神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀

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第1章 まずは自分の衣食住 第1話 最初の一杯を、隣神さんと

3 はじめての近所づきあい

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 やや岩が多い海岸に出た。
 海も見た限り綺麗で、岩にはそれなりに貝なり海藻なりがついている。
 うどんの汁に使えば、それなりに美味しい出汁が出そうだ。

 何せまだ、醤油や味醂、更には砂糖も酢もない。
 ついでに言うと、いりこも鰹節も出汁昆布もない。
 だから美味い出汁が出そうな獲物を、此処で確保する必要がある。

 そう思ったところで、私は気づく。
 海のものって、土地神である私が、勝手に採取していいのだろうか。
 海は確か、海神がいる筈だ。
 なら声をかけておいた方がいいだろうか。

 そう思ったところだった。

「おっと、君が新たなケカハの土地神かい?」

 声のする方を見ると、海面に立っている男性がいた。
 見た目は、綺麗にして和服を着せたジャック・スパロウ船長という感じだ。

 和服と言ってもいわゆる着物ではなく、大相撲の行司とか鎌倉時代の武士が着ている直垂に似たような感じで、色は浅黄色。
 烏帽子っぽい帽子から、伸ばした茶色い髪が長く下へと伸びている。

 普通の人間では無いことは、見てすぐに理解した。波が揺れる海面に水蜘蛛も無しに立っているなんて、忍者でも無理だ。
 となると、正体は想像つく。

「ええ、その通りで、ケカハの土地神の大西彩花おおにしあやかと申します。こちらを担当される海神様でしょうか」

「ああ、セート海域を領海とする海神、キンビーラだ。あと今名乗った名前はきっと前世のものだろう。どうせ神としての設定関係、シナリスの事だからやっていないんだろう。神だから時間はある。じっくり考えて、名前だけで無く服装や外見まで、設定を決めた方がいい」

 シナリスの事だから、か。
 維持神シナリスは、ここでもそういう扱いのようだ。
 
「わかりました。ありがとうございます。それで食事用に、海から塩を取ったり、海藻や貝を採りたいと思うのですが、宜しいでしょうか」

 キンビーラは頷く。

「全く問題無い。神としての力を使って、周囲の生物を根こそぎ捕るなんて事をしなければ大丈夫だ」

「わかりました。それでは採取させていただきます」

「あと、これは無理にではないが、もし出来たなら私にも食べさせてくれないか。どんな料理になるのか、興味がある」

 いや、今の段階では、献上出来る様な料理は無理だ。

「まだ調味料も揃っていませんし、この世界の産物にも慣れておりません。ですので当分の間は、献上するような料理は作れないと思いますけれど」

「いや、それだから面白い。最小限の材料で出来た最初の形から、どのように進化していくのか。成功も失敗も含め、味わっていくのは楽しいと思わないか。まずいならまずいと、2柱で言い合いながら食べるなんてのは」

 なるほど、そう言うなら、まずい物を食わせても問題は無いだろう。
 うどんの材料になる小麦は充分ある。だから毎食2人分ずつ食べたところで、おそらく問題は無い。

「あと献上なんて言葉は使わないでくれ。地神と海神と立場は違うが、同じ神だ。だから友人程度に思ってくれればいい」

 同じ神といっても、経験と治める領域の広さにかなりの差がある気がする。
 でもまあ、向こうがそう言うなら、ちょっと目上の友人くらいのつもりで扱うとするか。

「あとお礼として一食ごとに、セート海域で獲れるものを、希望に応じて進呈しよう。あまり大量に要望されるとこまるけれど、一抱え程度までなら問題無い」

 つまりうどん一食ごとに、海産物を一抱え分、注文し放題か。
 それは非常にありがたい。
 なら誠心誠意、毎食、準備させていただくとしよう。
 当分はろくなものを出せないとは思うけれど。

「わかりました。なら何時頃、何処へ届ければいいでしょうか」

「時間はいつでもいい。ただあまり手間取らせても悪いから、1日1回としよう。場所は海岸沿いなら何処でも大丈夫だ。ケカハの海岸なら全域がセート海域だから」

 その言葉に続いて、全知が補足説明を入れてきた。

『神は自分の領域内の、全ての事象を把握する事が可能です。また自分の領域内なら、別の場所に同時に顕現する事が出来ます。ただし複数顕現は神力が必要です。現在の大西彩花さんの場合は、神力の無駄な消費をしない為にも、当分の間は複数顕現する事は避けた方がいいでしょう』

 なるほど、キンビーラなら、何時でも何をしていようと、海岸にいる私の所まで来る事が可能という訳か。
 私は神力の消費を防ぐ為、複数顕現は避けた方がいいけれど。

「わかりました。それではうどんが出来たら、早速お出しします」

「ああ、頼む。楽しみに待っているから。あと何か聞きたい事とか要望とか、なにかあったら海辺に来て声をかけてくれ。それじゃ、また」

 すっとキンビーラの姿が消えた。
 
 さて、それでは塩を採取するとしようか。
 でもその前に、塩を作る為の容器とかを作った方がいいだろうか。

『収納の中で作成する分には、容器は必要ありません。ですが人間のような方法で飲食をする場合、及びキンビーラに渡す際には、適切な容器があった方が便利でしょう』

 なるほど、丼と箸は必要ということか。あとは天ぷら皿もいずれ必要になると。
 なら一度、粘土を採取に行った方がいいだろう。
 うどんを作っても容れ物がないと、悲しい思いをしそうだ。

 私は念じる。

『焼き物に適した粘土がある場所』

 頭の中の地図に、幾つか赤点が浮かんだ。
 そのうち一番近い、海が近い平地の中にある山の横への移動を、私は念じる。

 ふっと海辺の景色が消えた。
 かわりに現れたのは、山と平野、えぐれた浅いすり鉢みたいな地形。
 平野は、やっぱり枯れた草で覆われている。
 山も、岩が出ているところ以外は、やっぱり草地だ。

 ただえぐれた部分だけ、草の種類が違う気がする。

『この部分には、雨期で大雨が降った際、山から出た水がたまる場所です。この底近くは粘土の層となっています』

 なるほど、なら採取だ。取り敢えず10kgあればいいだろう。
 そう思ったと同時に、収納に粘土が入った。
 砂利や小石、ゴミを取り除くことを意識して、粘土だけにした後、一気に成形する。

 イメージ通りの形になるのは、流石に神チートという奴だ。
 ついでだからうどん用の丼以外にも、やや小さい器や天ぷら用の平皿、ざるうどんにする場合のつゆ用容器、更にはちょっと大きめな瓶なんてのまで、ガンガン作る。

 一気に乾燥、800度にして赤熱させ、冷やす。
 本当は確か素焼きで10時間焼成が必要だ。しかし神が収納内で作る際には、ただ念じるだけで大丈夫。

 釉薬は、その辺の草を焼いた灰でいいだろう。これも収納内で念じればほぼ瞬時に出来上がる。
 水に溶いて塗って、今度は1,200度で焼く。本当は12時間焼いた後、2日近く使って冷やすのだが、これもイメージしてほぼ瞬時に完成。

 箸は……木で作ろうと思ったけれど、この辺は木が生えていない。
 適当な木が生えている山へと、移動して採取しよう。

※ ジャック・スパロウ船長
  ディズニー映画映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの主役格の海賊。ジョニー・デップが演じている。
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