神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀

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プロローグ 神は、降り立った

2 はじめての収穫

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 それでは、最初になにをしようか。
 水が足りないなら、ため池を作るべきだろうか。

『その前に、まずは生活基盤、具体的には衣食住を確保することをお勧めします』

 確かに人間ならば、その必要があるだろう。
 特に飲み水の確保なんてのは最重要課題だ。

 しかし今の私は神だ。
 その辺は必要ないと思うのだけれど、違うのだろうか。

『土地神は人間形態の肉体を持っています。勿論神力を使えば飲食無しでも生存可能ですが、現在は真素マナが足りない状態です。ですのでより長く生存するには、出来るだけ人間に近い様式で生活する事をお勧めします』

 なるほど。
 そう思って、そして改めて自分の姿を見てみる。
 うん、高松で公務員をしていた頃、そのままだ。
 服も中身も。

『本来は土地神としての名前と外見は、神本人の意向を元に、ある程度相談して決めるものです。ですがシナリスは、そういった面倒な作業を全て無視しました。ですので現在、神としての名前が無く、外見及び肉体も、貴方が大西彩花おおにしあやかであった頃のものをそのまま使用しています』

 職場と老母看護でへろへろの、限界アラサー公務員のままか。
 どう考えても、神としてありがたく無さそうな姿だ。
 そこはやっぱり、神としてありがたく、自分も満足出来そうな姿にイメチェンしたいところだけれども……

『その前に衣食住、衣は当座はそのままとして、食と住です!』

 全知に言われてしまった。
 それにしてもこいつ、全知という能力の癖に、何か人間っぽい。

『それも本来は設定するべきところです。ですがシナリスですから、当然そんな細かい作業はしていません。ですので大西彩花さんの記憶にある、ファンタジーものに出てくるサポートAI風のイメージをとらせていただきました』

 なるほど。これはこれで便利な気がするので、このままでいいだろう。
 会話する相手にもなりそうだし。
 孤独で会話すらできないと、精神が病みそうな気がするから。

 さて、それはそうと食と住だ。
 そして一番優先順位が高いのは、飲み水。

 飲み水が簡単に得られそうな場所はないだろうか。

『ケカハの地の平野部分は、そのままでは水利はありません。川も伏流水として地下を流れている状態です。ですのでそういった地を掘って水場を作るか、山間部のまだ川が伏流していない辺りへと出向くことになります』

 確か自分の土地なら、自由に移動が出来る筈だよな。
 なら今は山間部に行って、水を確保しておけばいいか。
 でも移動すると、神力とやらを使って、寿命を縮めないだろうか。

『神が治める土地全てに在るというのは、根本的な在り様です。一柱だけの顕現なら、神力を消費するという事はありません』

 なら必要があれば、水がある場所へ移動するでOKだ。
 では次、食べる物。
 まずは食べられる野草はないかという事で、枯葉色の草原を見てみる。

『現在は平原の食物のほとんどが、収穫の時期に入っています。この草原も、かつて此処で栽培されていた小麦や豆類が野生化したものです』

 小麦と、豆か。もちろん全力で採取だ。
 多分これも、神の権能である全在で何とかなるのだろう。

『その通りです。収穫から脱穀、製粉まで可能です。ですがこの地に生息する小動物の貴重な食料でもあります。また来年の種となる分も残して下さい』

 確かにその辺は、考慮する必要があるだろう。
 それに収納の問題がある。

『収納は気にする必要はありません。幾らでも、時間を停止した状態での収納が可能です。これも土地神の権能『全在』の能力です』

 何というか神、無茶苦茶チートだ。
 収納無限で時間停止のアイテムボックスなんて、それだけでとんでもないチートだろう。

『貴方は既に人では無く、神です。人と比べて遙かに高い能力を持っていて当然です』

 そうだった。私はラノベに出てくる勇者より賢者より遙かに格が上の、神様なのだ。
 ならチートであって、むしろ当然。

 なら遠慮無く収穫をするとしよう。
 そう思ったが、やり方がわからないので、『全知』に聞いてみる。

『なら此処に住まう動物が数を減らさない程度で、かつ来年も同じ位の収穫が期待出来る分量の種が残る程度に、ここから見える範囲の麦と豆を収穫し、収納したいんだけれど、どうすればいい?』

『そう在れ。そう望むだけで可能です』

 神様、やっぱりチートだ。
 でもそれなら、念じてみよう。

『収穫!』

 風景が変化した。
 一瞬過ぎて、次の瞬間には以前からこのままだったのではないかと思う位の早さで。

 しかしよく見ると、生えている麦から穂の部分が減っている。
 そして私の知覚が、麦粒と見知らぬ膨らんだ鞘入りの豆を大量に収納していると、訴えている。

 ただこの膨らんでいて長さが短い鞘の豆は、はじめて見た。
 落花生よりもっと短くて、全体にぷっくりしている。

『この豆は、地球でヒヨコ豆と呼ばれていたものに近い品種です。乾燥に強い為、この地でも生き残っています』

 ヒヨコ豆か。
 名前は聞いたことがあるけれど、料理した記憶は無い。
 何処かで食べたサラダに入っていて記憶があるから、煮豆で食べられるとは思うけれど。

 そして小麦。小麦と言っても、種類は色々ある。
 個人的には、グルテンの含有量が気になるところだ。

『グルテンの保有量は、9.7%程度となります』

 おお、それはほぼ中力粉、それも『さぬきの夢2023※』と同程度だ。
 そして海があるなら、塩も作れる。
 水があり中力粉があり塩があるなら、もう主食は決まったも同然だ。

 取り敢えず収穫した小麦は、小麦粉にしよう。
 念じれば出来るらしいから、急がなくてもいいけれど。

 それでは次は海で、食塩を採取だ。
 歩いてもいいけれど、ここは神の権能を試すべきだろう。

 移動したいと念じてみる。
 頭の中に、私の土地のものらしい地図が思い浮かんだ。
 地図上の地点を思い浮かべると、そこの風景が別の脳内画面に表示される。

 なるほど、これは便利だ。
 それならという事で、海流がそこそこあって、綺麗そうな海岸を選んで、移動と念じる。 

※ さぬきの夢シリーズ
  香川県のオリジナル小麦品種の総称。香川県農業試験場が、よりうどんに適した品種となるよう改良を繰り返した結果、『さぬきの夢2000』『さぬきの夢2009』『さぬきの夢2023』と進化している。

※ 本物語に出てくる讃岐うどん語りへの注意
  この物語に出てくる大西彩花さんの意見は、あくまで一個人としての意見で、絶対的なものではありません。正しい意見でも、一般的な意見でもありません、多分。誤解しないようお願い致します。 
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