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第9話 雨期に来るもの⑵
44 本棚は移動しよう
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主に話しているのは、イルザとビブラム。
現在の村の様子や、十年前に別れた後の事が話の中心のようだ。
「……それで十年前、最後にセキテツに向かったのは三千人位でしたけれど、今は何人くらい残っているのでしょうか?」
イルザの問いに、ビブラムが顔をしかめて答える。
「今はざっと千人ってところか。半分以上がセキテツへ去った」
「セキテツの受け入れのせいではないでしょう。アナート様が向こうの土地神様に頼んで用意していただいたのでしたら、そう悪い環境だとは思えませんから」
「ああ。こっちの問題だ。セキテツの土地神アルツァーヤ様は、山間部ではあるが、川が使えそこそこの平地がある場所を用意して下さった。そのうち本来はアナート様の信者だという事で、こちらの集団をセキテツの組織から外して、こちらの自主的運営に任せてくれた。しかしそれが、かえって良くなかった」
イルザが、はあっと溜め息をついて、口を開いた。
「私達が南の山に、オーギ達が海に別れたのと同じ理由ですね。ヨーナリ達が問題だったのでしょう。自分勝手なことばかりして見放されたってところでしょうか」
「正解だ。神のチェックが無くなって、好き勝手をはじめた。一年もしないうちにタドやサンガワ、ミキといった区の区長が区民を引き連れて出て行った。10年後の今、残った区はオーギ直轄のナカとワカーサのウタリ、そしてヤマーダくらいのものだ。それらも半分近い区民が逃げ出したが」
『話に出てくるオーギの弟が、コトーミによって追放されたサネソンです』
なるほど。セキテツに残っている集団の大ボスが、駄目駄目な奴のようだ。
そしてサネソンが神である私に対してああいう態度を取ったのには、そういった背景があったのか。
10年近い神の不在と、好き勝手し放題の環境が。
「先遣隊として来て半月程度経っていると聞いていますが、此処の環境について、もう向こうには一報入れたのでしょうか」
「まだだ。ケカハに戻ってこれた上、広い立派な家と平らで広い畑を与えられ、魔法まで使える環境なのだ。おかげで皆のやる気も上がっている。この状態に水を差したくない」
「馬鹿が来て駄目駄目にする前に、基盤を整えておくわけですね。確かにその方が安全でしょう」
「ああ。それにコトーミ様の期待を裏切りたくない。あの方はアナート様以上に人と近しく、そして温厚な方だ」
「この村を見れば、気前がいいというのは想像がつきます。あと、おそらくは今までの私達の常識と、違う考え方というか価値観を持っているだろうという事も」
「ああ。あの方自身が仰っていた。私は別の世界から来た神で、この世界の事は良く知らないと。だからかこれだけの物を与えてくれたのも関わらず、基本的にこちらの自治に任せてくださっている……」
並列思考のひとつがイルザとビブラムの話を聞いている一方で、身体側についている思考は子供達の相手をしている。
「取り敢えず白黒のままだけれど、絵が多くて文字が少ない動物の本を試作してみたけれど、どう?」
3日前の読書会で出た意見を元に作った、絵がメインで、文字が動物の名前と10単語程度の説明しかない本だ。
文章の説明はほぼ無く、あるのは動物の名前と、食べると美味しい、食べられない、危険といった最小限の単語を記した説明だけ。
昨日作った後、一応ロシュとブルージュには見て貰っている。
でも他の3人はどう反応するだろう。
早速5人で囲んで、ページをめくって確認。
「たしかにこれ、わかりやすい」
「この横にいるのって、コトーミ様?」
「そう。大きさがわかりやすいように入れたって」
そうそう、ロシュの言うとおり、大きさを理解して貰う為の工夫だ。
何故私の絵かというと、年数が経っても身長体重その他が変わらない人間はいないだろうから。
なんて思っていたら、別の子供の一団がやってきた。この6人組は、今日イルザ達とやってきた中の男子一同だ。
「すげえ絵見本がある」
絵見本? そう思ったところで、例によって全知からの解説が入る。
『イルザ達が住んでいた山岳地帯では、狩りが重要な生活手段の一つでした。その為、子供に動物の種類や性質を教える為、動物の絵を描いた木札を多数作って、教育に使用していました。この木札が絵見本です』
