少し高価な程度なんだ。ジェニーの義足の改良版と言えばわかるだろ。あれは元々魔力が無い一般人用の設計だったから、応用もきくし誰でも使える。他に補助魔法科医療専攻で開発した人工臓器とかももう実用化するし」

 奈津季さん、俺の商売の意図やら思惑まで、詳細を把握していやがる。
 話した憶えは無いのだけれど。

「それでもお金が余るからこの旅行、って訳だ。まあこの旅行には他にも色々理由があってな、主な理由は多分、風遊美と詩織対策だ。あ、ここからの部分は内密な。僕の想像も結構加わっているし。でも間違っていないと思うけどな」

 あ、何かまずい方向に話が行きそうだ。
 でもここまで気配を消していた以上、今頃俺がここで主張するのもまずい。
 女の子の風呂を気配を殺して伺っていた変質者扱いされてしまう。
 なので俺は仕方なく、気配を殺したままじっとしている。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...