最果ての雫

峡 夜天

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第十四話

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「私は冒険者のスカーレット、隣に居るのはソルカと言う。ここより東、名も無い宿場村からサディアへ向かう途中で、今し方この状況に居合わせた」
 武器を向けられた緊張感の中、彼女は焦る様子無く堂々と喋り出す。
「宿場村? 東にある橋は現在破壊され、北の迂回は野党が多発している……まともにはその村との行き来はできない筈だが?」
「できない事はない、霊獣の森側からならな」
「なんだと⁉︎ あの森は手練れの冒険者ですら、避けて通る場所だ……なぜその様な嘘をつく!」
 ダニエルと言う男は、剣を抜きスカーレットの眼前へ切先を向けた。
「スカーレット──ッ!」
 反射的に僕は剣の塚に手をかけた。しかし、直ぐに周りの兵士達に牽制され、それ以上動く事を許されなかった。
「心配するな……リヒター殿、これを見てもらえれば少しは信用を得られるか?」
 そんな中でも表情一つ変えない彼女は、何やら懐から一枚のカードを出すと、馬上の彼に差し出した。
「ん? 登録証……なにっ!」
 差し出されたカードを受け取った彼は、それを見るなり血相を変えて、彼女とカードを交互に見始めた。
「何か、おかしな所があるだろうか?」
「い、いや! 登録証におかしな点は見当たりません」
 彼女が少し眉を顰めてそう言うと、彼は急激に口調と態度を変えると、焦りながら馬上から降り始めた。
(え? 何々⁈)
 相手の態度の変わり様に内心戸惑いながらも、僕は事の様子を静かに見守った。
「ではこれで……と言いたいが、恐らく私達が第一発見者だろう、取り調べくらいは素直に受けよう」
「え! あっいや! そうですね、その方がこちらとしては助かりますが……宜しいのですか?」
「あぁ、どのみちサディアへ行くつもりだから問題は無い。それに団長の地位にいる者が、直々に動くほどの事だろう? 一人の冒険者として何か協力出来るかもしれないからな……それに、アンドリュート伯爵にも個人的に用事があるので、その取り次もお願いしたい」
 そう言うと彼女は、更に懐から一枚の筒を取り出してダニエルに見せた。
「それは……っ! 分かりました! 取り急ぎ伝える様にします! サディアまではまだ距離がありますので、この馬をお貸し致します!」
 そう言って彼は、自分の乗っていた馬を差し出した。周りの兵士達も、自分達の上司の様子を見て、戸惑いながらも構えていた武器を仕舞い始めた。
「ねぇ、何を見せたの?」
 僕は背伸びしながら、彼女の耳元に小さな声で尋ねた。
「私の冒険者登録証を見せて、身元を証明しただけだ。どうやら疑いは晴れた様だが……ともあれ、これで予定通りにサディアに着けそうだ……早く馬に乗ろうか」
 そうバッサリと話を切った彼女は、そそくさと渡された馬へと乗馬してしまう。
(僕が聞いたのは、筒の方だったんだけど……)
 聞き方が悪かったのか、僕が求めていた回答とは別の答えが返って来た事に内心戸惑った。しかし、今の彼女の雰囲気を察する限り、あまり踏み込んで欲しく無い事なのだろう。僕はそれ以上は聞かずに、馬上から差し出された彼女の手を握り飛び乗った。

───────

「つまり? 偶然あそこを通りかかっただけだと?」
「そうだよ! さっきから言ってるじゃん!」
「ふんっ! お前の様な怪しい子供の言う事なんて信用出来るわけが無いだろ? それに、聞くところによれば、霊獣の森側から来たとも言っていたが、冒険者の連れが居たとはいえ、女子供があの森を抜かれる訳が無いだろ‼︎ それに──」
(どうしてこうなった……)
 僕は薄暗い室内で椅子に座りながら天井を仰ぎ見る……

