異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

文字の大きさ
41 / 176
第7章 イベントが多すぎる

第39話 サラの進学

 12月に1週間ここを空けるなら、その分の仕事をしておかなければならない。何せ日本語からスティヴァレ語に訳せるのは俺1人なのだ。
 だから朝から医学書追補版とか児童書第3弾とか花の名前ノメンフロッスの12冊目とか、注文が来るのが確実なものをガシガシと訳していく。本当は武闘会の為に訓練をしておきたい処だけれど余裕がない。

「その辺の仕事は12月になってからでも大丈夫じゃないか?」

 スケジュールも担当しているミランダがそんな事を言う。しかし理由を説明する訳にはいかない。

「できれば年末はさっさと仕事を終わらせて休みたいしさ」

 本音交じりの台詞で誤魔化す。
 
「アシュが頑張るようならもう少し仕事を入れるか。今でも結構仕事を断っているし、入れる気になればいくらでも入れられるぞ」

 おい待ったミランダ!

「追い込むのはやめてくれ」

「そうそう、今くらいがちょうどいいですわ」

「だよね。サラが来る前のあの忙しさはもう勘弁して欲しいな」

 もうあんなブラック労働は勘弁して欲しい。

「でも花の名前ノメンフロッスの新作は早く読みたい気持ちもあります」

「実は私もそうですけれど」

 これはサラとテディだ。
 サラも今は市場から帰った後で事務所にいる。彼女なら昼食くらい半時間30分もあれば充分。だからそれまではたいてい事務所で小説やレシピ本を読んでいる。
 時には主に午後に執筆しているレシピ集の作業もしていたりする。更にはテディの校正作業を手伝ったりもしている訳だ。

「ところでさ。サラに聞きたい事があるんだけれど今いいかな」

「何でしょうか」

 サラが読んでいるレシピ集から顔をあげる。

「サラ、来年の高級学校の試験、受ける気は無いか?」

 えっ。一瞬沈黙が訪れる。

「何故そんな事をお聞きになるのですか」

「村に中等学校が無いからってわざわざここへ来てまで通ったんだろ。だったら実は高級学校にも行きたかったんじゃないかと思ったんだ」

 またちょっと間が空く。

「でも私が高級学校へ行っても役に立ちませんから」

 そっけない返答。しかしミランダ、更に続ける。

「学校というのは役に立つから行くってものでもないさ。行きたいという気持ちがあればそれで充分だ。ここで3月まで働けば高級学校分の学費なんて余裕で貯まる。国立なら授業料無料だし領立や私立ならここから通えばいい。夏季休暇なんかの長期休暇はここでまた働いてもいいし、実家に帰ってみてもいい。今なら試験勉強にも間に合うだろう」

「ちょっと待ってください」

 ミランダは待たない。

「無論料理が最高で原稿まで書ける優秀なメイドさんを手放したくはない。だから長期休暇なんかでは少しでもいいから此処に来てくれると嬉しいな。あと卒業後はここに戻ってきてくれると私だけじゃなくここにいる全員が嬉しいと思う。勿論もっと勉強したくなったりもっといい職場があったら諦めるけれどさ。
 という訳でちょっと考えておいてくれ。判断基準は自分がどうしたいか、それだけだ。誰がどう思うとか申し訳ないとか余分な事情は一切抜きで」

「……わかりました」

「OK。よろしく」

「それでは昼食の準備に行ってきます」

 サラは逃げるように事務所から姿を消す。
 サラの足音が聞こえなくなった頃。

「気づきませんでしたわ。結構話を聞いたと思いますのに」

 テディが大きなため息をついた。先程のサラの態度は進学したがっているのを隠しているように見えたのだ。
 俺にもそう見えたし、多分テディもそう思ったから今の台詞が出たのだろう。フィオナもおそらくそう思っていると感じる。

