機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第37章 夢の続き

200 今夜は眠れない

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 いつもの金曜日の大集合と、土曜日日曜日の宴会モードが終わった日曜夜。
 詩織ちゃんが帰った後、由香里姉とジェニーに隣の部屋購入の件を伝えた。

「そうね。そうすればここの関係もきちんと整理できるし」

「引っ越しもOKなのれすよ」

 2人からの内諾ももらった。
 費用の方も全く問題はない。
 なので早速、田奈先生に連絡して、話を進める事にする。

 期末考査も無事乗り越えて、無事卒業が決定。
 香緒里ちゃんも予定通り雪ヶ谷研究室に内定した。
 学生会関係者も無事再試験者が出なかったようだ。

 その間にも、俺はこそこそ動いている。

 田奈先生は予想通り抽選なしで新マンション購入が決まり、3月6日7日の土日で引っ越し完了。
 詩織ちゃんの魔法を使って、引っ越し業者より数段早く楽に家具類を移動したそうだ。
 荷造りさえしなかったらしい。

 使わない家具や移動できなかった、機械類はとりあえずは置いたまま。
 まあ家具は有効活用できるだろうし、機械類もそのうちなんとかなるだろう。

 次の月曜日に俺と田奈先生立ち会いで不動産鑑定士を呼んで、売買価格の査定をしてもらい、書類が完成した水曜日には銀行で売買契約。
 登記類も全部終わり、3月12日金曜日の大安吉日をもって、無事隣の部屋は香緒里ちゃんの会社所有となった。

 ちょうどいいので、全員に発表しようという事になった。
 発表は社長であり、今期学生会会長でもある香緒里ちゃんから。

 大学は既に春休み。高専も新入生入学手続きやその他事務で、再試験以外はお休みだ。
 なのでほとんどの関係者には、バネ工場で春の旅行費と小遣い稼ぎのバイトをしてもらっている。

 その中で詩織ちゃんとロビーにだけは先に事情を話して、ある工事をしてもらった。
 隣とうちの部屋の間の通路設置工事だ。

 うちの物置と隣の物置の間の壁には、柱や強度を左右する構造物等は無かった。
 なので壁に穴を開け、穴が開いた部分の天井とか壁とか床を作ってつなげてもらう。

 扉や照明器具等は物置時代と同じものが使えるし、詩織ちゃんは魔法を使えば買い出し自由自在。
 それにロビーの工作系魔法があれば、工事の手間はそれほどかからないだろう。
 本当は俺がやりたいのだけれど、魔法バネを作るのは俺と香緒里ちゃんだけだからバネ工場を離れられない。

 バイトが終わって、ぞろぞろと皆でマンションに帰る。
 中で詩織ちゃんとロビーがまったりくつろいでいた。

「工事は終わったか?」

「バッチリなのです!」

 ロビーもサムズアップしている。
 無事完成したらしい。

 全員が中に入った時点で香緒里ちゃんが口を開く。

「突然ですがお知らせです。この部屋に住んでいる私達4人はまもなく引っ越す予定です」

 一瞬であたりが静まりかえる。

「なおこの部屋は引っ越しして改装した後、バネ工場バイトの皆様の保養所として使用する予定です。改装にあたって希望がある人はいまのうちに番頭に言っておいて下さい」

 一気にざわめきが戻る。

「あと引っ越し先はこの部屋の隣になります。詩織ちゃんとロビーに通路を作ってもらいました。まだ引っ越しは始めていませんので、よろしければ隣も見てみて下さい」

 詩織ちゃんが先回りして、倉庫だった場所の扉を開けた。
 その先は旧田奈邸だ。
 既に向こうの部屋で使うものはすべて持って行ってあるので、問題は無い。

 ◇◇◇

 引っ越し決定等も兼ねて、いつも以上に盛大に騒ぎ倒した後。
 自分の部屋に戻ってパソコンを立ち上げたら、背後から声をかけられた。

「オサム、向こうで由香里さんが呼んでいるれすよ」

 何だろう。俺はジェニーについて行く。

 向こうというのは、旧田奈邸の応接室部分。今はバネ工場に置いていた応接セットが置かれている。
 いる面子は、由香里姉、風遊美さん、ジェニー。
 何か不穏な空気を感じる。