~一時間前~

 あれから程なくして、サディアへ辿り着いた僕達は、町の入り口にある駐屯所へと案内された。そこで改めて、詳しい事情を聞きたいと、ダニエルに言われたスカーレットは、僕に待合室で待機する様に言ってから、二人で奥の部屋へと行ってしまった。それから待合室にいる兵士の人達と会話しながら、時間を潰していた。気さくな人達が多いのか、それとも子供である僕を心配してかは知らないが、皆なが僕に良くしてくれてた。それから、兵士の人に貰った果実水を時折飲みながら寛いでいると、突然待合室の扉が勢いよく開いたかと思えば、深緑色を基調にした小綺麗な正装に身を包んだ、太めの男がズカズカと入ってきた。
(何あれ?)
 男は入って来て早々、偉そうな態度で威圧感を振り撒きながら待機する兵士達をジロジロと見渡し始める。それから、僕の存在に気づくと此方を横目で見つつ、近くに居た兵士と何やら会話をし始めた。周りの様子から見ても、この人達の上司に当たる人なのだろうか、皆気まずそうな表情を浮かべつつも、背筋を伸ばして固まっていた。
(うわ~、あの人皆んなから嫌われてそうだなぁ……)
「ソルカちゃん、あまり目を目を合わせちゃ駄目だよ?」
 僕が男の様子を眺めていると、隣で話をしていた兵士のお姉さんが、小さな声でそう耳打ちして来た。
「あの人誰なの?」
 男が気になって僕は、同じ様に小さな声で聞き返した。その際にお姉さんの顔を見ると、何処か心配そうな表情を僕へと向けていた。
「あの人はこの町の警備局長なの、私達の直属の上官ね」
「え? あのダニエルさんって人が上官じゃ無いの?」
「違うわ。戦士長はあくまで伯爵様直轄部隊の隊長で、私達は警備局所属の兵士。今回は色々な事があって、駐屯兵士が同行していたんだけどね」
「そうなんだ……因みに今話してた、色々な事って何があった──」
「おい! 何をコソコソと話しているんだ!」
 突然の大声に僕達の会話が遮られてしまった。声がした方を向くと、先程まで兵士と話をしていた男が、此方へと近づいて来ていた。
(おぉぅ……何と言うか、ある意味で迫力があるなぁ)
 でっぷりと肥えた腹の肉は、丈夫そうな生地の正装でも抑えきれていないのか、歩く度に揺れ動く為視線が腹の方へと向いてしまう。
「ワシの話を聞いているのか?」
 男は僕の目の前で停止すると、僕の眼前に自慢の腹を突き出しながら、見下す様にして尋ねて来た。
「うっ、なにこの匂い……香水?」
 目の前の男から漂う強い香水の香りに、僕は思わず顔を顰めてしまう。香りからして恐らく高級品なのだろうが、こんなになるまで欠けてしまっては台無しの様な気がする。
「おい! 貴族であるワシに向かって、何だその態度は! 不敬罪で牢屋にぶち込むぞ!」
 僕の態度がお気に召さなかったのか、男はより一層腹を揺らしながら憤慨していた。
「申し訳ありません! ダブデール局長! この子は地方の村出身らしく、貴族の方と対面して緊張している様でして……それにまだ子供ですし何卒ご無礼をご容赦して頂けないでしょうか?」
 お姉さんは咄嗟に立ち上がると、僕の無礼な態度を擁護する様にして話した。しかし、お姉さんの言葉を聞いた男は、不機嫌さを増してお姉さんを睨みつけた。
「貴様、平民の分際でワシに物申すのか?」
「い、いえ! その様な事は決して……しかしながら、不敬罪は本来、王族や皇族に当たる方々が用いるものですので、その様な発言は如何なもの──」
「うるさい! 貴様、二度もワシに言わせる気か?」
「うっ……」
 そう凄まれたお姉さんは、顔を俯かせてしまった。ここは原因である僕が何とかせねばならない、そう考えて自分に注意を向けさせる様に、男に話しかけた。
「先程は失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありません、局長。なにぶん田舎育ちのもので──
「ワシの名はだ!」
(あ、間違えた……)
「貴様! 先程からの態度と言い、ワシを舐めてるのか!」
 僕の失言に男は激しく怒り始めてしまった。腹の主張が強すぎる為か、ついつい頭の中で、見た目の印象に引っ張られてしまった様だ。周囲の人たちにも、今のやり取りが聞こえたのか、皆一様に顔を俯かせて目を逸らしていた……いや、微かに肩が震えているので、笑いを堪えているだけかも知れない。そんな周囲の反応も相まってか、男は更に顔を真っ赤にさせると、僕の胸ぐらを掴んで自身の顔へと引き寄せた。
「聞けば、例の積荷に関する事件の発見者として来たらしいな? ただの小娘が、大層な剣を背負っているのも怪しい……ワシが直々に取り調べしてやろう」
 そう言った男は、怒りの目を向けながらもニヤリといやらしい笑みを浮かべた。

~現在~

 こうして、奥の部屋に連れて行かれた僕は、今まさに取り調べを受けている所だった。かれこれ一時間位は立っていると思う。最初のうちは、直ぐにスカーレットが聞きつけて、話を通してくれると考えていたが、ダニエルさんとの話が長引いているのか、未だに彼女が来る気配は無かった。
(ん~、スカーレット来るの遅いなぁ……まぁ、こうなったのも僕の責任なんだから、自分で何とかしないとかな)
 あまり彼女を頼りすぎるのもどうかと考えた僕は、何とかしてこの場を切り抜ける為の策を考える。恐らく……と言うより見たまんま、この男はどうにかして、僕を事件の犯人として仕立て上げたい様だ。幾ら弁明したとしても、ダブデールは聞く耳を持つ事はないだろう。そもそも僕は、会話で相手を丸め込んだり、交渉したりと言った事は苦手な方だ。つい先程も失敗したばかりだし……
「おい、ワシの話を聞いているのか?」
「いや、聞いてはいるけど……」
「はぁ~……ん?」
 と、苛立った様子で僕の事を睨んでいたダブデールが、何かに気づいたかの様に片眉を釣り上げて、僕の首から間なものあたりを凝視しながら喋る。
「おい貴様、まだ何か隠し持っているのか? その首にかかった物も外せ」
 この部屋に入る前に、剣や荷物は全て取り上げられてしまった。しかし、ペンダントについては何も言われなかった為、そのままにしておいたのだが、単純に気付かなかっただかの様だ。しかし、これを外してしまうと、髪色などが戻ってしまう。今は地味な茶色で目の色や魔眼の魔法陣も隠れているが、知られてしまえばどうなるか分からない。現にダブデールは、怒りを露わにしつつも時折、怪しげな目で僕の事を舐め回す様に観察している。その度に、森で遭遇した魔物に足を掴まれた時と近い悪寒が、全身駆け巡っているのだ。もしかしたら見た目以上に、この男の実力は高い可能性もある。
(ここは変に抵抗せずに、素直にペンダントを外すのも良いかも)
 そう思い僕は、首にかけたペンダントの紐に指をかけた……瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「ダブデール!」
 開かれた扉から、そう叫びながら男が入ってくる……ダニエルだ。
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