神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀

文字の大きさ
36 / 84
第7話 雨期に来るもの⑴

36 私がやらなければならない事

しおりを挟む
 村についたら、ナルゼ達3人は基本的にビブラム達にお任せだ。
 魔法の授与はしたし、空いている家の使用許可も出したし、神社にある来客用の布団3組を貸すなんて事もしておいた。
 村共用の食料はそれなり以上の在庫がある。
 だからここにいる間は、生活で困ることはないだろう。

 見学にはビブラム達だけではなく、ナルゼ達と以前仲が良かった同年代のカデラやルーチェも案内役をするそうだ。
 予定では明日の昼までで、戻ったら向こうで会議を行って、移住するかを決める予定になっている。
 
 ロシュとブルージュは、車を運転して畑や森周辺を回ると言っていた。
 荷物運びの手伝いが必要な場合が、結構あるそうだ。

 私は神社の神饌所というか、家のリビングで一休み。
 休みついでに全知を使って、気になっていた新開発の武器を確認してみる。

 この武器、村では『棒弓』と呼んでいる。
 鉄製で上側に溝がある長い棒があり、棒の下に2か所持ち手があるという構造だ。
 この溝の手前側に鉄と木で作った長さ15cm位の小さい矢を置いて、力の魔法で先端方向へ撃ち出すという仕組み。
 
『ライフル弾並の初速があり、弾に相当する矢もライフル弾より重い為、一発の威力は地球の重機関銃並です。矢を小型化したような形状で羽がついているので射程は長く、2km以上となります。
 ただ鴨などの狩猟には威力が強すぎるので、この棒弓は使わず、魔法を直接使用する方法を使用しています。鴨の場合は力の魔法で首を折る方法が使われ、既に11匹程狩っているようです』

 何だその洒落にならない武器と、危険な攻撃魔法もどきは。
 でも魔法を与えたのは私だし、その制限内で運用可能なのは確かだ。

 ただ、ここまで来てしまうと……
 神がやるべき事は何だろうか。そう自問自答してしまう状態だ。

 塩田、舟2艘、樽20個、漁業用の小舟2艘、魔法で回転させる粉ひき用の大型の石臼、糸より器、布織機、それらで作った布、棒矢と棒弓……
 村人だけで、これらを実質10日間で作ってしまっている。
 雑草取り、耕耘、播種、水やりなんて畑作業をやりながら

 この調子だと村を囲む塀なんてのも、村人に任せた方がいいだろう。
 そして付近の川は、ほぼ完璧に整備済みだ。
 その上で私の神力は、思いっきり余裕がある。
 今なら川の整備工事だって5km位は余裕で出来そうな位に。

『この村が1,000人規模以上になったとしても、村人の力だけで充分に拡張が可能です。村と畑を囲む塀も、3日程度あれば出来ている事でしょう』

 村人が精鋭すぎて、私が暇になりそうだ。

『村内の暮らしに直結する事項については、村人に任せておけばいいでしょう。しかしそれ以上の課題については、コトーミが考えて取り組む必要があります。たとえば来年の乾季、1,000人以上の生活に必要な水の確保は、村人の努力だけでは無理です」

 川3本を整備して、ため池もたくさん作った。それでも足りないのだろか。

「全知でも来年の天候は把握できません。それにケカハに降る雨量は限られています」

 香川県の場合は、香川用水がある。
 早明浦ダムと池田ダムで吉野川の水を確保して、讃岐山脈を貫通する水路で香川県内へと導き、讃岐平野のほぼ全域へと水を届ける巨大用水網だ。

 フタナジマもケカハ山脈の向こう側なら、そこそこ雨が降るらしい。
 しかしそこはミョウドーの領域で、土地神のナハルは敵対的存在。
 少なくとも今は協力を求められる状況にない。

 ならせめてケカハ側に降った雨は有効に使えるよう、水路網を作っておこう。
 今はドキ川、アヤ川、そしてその間のダイソク川流域を整備している。
 でももっと東やもっと西の川からも、導水出来るようにした方がいい。

