異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第6章 メイド in 我が家

第32話 環境改善の御提案

 たった3日のバカンスだったが、帰ると仕事が押し寄せて来た。
 一応ミランダが新規の仕事を断ったり先延ばしをお願いしたりしてスケジュールを調整してくれてはいる。それでも大分ブラックな仕事環境が戻って来てしまったのだ。

 俺の場合を考えてみよう。
 朝食や昼食はテディやフィオナが交代で作ってくれている。しかし食べ物の買い出しは基本的に俺の役目。夕食も作るのも俺の役目。それ以外の起きている時間のほとんどは翻訳マシーンと化している。

 幸いな事にバカンス前よりほんの少しだけ余裕がある。だから訳文が荒れる高速翻訳は出来るだけ使わない。普通の翻訳魔法を使って表現にもある程度こだわる方針でお仕事を実施。この方がテディやフィオナの負担が減るし。

 そんな感じで仕事をやったところ睡眠時間は6時間半まで減少。日本のブラックな社会人よりは大分ましかもしれない。でもスティヴァレで、通勤時間無しの環境でこれはかなりヤバい部類だ。食べ物の買い出し時間と夕食調理時間が休息時間を兼ねているような状態。まさに生かさず殺さずという感じである。

 これで睡眠時間がこれ以上削られたら生かさず生かさずになるんだろうな。おかげで陛下からの課題である理系な読書も全然出来ていない。 

 これ以上仕事を削ろうにも難しい状態なのは全員わかっている。
 フィリカリスから始まった花の名前ノメンフロッスシリーズは絶好調。早く次を出せと図書館出版局から矢のような催促が来ているらしい。
 いやいやえんの翻訳から始まった幼児・児童書レーベルも順調。これも類書をもっと出してくれというのをミランダが断り続けている状態だ。

 でっかい医学書を随時訳して部分毎に追補版として出す作業は治癒魔法や回復魔法で治らない難病の患者の為に必要。おまけにロッサーナ殿下から『次は民主主義とは何かのテキストをお願いね』なんて手紙もきていたりする。

 結果、俺はオーバーヒート寸前。
 小説部門の推敲校正清書を受け持つテディも限界近い。フィオナも図の清書や推敲校正清書作業やこの世界の知識との整合性調査等で火を噴くような状態だ。ミランダはお断り交渉だのちょっと待ってね交渉だので頭を下げまくっているし。

 そんな感じで2週間が経過した後。

「さて、皆に相談なんだけれどいいかな」

 夕食時、ミランダがそんな台詞から話を切り出した。

「お仕事はこれ以上増やせないですよ」

 予めそう言って釘をさしておく。

「いや、この環境を少しでもましにしようという方向の提案なんだ。一応今の修羅場はあと1週間で終わる予定。でもまた何時こんな修羅場が来るとも限らない。そこで少しでも3人の負担を軽くしようと思ってさ」

「楽になるなら何でも賛成ですわ」

 俺の次に仕事が多いテディが弱音にも似た台詞をつぶやくように言う。

「僕もだな。何せじっくり調べものが出来ない環境だしね」

 フィオナも賛成。テディよりは少し余裕があるようだけれども。俺も頷く。
 ミランダは全員の賛意を確認すると口を開いた。

「実はさ、メイドを1人雇おうと思っている」

 なるほど。家事関係を切り離せばミランダ以外の3人は少し余裕が出来る。
 俺だと買い出しと夕食料理に費やす2時間くらいが浮くわけだ。これは今の環境だと大分大きい。

「賛成だな」

「僕も賛成だね」

 俺とフィオナは直ちにそう自分の意志を表明。しかし何故かテディは少し考えているようなそぶりだ。
 何故だろうと思った頃、彼女は口を開く。

「ミランダがそんな提案をしてきたという事は、誰かメイドの働き口を探している方に頼まれたのでしょうか」

 ミランダは一瞬ぎくっとした表情になり、そして苦笑いを浮かべる。

「鋭いな。その通りさ。啄木鳥ピカスの奥さんに尋ねられたんだ。姪が働き口を探しているけれどいい場所無いかって。この春に中等学校を卒業してキッチン付のメイドとして働いていたけれど、働いていた家が商売に失敗して無職になってしまったんだと。今は啄木鳥ピカスでパン焼きの手伝いをしているけれど、出来れば何処かで住み込みで働きたいそうなんだ」

「料理の腕は大丈夫なのでしょうか」

「その辺は自信があると聞いた。前の職場では先任のキッチンメイドがいなかったからコックの手伝いで買い出しから料理補助まで一通りやっていたらしい。啄木鳥ピカスでもパンを焼いたり軽食をつくったりしているそうだし」

 なるほど。なら非常にありがたい。
 若いしちょうどいいかもしれない。うちは部屋も余っているし。

「なら私も賛成です。正直な処大分助かると思いますわ」

「ありがとう。それじゃ私の方で以降の手配をするから。部屋は4階の小部屋のどれかを使ってもらう事にして」

「これで朝食や昼食番からは解放されるよね」

「それにアシュの負担も大分減りますわ」

 確かに大分楽になるなとは思う。これで空いた時間まで仕事を突っ込まれたりするとちょい悲しいけれど。忙しすぎるから買い出しとか料理の時間とかが安らぎの時間になっていたりもするし。

 他にも不安が無いわけではない。
 今のこの家は全員いい雰囲気でやっている。傍から見ると一夫三妻というとんでもない状態だけれども。この中にメイドとはいえ部外者が入って雰囲気がおかしくならないだろうか。

 ただ確かにいてくれればテディやフィオナの負担も減るしありがたい。だからまあ、今回の案を反対する気にはならない。

 それに中層階級以上の家ならメイドの雇用なんてのは普通の事なのだ。収入が少ない家は住み込みではなく通いで、しかも毎日ではなく隔日とか週1~2回とかになったりするけれど。うちの場合は収入的にはむしろ住み込みのメイドを雇う方が普通だろう。

 だからまあ、あとはメイドさん本人が来てから考えればいいだろう。俺はそんな風に思っていた。
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