 例の清涼飲料水、いやこの面子は成人済みだから、もうこの表現はいらないだろう。
 サングリアや梅酒やキールや、まあそういった甘くて飲みやすい酒とチーズ類がテーブルに並んでいる。
 更に言うと、由香里姉と風遊美さんは既に顔色が赤い。

 これはきっと危険だ。逃げられなさそうだけれども。

「来たわね、悪の元凶。駆けつけ3杯よ」

 いきなり厳しい。

「何ですか一体」

「オサムに振られたご一行様の残念会なのれす」

 何だって! 確かにそう言われると、この面子は……
 とっさに何か言い訳を言おうと考えるけれど、思いつかない。

「言い訳は無用だからね。これでも香緒里の姉と修の姉貴分をずっとやっているんだから」

 そう言われても、俺も香緒里ちゃんも誰にも何も言っていないし、表面的にも実際にも今までと関係が変わった訳では無いけどな。
 風遊美さんが口を開く。

「修さんは気づいていないかもしれないですけどね。香緒里さんの動きがもう、前と違うんですよ。前は修さんの方を時々心配げに確認したりしたのですけれど、ある日から突然そういう動きが無くなって。修さんがほかの女の子と話したりしていても、前は少し心配げに見てる事もあったのに今は普通に笑顔で見ているし。
 逆に修さんは前以上に香緒里さんを意識するようになりましたね。自覚はないのでしょうけれど、よく見ればすぐわかります」

 そうなのか。
 俺は全く意識していなかったぞ。

「更に言うと、告白したとおぼしき時間と場所も特定されているれす」

 攻撃は更に続く。

「具体的に聞くわよ。1月30日金曜日、修は何処で何をしていたの」

 1月30日金曜というと、1月最後の金曜だから……

「この部屋の件を聞きに、田奈先生の研究室に行った日ですね」

「香緒里とね。その後マンションに帰ってくるまで、何処で何をしていたのかしら。香緒里と一緒に」

「バネ工場でここを買う話について、香緒里ちゃんと相談をしていただけですよ。

「本当にそれだけかしら」

 由香里姉はそう言うと、ジェニーに何やら目で合図する。
 ジェニーが応接セットのテーブルの下から取り出したのは、ソフィーがよく使っている怪しげなデータ取得用パソコン。
 例の薄型検知器も当然用意されている。

「ソフィーに聞いているのれ、私もこれを使えるのれすよ」

 おいジェニー、ちょっと待て。何を聞く気だ。

 更に悪いときには悪い事が起きる。
 白ワインの瓶3本を持った悪魔、じゃなかった黒魔女が部屋の入り口から顔を出した。

「差し入れでーす。で、この会は何の会?」

「修に振られた被害者の会による、修糾弾会場よ」

 黒魔女は、その名にふさわしい悪そうな笑みを浮かべる。

「面白そうね。私も参加していいかしら」

「差し入れに免じて参加を許可するわ。さて修、準備はいいかしら」

「この検知器を手に持つれすよ」

 何だ。どうしてこうなった。逃げ場は無いのか。

「香緒里ちゃんは?」

「あの子は大切な妹ですもの。幸せになるのは私も嬉しいわ。だから糾弾するのは修だけで十分よ」

 おいおい、そんなのありか。
 でも誰も助けてはくれなさそうだ。

 香緒里ちゃんは来なさそうだし、風遊美さんは既に酔っているし。
 あと理奈ちゃんと沙知ちゃん、メモもってそこで隠れているの反則!
 こっから見え見えだから。

 明日も学校は休みだから時間はいくらでもある。
 俺の長い長い夜は終わらない……
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