「いやさ。前に啄木鳥ピカスの親父さんがそんな事を言っていたのを思い出してさ。受験するならそろそろ準備しないと間に合わないなと思って。
 中等学校での成績は良かったらしいから、そこまで苦労しなくても何とかなるとは思うけれどさ」

「国立と領立と私立、何処がいいかしら」

「その辺はサラの考え方次第だな」

「何を基準に選ぶかだよね」

 同じ高級学校でも結構違いがある。
 例えば国立は入れば生活費を含めお金はほとんどかからない。全寮制で平日は3食、休日は2食無料で出るからだ。ゼノア校なら学校としてのステータスもトップクラス。

 その代わり設備は整っているがちょい古い。生徒は貴族や裕福な商人の子弟が多く一般人は肩身が狭い思いをする事もある。先生方も貴族が多いので余計にそんな傾向が大きい。

 領立はゼノアには3校あって、レベルやステータスもピンからキリまで。
 例えば領立中央高級学校なら難易度もステータスも国立トップ校並み。貴族は国立か私立に行くからその分校内で身分とかを気にしなくてもいい。設備もゼノアは裕福なので国立以上にいいし新しかったりもする。ただし学費と教科書は無料だが昼食は自分持ちで、基本的には通学制。

 他に私立もゼノアには3校ある。ただゼノアでなら学力が充分なら国立や領立を蹴ってまで入る理由はないかな。国立に入れる学力が無いけれど高級学校へ行きたい貴族とか金持ち向けだ。領立は平民が通うものだという変なステータス意識があるから。

「やっぱり狙うなら国立ゼノア校か領立中央だよね」

 フィオナの認識は俺と同じ模様、というかきっと皆同じだな。どうせ狙うならトップ校だ。
 なら国立ラティオ校はどうかとも思うが、サラには微妙にお勧めできない。王都の国立校という事で面倒くさい部分が多いのだ。

 確かに国立ラティオ校、難易度もステータス性も国内ではトップクラス。でも生徒は貴族が多くて面倒だし学校自体の校風も古臭い。ある意味国立校の悪い部分を煮詰めた感じさえある。だから庶民というか大貴族や大金持ち以外はあまりお勧めじゃない訳だ。

 結果として国立はここから近くてレベルもラティオ校に準ずるゼノア校がお勧め。サラも遠い学校は心理的に受けにくいだろうし。

「幸い家庭教師には困らない環境だろ。国立ラツィオ校を出たばかりが4人も同居しているんだ」

 しかもテディやミランダやフィオナはその中でも成績優秀だった。俺は中流ど真ん中程度だけれど。
 だから俺以外は家庭教師としても充分だろう。

「あとはサラが変に気を使ったりしないかだな。こっちに申し訳ないとか。その辺のフォローは主にテディに頼むことになると思う。一番話す機会も多そうだしさ」

「わかりましたわ」

 そんな感じで、サラの進学応援なんて事がはじまった。まだ本人が決めていないから水面下でだけれども。
 例えばフィオナが図書館で参考書や問題集を探して来るとか。生徒募集要項を取り寄せるとか。
 でも俺はそれより1週間分の翻訳書き溜めが先だ。出来れば1週間分といわずもっともっと仕事を進めておきたい。そうすればいざという時にも困らないだろうから。
感想 5

あなたにおすすめの小説

逆転!異世界転移

上板橋喜十郎
ファンタジー
現代日本から何のスキルももらえずに異世界に転移。最強の男に転移したはずが戦い方が分からず俺YOEEEE!な状態。 ゴブリンにタコ殴りにされ、周りの女性たちから嫌われながらも、国王の娘との結婚を回避する策を練る為の時間稼ぎに冒険者ギルドでアイテムを集めて届ける依頼を受ける。 魔物との戦闘やHなハプニングがありながら、仲間との友情や信頼関係を築き、少しずつ強くなりながら活躍する様になっていきます。 愛と友情、仲間との信頼、各キャラクターの心情の変化、主人公の成長、機転による逆転劇、伏線の回収がテーマの作品です。

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。