機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第35章 高専最後の夏休み ~やり残した事は何ですか~

185 秘湯遊撃隊⑴

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 ロフトから下に降りる。
 月見野先輩、風遊美さん、香緒里ちゃん、詩織ちゃん、理奈ちゃん、沙知ちゃんの6人が、懐中電灯やらタオルやら準備している。

「どうしたんだ?」

「これから秘境温泉の探検に行くので、護衛をお願いしたいのですわ」

 この辺に秘境温泉なんて、あっただろうか?
 しかも全員の格好は、島で着ている浴衣だ。

「修先輩もぶつぶつ言わずに、ユニフォームに着替えるのです」

 詩織ちゃんの目線の先には、おそらく俺用と思われる浴衣と帯とタオルが用意されている。

「何なんだ?一体?」

「修兄、いいから早く着替えて下さい」

 香緒里ちゃん、そんな理不尽な。しかし仕方ないので、台所の影でちゃっちゃと着替えた。

「で、何だ。そこのホテルの温泉でも行くのか?」

 ロッジの目の前には温泉ホテルがあり、日帰り入浴が出来る。

「せっかく北海道に来たのに、こんな風呂じゃ野性味が足りないのです。なので取っておきの温泉を紹介するのです」

 ああ、それでか。メンバーの顔ぶれに納得がいった。
 温泉好きと興味本位組の集合体だ。

 昨日の旅館は良い旅館だったのだが、実はちょっとだけケチがついた。
 ある客が一番いい露天風呂だという貸切風呂を、キープしたまま返さなかったのだ。

 なのでちょっと露天風呂ファン的には不満が残ったらしい。
 その憂さ晴らしという面もあるのだろう。

「でも詩織の出身地って、道東じゃなかったっけ」

「深く追求してはいけないのです」

 これはきっと近くない処に行くつもりだな。

「着替えたら私から2メートル以内に来るです。なお足場は保証しないので、濡れては不味い物は持ち込み禁止なのです」

 そう聞いた俺は、スマホをテーブル上へと置く。
 俺以外は皆出撃準備OKなようだ。
 と言っても装備は懐中電灯と電池式ランタンとタオルで足は素足、服は浴衣だが。

「なお飛ぶ前に注意をひとつなのです。転んで水に浸かる方が、足場を間違えて落ちるより安全なのです。あとタオルや懐中電灯は、両手を離しても大丈夫なように帯にくくりつけておくのです。いいですか」

 何か危なそうな注意事項を言っている。
 一体何処へ連れて行く気なのだろうか。

「では、行くですよ」

 その言葉と同時に、足底の感覚が消えて俺達は宙に浮いた。
 そして、いきなり水中へと落ちた。

 おい何だ、深いぞ。足がつかない。
 いや今足が着いたけれど、体を伸ばしても頭が水中だ。

 両手で周りを探りつつ、足で下を蹴って水を掻いて、頭を何とか水上へ出す。
 水が目に染みて、目が開けてられない程痛い。

 それでも少しだけ見えた方向へ水を掻くと、岩に手が届いた。
 おいおいおい。

「大丈夫か」

 そう言って周りを見る。
 だが暗い。星空の明かりしか見えない。

 懐中電灯の光が水中から出てきた。
 とっさに見えた腕を掴んで、岩の方へと動かす。
 風遊美さんだった。

「大丈夫ですか」

 風遊美さんは目を瞑ったまま頷き、そして何か考えるようにちょっと間を置く。

「他の人も大丈夫なようです。今、全員の呼吸を確認しました」

 誰かが岩の上に置いた電池ランタンで、何とか全員いるのが見える。
 暗くて顔まではわからないけれど。

 そしてやっぱり目が痛い。無茶苦茶に浸みて痛い。
 そして水温は温かい。風呂の適温というか川自体がきっと温泉だ。
 よく見ると周りに蒸気を吹いている場所もある。

「思ったより滝壺が深かったのです」

 詩織ちゃんが、しれっとそんな事を言った。

「危ないだろ、溺れるかと思ったぞ」

「ごめんなさい。修兄に注意事項を言うのを忘れていました」

 香緒里ちゃんの声。という事はこれは予定通りの事態なのだろうか。

「医療魔法持ちもレーダー持ちも空間転移持ちもいるのです。だから多少は何があっても問題ないのです。ところで沙知、ヒグマはどうですか」

「1km以内に2頭の大型哺乳類。でもこっちに向かってはいないですね。まあ近づいたら言いますから問題ないです。あと人も付近にはいないようです」

 沙知ちゃんがさらっと、とんでもない事を言っている。

「頼む詩織、ここはどういう場所で、今はどういう状況か説明して欲しい。俺は結構混乱している」

 まあ理解しても、逃げようは無いのだが。

「ここは道東部のとある自然公園のど真ん中で、今の時期だと公営のバスか自転車等で林道を詰めて、そこから沢登りをしないと来れない秘湯なのです。夜はバスは当然来ないしキャンプ禁止なので、誰も来る心配は無いのです。ただヒグマ生息地帯なので、沙知に一応警戒してもらっているのです。
 なおここは危険立入禁止の先なので、周囲をうろうろしない方が賢明なのです」

「何か凄く目が痛いんだが」

「強酸性の温泉なので目にしみるのです。まあ暫く我慢するしかないのです。これも効能なのです」

 そんな事を喋りながら、何とか足がつく場所まで移動する。
 何歩か歩いて、やっと腰を下ろせる場所までたどり着いて一安心。

 落ち着いてみると、なかなかここはすごい場所だ。
 今いるのは20m近い滝の滝壺で、更にこの下も、ほんのちょっと先が滝になっているようで水音がする。
 そして周りは切り立った岩場だ。
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