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第16章 冬のリゾート

第122話 成金状態な金遣い

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 12月に入って2週目の休養日、昼食の時間。
 本日のメニューはチーズクリームスパゲティとサラダ。もちもちの生麺を食べながらふと思う。
 そろそろミランダが冬のリゾート活動を提案してくる頃だな。そう思ってふと気づいた。

「そういえば学期末の試験って、サラ達はどうだっけ」

 今まで気にしていなかったし実際忘れていたのだけれど聞いてみる。

「今日で終わった。問題は無い」

「私はあと1科目あります。でも大丈夫だと思います」

 なるほど、2人とも優秀なようでなにより。

「そう言えばミランダ、まだ休みの計画を持ってきていないよね」

 先程の俺と同じ事をフィオナも思っていたようだ。
 休養日の昼食時間だがミランダはいない。1泊2日の出張に昨日から出たままなのだ。
 なお何処へ出張へ行っているかは本人以外誰も知らない。一応例の超小型ゴーレムを持っているので移動魔法も使えるし連絡も取れるのだけれど。

「バルマンのリゾートなんかもいいのですけれどね。他のお客さんがいるとこの子達が一緒出来ないのが悲しいですわ」

 この子達というのはもちろん龍2頭である。今はテーブルの下、テディの前でそれぞれクリームパスタ入りの皿をなめている状態だ。

「仕事の方は大丈夫ですよね。リゾートに向けて皆さん休みをとれるようにしているようですし」

「問題ない。来年3月分まで完了済み」

「私も1月分まで終わっています」

「私も同じくらいですね」

「僕も問題ないかな」

「私ももうすぐ今のが終わりますわ」

 皆さんスケジュールは万全のようだ。

「俺も大丈夫だな」

 次はテディ用の恋愛小説を探して訳す仕事だが、テディの今の作業が終わってからでも充分間に合う。

「どっちにしろミランダが帰ってからだよね。リゾートの場所を確保してくるのは基本的にミランダの仕事だし、僕たちにはそんなコネないしね」

 そうフィオナが言った時だ。食堂入口付近の空間がふっと揺れる。噂の当人がお帰りになった模様だ。

「ただいまー。私の分は?」

 いきなりそれかよ。

「共用の自在袋に入れてあります。持ってきます」

「いや自分で行くよ」

 足音がキッチンの方へ行って、そして戻ってくる。
 カトラリー一式と自在袋そのものを持ってきた。クリームスパゲティ、サラダという今日の昼食の他、昨日の夕食の一部のカルパッチョや牡蠣フライなんてものまで出して並べ、食べ始める。

「うん、やはり我が家の飯が一番旨いな」

 その気持ちは大変良くわかるけれども何だかな。

「何の出張に行っていたの、ミランダ?」

 そう言いながらフィオナはミランダの牡蠣フライに手を伸ばす。

「ちょっと南部はネイプルの街までさ。ジュリアが訳した漫画がかなり売れていると出版社で聞いたからさ。その状況を現地で確認しようと思って。ネイプルの図書館を一通り回ってきた感じだ」

 ミランダ、フィオナのフォークをすかさず皿を移動させる事で防御。

「随分遠くまで行ったんだね」

 フィオナはさらに手を伸ばすがミランダのスプーンに阻まれる。そしてその下では新しいおかずに気づいた龍2頭が既に待機中。
 
 まあそんな攻防はともかくとしてだ。ここスティヴァレは細長い半島の国。北の険しい山脈に南向きの細長い半島がくっついている形だ。

 俺達がいるゼノアは北側、山から海へとおりてきたあたり。そしてネイプルは半島の南側から3分の1程度の場所。
 南部で一番栄えている街だがここゼノアからはかなり遠い。普通に行き来した場合、馬車だと片道6日近くかかる。ラツィオからでも南へ馬車で2日かかる位の場所だ。

「そんな処へ行って不審がられないかな」

「ラツィオに行ったついでに足を伸ばしてみたと言ってある。実際私みたいな売り込み担当は作品を売り込むために全国の図書館や出版社を回るのも珍しくないんだ。うちの場合は売れているからそんな事しなくても大丈夫だけれどさ。まあそれでも地方の図書館なんかにも顔つなぎはしておいた方がいい。便利な移動魔法も使えるようになったしさ」