なるほど。そういった必要性があった訳か。
ただ11人で1冊の本を見るのは、流石に無理がある。
なら、こうすればいい。
「同じ本を作りましたから、何人かはこっちを見て下さいな」
「コトーミ様、宜しいのでしょうか」
『リトロ、12歳で、今回来た子供の中では最年長の男子です。文字を読めますが、あまり得意ではありません』
遠慮しているのは、まだ私に馴染みがないからだろう。
あと文字を読めるなら、一応誘っておこう。
「ええ。それにこの神社には他にも何冊か本を置いています。ですから何時でも読みに来て大丈夫です」
「わかりました。ありがとうございます」
そうなると、他の子供達の集団も興味をもって近づいてくる訳だ。
結果、同じ本を合計8冊作って、8グループで見ている状態になってしまった。
ただし4グループは、文字が読める子がいない。
なので私の並列思考を使って、全知で4グループの会話を読み取りつつ、適宜解説を伝達するという方式を使っている。
更に子供達がいきなり集団で何かを囲み始めたのを見た大人も、当然のことながら様子をうかがったりする訳だ。
ただ同じ本をこれ以上増やしたくない。
なので『子供用より少し文字が多くて難しいですが』と断って、既に作成済みの動物図鑑や植物図鑑を出す。
文字を読める人が少ないので、当然私が解説を伝達する事になる。
全知や並列思考だけなら神力をほとんど消費しないから、問題はない。
流石に並列思考を10以上使用すると、少しばかり疲れるけれど。
そして動物の本を見終わって、更に他の本を読みたいという人が多いところには、今まで作った本をざっと説明して、多数決で読みたい本を決めて貰う。
当然私の朗読や解説付きだ。
朗読といっても声では無く、全在で言葉を伝達する形だけれど。
結果、宴会なのに最後は私による読書会状態になってしまった。
そして私は気づいた。この世界には、娯楽が少ないのだと。だから読めない本であっても、これほど惹かれるのだろうと。
なら本の他に、時間潰しの道具が必要だ。
さしあたっては、ボードゲームっぽいものを作ってみよう。
あと取り敢えずこの宴会が終わったら、本棚をもう少し大きい部屋に移そうと思う。
村の過半数が来ても、問題無く本を読んだり出来るように。
現在の村の様子や、十年前に別れた後の事が話の中心のようだ。
「……それで十年前、最後にセキテツに向かったのは三千人位でしたけれど、今は何人くらい残っているのでしょうか?」
イルザの問いに、ビブラムが顔をしかめて答える。
「今はざっと千人ってところか。半分以上がセキテツへ去った」
「セキテツの受け入れのせいではないでしょう。アナート様が向こうの土地神様に頼んで用意していただいたのでしたら、そう悪い環境だとは思えませんから」
「ああ。こっちの問題だ。セキテツの土地神アルツァーヤ様は、山間部ではあるが、川が使えそこそこの平地がある場所を用意して下さった。そのうち本来はアナート様の信者だという事で、こちらの集団をセキテツの組織から外して、こちらの自主的運営に任せてくれた。しかしそれが、かえって良くなかった」
イルザが、はあっと溜め息をついて、口を開いた。
「私達が南の山に、オーギ達が海に別れたのと同じ理由ですね。ヨーナリ達が問題だったのでしょう。自分勝手なことばかりして見放されたってところでしょうか」
「正解だ。神のチェックが無くなって、好き勝手をはじめた。一年もしないうちにタドやサンガワ、ミキといった区の区長が区民を引き連れて出て行った。10年後の今、残った区はオーギ直轄のナカとワカーサのウタリ、そしてヤマーダくらいのものだ。それらも半分近い区民が逃げ出したが」
『話に出てくるオーギの弟が、コトーミによって追放されたサネソンです』
なるほど。セキテツに残っている集団の大ボスが、駄目駄目な奴のようだ。
そしてサネソンが神である私に対してああいう態度を取ったのには、そういった背景があったのか。
10年近い神の不在と、好き勝手し放題の環境が。
「先遣隊として来て半月程度経っていると聞いていますが、此処の環境について、もう向こうには一報入れたのでしょうか」
「まだだ。ケカハに戻ってこれた上、広い立派な家と平らで広い畑を与えられ、魔法まで使える環境なのだ。おかげで皆のやる気も上がっている。この状態に水を差したくない」
