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婚約者
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紅茶の準備をクレメンスがいる部屋のドアをノックする。中からは控えめな声が聞こえてきた。ドアを開けるとした向きに顔を伏せているのが目に入る。
「紅茶をお持ちいたしました。この紅茶はリラックス効果があります。どうぞお試しください。」
ベラは精一杯のほほえみで落ち着かせるように優しく言った。部屋は紅茶のいいにおいが漂う。クレメンスは弱々しくもこちらを見て微笑みを見せた。気を使わせてしまったみたいで申し訳ない、ありがとう、という旨をベラに言った。クレメンスは令嬢らしく優雅に紅茶に口を付けた。
「お名前はベラさんでしたよね。とてもおいしいです。お気遣いありがとうございます。」
クレメンスはメイドのベラに敬語で話す。ベラは敬称はいらない、敬語も必要ないとクレメンスに言った。だがクレメンスは首を縦に振らない。
「実は私昔ベラさんに会ったことがあるの。」
ベラは思ってもないことだった。侯爵家のエンゾの婚約者に選ばれたクレメンスはベラより身分がだいぶ上だと思ったからだ。
「昔このメフシィ家で行われたパーティーに参加したことがありませんか?」
クレメンスは確信を持った声で言った。確かにベラはここのメイドになる前はミィシェーレ家の一人娘としてパーティーにお呼ばれすることがあった。その時にここのメイドになることが決まったのだが。貴族の娘が身分の高い家にメイドとして使えることは珍しいことではない。男爵家のベラが侯爵家のこの家でメイドとして働くことも変わったことではなかった。両親はベラをどこに送ろうかと悩んでいるところだったのでちょうどいいということで決まったのだ。そこでクレメンスと会ったのだろうか。ベラはクレメンスの質問に肯定する。
「確かにあります。その時お会いしましたでしょうか?」
すみません記憶になくて、とベラは謝る。クレメンスは謝らないでくださいと慌てた様子で言った。
「昔もベラさんは今みたいに助けてくれて、優しかった。ずっとお礼が言いたかったんです。」
クレメンスは先ほどの弱々しさも見せずにはっきりといった。ベラは助けたなんて大げさだと言い、為になったのならよかったと微笑んだ。クレメンスが少し微笑んでから顔色を曇らせた。
「話を聞いてもらってもいいですか?」
クレメンスは顔を少しこわばらせながらベラに問う。ベラは私にできることなら、と落ち着かせるように優しく言う。
クレメンスのいうことはこうだった。家の経済状況が悪く、没落しそうだったところにこのメフシィ家から婚約の申し込みがあったという。なぜ侯爵家から伯爵家であるクレメンスの家に婚約の申し込みがあったのかわからないが、これは没落回避の大きな光だ。メフシィ家は侯爵家の中でも裕福な家だった。結婚すれば少なくない援助金がもらえるだろう。クレメンスの家はこの婚約に反対だった。でも爵位が低い家から高い家への婚約の断りは納得させられるような理由がいる。それにクレメンスは家の窮地を救えるならと承諾したそうだ。でもここまで来て怖気づいてしまったという。
ベラはクレメンスの話を静かに聞いていた。ベラにとってこの話は他人ごとではない。ベラだってもう少しすれば家から縁談の話が来る。昔からわかっていたことだが、見ず知らずの男の人と結婚して子供を産まなければならない。ベラには思い人などはいない為まだいいのかもしれない。
ベラはクレメンスの傍らに膝をつき下から顔を見て、両手でクレメンスの手を包み込んだ。正直ベラは何を結うべきか迷っていた。ベラ自身誰かもわからない人と結婚するのは嫌だったが、正直諦めていたのだ。
「クレメンス様。一緒に解決策を見つけましょう!結婚しなくても済むように!」
クレメンスは驚愕の表情を浮かべた。そしてありがとう、とほほ笑んだ。ベラはメフシィ家に努めている身であるためこんなこと本当は言っていい立場ではない。でもベラはどうにかしてあげたいという気持ちになったのだ。
「それにまだ婚約ですよ。結婚まではまだ時間があります。」
「紅茶をお持ちいたしました。この紅茶はリラックス効果があります。どうぞお試しください。」
ベラは精一杯のほほえみで落ち着かせるように優しく言った。部屋は紅茶のいいにおいが漂う。クレメンスは弱々しくもこちらを見て微笑みを見せた。気を使わせてしまったみたいで申し訳ない、ありがとう、という旨をベラに言った。クレメンスは令嬢らしく優雅に紅茶に口を付けた。
「お名前はベラさんでしたよね。とてもおいしいです。お気遣いありがとうございます。」
クレメンスはメイドのベラに敬語で話す。ベラは敬称はいらない、敬語も必要ないとクレメンスに言った。だがクレメンスは首を縦に振らない。
「実は私昔ベラさんに会ったことがあるの。」
ベラは思ってもないことだった。侯爵家のエンゾの婚約者に選ばれたクレメンスはベラより身分がだいぶ上だと思ったからだ。
「昔このメフシィ家で行われたパーティーに参加したことがありませんか?」
クレメンスは確信を持った声で言った。確かにベラはここのメイドになる前はミィシェーレ家の一人娘としてパーティーにお呼ばれすることがあった。その時にここのメイドになることが決まったのだが。貴族の娘が身分の高い家にメイドとして使えることは珍しいことではない。男爵家のベラが侯爵家のこの家でメイドとして働くことも変わったことではなかった。両親はベラをどこに送ろうかと悩んでいるところだったのでちょうどいいということで決まったのだ。そこでクレメンスと会ったのだろうか。ベラはクレメンスの質問に肯定する。
「確かにあります。その時お会いしましたでしょうか?」
すみません記憶になくて、とベラは謝る。クレメンスは謝らないでくださいと慌てた様子で言った。
「昔もベラさんは今みたいに助けてくれて、優しかった。ずっとお礼が言いたかったんです。」
クレメンスは先ほどの弱々しさも見せずにはっきりといった。ベラは助けたなんて大げさだと言い、為になったのならよかったと微笑んだ。クレメンスが少し微笑んでから顔色を曇らせた。
「話を聞いてもらってもいいですか?」
クレメンスは顔を少しこわばらせながらベラに問う。ベラは私にできることなら、と落ち着かせるように優しく言う。
クレメンスのいうことはこうだった。家の経済状況が悪く、没落しそうだったところにこのメフシィ家から婚約の申し込みがあったという。なぜ侯爵家から伯爵家であるクレメンスの家に婚約の申し込みがあったのかわからないが、これは没落回避の大きな光だ。メフシィ家は侯爵家の中でも裕福な家だった。結婚すれば少なくない援助金がもらえるだろう。クレメンスの家はこの婚約に反対だった。でも爵位が低い家から高い家への婚約の断りは納得させられるような理由がいる。それにクレメンスは家の窮地を救えるならと承諾したそうだ。でもここまで来て怖気づいてしまったという。
ベラはクレメンスの話を静かに聞いていた。ベラにとってこの話は他人ごとではない。ベラだってもう少しすれば家から縁談の話が来る。昔からわかっていたことだが、見ず知らずの男の人と結婚して子供を産まなければならない。ベラには思い人などはいない為まだいいのかもしれない。
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「クレメンス様。一緒に解決策を見つけましょう!結婚しなくても済むように!」
クレメンスは驚愕の表情を浮かべた。そしてありがとう、とほほ笑んだ。ベラはメフシィ家に努めている身であるためこんなこと本当は言っていい立場ではない。でもベラはどうにかしてあげたいという気持ちになったのだ。
「それにまだ婚約ですよ。結婚まではまだ時間があります。」
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