 しかしケカハの人口が1,000人どころじゃなく増えたら……
 今の水量で暮らせる範囲に人口や生活を制限する。それが正しい答だ。
 しかしそれで、ケカハの住民は納得してくれるだろうか。

 水以外にも、懸念事項はある。
 もしケカハの住民が納得してくれて、他の領域に迷惑をかけずに暮らしていけたとしても、他の領域、そして土地神はどうだろうか。
 具体的にはミョウドーの土地神であるナハルが、こちらに仕掛けてくるという事はないだろうか。

 ナルゼ達の偵察の結果、ミョウドーの領域から50人程が移動するとなると、その分ナハルが得る神力が減ることになる。
 またミョウドーにナルゼ達が戻れば、ナハルはこの村の事を知ってしまうかもしれない。
 土地神の全知なら、ナルゼ達の記憶を読み取る事が出来る可能性がある。

 それでもナハルは、こちらに手出しをしてこないだろうか。

『それも村人ではなく、コトーミが取り組むべき課題です』

 全知はそう私に告げて、そして続ける。

「全知としては、ナハルがすぐに攻めてくる可能性は低いと見積もっています。ですがこれは、此処ケカハで得られる情報で全知が合理的に判断した上での結論で、実際にそうなるという確定ではありません」

 つまり攻めてくる可能性は否定しない、という事だ。

「またもう少し長いスパンで見てみると、アキヅシマの勢力が攻めてくる可能性も高いでしょう。
 フタナジマの場合、気候変動により大被害を受けたのは、ケカハを中心とする北部から北東部一帯だけでした。
 しかしアキヅシマでは、生活に適さない領域が多数出てしまいました。特に10年前の干害からその傾向は酷くなっています。
 結果、より住みやすい場所を求め、土地神と信徒による戦争が始まってしまった訳です。この流れは止められません。いずれフタナジマも、この流れに飲み込まれることでしょう』

 いやな話の流れになってしまった。
 以前キンビーラやアルツァーヤに聞いた話と同じだ。
 全知情報でも『戦争が始まり、この流れは止められません』となる訳か。

『その通りです。勝つほど領地は広くなり、住民が増え、土地神は強化されます。既にアキヅシマの土地神のほとんどは、このことに気づいてしまいました。ですから自衛の為にも、戦って領地を広げる事が必要となるわけです。
 そしてアキヅシマとフタナジマの間は、最短で5里20kmしかありません。ですから領民を増やし、今後に備える必要があるのです』

 うん、戦の準備は、いずれは必要になるのだろう。
 でも今、私がするべき事は、やっぱり水の確保だと思う。
 来年干害になった、なんて事態は避けたいところだから。

 取り合えず地図を頭の中に思い浮かべ、水を確保出来そうな川を探すことにした。
 
 次の川の名前は何にしようか。
 東側は、綾川の東で大きい川というと、やっぱり香東川こうとうがわだろうか。本津川とかあった気もしたけれど。
 西側は正直、覚えていない。なので後に適当に名前をつけよう。

 戦いについても、いずれは考える必要がある。
 でもまずは差し迫っている、水の課題について出来る限りのことをしておこう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る

六志麻あさ
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。 だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。 それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。 世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。 快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。 ●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi
ファンタジー
前世では病弱で、病室の窓から空を見上げることしかできなかった私。 そんな私が転生したのは、魔法と剣があるファンタジーの世界。 ……とはいえ、勇者でも聖女でもなく、物語に出てこない“モブキャラ”でした。 貴族の家に生まれるも馴染めず、破門されて放り出された私は、街の片隅―― 「しろくま通り」で、小さなお菓子屋さんを開くことにしました。 相棒は、拾ったまんまるのペンギンの魔物“ピノ”。 季節の果物を使って、前世の記憶を頼りに焼いたお菓子は、 気づけばちょっぴり評判に。 できれば平和に暮らしたいのに、 なぜか最近よく現れるやさしげな騎士さん―― ……って、もしかして勇者パーティーの人なんじゃ?! 静かに暮らしたい元病弱転生モブと、 彼女の焼き菓子に癒される人々の、ちょっと甘くて、ほんのり騒がしい日々の物語。

処理中です...