機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第35章 高専最後の夏休み ~やり残した事は何ですか~

184 プログレス1号、完成

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 どう見ても登山用の、軽金属製安物片手杖。
 でもこれこそが新地研究室の放つ第1号、新理論満載の杖『プログレス1号』だ。

 もっともこの杖をプログレスと呼んでいるのは、研究室では俺だけ。
 他はそれぞれ
  ○ T0810123201701
  ○ 賢者の杖
  ○ エレメンタルスタッフ
  ○ 初號機
等々、まあ勝手に呼びたい名前で呼んでいる。

 実際、研究室の面々によって、同じ杖でも外見すら違う。
 例えば世田谷の『賢者の杖』は外側はいかにもなトネリコ製だし、高井戸の『初號機』はプラスチック製だ。

 ただし性能は全てほぼ同じ。
 要は俺と等々力と高井戸の理論を全て組み込んで、恩田が最適化して世田谷が調整した杖だ。

 なお基本設計型は、俺や恩田が持っているのと同じ軽金属製。
 実験用にモジュール交換等がし易くなっているし、データロガーも設置済みだ。

 なお杖本体の設計等については既に魔技大のデータベースに登録済みで、あとは頑張って自分の理論部分の論文を書いて発表するだけ。
 困った事に、俺が一番担当する論文の量が多い。

 でもまあ、論文は秋になってから皆で頑張ろうね、という事にしている。
 なので夏休みはフリーだ。

 思ったより短い期間で、思った以上に強力な杖が出来てしまった。
 やっぱりまあ、集まれば文殊の知恵という奴だ。
 俺の発想だけでは多分、性能的には3分の2で、かつ制作に3倍手間と費用がかかる物になった筈。
 杖のテストも世田谷のおかげでえらい早さで進んだ。

 例によって俺は、この杖のコピーを2本作っている。
 詩織ちゃん用の2号と、風遊美さん用の3号だ。

 詩織ちゃんはこの杖で世界一周を成し遂げたし、風遊美さんも香港までなら行き来できるようになった。
 何気に部屋で使っている紅茶に、円ではない表示の値札がついていたりするのにも、もう慣れた。

 それでもプリン貯蔵庫は、相変わらず日本製の冷凍洋菓子で溢れている。
 詩織ちゃんによると、下手な本場の洋菓子より日本のものの方がよっぽど美味しいとの事だ。
 奈津希さんも本場でそう言っているらしい。

 なお世田谷が来た時や田奈先生と消費したプリン等は、あの後しっかりと補填させてもらった。
 プリンだけでは何なんで、チーズスフレとか焼きショコラとかマドレーヌとか色々入れておいたのだが、好評だったようであっという間に全種類が消え失せた。

 実はこれらの冷凍洋菓子は、等々力君の実家がある茨城県南の某ニュータウンの店のものだ。
 前に実家から送ってきたというのを食べてみたら美味しかったので、詩織ちゃんと直接現地に行って買いつけてきた。
 全国的に有名という訳ではないのだが、美味しい店というのは探せば色々あるものだ。

 さて、夏近くなると学生会で話題になるのは旅行だ。
 今年は総勢17名という大人数。関係ない世田谷までしっかり入っている。

 今年はお盆期間が終わってからの出発なので、集合は島ではなくそれぞれバラバラ。
 そして行き先は北海道だそうだ。

 前は北海道は。詩織ちゃんが何か理由があるらしく避けていたが、今年は問題が解決したので大丈夫なのだそうだ。
 それに北海道になったしょうもない理由は他にもある。

 詩織ちゃんと風遊美さんが大人数連れでも平気で魔法移動できるようになってしまったので、東京近郊等のありがたみが一気に薄れてしまったのだ。
 何せ先週も買い出しツアーと称して、東京方面に出かけていたしな。

 だから大人数移動が出来なくて、なおかつ魅力がある場所という事で北海道になったそうだ。
 あまりしょっちゅう魔法移動しているとそのうちバレそうなので、程々にしてもらいたいところである。

 ◇◇◇

 さて、夏休みもお盆が過ぎて一段落した8月20日の夜。
 俺達は北海道は小樽、朝里川温泉に来ている。
 学生会夏の旅行、今宵で4泊目だ。

 集合した後、新幹線で函館へ向かい、湯の川温泉に2泊。
 更に山の中の。いかにも秘湯風な温泉旅館にも1泊。
 旅行は今のところ順調だ。

 特記事項みたいなのも、特に無い。
 強いて言えば秘湯風温泉旅館でちょっとなあ、という事があった程度だ。

 そして4日目の今日は小樽の街を観光した後、小樽からバスでちょっと登ったところにある貸別荘を2軒借りて泊まっている。
 今日はここで、のんびりと泊まる予定だ。

 借りた貸別荘は2軒で1つの建物という形。
 ログハウス風な建物に、シャワー付きの風呂とか洗濯機とか炊飯器とか皿とか鍋とか、まあ一通りついている。

 昼間散々スイーツを食べ歩きして、更に夜には海鮮丼だの寿司だの大量に食べて来た筈なので、夕食は特に用意はしていない。
 炊いた御飯に市場で買ってきた塩水うにを載せた豪華ウニ丼作って食べている奴が数名いるが、それを含めてまあ平常運転ってところか。

 というかおいジェニー、君はもう限界だろう。食べ過ぎだからそろそろやめた方がいいと思うぞ。
 詩織とかロビーとか、あとそれには劣るが理奈ちゃんとかは、胃袋が異次元級だから張り合ったら倒れる。
 ソフィーはもうノックアウト済みだしさ。

 なお昼間に買ってしまったお土産のガラス細工等は、詩織印の超高速便で聟島のマンションに既に送ってある。
 最近は詩織便、場合によっては風遊美さん便の使用が常習化してしまった。
 手数料も、詩織便の場合は美味しいもの1回分で済むので、安くて便利だ。

 そして今いるこの場所。夏と言っても北海道のそこそこ標高高めの場所のせいか、風が凄く気持ちいい。
 しかも他の客と建物が別なので、多少騒いでも問題ない。
 こういう貸別荘もいいなと思いつつ、1人で2階のロフトでのんびりしていた時。

「修兄、ちょっといいですか」

 香緒里ちゃんに呼ばれた。
 何だろう。
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