機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第31章 次の始まりの少し前に ~春の章~

165 しょうもない幕切れ

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 俺は自分のアミュレットから魔石を取り出す。
 そしてその魔石を、詩織ちゃんが出した魔石2個に並べた。

「折角だから色々使える杖でないと面白くない、違うか」

 勿論それも理由だ。
 でも本音は、ほんの少しだけ方向が違う。
 詩織ちゃんに、戦闘用途だけの杖を渡したくなかったのだ。

 戦闘用にも使えるけれど、あくまで日常的な工作やら何やらに使うための杖であってほしかったからだ。
 そうしないと詩織ちゃんに、戦闘だけを期待しているような感じになってしまいそうで。

 これはあくまで日常で使う杖、戦闘に使えるのはあくまで余技。
 それが俺の意志であり願いだ。

 ヘリテージ1号を右手に構え、魔法を起動する。
 手元のヘリテージ1号で増幅された魔力が、材料群を包み込む。

 見ている間に形を変えていく棒材等の各材料。
 魔法銀の塊が細く長く伸びてしなり、薄片化したガラス板に小さな魔法陣を描くとともに棒材の中心に4本平行に入っていく。
 棒材の中がくり抜かれ積層魔法陣と化したガラス薄片、保護用シリコンラバー、魔石2個、増幅用水晶、水晶発振器、そして座卓の上にあったピンク色の蛍石1個が吸い込まれるように入っていく。

 最後にステイン塗料と水性ニスが、杖全体を覆って完成。
 この状態でニスが既に乾いているのは魔法ならではだ。

 この杖を作った事による俺の魔力の損失もそれ程ではない。
 ヘリテージ1号の増幅機能あってのものなのだろうが。

「おいよ、完成。1号より先に完全完成してしまったな」

 完成したばかりのヘリテージ2号を詩織ちゃんに渡す。
 よく見ると俺の手作りの1号より微妙に色々出来がいい。

 一括系の修理魔法や複製魔法は元をそのまま複製するのではなく、元の機能や理念を含めて複製する。
 だから出来が違う部分は俺の工作技術の未熟さのあらわれだ。
 うーん、精進しないとな。

 詩織ちゃんは杖を構えたり振ったり覗き込むように見たりした後、大きく頷く。

「悔しいけれど、私にはあらが見つからない完璧な品なのです。だからありがたく貰ってやるのです」

 おいおい。

「やるんじゃなく貸しただけ。そういう約束だろ」

「もっといいのが出来たら交換で返すです。だから安心していいのです。これならフランスまで3~4人で往復も余裕なのです。多分イギリスのルイスの実家も余裕なのです」

 本当に行くなよ。
 行くとしても今は行くなよ。
 昨晩お叱りを受けたばかりだからな。

「ちょっと借りてみていいかしら」

 風遊美さんが詩織ちゃんから杖を受取り構える。

「さっきの杖よりこっちの方が少しだけ強力ですね。こっちなら私でも特区が視野に入ります」

「石の相性の問題だと思うのですよ。風遊美先輩の魔法特性は私の特性と近いようなのです」

 確かに同じ空間魔法使いだし、そういう事もあるのだろう。
 でも特区が視野に入るとはどういう事だ。
 まさか風遊美さんも東京と特区を行き来出来るなんて事は……

 でも、確かに風遊美さんも化物レベルを除けば充分に魔力はトップクラスなんだよな。

 ちなみに化物レベルというのは香緒里ちゃんとか詩織ちゃんとか田奈先生とかだ。
 由香里姉、月見野先輩、風遊美さん、ルイス、ソフィー、愛希ちゃん、理奈ちゃん。
 この辺が常識範囲内でのトップクラス。
 これでも世界中で見ても200人の枠内に入れるレベルの魔力持ち。

 ここで俺は結論を出す。
 深く考えないようにしよう、その方がきっと正しい。

 そんな事を思いつつ、俺はヘリテージ1号の方も水晶を入れて完成させる。
 構えて軽く審査魔法を発動してみる。

 うん、段違いに扱い易くなったし気のせいかパワーも上がった気がする。
 審査魔法の解像度も数段上がった感じだ。
 これで次の段階に進めるな。

 ◇◇◇

  午後3時過ぎに寝てしまった連中は、生理的反応として真夜中に目をさましだした。
 そして食べ物や娯楽を探し始める。

 結果俺と詩織ちゃんが大量に買った惣菜や弁当類は犠牲になった。
 まあ予期していたからこそ大量に買ったのだけれども。

 そしてソフィーが取り出した例の分析機でゲームをやっているうちに、夜は明けて朝になる。
 そして朝のバイキングでまた食べ過ぎたのと夜通し遊んで眠いのとで、ほぼ全員倒れ込み……
 見事な昼夜逆転生活の完成だ。

 まあ俺とロビーは10時には詩織ちゃんに叩き起こされ、秋葉原への買い出しに行ってきたのだが。
 他にはジェニーとソフィーもふらふらと昼前に出ていったらしい。

 でも大多数はそのままホテルで眠り続け……

 ◇◇◇

 皆がまっとうな状態で集まったのは、もう午後6時になろうかという頃だった。
 何故その時間に集まったかというと、理奈ちゃんがSNSで集合をかけたからだ。
 集合場所はホテルから歩いて3分程度のカラオケボックス。
 夕食付き、ソフトドリンク飲み放題、カラオケ3時間付だそうだ。

 ただこのカラオケ大会については、俺は実はあまり語ることはない。
 何故なら睡眠1時間で動いていた関係で、2曲歌った後意識が無くなったからだ。
 再び意識が戻ったのはもう終わる直前。

 なお俺以外にもジェニーやソフィー、そしてロビーは死んでいたとの事。
 詩織ちゃんはタフな事にガンガン歌っていたようだけれども。

 俺を含む飯を食いっぱぐれた一同は、近くのスーパーで買い物をしてホテルへ戻る。
 そして元気な連中に折角買った物を取られつつも何とか空腹を満たし、そしてまた倒れる。
 気がつけば惨憺たる室内とともに次の朝。

 何かボロボロ状態まま朝食バイキングを食べ、チェックアウトして山手線と京浜急行を乗り継いで空港へ。
 島の空港から例の小さくて乗り心地悪い満員のバスでマンションに帰宅。

「何か今回の旅行、後半がボロボロだったよね」

 そんな由香里姉の評価に頷きつつ、自室のベッドに倒れ込む。

 うーん、確かに今回の旅行、東京編がボロボロだったなあ。
 ただ、宿はどこも良かったと思う。
 最初の古式ゆかしい宿も2泊目の寺も、東京でのホテルも。

 やっぱり食事のせいで生活リズムが狂ったのが最大の敗因か。
 夏の旅行はもう少し考えないとな。
 でも夏の旅行の幹事は香緒里ちゃんで、宿ももう予約済みなんだよな。
 そんな感じで意識を失いつつある時……

 ふと俺は何か違和感を感じた。
 いや、これは違和感ではない。
 人の気配だ。

 気づくと俺がかけている掛け布団の上に、大の字になって寝ている奴がいる。

「こら詩織、お前の部屋は向こうだろう」

 詩織ちゃんは動かない。
 目も開けずに返事だけを返してくる。

「やっぱり畳より安物ベッドより、このベッドのマットが寝心地いいのです。旅行で疲れたので失礼するのです」

 ついでとばかりに掛け布団の中に、もぞもぞ入り込んできやがる。
 おいおい。

 でもまあ、追い払う気力も今の俺には無い。
 結局次に目が覚めるまで、俺もそのまま睡魔に身を任せてしまったのだった。

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