 ミランダの仕事も俺達がわからない苦労があるようだ。

「さて、それでそろそろリゾートの話だ」

「待っていました」

 フィオナとミランダの攻防戦はまだ散発的に続いているのだが、それはまあいいとして。

「今回の場所は海だ。ネイプルの南、90離180km程度のところにダデアーノって火山があるんだが、その海沿いの麓にある別荘だ。
 別荘自体は今回は大したものじゃない。今までの中でも一番小さいサイズだ。でもここの皆が泊まるには充分以上に広い。狭いがプライベートで使える浜がある。温泉も整備していないけれど一応ある。
 だが難点も無い訳では無い。なんと言っても街から遠い。溶岩メインの岩山で完全に人里から隔離された状態のようだ。一応2頭立ての馬車が入れる程度の道は通してあるらしいが未舗装と言っていた」

「それでも温泉があるのですね」

 テディは温泉が好きだ。バルマンのリゾートで虜になってしまったらしい。雪が消えて勝手に入れなくなって随分と悔しがったものだ。

「ああ。だが現況ではただ流れている一部を別荘に引いて普通の風呂場に入れているだけの状態らしい。一応流れている部分の岩盤を一部掘って露天風呂のようになっている場所もあるそうだがただ掘っただけの状態と聞いた」

「でも露天風呂があるのは嬉しいですわ」

 テディは温泉と露天風呂があれば文句ないらしい。
 しかしどうも今回の話、何かありそうだ。ただ別荘を借りたにしてはいつもと違う感じがプンプンとする。

「ところでその別荘、どういう関係で借りたのかな。何か微妙に怪しい気がするんだけれど」

 テディ以外がうんうんと頷く。

「バレたか。実はここ、南部のとある中規模な商会会頭の個人別荘だったんだ。街を離れのんびり出来る別荘という事で作ったらしいんだけれどさ。昨今の穀物価格の上昇でそれどころじゃなくなったらしい。
 それで売りに出したんだが場所が辺鄙すぎて買い手がつかないまま値段が下がっていったそうなんだ。それでも売れないもので商業ギルドに泣きついた。辺鄙だけれどいい別荘だから、何なら無料で貸し出すから試してみてくれって。それをギルドから紹介されて、それならいっちょ借りてみようかと思った訳だ」

「そんなの借りて大丈夫なの。借りたからには買えって話にならない?」

「ちなみにお値段はおいくらなのですか」

正金貨100枚1億円かかったそうだが今なら正金貨30枚3千万円でいいそうだ。交渉すればもっと安くなるような気もするけれどな。向こうさんかなり諦めが入っていたようだから」

 普通ならとんでもない金額だと感じるところだろう。しかし俺達は成金だ。
 
「それくらいは僕とテディとミランダ、アシュの貯金をあわせれば余裕だよね」

「だろ。温泉も海もついているしさ。それにうちなら交通機関なんて気にしなくていいしさ」

 皆さん金銭感覚が麻痺していらっしゃるようだ。でも確かに元々のメンバー4人の貯金をあわせれば余裕で買える。全額じゃ無くて5割ずつくらいでも問題ない。
 それにミランダが言うとおり交通機関は俺達には必要ない。全員が移動魔法を使える状態だから。

「来年になってから買えばちょうどいいよね。会社のお金でさ。そうでなくても税金で持って行かれるんだし」

「今年はこの家と自動車を買ったからな。来年分に回せばちょうどいいだろう」

 おいちょっと待ってくれ。

「いつのまにこの家を購入したんだ?」

「学園祭前の休養日に全員に話したと思うけれど」

「そう言えばアシュは出かけていたよね。言うのを忘れたかな」

 おいおい待ってくれ。

「大丈夫なのか。それに大体いくらしたんだ?」

正金貨70枚7,000万円で、今年分として正金貨35枚3,500万円、来年に正金貨35枚3,500万円を支払う予定だよ。そうしないとジュリアを含めて税金を6割以上取られる事が確定しちゃうからね」

 スティヴァレの会計措置には減価償却という概念はない。念のため。

「下見ついでにその別荘に行って、万が一買うことになっても問題ない訳だね」

「そうだな。無論気に入らなかったら買わないだろうけれどさ」

 一応納得した。それでもだ。

「金銭感覚が麻痺する」

 ジュリアの台詞にうんうんと俺も頷く。学生時代は日々正銅貨100円単位で暮らしていたのに。なんだかなと自分でも感じてしまう。 
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