「馬鹿が来て駄目駄目にする前に、基盤を整えておくわけですね。確かにその方が安全でしょう」
「ああ。それにコトーミ様の期待を裏切りたくない。あの方はアナート様以上に人と近しく、そして温厚な方だ」
「この村を見れば、気前がいいというのは想像がつきます。あと、おそらくは今までの私達の常識と、違う考え方というか価値観を持っているだろうという事も」
「ああ。あの方自身が仰っていた。私は別の世界から来た神で、この世界の事は良く知らないと。だからかこれだけの物を与えてくれたのも関わらず、基本的にこちらの自治に任せてくださっている……」
並列思考のひとつがイルザとビブラムの話を聞いている一方で、身体側についている思考は子供達の相手をしている。
「取り敢えず白黒のままだけれど、絵が多くて文字が少ない動物の本を試作してみたけれど、どう?」
3日前の読書会で出た意見を元に作った、絵がメインで、文字が動物の名前と10単語程度の説明しかない本だ。
文章の説明はほぼ無く、あるのは動物の名前と、食べると美味しい、食べられない、危険といった最小限の単語を記した説明だけ。
昨日作った後、一応ロシュとブルージュには見て貰っている。
でも他の3人はどう反応するだろう。
早速5人で囲んで、ページをめくって確認。
「たしかにこれ、わかりやすい」
「この横にいるのって、コトーミ様?」
「そう。大きさがわかりやすいように入れたって」
そうそう、ロシュの言うとおり、大きさを理解して貰う為の工夫だ。
何故私の絵かというと、年数が経っても身長体重その他が変わらない人間はいないだろうから。
なんて思っていたら、別の子供の一団がやってきた。この6人組は、今日イルザ達とやってきた中の男子一同だ。
「すげえ絵見本がある」
絵見本? そう思ったところで、例によって全知からの解説が入る。
『イルザ達が住んでいた山岳地帯では、狩りが重要な生活手段の一つでした。その為、子供に動物の種類や性質を教える為、動物の絵を描いた木札を多数作って、教育に使用していました。この木札が絵見本です』
なるほど。そういった必要性があった訳か。
ただ11人で1冊の本を見るのは、流石に無理がある。
なら、こうすればいい。
「同じ本を作りましたから、何人かはこっちを見て下さいな」
「コトーミ様、宜しいのでしょうか」
『リトロ、12歳で、今回来た子供の中では最年長の男子です。文字を読めますが、あまり得意ではありません』
遠慮しているのは、まだ私に馴染みがないからだろう。
あと文字を読めるなら、一応誘っておこう。
「ええ。それにこの神社には他にも何冊か本を置いています。ですから何時でも読みに来て大丈夫です」
「わかりました。ありがとうございます」
そうなると、他の子供達の集団も興味をもって近づいてくる訳だ。
結果、同じ本を合計8冊作って、8グループで見ている状態になってしまった。
ただし4グループは、文字が読める子がいない。
なので私の並列思考を使って、全知で4グループの会話を読み取りつつ、適宜解説を伝達するという方式を使っている。
更に子供達がいきなり集団で何かを囲み始めたのを見た大人も、当然のことながら様子をうかがったりする訳だ。
ただ同じ本をこれ以上増やしたくない。
なので『子供用より少し文字が多くて難しいですが』と断って、既に作成済みの動物図鑑や植物図鑑を出す。
文字を読める人が少ないので、当然私が解説を伝達する事になる。
全知や並列思考だけなら神力をほとんど消費しないから、問題はない。
流石に並列思考を10以上使用すると、少しばかり疲れるけれど。
そして動物の本を見終わって、更に他の本を読みたいという人が多いところには、今まで作った本をざっと説明して、多数決で読みたい本を決めて貰う。
当然私の朗読や解説付きだ。
朗読といっても声では無く、全在で言葉を伝達する形だけれど。
結果、宴会なのに最後は私による読書会状態になってしまった。
そして私は気づいた。この世界には、娯楽が少ないのだと。だから読めない本であっても、これほど惹かれるのだろうと。
なら本の他に、時間潰しの道具が必要だ。
さしあたっては、ボードゲームっぽいものを作ってみよう。
あと取り敢えずこの宴会が終わったら、本棚をもう少し大きい部屋に移そうと思う。
村の過半数が来ても、問題無く本を読んだり出来るように。
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